5月1日、朝。
朝食をとりながら携帯を見ると、ポイント残高が95,000ptとなっていた。昨日の時点では残り30,000ptだったことから今月の収入は65,000ptとわかる。
「恵はいくら入ってきた?」
「あたしは65,000pt増えてた。紅志は?」
「………俺も、65,000ptだった。恵、クラスの友達にいくら増えてたか聞いてくれないか?」
りょーかーい、と言って携帯を弄りだした。恵はこの1ヶ月でクラスの女子のほとんどと仲良くなったらしく、持っている情報網が俺のものとは段違いだ。俺も知りたいことがあると、つい恵に頼ってしまうため、自分の交遊関係には全く成長がない。
「みんな65,000ptだってさー。これって、ポイントの変動はクラス単位だったってこと?」
「…そういうことなんだろうな。ポイントの変動が学年単位なんだとしたら、無料定食を頼んでいた先輩の数と合わない」
「そっかー。んでも、こんだけ貰えるんなら十分だよね」
確かに月65,000ptは十分すぎる。何か大きい買い物でもしない限り、しっかり貯金できそうだ。
「そうだね。でも来月はどうなるか分からない以上、今月の35,000pt減の詳細は知っておきたいかな。情報収集、手伝ってもらってもいい?」
「もちろん!任せてよね!」
今月の方針も大まかに決まったところで、俺たちは学校へ向かうべく、部屋をあとにした。
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教室の中は普段よりも騒がしかった。話題はたった1つ、今月増えたポイントが10万ptではなかったという点だ。
「紅志ー、お前も今月65,000ptだったか?」
俺の数少ない友人の1人である柴田は、顔を疑問一色に染めてそう聞いてきた。
「あぁ、そうだった。ちなみに恵から聞いたんだが、女子も全員65,000ptだったそうだ」
「そっかあ、でも先生は毎月1日に10万pt入るって言ってたしなー。不具合か?」
そんなことを話していると、神崎がこの話し合いに入ってきた。
「おそらく不具合ではない。先生はあの時、今月10万ptと言ったが、毎月10万ptとは言っていない。支給額は月ごとに変動するのが仕様なのだろう」
神崎は半ば確信じみたようにそう言った。俺が恵の力を使って辿り着いた結論に、1人で思い至ったというのだから彼はクラスでも頭一つ抜けている。柴田はそんなこと言ってたかー?と頭をひねっていたが、神崎が言うならと納得していた。
「まあ、わからないことは先生に聞けばいいさ。もうすぐHRだし席戻ろうぜ」
各自席に着いたところで、丁度先生が教室に入ってきた。
「はーい、HRはじめるわよー。…そうねぇ、今日は皆何か聞きたいことがあるんじゃないかしら。好きに質問していいわよ」
「…では星之宮先生。今月の支給額の65,000ptは不具合ではなく、正当なものであるという認識でよろしいですか?」
一之瀬がクラス全員を代表して質問した。本人は分かっていることだろうが、クラスを纏めるためということだろう。
「えぇそうよ、一之瀬さん。この学校ではクラスの成績、評価が毎月振り込まれるポイントに反映されるの。査定の結果、あなたたちは当初持っていた10万ptのうち35,000pt分失ったの。…ただの高校生に過ぎないあなたたちが何の制約もなく、毎月10万ptも使わせてもらえることに疑問を持った子もいるんじゃないかしら?」
そう言って、ちらっとこちらに目を向ける。
「でもね、その疑問を私の所に聞きにきたのは1人だけだった。ね?山本君?」
クラスが再度ざわつく。最悪だった。こんなところで名前を出されたら、否応なしに注目されクラスを動かす立場へと引っ張り出される。恨みがましい視線を妖しく微笑っている担任へと向けた。
「はいはい、まだ話の途中よ。……再開するわよ。入学式の時にも言ったはずよ。この学校は実力で生徒を測ると。………これを見て」
先生は手に持っていた厚手の紙を黒板に貼り付けた。その紙にはこう書かれていた。
Aクラス 940
Bクラス 650
Cクラス 490
Dクラス 0
「これはクラスの成績、クラスポイントよ。これの100倍の数値があなたたちに支給されるポイント、プライベートポイントになるわ」
だとするならばAクラスはとんでもないな。Dクラスは別の意味でとんでもないが。
「次に、この学校では、優秀な生徒から順にAクラスへと配属されているわ。この成績が物語っているでしょ?そしてクラスポイントがそのままクラスのランクへと直結されているの。つまり、Bクラスがもし941pt以上だったなら今月からあなたたちはAクラスになっていたということよ」
「最後に、この学校の最大の恩恵、『望む進路へ100%行くことができる』の権利はAクラスのみに反映されるわ。みんな、頑張ってAクラス目指してね!」
クラスの数人が顔を顰める。この制度はAクラス以外に価値はないと言われている気になってもおかしくはない。特に自分に自信がある者にとっては受け入れ難いことだろう。
「これが本当に最後の連絡ね。これが先日やった小テストの成績よ。みんなよく頑張りました」
黒板に貼り出された紙には、点数と名前が点数順に書かれていた。俺は85点で、クラスの半分近くが85点だった。最高点は90点で、同率で8人の生徒がとっていた。あの難問を最低1つ解いたということだ。そして80点未満も10人程と控えめに言っても優秀な結果だろう。
「今回の赤点ラインは40点よ。そしてこの学校では、本番で1科目でも赤点をとったら即退学だから、気をつけてね。先生はもうすぐある中間テストもみんななら乗り越えられるって分かってるから!じゃあこれでHR終わるわ。今日も1日頑張っていきましょう!」
星之宮先生は最後にドでかい爆弾を落として、教室を出ていった。恵がとても不安そうな顔をしているので、俺は小声で、一緒に勉強頑張るか、と言って不安を和らげつつ、心の中で目下最大の疑問と向き合うのだった。
「皆、ちょっといいかな。とりあえず、今日の授業はいつもどおり真面目に受けよう。それと、放課後に話し合いをしたいから少し残ってくれないかな?どうしても用事がある人は断ってくれても大丈夫だけど、私はできるだけ皆と話し合いたいな。いいかな?」
部活があるだろう生徒も含め全員が賛同し、クラスは一応の落ち着きを見せた。自分も動揺しているだろうに本当に見事な手腕だ。
だからこそ本当に、本当に疑問に思う。
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今現在、放課後の教室で行われている話し合いは、驚異の出席率100%である。
「これで今わかっている学校のルール全部かな。みんな理解できたかな?」
まずは前提と状況の確認が終わったところだ。ここまでは皆理解できたようだ。次に現状と今後への対策である。
「次に35,000pt分の減少の詳細なんだけど、私に1つ思い当たることがあるんだ。私も最近気付いたんだけどね、この学校って敷地にあるお店とかももちろんなんだけど、結構な数の防犯カメラがあるんだよね。教室の中にも」
そう言って一之瀬が指差す方に顔を向けると、うまく物影に隠れるようにして確かにソレがあった。
いや、マジか。全く気付かなかったんだが。クラスメイトの顔を見るに、気付いていたのは一之瀬と神埼くらいか。
「私はケンカとかイジメの抑止力のために設置されてると思っていたけど、おそらくだけど授業態度を見るためにも使われてるんじゃないかな?」
確かにその仮説は恐らく正しいように思う。当たり前のことを当たり前にこなす能力は、学校側も測りやすい実力の1つだろう。
「他に何か気付いた子はいる?」
「…単純だが、小テストの結果もクラスポイントに影響をあたえているんじゃないか?純粋に学力を測るなら一番分かりやすい指標だろう」
神埼が言うように、確実に小テストの結果は要因の1つだろう。一之瀬もその意見に同意していた。この時点で俺は、ポイントを使ってでも星之宮先生にポイント減少の詳細を聞くという気はなくなっていた。それほどに、これらの推測は正確だと感じたのだ。他に何か考えがある生徒はいないらしく議題は次に移った。
「じゃあ今後の対策なんだけど、授業を真面目に受ける、中間テストでいい結果が出るように学力アップの2つかな。授業の方は、私語、居眠り、携帯触るの禁止くらいかな?中間テストの方は勉強会を開こうか。もちろん希望者だけでいいよ。勉強の仕方は人それぞれだろうし」
それからは勉強会の日程や参加の有無を詰めていった。俺と恵は参加を表明しておいた。部活もしていないのに、不参加だと流石に外聞が悪いからだ。
「このくらいかな。勉強会は3日後から図書館でね。あとは……クラスでの役職みたいなのを決めておかない?イベントの時とか大変そうだし。委員長はやりたい人がいなかったら私がやるよ。どう?」
一之瀬以上にこのクラスの委員長を務められる生徒はいないだろう。異論は一切なく決まった。
「副委員長は…神埼君にお願いしようかな。私に話しづらいことの相談とか、私がいないときとかは神埼君の指示に従うってことで。あとは男女1人ずつ私たちの補佐をお願いできないかな。希望でも推薦でもいいんだけど」
神埼は副委員長の仕事を了承したようで、補佐の人選をしているようだった。一之瀬の方は、すぐに白波が立候補していて決まっていた。あの子の一之瀬を見る目はガチっぽいんだが大丈夫なのか?
「俺の補佐だが、山本お願いできるか?単純に俺としっかりコミュニケーションがとれるというのと、ポイントの変動に気付いたその慧眼、力を貸してほしい」
「そんな大層なものではないんだけど、もちろん力を貸すよ」
星之宮先生にあの場で暴露された以上、ある程度のやっかいごとは仕方ない。期待されすぎるのは困るが、できる限り頑張ろう。
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「恵に1つ頼みたいことがある。バレないように一之瀬の情報を集めてくれないか?どんな些細なことでもいい」
キッチンで、鼻唄交じりに夕食を作っていた恵の機嫌が急降下するのを感じる。
「……なんで?……やっぱり一之瀬さんの方がいいんだ…」
「いや、違うよ。恵が思ってるようなことじゃなくて、今日の先生の話を聞いてさ、一之瀬のBクラス配属が腑に落ちなくてね」
「…まぁ、たしかにね。一之瀬さんがAクラスじゃないのは、なんで?ってかんじよね」
恵も薄々は感じていたのか、すぐに俺の疑問を理解してくれた。
そう。一之瀬がAクラスでないのは腑に落ちない。
小テストの結果を見るに、学力は文句なし。
体育の授業から、身体能力も女子の中ではトップクラス。
コミュニケーション能力に至っては、学年でも1.2を争うだろう。
性格も、この1ヶ月をみるに素晴らしいの一言。
「このクラス配属が学校側のミスでないなら、一之瀬には何か秘密がある。もし、あいつが俺達にとって害となるなら、早いうちに対処しておきたい」
もし、あの聖人のような振る舞いが偽りだとして。
その仮面の下の本性が、他人を虐めて愉しむような下衆ならば。
恵を守るため、容赦はしない。
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クラスがより一層まとまった、あの話し合いから数日。朝のHRにて。
「昨日の放課後、CクラスからBクラスに対して訴えがあったわ」