「さてと、こんなものでいいかな?」
「そうですね。そろそろ戻りましょう」
釣った魚を選別してくれていたウィーネが頷いた。
釣りを始めて一時間ほど。それなりにいい量が獲れた。加工すればしばらく保つだろう。
それに外は結構暑い。あんまり長居しすぎるのも良くないか。
「ルミナ、セフィー、そっちはどう?」
「山菜もこれくらいあれば充分でしょう。少し早いですが、戻りますか」
「そうだね。みんなー!そろそろ帰るよー!」
『はーい!』
セフィーが声をかけると、子供達が集まった。荷物を片付けて村へと帰る。
「つかれた〜!あるじさまおんぶしてよ〜」
「荷物持たなきゃいけないんだから無理言わないで。ほら、帰ったらご飯食べられるから」
「やったー‼︎」
村へ帰ると、ちょうど洗濯物を干していたネイが出迎えてくれた。
「あっ、主人様。お帰りなさい」
「ただいま」
ネイはこっちに残って、スフィアさん達の手伝いをしてくれていた。
魚の入ったカゴを下ろして中身を見せる。
「わぁ、また随分と獲れましたね。食材は加工場の方へお願いします」
「私が持って行きます。みんなは道具を蔵に戻してきてください」
「それなら僕手伝いますよ。一人では無理でしょう」
「私も行きます」
子供達のことはルミナとセフィーに任せて、僕はカミルさんとウィーネと共に獲ったものを加工場へと持っていく。
「さてと、これでひと段落かな」
加工場を出て、ひとまず仕事は終わった。近くの木陰に隠れて涼を取る。
ご飯までもうしばらく時間がかかるか。
リーナ達はまだ帰ってきていない。
調査が長引いてるんだろう。一度逃した敵は、そう簡単には捕まらないか。
ひとまず僕達は食堂へ向かった。
今回みたいに子供達が集まったり、宴をする時に使ったりする場所だ。
中に入ると、子供達はすでに集まっていた。
ご飯が並べられており、僕達も席に着く。
『いただきます』
手を合わせると、子供達はワイワイ楽しそうに話しながらご飯を食べ始める。
「トア、スープのお肉少なかったからちょっとちょうだいよ!」
「やだ!マーサが先に食べたのが悪いんじゃん!それなら私もおかず欲しいもん!」
「これはダメ!」
僕の向かいで6歳のマーサと、少し歳上のトアが喧嘩している。子供達の中でも比較的小さい方だ。
「コラコラ、喧嘩しないの。まだ余ってると思うから、いるならもらってきな」
「「はーい」」
まったく………子供の食事って、こんなに賑やかなものだったっけ?
ここに来るまで一人で旅してたから、その辺の感覚忘れてたな。
まぁでも、こういう賑やかな食事もいいものだ。
そしてお昼ご飯を食べた後は………
「やぁっ!たぁっ!」
「はっ!おりゃあっ!」
「もっと強く踏み込んで!」
戦闘訓練だ。教えているのはカミルさん達大人だが、ルミナやウィーネも手伝っている。
小さな子供達が木刀を持って素振りしたり、模擬戦をしたりしている。
村ではたまにこうして子供を集め、戦う術を教えているのだ。
当たり前だが、いくら潜在的な身体能力が高いとはいえ、リーナ達のような戦闘力が一朝一夕で身につくわけがない。
小さい頃から特訓していたのだろう。あの力はその努力の賜物だ。
「大したものだなぁ」
「何黄昏てるの?」
ネイと一緒に食事の片付けをしていたセフィーが、こちらへやってきた。
足の間に座ってきたので抱き寄せる。ドワーフらしい小柄な体型なので、抱きかかえるのにちょうどいいのだ。
「ネイは?」
「スフィア様達と私達が獲ってきた魚の加工中。私は子守役だから戻ってきたの」
とはいえ、僕達は元々そこまで戦うことはないので、やることといえば見守るくらいか。
「主人様も訓練したら?」
「これでもそれなりに戦えるから。そういうセフィーはどうなの?」
「私はどちらかというと作る専門だからね。あの木刀も、いくつかは私が作ったし」
ドワーフとのハーフなので人より力はあるが、体型が故に周りと比べてやはり戦いは苦手らしい。
「まぁ、みんなの足を引っ張らない程度には、強くありたいと思うよ」
「そんな主人様に、はい」
セフィーは懐から木でできた何かを取り出す。
柄は一本だが、先は二股に分かれており、一本のゴムが通されている。そしてドングリくらいの大きさの塊がいくつかある。
「これ………スリングショット?」
「ルミナがね、丈夫なゴムになる樹液を出す木を見つけてくれたの。弾も何種類が作ったし、弓矢よりは使いやすいと思う」
「僕が貰っていいの?」
「主人様、村のみんなのこと大切にしてくれてるし、守ってあげたいでしょ?」
セフィーが微笑んでスリングショット差し出す。
僕は受け取って、彼女を優しく抱きしめる。
「ありがとう」
「使ったら感想教えてね」
頰に軽くキスをしてくれたので、僕はそっと頭を撫でて返す。
じゃれ合うように楽しんでいると………
「あの二人共、子供達が気になってしまってるようなんですが………」
何となく二人きりの空間だった僕達は、ルミナに声をかけられて我に帰る。
顔を上げると、訓練をしていた子供達がこちらをジーッと見ていた。
物珍しそうに見てたり、恥ずかしがっていたり、なんとも言えない顔の子もいる。
「あはは………ごめんごめん」
日頃から昼夜問わず会った娘達と愛し合っているためか、あまり周りを気にしなくなってきていた。
正直、子供達も僕の役目は知っているのだが、それでも多少は自重しないとな。
「二人も訓練、一緒にどうですか?」
「まぁ少しくらいなら…………あっ、試しに使ってみるか」
今貰ったスリングショット、これまでこういうの使ったことがないし、試しておかないと。
「あぁ、それセフィーが作ったものですよね。それでは、私がお相手しますよ」
「えぇ………」
ルミナが弓を手に取る。
弓持ったエルフのハーフ相手は普通に怖いが、武器の試し撃ちなら相手はそれなりにプロの方がいいか。
というわけで軽い手合わせとなった。
「あるじさま、がんばれー!」
子供達は訓練の手を止めて、手を叩きながら応援してくれる。完全に面白がってるな。
いや、武器が使えればいいから、変に頑張る必要はないんだけどね。
「それでは早速………」
その時、身構えようとしたルミナの動きがピタッと止まった。それから何かを探るように目だけが動く。
みんなも戸惑ったように顔を覗き込んだ。
「ルミナ、どうかした?」
「ッ‼︎」
不審に思って寄ろうとすると、固まっていたルミナがいきなり動き出した。
鋭い目つきでこちらを睨みつけるなり、弓をつがえて引き絞り、こっちに向けてきた。
何度か見てるから分かる、本気の構えだ。しかも矢も訓練用じゃない、本物。
「えっ?ちょっ、待っ………!」
僕達が止める前に、ルミナが矢を放った。避ける間も無く、矢がこっちに飛んでくる。
「ひっ!」
耳元で風を切る音が響く。
飛んできた矢は、僕の顔のギリギリ横を掠めて、奥の藪へと突き刺さった。
「ぐっ!」
すると、誰もいないはずの藪の中から呻き声がした。
「誰ですか⁉︎」
ルミナが声を上げると、藪の中から人影が出てきた。
黒いローブで全身を包んでおり詳しくは分からないが、今の呻き声からして男だ。
この村に僕以外の男はいないはずなのに。
………待てよ。全身黒ずくめ………って、まさか昨日見つかった黒い何かってアイツか!
僕達が戸惑っている隙に、ローブの男はこちらに何かを投げてきた。
それは地面に叩きつけられると、真っ白な煙が飛び散った。
「ひいっ!」
「きゃあッ⁉︎」
「いやぁっ!」
煙の中で子供達の叫び声が次々に飛び交う。しかし守ろうにも視界が悪すぎる。
「みんな屈んで!」
咄嗟に目を瞑って口を押さえるが、僕達を包み込んでいた煙幕はすぐに晴れた。
「主人様、大丈夫ですか⁉︎」
駆け寄ってくれたルミナの手元には、小さな竜巻が渦を巻いている。風の魔法で煙を払ってからみたいだ。
家の中で作業をしていた人達も、何事かと飛び出してきた。
「僕は大丈夫。それより子供達は?」
すぐに振り返ると、何人かの子供達は咳き込んだりしているものの、倒れたりはしていない。
しかし………
「あれ、マーサちゃんがいない⁉︎」
さっきまでルミナに弓を教えてもらっていたから、僕の近くにいたはずなのに。辺りを見渡してもどこにもいない。
この数秒でどこかに行ったわけないし………まさか、攫われたのか⁉︎
地面を見てみると、子供達の近くにさっきまで無かった血痕がある。みんなが怪我してる様子はないし、あの男のものだ。
ルミナの矢が刺さり、そこから流れ落ちたのか。
そこから逃げたとなると………
視線で血痕の先を追うと、案の定その先にある森の入り口の草が踏みつけられている。
「あの先だ。追わないと!」
「お待ちください!主人様は残っていただかないと、万が一のことがあっては………!」
「託された子供が攫われてるんです、行かせてください」
カミルさんの静止を振り切って走り出す。
自分の役目は分かっているが、だからと言って任された子供を放っておいていいわけがない。
それと同時に、ルミナも僕の後を追ってきた。
「私も同行します。セフィー、警備隊のみんなを呼び戻してください!」
「分かったけど………気をつけてね!」
「はい。主人様、行きましょう!」
「あぁ」
僕とルミナは男を追って、森の中へと入っていった。
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