「………は?」
「いや、いいわけないでしょ。それはダメだって」
いきなり何を言うかと思えば。いくらなんでもそれはマズいって。
「何でですか?」
「それは………あれだ、一応男子と女子なわけだし………何かあったらさ………」
「何かするつもりだったんですか?」
「そ、そうじゃなくてな!少しはそういうのに忌避感持ちなよ。僕の立場から言わせてもらえば、女子はそういうの無いと、色々面倒だよ?」
付き合ってもいない女子を家に泊めるのはいかがなものかと。いや、付き合っててもそれなりの問題はあるか。
「ふーん………一応私の事、女子とは思ってくれてるんですね」
「は?………と、とにかくそれはダメだよ。時間も時間だし、早く帰んないとでしょ?」
僕はゲームを切り上げて地血を帰そうとした。
すると地血は僕の服の袖を掴んだ。地血は僕に顔を近づけるとジッと見てくる。
「ここ以外………行く所が無いんです」
「ッ…………」
そう言った地血は、少し怯えるような表情をしていた。いつもは見せないような態度に、僕は少したじろいだ。
「家、あるんでしょ?」
「それは、そうですけど………」
「一人でいるの、嫌なのか?」
「いえ、慣れてますから………」
「だったら………途中まで送るし」
「それでも、私は………」
地血は顔を伏せて黙ってしまった。
言ってる意味が分からない。しかし、その奥に何かが隠されているのを、僕は感じた。
「こういうの、あんまりいい事とは言えないんだけど」
「分かってますよ。けど………せっかく先輩といるんです。そっちを選んでも、いいじゃないですか」
そう言われるとなぁ………無下に断るわけにも………
僕が何もしなければ問題はない、のかな?
「それ、親にバレたりしないの?そしたらまぁまぁ面倒なんだけど」
「親は明日のお昼まで帰れないそうなので、問題ありません」
それなら………
「分かったよ。今日だけね」
「………はい」
こうして地血は僕の家に泊まる事になった。人を泊めるのって初めてなんだけどなぁ。
まぁいつもゲームしてるし、その延長線の付き合いと見れば、そこまで変な感じはしないか。
とりあえず………
「お風呂汲むか」
「そうですね。ゲームに熱中しててすっかり忘れてました」
というわけでお風呂を汲み始めて、やる事が無くなった。
部屋に戻れば必然的に二人でいる事になる。
よく考えたらゲームする時かご飯を食べる時以外で二人でいる時なんて、これまでほとんど無かった。
まぁ気にしても仕方ないか。ゲームでもして時間潰すかな。
「あの、先輩………」
すると地血が背を向けたまま僕に話しかけてきた。
「どうした?」
「先輩は何で、『Bullet Of Dead』始めたんですか?」
「は?………いきなりどうしたの?」
「いえ、何となく、気になって………」
始めた理由、ねぇ………何だろう?
「これといったものは無いかな。人と撃ち合い出来ればそれでよかったし。地血は?」
「私は………景色ですかね」
「景色?」
「私、動画サイトの広告でこのゲーム知ったんですよ。その広告のゲーム内の景色を見て………ここなら、私も戦えるって思ったんです」
「戦える景色、か」
「はい。飾りもない、必要な資格も無駄な処世術もない、殺伐としたここなら、私でも、存在して戦えるんじゃないかな、って」
「けどそれって………戦えてる、って言えるのか?」
「まさか。ただの現実からの逃げですよ。でもどうせ逃げるなら………たとえ道を逸れてても、前に進みたいじゃないですか」
「そうだな………」
いつも背中を合わせればゲームで殺し合いしかしないのに、今僕達は当たり前の会話をしている。
それが何となく楽しかった。人と関わって楽しいと思えるのなんていつぶりだろうか。
「そういえば、先輩って戦闘スタイル固まってますよね。まぁ私もですけど。他の武器試さないんですか?」
「う〜ん。アサルトライフルとか、地血みたいにサブマシンガンだと忙しなくてさぁ。ある程度場所固めて撃てた方がいいんだよ。そういう地血は?」
「私は単純にステータスからの分析でサブマシンガンです。後は挑戦ですかね。どこまでいけるか知りたくて」
一度話し始めたら、後は思ったよりも普通に話せた。
ゲームの話とはいえ割と会話が弾んだは結構驚いた。地血と会話が続くなんて滅多にない。無言で帰るなんて事もザラだからなぁ。
いつもは聞くことのない話をして、地血がどういう経緯で今のスタイルになったのかとかを聞いていた。
「地血って、結構努力家だよな。色々試したり、出来ないことに何度も何度も挑戦したりして」
「ゲームの中だけですよ。みんなが平等に立てる、その中だったら私はどこまでいけるか。まぁ、自分のみの実力を試したいんですよ。先輩は違うんですか?」
「そんな高尚なモンじゃないよ。だから地血のそういうとこ、普通にすごいと思う」
なんて言うか………現実から、真面目に逃げてる感じがする。そういう地血を、僕は素直に尊敬している。
「こんな私でも、ですか………先輩は変わってますね」
「そうか?
そんな事をしていれば、お風呂が汲めるまではあっという間だった。
「お風呂、先に入るか?」
「いえ、先輩お先にどうぞ。濡れて体冷えてるでしょうし」
「地血もでしょ?」
「そうですけど………まぁ、大丈夫ですよ」
「そうか。分かった」
そういうわけで、お先にお風呂に入った。パッパとお風呂から上がると地血に声をかけた。
「地血、お風呂いいよ」
「あ、はい………」
「ん?どした?」
「いえ、何でも………」
少し様子のおかしい地血を見送りつつ、僕はぐでんとベッドに寝そべる。
というか何で地血はこの状況を普通に受け入れているのか。いや、それに慣れてる僕も大概か。
なんだかんだでもう二十一時半を過ぎている。いつもならそろそろ寝てもおかしくない。
でも、今日は不思議と眠く無かった。理由は間違いなく、地血だろうな。
普段は黙ってる事が多いけど、趣味の事になると結構感情が表に出てくる。それを見ているのがとても楽しい。
一見冷たそうな印象があるけど、何かに夢中になってる時はすごいいい表情をしている。
そんな事が滲み出ているからこそ、僕は彼女と一緒にいるのかもしれない。
そういえば、前に地血にタオル届けに行った時、何となく周りから避けられてるように見えた。
どうしても近寄りがたいものはあるのかな?そんな風には見えないんだけど。
いや、僕は一緒にいるからそう思うだけで、初対面だったら同じようにしてたかも。
地血には地血なりの事情があるのは、何となく察せた。それが彼女の性格を作ってるのだろう。
それは別に悪いことじゃない、というか無駄にキャッキャしてるよかよっぽどいい。
けど、周りから見たら近寄りがたい人でしか無いんだな。他人は他人。分かり合えるはずもない。
だから地血は、ゲームの世界での殺し合いを望んだのかな?
言葉はいらない、お互いを理解する必要もない、どうしようもない理不尽なレッテルもない。
目の前にいるのは全員敵。そんなシンプルで殺伐としたものを。
だとしたら、ちょっと分かるな、その気持ち。
最初はただゲームで殺し合えれば、それでよかった。それが今はこれだもんなぁ。何やってんだか。
僕といる事が、地血のためになればいいけど。って、んなもんあるわけもないか。
それにしても地血、いきなり泊まるだとか言い始めたけど、パジャマとか色々大丈夫なのか?持ってるようには見えなかったし。
今さらだけど何も貸さなくてよかったのだろうか?まぁ男子の僕が貸せるものなんざ無いと思うんだけど。一人暮らしだから布団も無いよ?
まぁ地血にも何かしらの考えがあってこんな事してるんだろうし、いいかな。
そろそろ寝ようかな。そんな事を考えていると部屋の扉がトントンと叩かれた。
「先輩、私です。いいですか?」
地血だ、お風呂から出てきたのか。わざわざノックするんか。
「おぉ、構わんよ」
「はい………」
そう言って地血は僕の部屋に入ってきた。
僕は扉の方を振り向いた。そこにはお風呂上がりの地血がいる。
そんな当たり前の状態なのに、僕はその姿を見て固まってしまった。
部屋の前に立っている地血は、下着以外何も身につけていなかった。
いつもは結んである長い髪はほどかれていて、濡れているせいかより艶やかで部屋の光を反射している。
肌も少し上気していて、赤みが増しているように見える。
白い下着は地血の身体の一部を申し訳程度に隠していて、他は全て肌が剥き出しになっている。
猫のようなしなやかな肢体はスラッと伸びていて、不思議と惹きつけられる魅力があった。
胸は大きくは無いものの、僅かに膨らみ谷間を作っている。大半はブラに隠されているが、その谷間は隠される事なく僕を誘う。
他にも綺麗な形をした鎖骨、スベスベしていそうな腹、どこか赤らんだ顔。普段だったら絶対に見たい非現実的な光景が、僕の目の前に晒される。
地血は恥ずかしいのか、腕で胸を隠しながら僕の方をジッと見ている。
その瞳はこれからの事を必死に伝えようとしているみたいだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
評価、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。