カーテンの隙間から眩しい朝日が目に入り込んできた。
ぼんやりとした意識が、少しずつはっきりとしてくる。いつもと変わらない目覚めだった。
目を開けて最初に飛び込んできた本棚を数秒眺めると、僕は体を起こそうとする。
しかしその途端、体に物凄い倦怠感が襲ってきた。体が重いというか、全身に力が入らない。
何だこれ………すごい怠い………
さらにベッドに触れているはずの肌の感触が少し違うことに気がついた。なんだかスースーする。
目だけを動かして自分の体を見下ろした。
「ッ⁉︎」
僕は自分の姿を見て、絶句してしまう。
それもそうだ。今の自分は何も身につけていなかったのだから。パジャマはおろか、下着も身につけていない。
一体どうなってるんだ⁉︎
状況が分からずに僕は辺りを見渡した。
そして自分の右隣を見た瞬間に、混乱で高鳴っていた心臓が一瞬明らかに凍りついた。
そこには見たことのない女性が気持ちよさそうに寝ていたのだ。僕と同い年か少しだけ年上っぽい美少女だ。
しかもその子も何も身につけておらず、かけられた布団から眩しい白い肌が覗いている。
横向きで寝ているから豊満な胸が寄せられて、深い谷間を作っている。
「な、なぁッ⁉︎これは………‼︎」
頭の中が混乱して今にも倒れそうだったが、その美少女をよく見てみると不思議なことに気がついた。
その少女の頭に角が生えていて、背中には翼が生えている。コスプレとかじゃない、本当に生えているのだ。
それを見た瞬間、頭の中に何かの記憶がチラついた。
僕はこの子のことを、知ってる………そうだ‼︎
しばらくして僕は全て思い出した。昨日の夜の記憶だ。
この子、サキュバスのミリーが昨夜僕の精気を食べようと襲ってきた。それから僕、倒れるまでこの子のことを………
するとミリーの目がピクッと動いた。目が開かれて僕を捉える。
「ん〜………あ、おはよう」
ミリーは僕を見ると柔らかく微笑んだ。その美しい笑顔に、僕の心臓が跳ね上がる。
思わず顔が緩みそうになるが、慌てて理性を取り戻す。
いくら可愛くてもこの子は悪魔だ。しかも僕を襲いに来たサキュバスなんだ‼︎
僕は怠い体をなんとか動かして彼女から距離を取った。
「な、何でここにいるんだよ‼︎」
「ん?やだなぁ、そんなに警戒しないでよ。昨日はあんなに激しく抱いてくれたのに」
ミリーはイタズラっぽく笑うと僕に近寄って来た。
一糸纏わぬミリーの姿に目を逸らすが、それを楽しむようにミリーが身体を押し付けてくる。
「あんなに熱い夜過ごしたの、久しぶりだったな。すっごい気持ちよかったよ♡」
そう囁くとミリーは僕の唇を奪った。すると怠かった体に元気が戻る。
「んちゅっ♡………これでよし。体元気になったでしょ?昨日シすぎて倒れちゃったしね」
柔らかい唇の感触に僕は顔が熱くなる。しかし確実に覚えている感触に、昨日のことが夢でないことも明らかになった。
「き、君は………サキュバス、なんだよね?」
「そうだよ。昨日言わなかったっけ?」
一応人の家に入ってきて襲ったミリーは、特に悪びれることなくケロッとしている。
「そうだけど。君は僕の精気を食べに来たんだよね………なんでまだいるの?まさかまた襲うつもりじゃ………」
「だ〜か〜ら〜!そんなに警戒しないでってば。そりゃ、いつもはこんなことしないよ」
「だったら早く出て行ってよ。今なら警察には通報しないから」
「警察って………私ここ出て行くつもりないよ。というか出来ないし」
「は?………どういうこと?」
僕が尋ねると、ミリーは自分の身体を隠していた布団を捲った。下半身までが露わになり、僕は咄嗟に目を伏せた。
「ちょっといつまで恥ずかしがってるの。ほら見て」
ミリーに言われてそっと目を開けると、彼女の裸体が目に飛び込んできた。目に毒では言い切れないほどに美しい。
その中で一つだけ気になることがあった。お腹の辺りに変な刺青のようなものがあるのだ。
まるでミリーの子宮を示しているような模様だ。昨日は無かった気がするけど。
「そ、それは………」
「契約の紋章。私達悪魔が人と契約すると浮かんでくるの。ご主人様に攻撃出来ないし、一定以上離れられなくなるんだよ」
あまりにも非現実的な内容の話に本当に倒れそうになる。しかし不穏な言葉が僕を現実に引き戻す。
「け、契約?………それってもしかして、僕と?」
「他に誰がいるのよ。私昨日の夜から君としか会ってないし」
まぁたしかに考えれば分かることなんだが、そんなことは今はどうでもいい。
「いやいや!そんな契約とか勝手にされても困るんだけど⁉︎」
悪魔と契約とか不穏すぎるだろ。正直少しカッコいいとは思うが、それでも危ない匂いしかしない。
「そんなこと言っても知らないよ。それに、そもそも契約の儀式をしたのは君なんだけど」
「え?僕何かした?」
昨日一晩中彼女に襲われて搾り取られた記憶しかない。そりゃ途中から少し乗ってしまったところはあったけど、それだって彼女が誘ってきたことだ。
「忘れたの?今さっきもしたでしょ?」
そう言ってミリーは自分の赤い唇を指差した。
「ま、まさか………」
「そう。悪魔との契約方法って色々あるけど、私達サキュバスの場合だとキスなんだよね。さ〜て、昨日一番最初にキスしてきたのは誰だったかな?」
「ぼ、僕、です………ね」
ジーッと見つめてくるミリーに耐えきれず、僕は目を逸らした。興奮のあまりしてしまった記憶がある。
「そういうこと。だから私キスしないで唾液あげてたのに。君がしちゃったから、私達契約したことになっちゃったの」
うわぁ、完全に自業自得だ。
「そ、それなら、その契約とやらを解除して………」
「別にいいけど…………その代償、君の命になるんだけど」
「マ、マジで………?」
「数時間とはいえ、悪魔を自分のものにして縛りつけたわけだからね。私の意思関係なく、それくらいはするよ」
そう言われるとたしかにな………というか、こういうのをちゃんと言ってくれる辺り、やっぱり悪い子じゃなさそうだ。
「それじゃあ………ウチに、住む?」
「おっ!思ったよりも納得が早いね。もうちょっとゴネるかと」
「君は何も悪くない………とも言えないけど、契約しちゃったのは僕だからね。その責任は負うよ」
本能に任せて軽率な行動をしてしまったのは僕だ。ちゃんと責任は持たないと。
「まぁ君との身体の相性めちゃくちゃ良かったから、私としても嬉しいんだけどね。それじゃあよろしく、マスター」
マスターって………まぁいいか。
「それじゃあ、早速………」
ミリーはニヤッと笑うと、僕に抱きついてきた。僕は後ろに押し倒されて、ミリーが僕の上に跨る。彼女の大きな胸が揺れた。
「朝ご飯、いただきまぁす♡」
ミリーが僕のモノに手を伸ばした。僕は慌ててそれを止める。
「ちょ、ちょっと待った!今からすると学校に間に合わなくなる!」
「? ガッコウ………?」
「え?知らないの?」
「私この世界来たばっかりだから」
そうなのか。今更すぎるけど何かこういう悪魔がいるような異世界があるんだね。ちょっと心が躍りそうだ。
「と、とにかく朝は無し。ただでさえ起きるの遅かったし」
昨日シたのが原因だろう。急いで準備しないと間に合わない。僕はタンスから服を取り出して着た。
「え〜、私の朝ご飯………」
「悪魔なら少しくらい食べなくても大丈夫でしょ?というか睡眠も必要無いよね?起こしてくれれば良かったのに………」
「来たばっかりの悪魔に無茶言うなぁ。まぁ久しぶりに寝たら少しだけスッキリしたよ」
ミリーはベッドから出ると床に落ちている細い布切れのような下着を身につけた。つい見てしまいそうになるのをグッと堪える。
「それで、今からその『ガッコウ』とやらに行くの?」
「うん………って、何か着なよ!」
思わず振り向いたが、下着姿のままだったので慌てて視線を逸らす。
「え?ほら、着てるよ?」
「下着だけな!上に何か着なよってこと!」
「そんなの持ってないよ。それがサキュバスの服だもん」
「あぁもう!それじゃあこれ着て!」
僕は適当にタンスからパーカーとジーパンを引っ張り出すと、後ろを向いたままミリーに放った。
「何これ、ゴワゴワしそう………私別にこのままで構わないよ?」
「僕が構うの!」
精神衛生的に問題がありすぎる。
「んっ、うえぇ………やっぱりゴワゴワするぅ………んっしょ、っと………これでいい?」
僕はそっと後ろを向いた。そこには服を着たミリーがいた。慣れないのか少し苦しそうだ。
体格は僕の方がしっかりしてると思うんだけど、ミリーの身体が服を押し上げている。主に胸が………いや、さっきよかマシだ。
「適当にご飯作るけど、ミリーは何か食べる?」
「人間の食べ物を?う〜ん………今はやめとく。私が食べられるか分からないし」
ということだったので、僕は自分の手早く作るとさっさと食べた。
「さてと、それじゃあ学校に………って、ミリー何してるの?」
「マスターの部屋には本がたくさんあるんだね。全部物語か?」
「ちょいちょいちょい!勝手に触らないで!いいから大人しくしててよ?」
僕は制服に着替えると、荷物を持って家を出…………
「って、なんでついて来るの?」
後ろを振り返ると、当たり前のような顔をしてミリーが後ろにいた。
「私もそのガッコウに行くからだけど?」
「は?何言ってんの。学校ってのは入れる人間が決まってるの。関係者でも無いミリーは入れないよ。お留守番」
「え〜!そうなの⁉︎でも、私マスターから一定以上は離れられないんだけど」
あぁ………そういやそんな事も言ってたな。どうしたもんか。
「それなら………何か上手く姿を消す方法とか無い?こっそり僕の近くにいれば大丈夫だから」
「姿を消す、ね…………あ!それなら契約したんだし、これでいいかも!」
そう言うとミリーが僕に向かって抱きついてきた。慌てて受け止めようとするが、ミリーの身体がモヤのように薄れて僕の中に入る。
そして僕の肩のあたりにミニサイズのミリーが現れた。何だこれ?幽霊みたい。
〈これならマスターにしか見えないし、バレる心配も無いよ。というわけで、ガッコウに行こう‼︎〉
「…………はぁ、時間無いし急ぐよ」
この異常すぎる状況に改めてため息を吐くと、僕は自転車に乗った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
評価、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。