僕が後輩である地血と身体を重ねて一夜を過ごしてからから、二ヶ月が経った。
あんな事があったものの、それ以降身体を重ねる事もなく、それどころか恋人らしい展開もない。
これまでと変わらず演習室でゲームをして、各々分かれて帰る。
もちろん付き合ってるわけじゃないから、当たり前と言えば当たり前だし、変にギクシャクするよかよっぽどマシだ。
地血は魅力的な面はあるとは思うが、それでもここで何かして気まずくなるのは嫌だしね。
そもそもどう誘ったらいいのか、断られたらどうするか、別にそこまで焦る必要はないんじゃないか、そもそもこういう経験がゼロどころか、普段の人間関係からマイナスなまである。
そんな理由があって僕からは何も言い出せない。地血からは何か誘ってくれないかな、と思わないと言ったら嘘になるが、まぁ無いだろう。
いつも通り淡々として、ゲームを楽しみ、二人の時間を満喫する。今はこの距離感で充分だ。
別に僕はこれだけでも全然問題ない。こうして二人でいるだけで、地血と殺し合うだけで落ち着く。
あんまり多くを求める必要もない。今の関係だけでも充分すぎるくらいに幸せだ。
そんなわけで結果として、僕と地血の関係はこれまでと何ら変わらないままとなった。
ある日の学校の演習室。僕達はいつものように背中を合わせて無言で殺し合っていた。
いつもよりゲームの音量を上げているため、周りの喧騒は聞こえない。
バイクを捨ててこっちに向かって走ってくる地血の行動を予測し、音を頼りに撃ち抜いた。
「ッ………よし」
「また先輩の勝ちですか………」
地血はヘッドフォンを外すと、ゆっくりと力を抜いた。縛られた髪が少し揺れる。
「だな………っと、そろそろ帰る時間か」
「そうですね。帰りますか」
冬も近くなり、外はもう暗くなってきてる。帰った方がいいな。
普段と変わらない淡々とした会話。 でも、これがなんだかんだで気楽でいい。
「あ、先輩」
荷物をまとめていると、後ろから地血が声をかけてきた。
「ん?どうしたの?」
「今週の土日って、時間ありますか?」
「え?うーん………今のところは大丈夫だよ」
そもそも貴重な土日休みを用事で埋める事はまず無い。趣味に浸る絶好のチャンスなのに。
「それなら………また、先輩の家、行ってもいいですか?」
「………はい?」
突拍子もない事を言われて、僕はポカンとした。
「いきなりどうしたよ?」
「いえ、その………ダメ、ですか?」
「いや、まぁ、ダメって事はないけど………どうかしたの?」
こうは言ったが、前のことがあったからか少しだけ地血を招くことに抵抗というか、気後れするところはある。
「その、前に泊まった時、先輩のコレクションあったじゃないですか……ま、また、見せてくれないかな、と………」
地血は少しだけ恥ずかしそうに身を縮めた。
「あの、最近、先輩に負けること多くなってますし………もうちょっと、自分の戦いのスタイルを増やしたいんです。それで………」
「なるほど………それで使える銃を増やしたい。でもゲームじゃ数字のステータスのみだから、モデルガンでも実際に触れて確かめたい、ってこと?」
「………わ、分かったようなこと、言わないでください」
ははぁ、そういうことね。この前は色々あってゆっくり見れなかったからなぁ。
『Bullet Of Dead』は銃の細かい特徴も再現してあるからな。こういう形でスキルアップするのもいいだろう。
僕としてもそういうのが分かってくれる人がいるのは割と嬉しいし、いいかな。
「別に僕は構わないけど、地血はいいの?それで」
「はい。次の大会もあります、出来るだけのことはやりたいんです」
「………了解」
「ありがとうございます。それでは」
それだけ言うと地血はそそくさと帰っていった。
そんなわけでいきなり地血が土曜日に僕の家に遊びにくる事となった。
そして迎えた土曜日。来る時間は午後なら適当でいいと言ってあるので、地血が来るまで僕はのんびりしていた。
そういえば地血と休日に会う事って初めてだなぁ。だから何だって気もするけど。まぁ前回が前回だし………意識するなってのが無理な話か。
余計なことを思い出す前に頭を振って記憶を払う。まぁいつも通りでいいだろ。
そんな事を考えていると、ウチのインターホンが鳴った。来たかな。
僕は玄関に向かうと、扉を開けた。
予想通り、そこにはいつもの制服とは違い私服姿の地血がいた。
灰色のパーカーに動きやすそうなサルエルパンツ。肩には手提げバッグがかけられている。
シンプルでいかにも地血らしい。それでいてとても綺麗だと思った。まぁ口には出さないが。
「こんにちは、先輩」
「こんにちは。まぁ入ってよ」
「お邪魔します」
地血は軽くお辞儀をしてウチに入る。荷物を部屋に置いて一息ついた。スマホを開いてメモ帳を開く。やる気満々だねぇ。
「それにしても、コレクション見るためにわざわざウチまで来るとはなねぇ。ご丁寧にメモ帳まで用意して」
「べ、別にいいじゃないですか!何か文句でも?」
地血は唇を尖らせてキッと僕を睨んでくる。
「いや、僕もこういう感じで自分のコレクション見ること無いから、ちょうどいい機会かなってね」
こうやって地血となら、僕も新しい発見もあるかもしれないしな。
「それに、地血が夢中になってるの、何かいいなって思うし」
「ど、どういう意味ですか!まぁ………そ、それなら………いいですけど」
「さてと、使える武器増やすって話だったけど、何か見たいものはあるの?」
「そうですね。とは言ってもやっぱりステータスの問題上、そこまで大きく戦い方は変えられないので………まずはサブマシンガンからいいですか?」
そんなこんなで僕は自分のコレクションを引っ張り出して、地血と一緒に話し合った。試しに撃ってみたりもして検討し合う。
こんな風にのんびりと話すのは久しぶりだ。お互いゲームして帰るだけだし。
物静かな地血も楽でいいけど、こうやって自分の好きなことにのめり込んでる地血を見るのも、割と好きだったりする。
心の底から楽しいって分かるから、つい僕も熱入っちゃうんだよな。
「………さてと………ここまでやれれば大丈夫ですかね。知りたいことも結構知れましたし。早速やりますか」
「? 何を?」
「そんなの、決まってるじゃないですか」
地血はバッグの中からスマホを取り出した。それなら目が冷たいものへと変わる。
「殺し合いましょう」
それから四試合ほどやって、僕達は少し休憩していた。僕はベッドの上に座ってグダる。
「ふぅ、まぁまぁって感じですかね」
「あぁ」
僕達は背中合わせに座ってお互いの戦歴を見ていた。こうやって気がついたことを知るのも大切だ。
こうして初めて休日に二人で会ったわけだけど、特に変わらないいつもの僕達だった。
そう思うと肩の力も抜けてのんびりできる。この静かな時間が心地いい。
「どれ、もう一回やる?」
僕が声をかけるが、後ろから地血の声が聞こえない。
ん?どうした?
すると地血がいきなり僕の方に身体を傾けてきた。
「ちょッ!地血⁉︎何してんの!」
僕は思わずビックリして叫んだ。地血が僕の方へと寄りかかったまま目を擦る。
「んっ………あぁ、温かいのでウトウトしちゃって………」
地血はこっちを振り向く事なく気怠そうな声で言った。
一応冬服だが、お互い薄手のためか肌が触れ合ってるように感じてしまう。地血の温かさが染み込んでくるようだった。
久しぶりに感じる地血の感触に、ドキッと心臓が跳ね上がる。
それをバレないように何とか触れ合う箇所を少なくしようとする。
「ふわぁ………眠ぃ………」
寄りかかってくる地血が微笑ましい反面恥ずかしいので、僕はそこから動けなかった。
それから僕達はしばらくそのまま背中を預け合うようにしていた。
このまま押し倒したくなるけど、そこをグッと抑える。そんな事したら引かれるし。沸き立つ気持ちを抑え込む。
「そ、そういえば、ずっとこのままだったな。眠気覚ましに何か飲み物持ってくるか?」
「ん、大丈夫ですよ………一応水筒を持ってきているので」
そう言うと地血は僕から立ち上がった。張り詰めていた気持ちが解けて小さく息を吐く。
地血は横に置いてあったバッグに手を伸ばすために身をかがめた。
その時たるんだパーカーから地血の胸元がチラッと目に入る。元々緩めのものだったのか、白い下着まで見えてしまう。
つい凝視してしまいそうになるが、何とか理性を働かせて目を背けた。それは失礼だしな。
「あ、ありました。よっと」
バッグから水筒を取り出した地血は、そのまま僕の後ろに座り直した。
「ちょ、おい。何でまた僕のところに………」
「別に、いいじゃないですか」
振り向く事なく答えると、地血は水筒の蓋を開けて中身を飲む。中身を飲み込む喉の動きを、自然と目が追っていた。
「ふぅ………先輩も、飲みますか?中身麦茶ですけど」
すると地血が水筒を僕に差し出してきた。少し俯き気味で表情は分かりにくいが、そっけない口調だ。
いや、それ今地血が口をつけたもので………それを飲むって事は………
「べ、別にいいよ。地血のなんだし」
「構いませんよ。先輩だって喉乾いてるでしょう?はい」
うぅ………ここで断るのも失礼、なのかな?
「それじゃあ、貰おうかな」
僕は地血から水筒を受け取った。悪い事してるわけじゃないのに、どうにもドキドキする。
あんまり時間をかけるのも不自然に思われそうなので、思い切ってグッと飲んだ。
軽く喉を潤すと水筒から口を離す。
「あ、ありがとう」
「いえ、また欲しくなったら言ってください」
地血に水筒を返すと、僕達はしばらくそのままでいた。何か話すわけでもなく、静かな時間が流れた。
変なことを考えないように、何とか地血から目を逸らしているけどそれでも触れ合う感触から気持ちが昂ってしまう。
このままだとマズいな。一旦離れないと。
「あ、あのさ。ちょっと一旦離れてもらって………うおっ!」
そう言って地血を見ると、地血は僕に寄りかかるようにして眠っていた。
僕が少し動いたことにより、僕の腕の中に地血が滑り込んでくる。僕は咄嗟に抱き止めた、
「ス──、ス──…………」
気持ちよさそうに寝てるなぁ。自分の事で一生懸命で全く気がつかなかったよ。
その寝顔を微笑ましく思う一方で、この状況が今の僕にあまり良くないのも察した。
一度見てしまうと、どうしても目線が地血に惹きつけられてしまう。
サラサラとした艶のある髪、シュッとした整った顔の輪郭、瞑っていても思い出せる猫のような目、赤く柔らかそうな唇。
産毛の生えた頸が僕に向けられていて、パーカーの中から鎖骨が覗いている。薄手の服だからか、服の上からでも胸が僅かに膨らんでいるのが分かった。
少し大きめの服なのか、弛んだ服の中から白い素肌が見えている。
いくらそれなりの付き合いとはいえ、さっきまでの行動も含めて地血は無防備すぎる。
地血はぐっすり眠っている。今なら少しくらいそういう事をしても、バレないんじゃ………
つい頭の中に良からぬ考えが浮かんだが、それを即座に振り払う。
何考えてるんだ!一時の感情に任せて関係を壊してしまったらどうする!
こうなったら地血には悪いけど、ちょっと起こさせてもらって………
そう思った時だった。
「んっ………んん………」
地血が僅かに身体を動かした。また寝てる、よな。
すると地血の手が僕の手弱く掴んだ。いきなり感じた温かく柔らかい感触に、心臓が跳ね上がり振り払った考えが戻ってくる。
ダメだ………こんな事、絶対怒られるに決まってるのに………
「んっ………せんぱぃ…………」
おそらく寝ぼけているのだろう。寝ながらでも何で僕の名前が出てくるんだか。
それでも地血の甘えるように呟いたその一言は、僕の最後の理性を削ぎ取った。
僕は地血を起こさない程度にギュッと抱きしめた。湧き上がる興奮が止められない。
「地血………」
僕が間近で呟いても地血は起きない。無防備に僕に身体を預けて寝ている。
「敵の前で無防備だったんだ………襲われても、文句ないよな」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
評価、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。