それから僕達は演習室でゲームをする日々を繰り返している。
といってもこのゲームに一対一のバトルをするシステムなんて存在しない。
普通に大人数の中に入って、ソイツらを皆殺しにするところから始まるのだ。
その後に一騎討ちである。もちろん皆殺しにする前に出くわせば戦うが。
結果は五分五分。僕が勝つこともあれば、
長距離から僕が正確に撃ち抜くか、至近距離で地血が蜂の巣にするかである。
時間が来たら学校を出て分かれて帰った。
一緒にゲームを楽しむ仲、といえばある程度聞こえはいいけど、逆に言えばそれだけ。
一緒に帰る事も家で連絡を取る事もない。ただ数時間黙って殺し合うだけの関係だった。
けど僕はそれが心地良かった。
人付き合いだからって気を遣う必要のない、あくまで敵。ただ殺し合う事だけを考えればいい関係。
地血も必要以外は話すことがなく、ただ冷たい目で僕と向き合っているだけだ。
何を考えているかは分からない。でも分かる必要も無い。ただ殺せばいいのだから。
そんな距離感が楽で、最初は拒否していた関係はズルズルと引きずっていった。
そんな関係が続き夏がやって来た。
その日もいつも通りに演習室に行くと、既に地血は椅子を並べて待っていた。
夏服になって短い袖から白く細い腕が剥き出しになっている。
最近じゃ学校に来る大半の意味がこの時間になりつつある。
一々面倒な人間関係を考えなきゃいけないクラスよりも、何も考えずに殺し合うだけのこの関係の方が気楽でいい。
特に挨拶をする事もなく目線だけ合わせると、僕達は椅子に座った。上下関係もへったくれも無いけど、それもこの関係のいいところだ。
お互い背中を向けて、地血はヘッドフォン、僕はイヤホンをつける。
それじゃあゲーム開いて早速対戦を………
「「あ、アップデート中だ………」」
僕と地血は同時に呟いた。そしてお互い顔を見合わせる。
「そういえば今日でしたね。完全に忘れてました」
地血とゲームするようになってから、初めての平日のアップデートだった。
しまったなぁ、この可能性をすっかり忘れていた。これまでは休日や祝日だったし。
「アップデートっていつまでですかね?」
「えっと………17時半まで、かな」
「結構遅くなっちゃいますね。学校は間違いなく閉まっちゃいます」
地血がヘッドフォンを外して、面倒そうにため息を吐いた。
さてどうしたものか。このまま無意味に時間を過ごしていても仕方ない。
「どうする?」
「それなら先輩。とりあえず学校出てその辺で時間潰しませんか?それでアップデートが終わったら、どこか場所探してやりましょう」
ここで今日はやらないと言わない辺り、さすが地血だと思う。
「けどそれだと17時半まで外にいるって事になるよ?それやっちゃって大丈夫なの?門限とか」
「………それは、大丈夫ですよ」
ほんの少し間があったのが気になったが、とりあえず大丈夫なようだ。となるとそれで決定だな。
「それじゃあ行くか」
「はい」
僕達は演習室を出ると、昇降口に向かった。靴を履いて外に出る。
「というか、時間潰すって言ってもどこに行くの?ゲームセンターとか?」
「無駄に人がたむろしてる所でゲームはしたくありません。耳障りだし目障りですので」
それに関しては同意だ。ちょっとあぁいう場所は苦手だな。殺し合う敵、ゲームに求める人間はそれだけだ。
僕達は学校を出ると、フラフラとその辺を歩いて行った。
そういえばこんな風に地血と歩くのは初めてな気がする。通学路のためか、同じ学校の生徒が何人も通り過ぎて行った。
中には男女で仲睦まじく歩いている人もいる。きっと程よく気を遣いながら、みんなで仲良くしてるのかな。
それはそれですごいけど、自分からそうしようとは思わない。
僕達は特に何か話す事もなく、ただ足を前に進めて歩いている。どこを歩いてくるかは分かるけど目的地は無い。
地血も話しかけるどころかこちらを振り向く様子もなく、ただ淡々と歩いている。
「それにしても、アップデートが17時半終わりとなると、ご飯はその前に取っておいた方がいいかな」
「ですね、帰ってからはゲームしたいですし」
それだけ話すと、僕達は近くのファミレスに入った。理由は簡単目の前にあったから。
案内された席に座り、軽めのものを注文した。その間に『Bullet Of Dead』のアップデート内容を再確認する。
注文したものが来たのでそれぞれ食べ始めた。というか………
「地血、それ何?」
「? フルーツパンケーキですが?」
「夜に?しかもシロップの量………」
「いつも通りですが?」
そうなの?結構すごい量かかってるよ?
シロップがたっぷりかかったパンケーキを見て、僕は思わず苦笑いしてしまう。
地血、甘党なんだ………
無意識に地血の一面を見てしまった。まぁ本人がいいならいいけど。
それから僕達は黙って食事をしていた。そこで僕は、ふと気になった事があった。
「というかさ、普通にゲームする事になってるけど、そうなるといつも通りにいけば帰るの19時くらいだよ?親心配しない?」
「親は………大丈夫ですよ。私の事、気にしてないと思うので」
「え?」
それって、どういうことだ?地血は僕の方が心情を見透かしたように言った。
「別に、大した事じゃないですよ…………そうですね。先輩は、『Bullet Of Dead』の世界をどう思っていますか?」
「は?…………そりゃあ、現実のように向かい合いたいと思ってるよ。それは地血だって同じでしょ?」
地血の『Bullet Of Dead』へのあの熱意。あれは生半可な気持ちでやってる人間じゃ、絶対に生まれないものだ。
「えぇ………たとえゲームだとしても、どうしても私はあの世界を現実に求めてしまいます」
地血の食べるスピードが少しだけ落ちた。地血はぼんやりと外を見る。
そこには通り過ぎる車やサラリーマン達が道を歩いている。すぐそこの当たり前のありふれた、でもどこか遠い世界。
地血はアップデート中のゲーム画面を開くと、外の景色と比べるように掲げた。
「似てませんね」
「そりゃねぇ」
シンプルな薄暗い草原を血が染めるゲームに比べて、ビルが立ち並び夜でも明るく汚れのない街並み。
「きっと、私達の求めるものは実現しない。分かってるはずなのに………」
まぁそうだよね。僕も同じだ。
あんまり良くない思考なのは理解してる。それでも現実にいて、そう思ってしまう事はある。
「あの世界って、私の理想なんですよね。一人で困らない。どんなに取り繕ったって、最後は自分の力で全てが決まる」
地血は手を強く握った。その気持ちが僕には何となく分かった。
「あの世界には理不尽が無いんですよ。外見も、上下関係も、学校でのカーストも、身の上も関係ない。人と馴れ合えない私が求めていたものが、あの世界にはありました。平等からのスタート。全ての人間が自分の実力だけでどこまでも上に上がれる」
理不尽、か………たしかにな。
現実なんて理不尽の塊だ。それが当たり前なのも知ってるし、本来はそれを顧みずに努力するべきなんだろう。
けどもし、自分の努力と実力だけでどこまでも上がれる世界があったら。
そんな馬鹿らしい理想を求めていた。地血も同じなのかもしれない。
「言葉はいらない。代わりにたとえ一人でも努力の全てを弾丸に乗せてぶつけるだけ。そんな世界って、いいですよね」
「あぁ」
こんなどうしようもない考え方をしてるからこそ、僕は地血と一緒にいられるんだろう。
「バカみたいな考えだよねぇ。ただの逃げなのに」
どこか自嘲的な言葉が漏れた。それに釣られるように地血は目を伏せる。
「まったくです………」
しかし地血は『でも………』と言葉を続けた。
「逃げるからこそ、私は全力でいたいです。中途半端に逃げたくない………ちゃんと、殺し合いたい」
そういう地血の言葉はどこか力強く、彼女の意思が伝わってくる。こんな地血は初めて見た。
「何もなく平和なのは大切ですけど………それでに生きにくいなら、私は……………いえ、何でもないです」
何かを言いかけた地血は口をつぐんだ。また食事を再開する。
「戦う道を選ぶ?」
僕はふと地血の言いたかった事を予想して言った。何の根拠もない、ただの予想だ。
「………現実から逃げてる私が、言っていい台詞ではないでしょう?」
「ハッ………だな」
僕達はお互いに鼻で嗤った。僕達には似合わない言葉だよ。
現実から逃げてるだけの世界。けど、そんな世界を必死で生き抜くのも、悪くない悪くない。
「少し話しすぎたか」
「ですね………。そういえば先輩、そろそろアップデート終わるんじゃないですか?」
「ん?………あ、本当だ。そろそろ場所見つけるか」
時刻は17時過ぎ。思ったよりもあっという間だった。
手早く会計を済ませてファミレスを出ると、どこかゲーム出来る場所が無いか近くを見渡した。
ファミレスでやるつもりはない。二人でゲームするには人が多すぎるからな。
「先輩、そこに公園ありましたよ。人もいません」
「じゃあそこにするか」
というわけで僕達は近くの公園に行くと、近くにあったベンチに座った。薄暗くて、落ち着いた雰囲気だ。
改めてイヤホンをつけて、地血と背中合わせに座る。
「アップデート終了………それじゃあ、先輩」
「あぁ、やるか」
地血の目が冷たいものになる。いつもゲームをする時の特徴だ。まぁ僕もみたいだけど。
僕達はこうして、今日も殺し合う。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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