※この作品はR-18です。

ごと嫁 if√   作:ケンキチ

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結ばれたのは一花だったら?


Route Ⅰ

 

 

 

 

「ここがフータロー君の住んでる家か〜」

「前にも来たことあるだろ」

 

 風太郎について一花は風太郎の部屋へと入った。扉を開け、玄関から先へと進むとそこは、確かに見覚えのある部屋。よく言えば整理されている。しかし、悪く言えば生活感のない部屋だ。

 

「相変わらず何もないんだね〜。あ、でもテレビは買ったんだ」

「まぁ・・・ニュースしか見ないがな」

 

 前髪を手でいじりながら風太郎はそう答えた。何か照れくさくて言えないことがある時の風太郎の独特の癖である。もちろん、先程言ったことも完全に嘘、という訳では無いが八割は嘘だ。この男、一花が主演を務めるドラマを見るためにわざわざテレビを購入した。携帯で見る、という手段もあったが如何せん画面が小さくて見にくいとの理由である。

 

「ふ〜ん。そっかそっか・・・」

 

 当然、一花も風太郎のこの癖は知っている。知っている上で、あえて言及することはしなかった。

 

「とりあえず飯でも食いに行くか?」

「あ、待って待って!どうせフータロー君毎日コンビニのお弁当とかでしょ?だから今日は私が作ってあげる」

 

 彼女の手作り料理、と聞いて断る男はほとんどいないだろう。しかし、上杉風太郎。ノーデリカシーの名を欲しいがままにするこの男だけは違った。

 

「一花、お前料理なんて出来るのか?」

「わお、直球」

 

 女優を演じる一花は外では完璧人間なのだろう。が、蓋を開けてみればそんなことは無い。部屋は溢れた服や小物で汚部屋と化し、面倒くさがりやで大雑把。それが風太郎のよく知る一花であり、素の一花だ。そんな一花が料理ができるなど、風太郎は微塵も思っていなかった。

 

「そもそも料理なんてした事あるのか?」

「あるよ?何回かドラマでもやってるし、最近は自炊もしてるんだよね」

「へぇ、想像つかねぇな」

「あ、そんな意地悪言うフータロー君には、もうご飯作ってあげない」

「なっ・・・!」

 

 戸惑う風太郎。そんな風太郎を見て、一花の中にほんの少し、イタズラ心が生まれた。

 

「ねぇ、フータロー君?許して欲しかったらキス・・・して?」

「ッ!」

 

 何を言ってるんだ、と言わんばかりの表情を浮かべる風太郎。そんな風太郎の反応を見て楽しむ一花。

 

「なーんてね、冗談・・・えっ?・・・・・・んっ」

 

 一花が言い終わるより早く、風太郎は一花の腕を引き寄せ、自身の口で一花の口を塞いだ。

 

「・・・これで満足か?」

 

 そう言い風太郎は一花から顔を遠ざけた。先程よりもさらに紅く染った顔の風太郎を見て、様々な感情が一花の頭の中を駆け巡った。そして、幾秒かの沈黙の後、一花は静かに口を開いた。

 

「・・・・・・ねぇ、もっとシよ?」

 

 一花はそう言い、風太郎の腕を掴んだ。笑って誤魔化したりするのでもなく、一花が選んだのはその先だった。頬を赤らめ、艶やかな表情の一花を見ながら、承諾するでもなく拒否するでもなく、風太郎はただ一言。

 

「手料理は?」

「んー、晩御飯までお預けってことで」

「そりゃお前らしいや」

 

 笑いながら風太郎はそう言い、一花を連れ寝室へと足を運んだ。激しく互いを求め合い、一人は久しぶりに会えた喜びと、深愛の証として。もう一人は己が独占欲を満たすため。まるで自分のだと強く主張するように。強く、ハッキリと、互いの身体にその証を刻み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あれ」

 

 いつの間にか寝ていたようだ、一花は窓の外が暗闇に包まれていることでそう気づいた。隣を見れば、スヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立て眠る風太郎。日頃疲れが溜まっていたのか、先程までの行為が原因かは、どちらとも言えない。起こすべきか否か、少し悩んだものの、寝ている彼を起こすのも心苦しい。しかし、もう少しこの至福の時間を満喫してからもう一度夢の中へと旅立つのは簡単だが、今自分たちの格好は産まれた時の姿そのままだ。さらに自分も彼も汗をかいている。別に風太郎の汗の匂いは嫌いじゃない。むしろ大好物だ。

 

(とりあえずシャワーだけでも浴びてこよ。フータロー君、お風呂借りるね)

 

 心の中で断り、一花は風呂場へ向かった。頭はもちろんのこと、一瞬でも臭いと思われないよう耳の裏から足の指先まで念入りに洗った。

 寝室へ戻ると、風太郎は依然として寝息を立て眠っている。布団に入り、風太郎の手を握る。目の前には、普段とは想像もつかない程、穏やかで、どこか幼さを感じさせる顔。他人には見せることがない、自分だけが知っていて、自分だけに見せてくれる。その事実に幸せを感じる。

 

「大好きだよ、フータロー君。これまでも、これからも・・・ずっと、ずっと」

 

 そして、同時に想う。自分は上杉風太郎という人を、心の底から───

 

 

 

 

「──愛してる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、起きろ一花」

「ん〜・・・・・・あと5分・・・」

「ったく・・・」

 

 三つ子の魂百まで、とはよく言ったものだ。この歳になっても、一花はやはり一花だった。

 

 

(というか、コイツの怠惰っぷり、さらに磨きがかかってないか?)

 

 とは言え、仕事で疲れているのかもしれない。無理やり起こすのも可哀想だと思った風太郎は、一花を寝かしたまま朝食の準備に取り掛かった。

 トースターにパンを入れ、パンが焼き上がるまでに目玉焼きを焼く。昨晩、夕食を食べ損ねたせいで空腹感はいつもより強い。もう一品作ろうと冷蔵庫を開けた風太郎だが、何も入っていない冷蔵庫を見てそっと扉を閉めた。

 コーヒーを入れ、食器を机に並べていると、寝室から慌ただしい音と共に一花が起きて出てきた。

 

「ふ、フータロー君!」

「やっと起きたか。おはよう、一花」

「あ・・・うん。おはよ、フータロー君・・・・・・じゃなくて!」

 

 なにをそんなに慌ててるんだ。もしかして、仕事でも入ってたのか?

 

「いま何時?」

「八時を少し回ったところだ」

 

 そう言うと一花は、やっぱり・・・!と項垂れた。夕食に手料理を作ると言ったにもかかわらず、起きたのは朝。

 

「完っ全に寝過ごした・・・ごめんね、フータロー君」

「気にするな。お前も仕事で疲れてたんだろ」

 

 謝る一花に対し、全く気にもとめてない様子の風太郎。

 

「・・・怒ってないの?」

「この俺がこれぐらいで怒るやつに見えるのか」

「う〜ん・・・見えない、けど・・・」

 

 怒っているようには見えない。が、どこか拗ねた様子の風太郎。そんな風太郎が可愛くて、一花はクスクスと笑ってしまった。

 

「・・・何笑ってんだよ」

「ふふ、ごめんごめん。フータロー君って可愛いなぁって思っただけだよ」

 

 一花の言葉にムッとした表情の風太郎。それがまた可笑しくて笑ってしまう一花。それと同時にどこか嬉しかった。風太郎が、自分の手料理を食べたがってくれていたということが。

 

「もう、拗ねないでよ。お昼は私が作るから」

「・・・絶対だぞ」

「うん」

「じゃあさっさと飯食おうぜ。ちょうど焼けたみたいだし」

 

 トースターから出てきたパンを食器に取り分け、一花に席に座るよう促す風太郎。

 

「フータロー君って料理するんだね」

「まぁな。得意料理はカップラーメンだ」

「それ料理って言うの?」

「・・・」

 

 

 冗談ではなく本気で言っている風太郎が心配な一花だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食を食べ終わった二人は、一花の持ってきたゲーム機で遊ぶ事にした。

 

「桃○郎電鉄・・・?なんだこれ」

「えっ、フータロー君このゲーム知らないの?」

 

 幼い頃から勉強に必要ないものは全て断ち切ってきた風太郎。もちろんゲームなど見たことはあれど、したことなどただの一度もない。今でこそ、携帯はスマートフォンに変わったと言え、その中にゲームアプリなど入れてすらいない。

 

「ん〜、説明するよりやった方が早いかもね」

 

 自分の頭では風太郎に分かりやすく説明することはできないと踏んだ一花は、ゲーム機の電源を入れ、慣れた手つきでソフトを起動させた。

 

 

 

 

 

「───と、まぁこんな感じだね。分かった?フータロー君」

「ふむ、全く分からん」

「・・・・・・そっか」

 

 自分のプレイを見せながら、逐一説明を挟んでみたものの、風太郎は理解できなかった。その後も、風太郎が理解できるよう、何とか創意工夫しながらゲームの説明をする一花。

 

「・・・ふふっ」

「なんだ?」

「何だかね、懐かしいなぁ〜って思って」

「?」

「昔、こうやってマンツーマンで勉強会してたなって。何だか懐かしく思えてきちゃった」

 

 昔、と言ってもほんの数年前。風太郎と一花、二人だけでの映画撮影(勉強会)。今でも昨日の事のように覚えている。大好きな人との二人っきりの時間。一花も、そして風太郎もそれは同じだった。

 

「・・・やってることも状況も、あの時とは全く違うがな」

「ふふ、そうだね〜。あの時はフータロー君が先生だったけど、今は私が先生だね!」

 

 ゲーム機片手に笑う一花。

 

「ふっ、まさかあのバカに何かを教えられる日が来るとは、夢にも思ってなかったがな」

「あ、またそうやってイジワル言うんだから」

 

 そう言って笑う一花を見て、風太郎は無意識のうちに言葉を発した。それは今まで幾度もなく彼女に──一花にだけ、言ってきた言葉。

 

 

 

「好きだ、一花」

 

 

 あれ・・・俺、今なんて言った・・・?

 一瞬の間を置き、自分が何を言ったのかを風太郎は理解した。

 

「違うぞ一花!・・・いや、違わないが今のはナシだ!」 

 

 慌てて訂正する風太郎。そんな風太郎を、キョトンとした表情で見つめる一花は一言。

 

「やらないの?」

「・・・え?」

「あれ、次だって言わなかった?」

 

 聞こえて・・・なかったのか・・・?

 

「あ、あ〜!そう!次だ!次は俺の番ってね!」

「はい。そうだ、ちょっとお手洗い借りるね」

「あ、あぁ・・・」

 

 ゲーム機を一花から受け取り、リビングから出ていく一花を見て、風太郎はホッと一息。しかし、出ていく一花の、耳が真っ赤に染まっていたのを風太郎は見逃さなかった。

 

「聞こえてたのかよ・・・!」

 

 一花が出ていったリビングで一人、恥ずかしさで悶える風太郎。なぜあんなことを口走ってしまったのか・・・。後悔と恥ずかしさが風太郎を襲う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も風太郎は一花に教えて貰いながらもゲームを進めた。そして、ようやく慣れてきた頃、風太郎は対戦の申し出を受けた。もちろん、断る理由などない。この数十分、ゲームの練習には十分な時間があったのだから。

 

「ふっ・・・ボコボコにしてやるぜ!」

 

 そう息巻く風太郎。風太郎の考えではゲームの真髄を理解した自分が一花に余裕で圧勝する、そのはずだったのだが──

 

 

 

「・・・・・・なぜだ」

「下っ手くそだねぇ、フータロー君・・・」

「うっせ!」

 

 結果は風太郎の惨敗。一位の一花とは違い、総資産がマイナスの風太郎。コンピュータのレベルはもちろん、最低レベル。

 

「クソ!もう一回だ!」

 

 続く二回戦。結果はまたしても一花の圧勝。風太郎は序盤こそ順調だったものの、終盤にかけての怒涛のスリラッシュ。建物を売り払われ、カードも捨てられ、最下位まで落ちて行くのに、そうそう時間はかからなかった。

 

「クソ・・・なぜゲームでも俺は貧乏なんだ・・・!もう一回だ!もう一回やるぞ、一花!」

「うへぇ・・・まだやるの?」

「このままじゃ納得いかねぇ。俺は必ずお前に勝ってみせる!」

 

 

 その後も三回、四回と勝負は続き、遂に勝負回数は二桁を越えた。一体、何度ゲーム機を叩き割ろうとして一花に止められたことだろう。納得のいかない確率に憤慨する風太郎。そしてそれを見て笑う一花。

 しかし、勝利の女神は風太郎に微笑む。その瞬間は突然やってきた。

 

 

「勝った・・・のか?」

「あ〜、負けちゃったか〜。おめでと、フータロー君」

 

 十数回目にしてやっと、風太郎は一花を抑えて一位でゲームを終えることが出来た。

 

「ハハッ・・・・・・ハァーッハッハッハッ!どうだ一花!遂にお前に勝ったぞ!」

 

 ソファーから立ち上がり、両腕を高く突き上げ、まるで子供のように喜ぶ風太郎。昔から、子供っぽい所があるとは知っていたが、ゲームで勝った位でここまで喜べるとは、流石に一花も予想外だった。それに、たった一回勝ったぐらいでここまで喜ばれると、どこか悔しくなってくる。

 その後、調子に乗りまくった風太郎は一花が満足するまで、完膚なきまでに叩きのめされた。そして風太郎はしばらく一花とゲームをやろうとしなかったとか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎ去る。そして迎えた最終日。二人が一緒に入れるのも、今日が最後となった。

 

 

 

 

 

 

「美味しかったね、フータロー君」

「あぁ」

「でもフータロー君がレストランに誘ってくれるとはね〜。お姉さん驚いたよ」

「あぁ」

「・・・どうかした?」

「悪い、少し考え事してた」

 

 本当はさっきのレストランで言うはずだった。しかし、どうにもタイミングが合わず結局、そのままレストランを出てしまった。情けない・・・本当に情けない。まさかここまで俺が臆病だったとは。しかし、ここが本当に最後のチャンスだ・・・!今日、俺は一花にプロポーズする。

 

「少し・・・歩かないか?」

「・・・うん、いいよ」

 

 近くに海があったことを思い出した風太郎はそこへ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 二人で浜辺を歩きながら、いつ言おうかとタイミングを探る風太郎。そんな風太郎の、なにか言いたげ様子を何となく気付いていた一花は黙って風太郎に横に着いて歩く。

 それから数分、ようやく意を決した風太郎はその歩みを止めた。

 

「一花・・・その、なんだ・・・聞いてほしいことがある」

「・・・なに?」

 

 緊張して声が震える。

 

「・・・この数日、お前と過ごして改めて思った。お前と一緒にいる時間はとても楽しくて、心地いいものだった」

 

 片膝をつき、ポケットから指輪が入ったケースを取り出し、一花に差し出す。

 

「それに──」

 

 

 瞬間、断れるかもしれない、という考えが頭をよぎる。同時に、何を言うのかが頭からとんでしまった。昨晩、考えに考え抜いたプロポーズの台詞。今考えようとしても、波の音が煩くて思考がまとまらない。こんな事なら海でプロポーズするんじゃなかったと風太郎は軽く後悔した。

 その時、ふと一花を顔を見上げると一花と目が合う。その目はまるで待ってる、と言うように風太郎だけを真っ直ぐ見つめていた。

 

「・・・すまん、仕切り直させてくれ一花」

「・・・へ?」

 

 そう言い、風太郎は一花の手を引き浜辺へと降りる階段を登る。そして、再度先程と同じ場所へと戻る。プロポーズの仕切り直しなど、前代未聞だろう。

 

「一花、聞いてほしいことがある」

「うん」

 

 片膝をつき、ポケットに忍ばせていた指輪入りのケースを再び一花に差し出す。そして、一花の目を真っ直ぐ見つめ、自分の素直な想いを伝えた。

 

「中野一花さん、俺と・・・結婚してください」

 

 

 一瞬の沈黙の後、風太郎の手を取り、目尻に涙を浮かべながらも満面の笑みで一花は風太郎の想いに応えた。

 

「はい・・・!よろしく、お願いします・・・!」

 

 先程まで煩わしいと感じていた波の音も、今では祝福されているように聞こえた。

 

 

「ふふっ・・・それにしても、仕切り直しって・・・ふっ・・・!」

 

 笑いを堪えきれず、思わず吹き出してしまう一花。さっきまでのいい感じのムードはどこへ行ったんだ。しかし、この件に関しては風太郎は言い返すことが出来なかった。

 

 ずっと、笑顔の絶えない家庭にしていこう。風太郎はそう強く、誰にでもなく、自分自身に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つーかいつまで笑ってんだ!早く忘れろ!」

「だって・・・だって・・・!ふっ・・・あはははは!」

 

  

 

 




次回、二乃編
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