〈あれは?〉
「電柱」
〈あれは?〉
「駅」
〈あれは?〉
「電車」
色々あって契約してしまったサキュバス、ミリーを連れて僕は学校へと向かった。
そんでもってミリーはよっぽどこの世界が珍しいのか、さっきから質問が止まらない。
細長い尻尾を振って聞いてくる質問を僕が答えていた。
周りからは見えないからいいけど、それはそれで気を遣う。ハタから見たら何も無い所に話しかけてるわけだし。
「ってミリー、あんまり離れたらマズいんでしょ?まったく、本当にこの世界の事何も知らないんだね」
〈だってこの世界来たばっかりだもん。すご〜い!こんな速い乗り物初めて!人もいっぱい!〉
ミリーは楽しそうに辺りを眺めている。彼女の純粋な笑顔に朝まであった警戒心が多少和らいでいる。
「そういえばミリー。さっきから気になってたんだけど、これ何?」
僕はつけている腕時計をズラして、手首をミリーに見せた。そこにはミリーの腹にできたものと同じ、刺青のようなものがある。
〈あぁ、それは私と契約した証。それで悪魔をコントロール出来るんだよ。周りの人には見えないから、無理して隠さなくてもいいよ〉
「お、それならミリーをずっとその状態にすることも出来るの?」
〈というか、これが悪魔の基本状態だから。実体化するのは特別な時だけ〉
へぇ、一方的に人間が迷惑被るだけかと思ったけど、ちゃんと操れるのか。
「というか、僕の知ってるサキュバスって夢の中で精気を奪う淫魔だよね?昨日のって夢じゃないような気がしたんだけど」
〈そりゃ出来るけど、夢に入るって結構大変なの。何事も楽な方がいいじゃん〉
そんな理由かよ。たしかに楽な方がいいけど。
ミリーは再び電車の外に食いついている。
〈すごいなぁ………人間って色んなもの作るんだね。賢いなぁ〉
「意外だね。悪魔からしたら人間なんて小さな存在でしょ?てっきり見下してるものかと」
〈う〜ん、私はそんな事ないかな。たしかに馬鹿だなぁって思うこともあるけど、こうやってすごい面もあるし。そこは見習うべきでしょ?〉
「まぁ、そうだね」
思ったよりもまともな事を言われて、僕は内心感心していた。
それに〈私は〉って事は、やっぱり基本的には悪魔は人間を見下してるのかな。そんな中でこの発想が出るとは。
〈けどさぁ、もったいないよね。こんなにすごい物を作れるのに、人間って自分の欲望を自分から抑えるじゃん?法律、だっけ?自由になればいいのに〉
「あぁ、まぁそうとも見れるか………」
たしかに、人間は色んなものを作るけど、それと同じくらいそれを使って満たせる欲望を抑える。
きっと悪魔からしたら、使えるものは何でも使って欲望を満たす物なのだろう。
「けど、いいものを作るのは一人じゃ無理なの。みんなで協力する必要がある、それには秩序が必要、手っ取り早く秩序を生み出すにはある程度拘束力がいるの」
〈そういうもの、なのか………無限の欲望が進歩への道に繋がるんじゃないの?〉
「いかにも悪魔って感じだね。悪魔ってみんなそうなの?」
〈そうだね。これはダメなの?〉
「個人的に言えば全く同意。けど、今の時代の人々はその進歩の道をあらかじめ決めて、その脱線を嫌がるからね。外れた先の進歩は社会的には悪なんだよ」
〈ふ〜ん、人間というのは複雑だねぇ〉
そりゃ昨夜襲った人間と肩並べて歩いてられるミリーには、さぞ複雑なんだろうな。
「あのさ、ミリーって今まで僕以外人を襲った事あるの?」
〈そりゃもちろん。だってそうしないと生きていけないし。まぁ娯楽として必要以上に人を襲う悪魔もいるけど〉
「僕の知ってる悪魔って色んな種類、能力がある。きっと今ミリーが言った発想があるからこそ、そういう進歩をしたんだよ」
〈そうかぁ………難しい〉
「まぁ、人家には人間の、悪魔には悪魔の進歩があるって事。良し悪しの価値観もね。電車降りるよ」
〈は〜い!〉
僕はミリーを連れて電車を降りると、そのまま学校へと向かった。
「ほら、学校着いたよ」
〈おぉ!大きい!電車にいても思ったけど、この世界はお城が多いよね〉
「お城、ねぇ………たしかにね」
子供みたいな感想を叫ぶミリーに思わず苦笑してしまった。校舎に入って靴を履き替える。
〈部屋がたくさんあるね。マスターはどこに行くの?〉
「四階の教室。こっちだよ」
途中でミリーに軽く学校の紹介をしながら、階段を登って四階へと歩いて行った。
教室に入ると誰に挨拶をするでもなく自分の席に座る。
〈ここも人が多いね。みんなマスターと同じガクセイなの?〉
「そうだよ。あと、ここだとさすがに目立つからあんまり話しかけないように」
〈え〜、つまらない〜!何か出来ないかなぁ?〉
「変なことしないでよ?というか、今更だけどこの状況って大丈夫なんだよね?僕意識乗っ取られたりとかしない?」
〈それが出来たらとっくにやって好き勝手やってるよ。言ったでしょ?契約したマスターには一部魔法が使えないの。というわけで精液欲しいなぁ〉
可愛らしい声で求めてくるミリーに少しだけクラッときたが、何とか耐える。
「だ、ダメ。学校はそういう場所じゃないから。っと、先生が来たな。静かにしててよ」
それからいつも通りの授業が始まった。
今は四時間目、そろそろお昼休みだ。温かくなってきたからか寝てる人もいる。
そう、何でもない日常だ…………周りのみんなには、ね。
〈ねぇマスター!まだ終わらないの?私お腹減ったよぉ!いっぱい気持ちよくしてあげるから精液ちょうだい!〉
「ミリー………頼むから静かにしててってば………」
どんなに周りのものが面白くても、学校の授業はミリーにはお気に召さなかったらしい。
さっきからうるさいったらありゃしない。
〈大体このジュギョウって、何のためにやるの?〉
「まぁ将来のため、かな。仕事とか」
〈マスターは将来、古典と体育と化学を使った仕事に就きたいの?どんな仕事?〉
「そういう問題じゃなくてな………」
たしかに全部使うわけじゃないけどさ。一応学生としては学んどかないとね。
「ねぇ、お願い………シようよ………」
ミリーに甘い声で耳元に囁かれて、僕は思わず身体を震わせた。
それを最大限の理性で何とか振り切ると、僕は大きなため息をついた。
「というか、そんなに欲しいなら僕以外の人から搾り取れば?別に止めないよ?」
〈マスターとくっついてるこの状態だと出来ないから、そのためには実体化しないといけないの!〉
「それじゃあダメだな」
悪いけどここで実体化はさせられない。絶対バレるし好き勝手やられても困る。
〈む〜!ケチ!意地悪!悪魔!〉
「悪魔はそっちでしょ。とにかく今日は無理。昨日の疲れだって残ってるんだからね。昨日あれだけ襲っといてまだ足りないの?」
いくらミリーとのキスで回復できるとはいえ、それでも感覚的な疲労は避けられない。
というかそろそろ静かにしてくれ。授業に集中出来ない。
「う〜ん、おかしいなぁ。マスターくらいの歳の人間って年中発情してるから、誘ったらすぐにたくさんできると思ったのに〜」
「んな単純なわけないでしょ!」
僕は思わず叫んでしまい、周りの目が僕に向く。
しまった!周りの人達はミリーが見えてないからな。僕が一人で叫んでいるように見えてしまう。
「えっと………大丈夫?」
「あ、大丈夫です………すみません」
心配そうに声をかける先生に軽く頭を下げて謝ると、僕はミリーをキッと睨む。ミリーはクスクス笑っていた。コイツ………!
それからしばらくして授業が終わった。
〈ん?マスター、いきなり教室にいる人数が減ったけど、みんなどこ行ったの?〉
「あぁ、学食だよ。学生や先生がお昼ごはん食べる所」
〈何それ気になる!マスターはいかないの?〉
「行く時に買ったものがあるしね。行く必要はない」
「えぇ、行こうよ〜」
よっぽど授業が暇だったんだろう。少しでも外の空気を吸いたいのかな。まぁ行くくらいならいいか。
「いいよ。ついでにミリーでも食べれそうなもの探すか」
「悪魔の食べれる物、あるといいけどなぁ」
そんなわけで僕達は学生へと向かった。
それにしても、家族以外とこんな風に異性と歩くのなんて初めてだな。もっと言えば、こんなに長い間誰かと話すのもえらく久しぶりだ。
「おぉ⁉︎」
そんな事を考えていると、ミリーがいきなり叫んで止まった。僕も思わずビクッとする。
周りの人の目が気になって仕方ないので、こっそり隠れて声をかける。
「な、何?どうかしたの?」
「ご飯だ!いい匂いする!」
「は?そりゃ学食の近くだもん」
「違うよ!さっきそこの階段の影に男女のペアがいなくなったんだけど、そこから精液の匂いがするの!これはもしかしたら私と同じサキュバスが学校に潜んで………」
「あぁ、ちょ、ストップストップ!」
意気揚々と向かおうとするミリーを慌てて止める。大体どういう状況かは察した。
「えっと、たぶんそれサキュバスじゃないよ。普通に人間の学生」
まぁ付き合ってる学生なら学校でそういうこともするのだろう。このままだと見ちゃいけないもの見そうだ。
というかコイツこういうことには疎いのかな?
僕はミリーに分かるように、かと言って直接的に話すのも気が引けるので少し回りくどく説明した。
「なるほどねぇ。やはりマスターの時期の人間は発情しやすい、という事なのかな」
否定しにくいことはっきりと言うなぁ。
「でもそれなら関係無いと思うよ?マスターの言う学生って、その服を着てる人の事だよね?」
「そうだよ。心身共に色々と難しい時期なの」
「けど消えていった男の方はその服を着てなかったよ?マスターが朝案内してくれた『ショクインシツ』とかいう所にいた人だったし。となると………やっぱりサキュバスの主人!」
「あぁ!ダメダメダメ!もっと行っちゃいかん!」
余計に行かせるわけにはいかなくなった。知りたくも無いこと知ることになる。
それにしても学校でなんてことしてんだよ!というか誰だ学生に手出した先生は!
若干疲れた体のまま、僕達は学食に入っていった。購買も見ながら良さそうな物を物色する。
結局ピンとくるものが無くて教室に戻った。
〈いやぁ、人は色んな物を食べるんだね〉
「たしかに、見てて面白いよね」
「個人的に一番面白いのは、『私ダイエット中〜』とか言ってた女子がフルーツヨーグルト買ったところ。隣に無糖あったのに」
「やめてやれやめてやれ。言ってやるな」
そこ触れると色々面倒なことになるんだよ。
「というか、普通にマスターが私に精液与えてくれればいいのに。別に学校でシても問題ないんでしょ?」
「問題はあるから。とにかくダメ!」
「えぇ〜!ケ〜チ〜!私の何が不満なの⁉︎」
「時と場所。人に見つかったらどうするの」
人にバレないように話しながら、僕は読書をしていた。お昼だからか教室の中には寝ている人もいる。僕も寝ようかな。
「むぅ………分かった」
お、思ったよりもあっさりと引き下がってくれたな。
そんなこんなで午後の授業だ。それにしても眠いなぁ。
午前中はミリーがうるさかったけど、今は静かだからな。それもあるんだろう。
そんな事を考えていると、意識がボーッとしてきた。ダメだ、眠い。ちょっと仮眠でも取るかな。
そう思うと同時に、僕は夢の中に旅立った。
僕が目を開けると、そこは見た事のある場所だった。特に僕の周りのカーテンレールが。
………そうだ、保健室だ。ここは保健室のベッドの上だ。
でも、何でここに?僕はさっきまで授業を受けていたはず。それで運ばれるわけないし。
「あ!目が覚めたんだね」
するとカーテンの向こうから声がして、カーテンが捲られる。
そこにいたのはミリーだった。タイトスカートにワイシャツ着て、上には白衣を着ている。
「なぁッ⁉︎ミリー⁉︎その格好………!」
「ふふっ、どう?似合う?」
正直に言えばめちゃくちゃ似合っている。思わず目を奪われた。
けど、それと同時に今はそれどころじゃない事も分かった。
「まさか、ここって………!」
「もう、サキュバスの前で寝るなんて、無防備なマスターなんだから♡」
ミリーはニヤッと笑うと僕に近づいてきた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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