そんなこんなで
関係としては良くも悪くもそれだけだ。仲良くなるわけでもなく、かと言って疎遠になるわけでもなく。
ただ淡々と戦うだけ。それ以外の付き合いはほとんど無い。黙って戦って、黙って帰るのもザラだった。彼これ五ヶ月ほどの付き合いでも、お互いのことはほとんど知らない。
でもそれでいい。殺し合うのに余計な先入観や感情移入は邪魔になるだけだ。
夏休みに入ってからも自主補講とかがあったので、それが終わった後にゲームをして帰る。
地血もそれ以上を求めてくる事は無くて、ずっと僕との関係を続けている。
そんなある日、夏休みが明けてすぐの事だった。
いつも通りに学校を終えて、僕は誰もいない演習室に入った。地血はまだ来てないのか。
ちゃっちゃか準備を済ませていると扉が開いて地血が入ってきた。挨拶もせずに荷物を下ろす。
しかし僕はそこで一つ違和感に気がついた。
「地血、どうかした?何か顔色悪いけど」
「ッ………別に」
「………そうか」
少し違和感はあったものの、それ以上を詮索する事もなく僕達はいつも通りゲームを開いて………
「「き、緊急アップデート?」」
開いた画面を見て、僕達は思わず顔を見合わせた。
ま、マジかぁ………今までは予め知ってたから予定決めてやってたけど………まさかの緊張とは。
「えっと………どうする?」
「いや、どうするって………帰るしか無いでしょう」
それもそうか。それじゃあアップデートのある日と同じように時間潰すかな。
僕達は演習室を出て下駄箱を出た。一緒に学校の外へと向かう。
「いつも通り、その辺ブラブラして適当に時間潰すでいい?」
「そうですね…………というか先輩」
「言うな、分かってる」
僕達はそっと周りを見た。間違いない、何か周りから見られてるな。
一年二年の男女がこの時期に並んで歩いているってのが珍しいんだろう。にしたって失礼だなぁ。
「見世物じゃないってのに………」
「そんな事も考えられない頭だって事ですよ」
言ってて呆れてくるが、それで文句を言うのも面倒だ。適当に流すか。
「私達、どう見られてるんですかね?………カップル、とか?」
「さぁな。最近はほとんどいつも一緒にいるし、その可能性も無きにしもあらず、かな」
「そう、ですか………」
すると地血は少しだけ顔を俯かせた。どうかしたか?
「けど、さすがに地血相手じゃそうは思われないでしょ?」
「どういう事ですか?」
「いや、地血なら結構告白とかされるんじゃないかな、とね」
地血は基本的に無愛想だけど、見た目はかなりレベルが高いと思う。それなら結構モテそうなものだが。
「まぁ………そうですね。それなりには………」
だよなぁ。さぞかし恋愛経験も豊富なのだろう。
今さらだけど何でこんなにも一緒にいてくれるのか。対戦だけして後は好きにすればいいのに。
「そう言う先輩は、彼女とかいないんですか?」
「そもそも学校でまともに話せるのは地血くらいだよ。いつもは一人だし」
人とのコミュニケーションが苦手な僕が、これまで人と付き合った事なんてあるわけもない。
「そうですか………私だけ、ですか」
「ん?どうした?」
「いえ、別に………先輩は友達すらいないんですね」
「べ、別に苦じゃないからいいの。というか地血はどうなんだ?」
告白されるのと友達が多いでは、まだちょっと感覚が変わってくるだろう。
よく見ると一年生は地血の方を見ていて、あまりいい視線には見えない。
「私も、ですかね。まぁ別に一人でいいですし。それに………」
「それに?」
「今は先輩がいます。それで充分ですよ」
何かそう言われると告白されてるみたいで照れるんだが………もちろん表情には出さない。
「対戦相手だったら他探せばいそうなものだけど?」
「そういう意味じゃ………はぁ、まぁそれでいいですよ」
何か他の意図があるならはっきり言ってくれないと。そんなのを察せる頭は持っちゃいない。
「まったく先輩は………さっさと行きますよ。息が詰まりそうです」
「だな」
僕達は外に出ると、意味もなく歩いていた。途中で軽めの夕飯を食べ、また歩く。話すことはなく、周りの音だけが聞こえる。
「それじゃあ適当にゲーム出来そうな所に………ん?」
「どうした?………っと、嘘だろ」
「雨、ですか」
僕達の上からポツポツと雨が降ってきた。弱かったのはほんの少しで、雨の勢いは一気に強くなる。
「ちょ、どこか雨宿り出来る所無い⁉︎」
「道のど真ん中で言われても………あぁ、こっちです!」
僕達は近くの駐車場の物陰に入った。
「まさかこのタイミングで雨が降るとは。おかげでびしょびしょですよ」
地血はバッグの中からタオルを取り出して身体を拭く。僕はスマホを取り出した。
「この雨は、っと…………夜まで続くか」
「どうしますか?このままだと戦えませんよ?」
どこかの施設の中でやるのは迷惑になるし、何よりうるさくて集中出来ない。かと言ってやらないという選択肢は自然と無い。
「うーんあの、先輩………先輩って一人暮らしですか?」
「ん?そうだけど、それが?」
「それなら、今から先輩の家に行くのはどうですか?」
地血の突然の提案に、僕はポカンとした。
「は?今からウチに?」
「はい。それでアップデートが終わるまで時間潰して、ゲームをするっていう感じで」
「いや、それ僕の家である必要あるか?」
「この状況だとやれるのは私か先輩の家のみなので。ウチはちょっと………」
「なるほど………」
たしかに、この状況から考えるとそこくらいしかないよなぁ。女の子の家にあがるのは気が引けるし。
けどなぁ、それなりに馴れ合うようになったとはいえ、後輩の女子を家に連れ込むと考えると………ちょっとアウト臭い。
いやもちろん変なことをするつもりは無いんだけどさ、どうしてもその発想は浮かんでしまうわけで。
僕は隣にいる地血を横目で見た。
雨で濡れてしまったせいか、髪はいつも以上に艶がある。細い身体のラインが浮き彫りになり、薄い夏服が少しだけ透けていて………
「先輩。何か変なこと考えてませんか?」
「べ、別に………」
すると地血が僕の方をジーッと見てくる。その目はいつも以上に鋭い。
鋭いなぁ。まぁただゲームするだけだし、遅くても19時には帰ることになる。
あんまり深く考えても仕方ないか。慣れない場所でゲームするよかよっぽどマシだ。
「それじゃあそうするか」
「えぇ」
そういう事になった。
僕達は僕の家に向かうために電車に乗った。そのまま何事も無く家に着く。
「ほら、入って」
「はい。お邪魔します」
僕は地血を家に入れた。何気に誰かを家に入れるのって初めてなんだけど。まぁそこまで気を遣わなくてもいいかな。
「あ!M93R!これは1911ガバメント!M4まで………先輩モデルガン持ってるんですね」
地血は部屋に置いてあるモデルガンのコレクションに食いついてきた。
「まぁな。ほとんど中古だけど。ちなみにこれもあるよ」
僕はモデルガンを飾ってある棚から、その一つを取り出した。それを地血に手渡す。
「これって………スコーピオン?」
「さすがに二丁も無いけどな」
同じものを複数買うのはもう少し金銭的余裕が生まれてからだ。
地血はスコーピオンを面白そうにマジマジと見つめて、少し構えたりもしている。
さすが使いこなしてるプレイヤーというべきか、思った以上に画になるなぁ。カッコいい。
それ以上に………
「いいじゃん、似合ってるよ」
「そうですか?まぁゲームで一番使ってますから………」
「そうじゃないよ。表情がすごいイキイキしてる………わけではないけど、いい表情するじゃん」
声音がいつもよりも嬉しそうだ。
いつものクールなところもいいけど、こういうのもいいじゃん。すごい楽しそうなのが表れているようだ。
すると地血は少し驚いたような表情になった。
「…………先輩は、分かってくれるんですね」
「ん?いや、常識的に分かるでしょ」
「あ、いえ………何でもありません」
そう言う地血はどこか寂しそうだった。何かあったのだろうか?
それから僕はモデルガンのコレクションを地血に見せた。地血は大きな変化こそ無かったけど、僕にはとても楽しんでるように見えた。
「そういえば先輩。そろそろアップデート終わったんじゃないですか?」
「ん?………あ、本当だ。終わってる」
時刻は18時過ぎ。思ったよりもあっという間だった。
アップデート終わるまで暇になるなと思ったけど、そんな事全然無かった。
「それじゃあ、先輩」
「あぁ、やるか」
地血の目が冷たいものになる。いつもゲームをする時の特徴だ。まぁ僕もみたいだけど。
僕達はこうして濡れてることも忘れて、今日も殺し合う。
パスッ
よし、一人殺した。
背の高い草むらの中、僕は匍匐前進で前に進んだ。そろそろ人数が少なくなってきた頃合いだろう。
L96A1をコッキングし、構えてスコープを覗く。どこにいるかな?
すると山を降りてすぐの辺りにバギーが一台置いてあるのが見えた。ついさっきまでは無かったな。
今誰かがあそこに捨てたのか。
それをヒントに辺りを探していくと………いたいた。1200mほど離れた草むらが、僅かに動いている。
向かっている方向からして気がついてないな。近くにいるのは、さっき一人殺したからバレてると思うけど。
僕はそこに狙いを定める。
このゲームは弾道もリアルに再現したゲームだ。単にスコープだけに頼ればいいというものではない。距離が離れてれば尚更ね。
狙いを定めると、僕は一呼吸おいた。心の中で小さく呟く。
『じゃあな』
パスッ
こうして僕はBlutig──地血を殺した。
「くっ!………まさかあんな遠くに潜んでるなんて………近くだと思ったからバギーを捨てたのに」
「ちょっと早すぎたかな。後はまぁ、見つからないところに止めればよかったかもね」
僕と地血は背中合わせで話していた。
そもそも僕の位置を把握してなかったから、そこが一番の失敗かな。
「さてと、これで四勝三敗………今のところ僕が一点リード、か」
「そうですね。先輩としていると、自分の悪いところが分かってためになります。次までに直したいです」
それは僕も同じだ。地血としているとこれまで気がつけなかったものに気がつける。
それは彼女のレベルもあるけど、落ち着いて客観的に物事を見れる彼女の性格のおかげでもある。
「さてと、それじゃあもう一回するか」
すると地血が隣で呆れたような顔をしているのに気がついた。
「ん?どした?」
「先輩。夢中になるのは結構ですが、時計くらいは見た方がいいですよ」
へ?時計?
そう言われて、僕はスマホの時計を見てみた。
えっと、時間は………二十時半⁉︎
「なぁッ⁉︎」
「本当に気がついてなかったんですね。のめり込みすぎですよ」
「いや言ってくれよ!絶対分かってたでしょ⁉︎」
「分かっててやってるものかと思ってたので。七回も試合してる時点で気づきましょうよ」
そうかもしれないけど!うわぁ………またやっちゃったぁ。
ヤバいなぁ、いつも家だと眠くなるまでやってるから時間感覚が必要無かった。
そのせいで今日も………ヤバいなぁ、どうしよう。
僕は別にいいんだけど、地血はこれはマズいだろう。こんな夜遅くまで人の家にいるのはな。
「とりあえず今日はもう帰りな。親に説明必要なら明日にでもするからさ」
「いえ、その必要は無いかと」
地血はそう言ってスマホをイジる。何やってんだ?
「やっぱり。私の親、仕事で帰ってこない事がまぁまぁあるんですよ。今日もそうみたいです」
そうなのか、それならとりあえず面倒事は避けられたかな。
「それじゃあそろそろ帰りなよ。何なら送ってくけど?」
夜道は危険だからな。まぁ僕がいて何になるって話だけど。
「それは結構です。あの、先輩………」
「何?」
僕が尋ねると、地血は小さく息を吐いて言った。
「今日は………先輩の家に泊まっちゃ、ダメですか?」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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