第1話
広い草原の中、僕は身を隠している。
僕の前には一丁のスナイパーライフルがバイポッドを立てた状態で置いてある。
L96A1 僕が昔から使ってる愛銃だ。銃口にはサイレンサーが付いていて、8.58×70mm弾を使っている。
僕はスコープから遠くの様子を眺める。そろそろだな。
その時遠くの草むらが不自然に動くのをスコープ越しだが、はっきりと見えた。
来た来た。
僕は小さく息を吐いた。落ち着け、一瞬でも見失ったら終わりだ。
今は動いていないから場所は分からない。行動パターンを想定すると、いくつか候補が上がる。ただ一々試すのはな。
L96A1はボルトアクションライフルだ。リロード中に殺される。
向こうの武器やこれまでのやり方を考えると………よし、目処がたった。
僕は狙いを定めると、引き金を引いた。バスッと抑えられた銃声がする。
その瞬間撃った場所からガサッと何かが動いた。予想通り、ただ一発では殺せなかったか。ヤバいな。
素早くコッキングするが、ターゲットは異常な速さで近づいてくる。
スコープを覗いて狙いを定める。次で仕留める!
そう思った矢先、目の前から煙が上がった。スモークグレネードか!
サーモグラフィーでもあればな。そんな事を思いながら僕は音に集中した。すると南東の方から音がする。
こうなったら伏せて撃つのはやめるか。僕は立ち上がって南東を向く。
500mくらいから疾走音が近づいてくる。錯乱しようとしてるのかあちこちで音がする。
僕はL96A1をしまって、GLOCK18cを取り出す。もちろんフルオートにしてある。
ここまでの距離でアイツならこれだな。こうなると向こうが有利だけど。
その瞬間ガサッと音がした。しかしその音は予想より近くからする。
右からだ‼︎
そう思って構えた時には、バババッという銃声と共に目の前が紅く染まっていた。
「ふぅ」
僕はゆっくりと息を吐いてイヤホンを外した。外の喧騒が聞こえてくる。
ここは学校の演習室。僕はそこにある椅子に座っていた。
そして僕以外にここにいるのが一人、僕の後ろで背中合わせに座っている。
長い髪を後ろで縛り、女子の制服を着ている。僕の肩くらいの背丈で、猫科の動物のようなどこかダルそうな切れ目が特徴的だ。首にはヘッドフォンをかけている。
どことなくクールな印象を受ける女子が、僕の方に向かって得意そうに言ってきた。
「先輩、今度は私の勝ちですね」
先輩、と呼ばれた時点で分かると思うが、彼女は僕の後輩だ。今年入ってきた一年生。
名前は
『Bullet Of Dead』
僕と地血がやってるスマホのサバイバルゲームだ。
市街地や荒野を銃を持って暴れる。集まった一定人数から、最後の一人になるまで殺し合うバトルロワイヤルだ。
このゲームは全国的に大会もあって、僕と地血はその決勝戦に出た事はあるくらいの実力はある。それが去年の話。
僕達は放課後毎日それで対決している。三、四戦ほどして帰る。そんな日々だ。
さっき僕を倒したのは地血だ。
一緒にやると言っても、机並べて話しながらなんて事はしない。お互い背中合わせに座ってひたすら無言で戦うのだ。
「これで二勝一敗。今日は私の勝ちですね。そろそろ夕方なので帰りましょう」
「そうだな」
僕はスマホをスクールバッグにしまうと、校舎を出た。
何で僕がほぼ他人みたいな地血とこんな事をしてるのか、それは二週間ほど前に遡る。
そもそも前提として、僕達は大会には出てるものの優勝はしてない。僕は最善を尽くしたが敗退。順位は興味ないので覚えてない。
もちろんお互い顔を見た程度で、僕は彼女の顔は記憶してなかった。
友達がいない僕にとって、このゲームが生活のほとんどの楽しみを占めている。
そんな事もあってか、人よりは上手い自信はあった。
それでも負けてしまった事にしょんぼりしながら迎えた新学期。やや風邪気味の中新入生歓迎会が終わった翌日の事だ。
僕はお弁当を食べながらラノベを読んでいた。そんな時、一人の男子のクラスメイト(興味ないから名前は知らん)が声をかけてきた。
「おい、お前呼ばれてるぞ」
「? 誰にですか?」
「女子だよ、一年生」
そう言って男子生徒は教室の扉を指差した。そこにはたしかに一年生の女子がいる。
めんどくさそうだなぁ………
見たことのない女子が僕を
何となく可愛い娘だなとは思ったけど、だからといって関わり合いたく無い。
「申し訳ありませんが、忙しいので帰るよう言ってくれませんか?」
「いやお前暇そう………まぁいいや」
男子生徒が外にいる女子に言うのを確認して、僕はため息をついた。さっさと帰ってくれよ。
しかし女子は何を思ったのか教室にズカズカ入ってきた。
そして僕の前にやってくる。その視線はどこか値踏みをするような鋭い目つきだった。
なんか思いっきり睨まれてるんだけど。僕何かやったか?
「ちょっと来てください」
そう言って女子は僕の服を引っ張って無理矢理立たせた。
抵抗してもよかったが、ここでそれをやると面倒だ。めんどくさいがついて行くか。
こうして僕達は若干名のクラスメイトに見られながら教室を出た。
そして僕は校舎外の人気のない所まで連れて来られた。一応何があってもいいようにスマホは持ってきた。
「いきなり呼び立ててしまってすみません。一年のもく 地血です」
思ったより礼儀はしっかりした子らしい。
すると地血と名乗った女子は僕にズイッと近寄ってくる。ちょ、近い近い近い。
女子に耐性のない僕にとっては、それだけでも慌てふためく事態だ。可愛い娘なら尚更。
そんな事に気づく事もない様子の地血が言った。
「あなた『Verruckter』ですよね?」
自分の『Bullet Of Dead』でのプレイヤーネームを突然言われて、僕は驚いた。
「君は一体………」
「私は………いや、こっちを見せた方が早いですね」
地血はスマホを取り出すと、ちょこちょこと操作して僕に見せてくる。
それは『Bullet Of Dead』のホーム画面だ。この子もプレイヤーか。
そこに表示されているメインアームを見て、僕は再度驚いた。
メインアームはスコーピオンが二丁。つまりサブマシンガンを二丁使って戦うということだ。
二丁拳銃は実装されてはいるものの、戦いの手段として使うプレイヤーはまずいない。
理由は簡単使い勝手が悪いから。サブマシンガンなら尚更。
『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』とは言うが、数撃ってる間に殺られたら意味がない。
ほとんどネタか興味半分でやるもんだ。けど僕はそれをやるプレイヤーを一人知っていた。
この前の大会、僕はそれを相手にして辛くも勝利した直後に不意打ちで殺られたのだ。
AGI全振りしてるのかってくらい素早くて、僕にギリギリまで近づいてきた。相討ち覚悟で何とか勝った。
僕が倒さなかったら勝っていたかもしれないと思えるほどの強さだった。特徴的な戦い方も相まって僕の記憶に残っていた。
「この前の決勝戦出場者?」
「覚えててくれてよかったです。ちなみにプレイヤーネームは『Blutig』と言います」
予想通りだったな。彼女があの二丁拳銃のプレイヤーか。
「そこまで思い出したなら、あなたが私を倒した事も覚えてますね?」
「はい。それが?」
向こうからしたら因縁かもしれないけど、僕からしたら関係ない話だ。
基本的にソロプレイヤーな僕は、リアルで会うことはもちろん、ゲーム内でも交流をしない。
だからこうやってゲームのこと誰かと話すのも久しぶり、というより皆無な気がする。
「私と再戦してください。あのまま負けっぱなしじゃ嫌なんです」
キッと僕を睨んだまま、地血が言った。そこには純粋な敵意と強さが込められていた。
う〜ん、まぁ予想してたよ。そうなるかもって。正直そうやって一生懸命になれるのは素晴らしい事だと思う。
けどなぁ………
「そもそも何で僕が『Verruckter』だって分かっってたの?」
「新歓の時マスクしてましたよね?それが大会で見た顔と同じだったので」
そうだ。新歓の時風邪気味だった僕はマスクをしていた。そして大会の時も身バレを恐れてマスクをしていた。
そりゃ両方見りゃバレるわな。帽子くらいしてきゃよかった。
「なるほど。けど再戦して僕にメリットはない。生憎面倒事は嫌なタチなんだよね」
後輩に絡まれるってだけでも面倒なのに、趣味のゲームに介入されるんじゃデメリットの方が多い。
「メリットならありますよ」
「何?」
「私というプレイヤーを知れる。それでどうですか?」
地血はそう言って口の端を釣り上げた。いや、実際はしていなかったが、僕には心でそうしているように思えた。
その言葉に僕は目を見開いた。
この子………なるほど、面白いじゃないか。
「詳細は今日の放課後から。場所は………三階の演習室とかでどうですか?学校が閉まるまでやるという感じで」
「了解。それじゃあ」
「えぇ」
こうして僕と地血は出会った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
評価、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。