「………ふぅ、これで四対五ですね」
「あぁ、まぁ割とギリギリだったけどな」
公園に着いてからどれだけ経ったか忘れてしまった。それくらい僕と
緊迫したゲームが続いて、何とか僕が勝った。今のところは、だけどね。
「にしても熱いですね」
「まぁいつもはクーラーガンガンにかけてるからな」
地血はバッグからハンドタオルを取り出すと汗を拭く。
人気のなくて集中出来るとなると、どうしてもクーラー無しになるので、そこは仕方ない。
「それじゃあもう一戦………」
そう言った時、地血が僕の方にフッと倒れてきた。
「ちょ、地血⁉︎」
思わず抱き止めると、地血はハッと顔を上げる。軽く目を擦った。
「ッ‼︎………す、すみません。少し、ウトウトしてしまって」
「大丈夫か?まぁずっと集中してゲームしてたもんな」
気がつけば外は真っ暗だ。って、これはさすがに暗くないか?
「先輩、今何時ですか?」
「二十二時半過ぎ………ちょっとマズいな」
「ですね。少し熱中しすぎました」
ゲームにのめり込みすぎて時間が過ぎるのをすっかり忘れていた。
対戦数見て気がつくべきだったか。いつもは学校の完全下校時刻の放送で帰るし。
すると地血はまたウトウトして僕の方に倒れてくる。地血の顔が間近に迫る。不覚にも可愛いと思ってしまった。
女子に身を預けられて僕は思わず心臓が跳ね上がった。夏服だからか地血の肌の感触が、よりリアルに伝わる。
離れさせないとと思いながらも、気持ちよさそうにしている地血を見ると下手に動かせない。
それにこんな形でくっつく事なんて初めてなので、緊張して身体が硬直する。
うつらうつらと首を揺らす地血に、僕は不思議と顔を近づけて行って…………
その時僕は公園の奥の道に誰かがいるのが見えた。紺色の服を着て自転車に乗ってる人が二人いる。
僕はそれにビクッと反応する。地血もそれに釣られて目を覚ました。
「先輩?どうかしましたか?………ッ⁉︎」
地血は振り返ると、驚いたように目を見開いた。
「せ、先輩。あれって………」
「あぁ………警察だ」
「夜のパトロールですか、隠れないと!」
言われるまでもなく僕は反射的にその場から離れた。地血も何も言わずに雑に荷物をまとめて、立ち上がり近くの木に隠れた。
ゲームで培われた危機察知能力が役立ったのだろう。僕達は見つかることなく身を隠す。
いくら高校生とはいえ、こんな時間に学生二人が公園にいるなんて見つかったら何言われるか分かったもんじゃない。面倒事は避けられないだろう。
警察官は口笛を吹きながら辺りを見回っている。
「素直に話したらこの場でよしにならないかな?」
「それはオススメ出来ませんね。下手すると学校に報告されますよ。二日くらい前にウチの学年の人がクラブで夜遊びしてたとかで、学年集会で先生がやめろとうるさく言ってたので………」
「補導
「先輩。ある意味私達、今絶賛夜遊び中です」
それもそうか。
「とにかくこの状況だ。逃げるかやり過ごすかしないと」
「今逃げるのは無理です。道が細くて一本道なので、どう足掻いても見つかります。かと言って辺りが開けてるので、この角度でやり過ごすのも難しいかと」
地血が素早く辺りを確かめて判断する。
最初こそ動揺したが、こうなればゲームの中と何も変わらない。状況を見極め判断するだけだ。距離感覚はっきりしてる分ゲームより楽だ。
地血の指示受けて素早く判断した。近くの小石を拾う。
「ちょっと乱暴だけど隙見て逃げるか。警察官がこっちに来るから、ギリギリまで待機。あそこのフェンスに石ぶつけて注意を引いてる隙に逃げる。地血、退路の確保は?」
「大丈夫です。後ろの角を曲がれば、後は身を屈めて逃げれます。すぐに物影に入るので見つかりにくいかと」
瞬時に作戦を練ると、それを察した地血が助けてくれる。なんとも頼もしい後輩だ。
それなら後は待つのみか。僕は地血と一緒にその場で様子を見守った。
「というか先輩。もうちょっと奥行けないんですか?私見つかるんですけど」
「仕方ないだろ狭いんだから」
隠れてるのが木の影なので、どうしてもくっつかざるを得ない。
ハタから見たら、僕が地血を抱き締めているように見えるだろう。というか実際にそうだ。
小柄な地血は僕の腕の中に収まっていて、見つからないように僕にくっついている。
地血って、こんなに小さかったんだな………そういえば、地血と長い時間向かい合うなんてしてこなかったな。
じんわりと人肌の柔らかさと温かさが染み込んで、どことなくいい匂いがする。
女子とこんな風にくっつく事なんて無かったので、どうしても緊張して心臓がドキドキする。
いつもは敵としか認識していない地血を、一人の女子として見てしまっている。
よく耳を澄ましてみると、地血からもドキドキと心音が鳴り響いてくる。
地血は恥ずかしそうに目を逸らしているが、顔が赤く染まりたまに僕をチラッと見る。
いつものゲームをする時の冷たい目ではなく、むしろ少しだけ熱っぽい視線に僕は緊張してしまう。
地血って、こういう表情もするんだ………なんか、いいな。
「ちょ、先輩………近いし、息荒いです」
「し、仕方ないだろ………というか地血だって、さっき倒れてきたじゃん」
「そ、それは………そんな事より、ちゃんと警察官を見張ってください!下手に近づかれたら終わりなんですから」
「分かってるよ」
言い合いながらも僕は何とか意識を地血から剥がすと、警察官との距離を目測する。そしてどう投げるかを判断する。
色々いつもと勝手が違いすぎて半分近く勘だな。
よし。3、2、1!
図ったタイミングで小石を投げた。予想通り小石は警察官の死角で軌道を描き、フェンスへとぶつかって音を立てる。
「ッ⁉︎ 何だ⁉︎」
突然の音に警察官達は驚き後ろを振り向いた。
「地血!」
「はい!」
僕達は荷物を掴むと、バレないように素早く公園を抜け出した。曲がり角を曲がって身を潜めて様子を見る。
「何とか………大丈夫ですね」
「あぁ………とりあえず一安心か」
いつもゲームでやってる事だからか、あんまり達成感は無いけどね。
僕達は身を潜めたままその場を離れた。
「ここまで来れば大丈夫かな」
「はい」
顔を見合わせて一息ついた。めんどくさかったぁ。でも辺りが暗かったおかげで何とか逃げれたな。
しかしそこで僕達はお互いが身を寄せ合ったままな事に気がついた。
僕達は慌てて離れた。お互いに目線を合わせるが、すぐに逸らしてしまう。
「ご、ごめん!………その、つい」
「ま、まぁ………あの場合は必要でしたし、別にいいですけど………」
なんとなく気まずくなってしまい距離が空く。あぁ、顔が熱い。
「大体………私にくっつかれたくらいで、あんなに息荒くしないでくださいよ。私の身体、そんなにいいものでもないしょう?」
地血は自分の身体を見下ろして、少しだけため息をつく。発育云々は、まぁ良いとは言えないかもしれないけど。
「む、無茶言うなって。地血も女の子なんだし、まぁ………それなりにはさ」
「そ、そうですか………」
なんか微妙な雰囲気になっちゃったなぁ。普段はもうちょっと殺伐とした感じで、そっちの方が楽だったし。
「というか、これからどうする?別の場所探して再開する?」
「ぜひとも、と言いたいところですけど………時間も時間ですし」
「それじゃあ今日はこれまで、か」
まぁ普通に二十二時半過ぎてるし、これ以上は地血の親が心配するか………って、今も充分アウトか。
「えっと、家まで送ろうか?夜遅いし」
「いえ、近くなので大丈夫ですよ」
「でも、女子一人で夜道歩くのは危険でしょ?それに付き合わせちゃったの申し訳ないし」
「………そ、それなら、途中まで………」
そんな会話をしながら、僕は少しばかりの違和感を感じていた。
地血とこんな会話をする日が来るとはな。お互い気遣うとは無縁の関係だったし。
僕達は途中まで一緒に歩いて行った。途中何かを話す訳でもなく、僕達はあっという間に分かれ道に到着した。
「それでは、また明日」
「あぁ」
僕達は軽く言葉を交わして分かれた。
さてと、僕も帰るか。
僕は自分の荷物を掴むと肩にかけて………おや?
よく見るとスクールバッグの中に何かタオルがねじ込まれてる。
これって………地血の、だよな。逃げる時によく見ずに突っ込んだのか。
はぁ、明日届けるとするか。
てなわけで翌日。朝の内に届けないとと思い、一年生のいる三階へと向かった。
ただここで一つ問題発生。地血のクラスが分からない。ウチの一学年十近くクラスあるからな。
人に聞けば楽なんだけど、そんな事聞けるコミュニケーション能力は無いし、全力で捻り出しても
『分かりません』or『そんな娘いたっけ?』
である。まぁ何となくそんな気はしてたけど。
というわけでかれこれ三周ほどして、そろそろ諦めて放課後渡すかと思った頃。
「あ、いた………」
六組の教室にいる地血をようやく発見。人が多過ぎて全く気が付かなかった。
みんなが周りの友達と楽しそうに話してる中、地血は教室の隅で一人で本を読んでいた。
それが僕には一人で存在しているというより、周りの存在から抜けているように見えた。
これまで誰よりも僕の隣にいて、存在を近くで感じていたのに。こう見ると認識できるか出来ないかという瀬戸際だ。
こうして見てみると、ゲームでの地血とリアルの地血って全然違うんだなぁ。
まぁ僕も似たような学校生活送ってるから、あまり人のこと言えないんだけどね。言う気もないし。
それじゃあちゃっちゃと渡すか。
「おーい、地血」
席が廊下側だったので、地血はすぐに気がついた。
「先輩?どうしたんですか?放課後はまだですよ」
「知っとるわ。これ届けに来たの」
僕は地血にタオルを渡した。
「これ、私の………先輩の荷物の中に入れちゃったんですね。わざわざ朝に届けなくても、放課後会うのに」
「今の時期は必要でしょ?」
「ありがとうございます………あ、ちょっと待ってくださいね」
タオルを受け取った地血は自分の席に戻ると、バッグを漁って戻ってきた。
「はい、これどうぞ」
そう言って渡してきたのはイチゴ味の飴だった。
「え?どういう事?」
「まぁタオルを届けてくれたのと………あと、昨日途中まで送ってくれたので。そのお礼です」
「律儀だなぁ」
「私はこっちの方が気楽なんです」
「それもそうか。ありがたく貰っておくよ。それじゃあ放課後に」
「はい」
僕は地血と分かれて教室に向かった。その途中で地血から貰った飴を開けて口に放り込む。
「ん、甘い」
どこかの誰かさんのように落ち着いて爽やかな甘味が口に広がった。
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