春休みのある日、部屋のインターホンが鳴り僕は玄関に向かった。
「はーい」
「どうも、宅急便です」
は?何か頼んだ覚えはないんだが。
とりあえず受け取ると、それは叔母さんからだった。何だこのやけに大きめの荷物は?
テーブルの上に荷物を置くと開封する。
中身は食品だった。レトルトとかお菓子とか色々入ってる。
一緒に入っていた手紙によると、親戚やら近所の人から貰うことが重なり、家族では食べ切れないから送る、とのことだ。
追記で『余ったら友達にもあげな』と書いてあるが、こんなのあげる友達はいないっての。まぁ買い物行く前に来たのはありがたいが。
めんどくさいので全部しまうと、僕はゴロゴロするべくベッドに戻っていった。
それから数時間後、僕は欲しい本があるのを思い出して街の中をとぼとぼと歩いていた。本屋でとっとと買い物を済ませて家へ帰る。
その帰り道で公園を横切ろうとした時、そこにいる人影を見て僕は思わず足を止めた。
「あ、
僕の学校の後輩でありゲーム仲間(他に表し方が思いつかない)の地血が、公園のベンチ座っていた。
春休みに入って会う機会も無くなり、顔を見るのは久しぶりだった。
花が咲き誇る桜の木の隣に座り、緑のパーカーに赤い薄手の上着、ジーパンという姿でヘッドフォンをつけて何やら俯いている。
特に話しかけるような仲ではないが、少し気になったので近づいてみる。
ヘッドフォンをつけてる時点で何となく分かってはいたが、予想通りだった。どうやらゲーム中のようだ。『Bullet Of Dead』やってるのかな。
「ッ………くっ………」
桜の花びらが自分に降るのも、近づいてくる僕に気がつく様子もない。
彼女の鋭い目はスマホに向いていて、余程集中しているみたいだな。
近くまで寄ると、僕はその様子をジッと見ていた。
久しぶりに会うとはいえ、地血とは毎日のようにゲームをしていたというのに、その姿はとても新鮮に感じた。
まぁそれもそうか。いつもは背中合わせでゲームをしてるし、こうやって目を見るのも会っているうちの数分程度だ。
いつもの気怠そうな雰囲気ではなく、据わった目でスマホを見つめて、少しだけ揺れる身体に合わせてポニーテールが軽く揺れる。
真剣にゲームに打ち込む彼女の姿はとてもカッコ良く見えた。
「ッ………ふぅ」
やがて無事に勝てたのか、大きく息を吐いた地血がヘッドフォンを外してベンチにもたれる。
そして軽く首を回していると、近くにいた僕と目があった。
「ッ⁉︎先輩、こんな所で何してるんですか?」
「買い物帰りだよ。そしたら地血を見かけたから、ちょっとだけ見てた」
「そう、ですか………」
普段こうやって面向かって話すことが無いからだろう。お互いに会話が弾まない。
「………見せ物じゃないんですから、ジロジロ見ないでください」
それだけ言って僕に鋭い目を向けると、黙ってスマホに向き直した。
なんだかなぁ、この前ウチに来てから、僕に対する当たりが強くなってる気がする。
やっぱりあの時に襲った事まだ怒ってるのかな。
そんな事を考えていると、ベンチから立ち上がった。何となく声をかけていた。
「どこ行くの?」
「先輩に言う必要ありますか?関係ないでしょう」
冷淡に返した地血は、公園を出て行こうとした。相変わらずクールだねぇ。
その時僕のスマホが震えた。誰かからの電話かと思えば叔母さんからだ。どうしたんだ?
「もしもし叔母さん?どうかしましたか?」
『最近そっちに色々食べ物送ったはずなんだけどさ、もう届きたかなぁと思って』
「あぁ、ちょうど今朝来ましたよ。随分と送ってくれたようで」
『だってウチには多いもの。
僕も同じだよ。というかそっちで知り合いとかにあげろよ。
『それに元々あなたに送るためのものもあるのよ。結構いいところのチョコとかも入ってたでしょ?叔父さんが出張で買ってきてくれたのよ』
「いいところのチョコ?そんなのありましたか?………まぁ、分かりました。ありがたくいただきますよ」
僕は電話を切ると小さくため息をついた。よく中身確認してなかったからな。とりあえず帰って色々確認するか。
そう思って帰ろうとすると、公園を出て行ったはずの地血が側まで来ていることに気がついた。
何かに引っ張られるように近づいてくる。
「うわっ⁉︎どうしたの地血?」
「あ、いえ、その………どうかしたのか、と」
ハッとした地血がわたわたして答える。なんだ、さっきまでいつもみたいに冷淡だったのに。
「あぁ、実は今朝実家から色々送られてきてさ。お菓子とか色々入ってたんだけど、それが届いたかって話」
すると地血の耳がピクッと動いた。
あぁ、そういうことか。
今になって思い出したが、地血は甘いもの好きだからな。電話の中でチョコって言ったのに無意識に引っ張られたか。
いつもは冷たく無気力そうなのに、好きなことには夢中になる地血に、僕は思わず頰が緩んだ。
どうせなら彼女にあげてしまうか?叔母さんの言うあれをあげられる友達、強いて言うなら彼女だろう。
「地血、よかったらそのお菓子持っていく?」
僕が提案すると、地血は僕から目を逸らして少し考えて
「………どんなものがあるんですか?」
「お邪魔します」
というわけで、ほとんど流れで地血が再びウチに来た。色々と、これでいいのだろうか。
「その辺座りなよ。コーヒーかお茶、どっちがいい?」
「え?あぁ、大丈夫ですよ。水筒持ってるので、お構いなく」
地血はバッグの中から水筒を見せた。
「その水筒前も持ってたよね。いつも持ち歩いてるの?」
「まぁ、そうですね。手軽に水分が摂れるので」
なるほどねぇ。
僕は送られた段ボールに届いたお菓子を投げ込むと、地血の前に置いた。
「よいしょ、っと。色々あるけど、どれがいい?」
「け、結構送られたんですね」
その量に若干戸惑いながらも、地血はお菓子を物色していった。
「まったくね。ちょっとは量は考えて欲しかった」
「送ってくれるだけいいじゃないですか、っと、これですか?電話で言ってたの」
地血はその中で一際目立つ箱に目をつけた。やけに洒落た絵柄でツラツラと英語が書かれている。
「うわぁ、これ東京にしかないお店のもので、すごい有名なんですよ。開けていいですか?」
「ん、どうぞ。というか、物が物だしここで食べてくか?」
箱を開けると、一つ一つ違うデコレーションを施されたオシャレなチョコがいくつか入っていた。
「いいんですか?それでは、いただきます」
地血は手を合わせると、チョコに手を伸ばした。僕も自分の分のココアを用意して、チョコを食べ始める。
「ほぉ、美味しいな」
「ん………ですね」
口調はいつもと変わらないが、柔らかい表情から嬉しいのがよくわかる。
小さな口でモグモグ食べながら、身体も少しゆらゆらとさせている。こうやって見ると結構分かりやすいな。
それから僕達は特に何か話すことはなく、黙ってチョコを食べていた。
チラッと隣を見ると、地血は僕と目を合わせず黙っている。
それもそうだろう。地血とは学校で毎日会ってはいるが、基本的にはただゲームをやるだけの仲だ。
ゲームする前後以外で軽く挨拶する程度で、それ以外で話すことはほとんど無い。
何を話せばいいかも分からず少し気まずい。
「あ、あのさ、地血………」
「ん?………何ですか?」
「いや、その………そういえば、何で公園でゲームしてたの?外でやるより、家でやった方が落ち着かないか?」
気まずい雰囲気を消そうと、さっきから気になっていた事を聞いてみた。
地血はチョコを摘むと顔を俯かせた。
「………あの公園の桜、好きなんですよ」
「そっか。たしかに、綺麗だよね」
僕はさっきの公園の桜を思い出した。その下で座っていた地血も。結構いい画だったなぁ。
「それに……… 私にとっては、家より外の方が落ち着くんです」
「そう、なのか?」
僕が聞き返すと、地血は黙ってチョコを摘む。チョコ、気に入ってくれたのかな?
「家は家。私なんかが、迎えられるような
場所じゃないんです」
地血にしては珍しく弱々しい声音で、僕は彼女の顔を覗き込んだ。
すると地血もこちらを振り向いた。僕の服の裾を指先で摘むと、少しだけ前屈みになり距離が縮まる。
「先輩は………私から、離れたり、しませんよね?」
「あ、地血?」
これまで自分から触れてくるなんてまず無かった地血が、僕に身を寄せてくる。
裾を摘む手が進んで僕の手と重なった。熱く柔らかい手の感触に胸が高鳴る。
「ちょ、地血どうしたの?何か変だよ?」
違和感を覚えた僕は、そこでようやく地血の様子がおかしなことに気がついた。
いつもは白い顔がさっき公園で見た桜の色のようにほんのり色づき、目はいつもの鋭さがなりを顰めて潤んでいる。
「私、嫌ですよ。先輩まで、離れたら………」
僕の手を握る地血の手に力が篭った。弱い力だが、その存在ははっきりと伝わってくる。
おい、これってまさか………
僕は辺りを見渡してチョコに同封されている紙を拾った。そこにはこの箱に入っていたチョコの説明が一つ一つ書かれていた。
包み紙から地血がどれを食べたのかはすぐに分かった。
地血の食べたチョコの全部にお酒が入っていたみたいだ。間違いない、地血酔っ払ってるな。
僕もお酒の入ってるものを食べたが何ともない。量も量だが、そもそも地血はお酒に弱いようだ。
「地血、一旦落ち着いてって!君チョコで酔っ払ってるんだよ。ほら、離れて水筒飲みなって!」
「嫌れしゅ………!」
僕から離れるどころか、地血は僕に抱きついてきた。
慌てて受け止めると、若干呂律の回らなくなった地血は顔を上げてとろんとした目で僕を見つめる。
「なん、れ………離れちゃうんですか、先輩………」
本当なら引き剥がしてでも介抱するべきなんだろう。しかし悲しげに呟く地血を引き剥がすことは出来なかった。
地血が僕の背中に腕を回した。彼女の温もりが僕の心音を速める。
どうするべきか分からずに戸惑っていると、地血の手が僕の服の中に潜り込んできた。背筋がゾクゾクッと震える。
「ッ⁉︎地血、何して………ッ!」
「こうしゅれば………より近くに、先輩を感じられましゅからぁ………先輩もぉ、なでなでしてくらさいよぉ」
僕の腕を掴み、地血は自分の服の中に導いた。地血の素肌に触れて、温かくすべすべとした感触が手のひらに伝わる。
さらに自分の服の中から僕の手を抜くと、その手に唇を触れさせた。そこからさらに指を咥えた。
「れろっ、んっ、ちゅるっ、ちゅぱっ、んっ、ふぁ………」
僕の指を舐める地血の視線に熱が篭り、それがこれ以上止まらないことを示していた。
「地血、酔いすぎだよ………ッ!こんなの………」
「んちゅっ………そんなこと言ってぇ、せんぱいもぉ、こんなにドキドキしてるじゃないれしゅかぁ」
本格的に酔いが回ってきた地血が、僕の胸板に耳を当てて心音を確かめると頬擦りした。
いつもは冷淡な地血が猫のように甘えてくる事実に、頬擦りは戸惑いと同時に興奮を隠せない。
僕に身を預けた地血が、耳元で吐息混じりの声で囁く。
「せんぱぁい………私のこと離さないれ………可愛がってくらひゃいね」
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