「ん〜ッ、とりゃっ!」
軽く助走をつけてミリーが海へと飛び込んだ。パシャンッと水飛沫が上がり、彼女の身体が海に沈み込む。
「うわぁ!冷たくて気持ちいい〜!」
水面から顔を上げたミリーが満面の笑みを浮かべている。はしゃいでるねぇ。
微笑ましい光景ではあるが、露出度の高い水着のせいか、どうしても目線が良からぬ方へ向いてしまう。
上がった水飛沫がミリーにかかり、首筋から鎖骨へ。そこへ少しの間溜まると、今度は胸の谷間へと滑り落ちていく。
ミリーが動くたびに水着の布地が揺れて、隠している部分がみえそうになってしまう。
「ん?しょっぱい!マスター!ここの水すごいしょっぱいんだけど!」
「海水ってのはしょっぱいものなの。この水から塩を作る時もあるんだから」
海が身近に無くて関わらないと、こういうことまで知らないのか。
水入っただけであんなに楽しんじゃって。そういえば、初めてお風呂入った時もかなり緊張してる感じだったな。
水の少ない場所で生活してたって話だったし、水に浸かること自体が新鮮なことだったのかもな。
って、あれ?となると………
「ねぇ、ミリーって泳いだことってあるの?」
「え?無いけど」
やっぱりか。そりゃそうだよな、この世界に来るまで水に浸かったことすら無いんだから、泳いだことなんてあるわけない。
悪魔が普通に歩くのはもちろん、飛ぶことは容易に想像できる。ただ泳ぐってのはあんまり想像出来ないからなぁ。
「それ大丈夫か?浮き輪か何か持ってきた方がよくない?」
「ウキワ?よく分からないけど、大丈夫でしょ。私見た目は人間と同じなんだし、人間が出来るなら私にもできるって!」
そう言うなり意気揚々と海の奥へと進んでいった。
さすが悪魔といったところか。凄まじい瞬発力で水の中へと飛び込む。
それはまるで人魚のように優雅で美しい。
思わず僕はその美しさに目を奪われた。
そしてミリーはその瞬発力を利用して一気に先へと進んでいく。
それからしばらくして、こちらに向かって叫びながら元気よく手を振っている。
おや、これは本当に海問題無さそうだな。というか何を叫んでいるんだろう。
ぼんやりと聞こえる声に耳を澄ますと………
「ちょ、マスター!これ、足つかない!うわわっ!なんか、沈んでくんだけど!マスター助け、こぼぼぼぼ………」
………まぁこうなるわな。
身体構造上問題だけクリアすればいいなら、この世にカナヅチは存在しない。
悪魔に溺れ死ぬという概念があるのかどうかは気になるが、このままはさすがにマズい。
僕は周りの様子を見つつ、ミリーが沈んだタイミングで自分の中に戻すと、すぐ隣にまた実体化させた。
一度沈んで姿を消してもらわないと周りに見られてしまうからね。
バレないように物陰の辺りに実体化させると、ぐったりとした様子のミリーが四つん這いになっている。
「こ、怖かったぁ………」
「ほら、大丈夫?あんまりはしゃぎすぎないようにね」
「うぅ、ありがとう………泳ぐのって、結構難しいんだね。よくみんなできるなぁ」
「大体小さな頃から学校で習うから、水に慣れてるの」
よく考えたら、今こうして僕が泳げるのも小さい頃から水泳というものが身近にあるからこそだもんなぁ。
「それでどうする?この辺で遊んでる?」
「ん〜!でも、せっかく海来たなら泳ぎたい!ということでマスター、さっき言ってたその『ウキワ』とかいうのちょうだい」
溺れかけて尚海に入ろうとするか。そのめげない心は素直に感心するなぁ。
まぁいいか。たしか浮き輪ならパラソルとか借りた場所でレンタルできたはずだ。
「了解。それじゃあ借りてくるから、一緒に来る?」
「いや、それまで少しでも泳げるように頑張る!よっしゃ行くぞ〜‼︎」
気合を入れると同時に、ミリーは再び海へと駆け出していった。
おいおい大丈夫か?また溺れたりしないだろうな。
「ミリー、危ないからやめときな」
「大丈夫!いざとなったら飛んで避難するから!」
便利だな、悪魔って。そして本当に素晴らしいチャレンジ精神持ってるなぁ。
ありゃ止めても無駄か。
彼女も言った通り、いざって時は飛ぶこともできるし、周りに人もいる。大丈夫だと思いたい。
ミリーは僕とは一定以上離れられないが、これくらいなら大丈夫なようだ。
まぁ念のため早めに戻ってくるとするか。
僕はやや駆け足で貸し出ししている場所へと向かった。浮き輪を借りてミリーの元へと戻る。
さっさと渡そうと思ったが、ミリーが海からいなくなっている。
おや、この辺で泳いでいたはずなんだけどな。さすがにもう泳ぐのは諦めたか?
そう思ってパラソルの所まで戻るが、ミリーの姿は見当たらない。
まさか、本当に溺れてしまったのか⁉︎
一瞬慌てそうになるが、僕は落ち着いて状況を見る。
周囲の状況はさっきとあまり変わっていない。ミリーが叫ぶなり溺れるなりすれば、さすがに一人くらいは気がつきそうなものだ。
ミリーだって、一度溺れかければさすがに二度目は何かしらの対策がとれるくらいの余裕は持つだろう。となるとさすがに溺れたとは考えにくい。
それならどこかに行ったと考えるのが普通だ。ここから離れたのかな。
さっきみたいに問答無用で僕の中に戻してしまえば一発解決だが、万が一ミリーが人前にいた場合面倒なことになる。アナログに探すしかないだろう。
とりあえずその辺を歩きながら探してみる。とはいえこの数分でミリーが行けそうな場所は限られてくるし、馬鹿正直に全部を探す必要は無いだろう。
人がいそうなところは調べたし、後はあの岩場くらいか。
周りをキョロキョロしながら探していくと、割と近くに人影が見えた。
あ、ミリーだ。あんな所で何してるんだ?
とりあえず近づこうとしたが、ミリーの隣に他にも人影がいるのが見えた。
僕より少し年上でガタイの良さそうなチャラ男人が二人、ミリーと何か話している。
………うーん、あんまりいい予感がしないなぁ。
ちょっとずつ近づいていくと、三人の会話が聞こえてきた。
「だからさぁ、俺らが向こうで泳ぎ方教えてやるって。一緒に行こうよぉ」
「俺らこれでも結構泳ぐの得意なんだぜ?一緒にどうよ?」
「えぇ〜、どうしよっかなぁ」
うわぁ、予想通りだ。思いっきりナンパされてら。
けどまぁそうだよな、水着姿周りの目惹いてたし、そりゃナンパの一つくらいされてもおかしくないか。
分かれる直前に溺れてたから、それに引っ張られすぎてナンパされるという可能性を失念していた。
とにかく助けないとな。
そう思って僕はミリーの元へと駆け寄ろうとするが、ふと立ち止まる。
………これ、助ける必要あるのかな?
ミリーの様子からして、彼女もチャラ男達が何を目的に近づいてきたのかくらいは分かっているだろう。その上で特に嫌がってる様子はない。
そりゃそうだ。ミリーからしたら鴨がネギ背負ってやってきたようなものなのだから。そのままついて行って好きなだけ搾り取ればいい。ミリーがあんな男二人にいいようにやられるとも思えないし。
僕としてもミリーが他所から養分を取ってくるなら、それはそれでありがたいことだ。
そう考えればここで助ける必要はなく、むしろあの二人には生贄になってもらうのが良案とも言える。
並んで話している三人を、僕は遠巻きに見つめていた。
そういえば、こうやってミリーが僕以外の人と話してるのは初めて見るな。
これまでずっと、ミリーは僕としか話してなかったし。それが当たり前だと思っていて、それに安心していた。
どこか新鮮で、複雑な気分だ。ミリーが人間に馴染んでいる証拠だが、それを素直に受け入れられない自分がいる。
特にこれからするであろうことを考えると、妙に落ち着かない。自分の知らないところでミリーが何しようが勝手なはずなのに。
とはいえ、ミリーもまんざらでも無さそうだし、このままにしておいた方がいいだろ。
そう納得して僕はその場を離れようとする。
「うーん、でもごめん。やっぱり私行けないや」
後ろから聞こえた声に、僕は足を止めた。思わず振り返る。
「え?何でだよ?」
「私、大切な人と来てるので、その人置いていくとか出来ないからなぁ」
「誰それ?もしかして彼氏とか?」
「彼氏じゃないよ。こんな私とでも一緒にいてくれる、私の家族。いつも迷惑かけちゃってるし、こんな時まで迷惑かけるわけにはいかないからなぁ」
心の底から嬉しそうな声で話すミリーの言葉を、僕は木陰から黙って聞いていた。
ミリー………そんなこと考えてたんだ。
彼女が僕のことをそんな風に思ってるなんて、これまで聞いたことなかった。
契約してるから、この世界にいたいから、ただ僕の元に身を寄せている。それくらいにしか思っていなかった。
「だから、ごめんね。あの人の所戻らないと。今頃私のこと探してるだろうし」
ミリーの言葉を聞いて、僕の足は自然と前に動いていた。
「えぇ〜、でもさ、俺らもいっぱい一緒にいてやるって」
「そうそう、だから俺らと遊ぼうぜ」
チャラ男達はそれでも尚食い下がって、ミリーを口説き落とそうとしている。
僕はミリーの元へ駆け寄ると、彼女の腕を引いた。
「ミリー、何やってるんだ」
「あ、マスター」
僕に腕を引かれてミリーがこちらを振り返る。特に悪びれてる様子はない。
「知らない人にホイホイついて行こうとするな。戻るよ」
このままここにいることすら面倒だ。僕はさっさとその場を離れようとする。
しかし当然だが、それはチャラ男達によって阻まれてしまった。彼らは僕達の前に立ち塞がる。
「おい、いきなり現れて何なんだよ!お前コイツのツレか?」
ツレって………どちらかというと連れてきたのは僕、いやそれはどうでもいいか。
「僕は彼女の………家族、ですかね」
「ッ⁉︎マスター………」
ミリーが目を見開いて僕を見上げる。
「でしょ?」
「………うん!」
「それじゃあ、失礼しますね」
「あっ、ちょっ………」
僕はミリーの手を握ると、チャラ男達の元を離れていった。チャラ男達はまだ何か言い出そうだったが無視だ。
「ほら、ミリー。浮き輪持ってきたよ」
「おぉ!これがウキワ!これ使えば沈まないんだね⁉︎よ〜し、行こうマスター!」
「はいよ」
元気なヤツだねぇ。
僕はミリーと一緒に海に入った。浮き輪を装着したミリーが海の上をプカプカ浮いている。
「すご〜い!見てマスター!ちゃんと泳げるよ!ねぇねぇ、向こうの岩場まで競争しようよ!」
「いきなりか?大丈夫?」
「何とかなるって。それじゃあよーい、どん!」
そう言うなりミリーは一気に直進した。美しいフォームで泳ぎ、あっという間に僕から距離が離れていく。
「速ッ⁉︎」
まぁそうか。地の運動神経は僕よりミリーの方がいいもんな。沈む問題さえクリア出来れば、そりゃ僕よりも速いに決まってる。
文字通り人間離れした身体能力で、ミリーあっという間に岩場の近くに着いた。
とはいえ………
「はしゃぎすぎると転覆するから気をつけてね」
「テンプク?ぎゃあッ⁉︎浮き輪ひっくり返った!」
言ったそばから転覆しおった。不慣れなのに調子乗って前傾姿勢が過ぎるからそうなるんだ。
僕は泳いで行ってひっくり返ったミリーを元に戻して、浮き輪から抜いてやる。
「まったく………僕から離れられないんだから、はしゃいであんまりフラフラするなよ。さっきだって人について行きそうになってたし」
「ごめんごめん、泳ぎ方教えてくれるって言うから、ついね」
「それだけじゃないでしょ。あの人達から精力奪おうとしてなかったか?」
呆れながら言うが、ミリーは首を傾げた。
「え?………そんなつもり無かったよ?」
「は?そうだったの?」
つい変な声が出てしまった。てっきりそのままついて行って精力奪うつもりとばかり思っていた。
「だってあんな人達から精力奪ったところで大した量吸えないし。全部吸ってもお腹の足しにならないよ」
おっかないこと言うな。二人干からびさせても満足しないのかよ。
「それに、私にはマスターがいるもん。マスター以外の人からの精液なんて欲しくないし」
「契約してるからか?」
「それもあるけど………うん、やっぱり精液はマスターから欲しいな」
「何だそれ?誰でもいいんじゃ………」
僕の言葉を遮るように、ミリーは僕の口に人差し指を当てた。
「私の身体を好きにしていいのはマスターだけ、ってこと」
ミリーが僅かに赤く染まった顔でウインクをする。釣られて僕も顔が熱くなった。
「いくら生きてくためとはいえ、私だって身体を捧げる人くらい選ぶんだから」
「………そうか」
そう言われて悪い気はしない。むしろミリーが多少なりとも特別に思ってくれていることに、嬉しさを感じる。
「それじゃあ、何で声かけられて即断らなかったんだ?目的くらい分かってたでしょ?」
「まぁね。けど求めてくる男を無下にするのはサキュバスの名が廃るってものでしょ」
何だそのよく分からないプライドは。サキュバスにとっては大切なことなのかな。
「とにかく、あんまりホイホイ人にはついて行かないようにね」
「ん〜?私が他の人にとられないように心配してくれてるの?大丈夫だよ。マスター以外の人とエッチすることはないからさ」
「べ、別にそういうこと気にしてるわけじゃないっての」
複雑な心境を当てられて、僕はぶっきらぼうに誤魔化した。それからミリーのことをジッと見つめる。
「なぁミリー。この辺まったく人いないし、元に戻りたかったら戻ってもいいよ」
「えっ⁉︎いいの?」
「ずっとそのままってのも疲れるでしょ?」
「やったぁ!」
言うが早いがミリーの隠していた尻尾や羽、角が現れた。
「う〜ん!やっぱりこっちの方が楽でいいなぁ!」
悪魔の姿へと戻ったミリーは、パシャパシャと音を立てて海へと入っていく。
やっぱりこっちのミリーの方が見慣れているからか美しく感じる。
「綺麗だな………」
その想いはつい口に出てしまった。僕の言葉を聞いてミリーが動きを止める。
「も、もうマスターったら、何言ってるの!」
「あ、いや、何でもないよ………」
ミリーははにかんでこちらを振り返ると、照れ隠しするように僕に手を差し伸べた。
「ほら、マスターもおいで」
「あぁ」
僕はミリーの手を握った。するとミリーは僕の手を思いっきり引っ張った。
「うわっ⁉︎」
僕は前へと傾いて、ミリーを抱きしめる体勢になった。
柔らかい彼女の肌と直で密着して心が高鳴った。潮の香りに混じってミリーのいい香りが漂う。
「っとと、ミリー?ッ⁉︎」
間髪入れずにミリーが僕と唇を重ね合わせた。
「んっ♡………ねぇ、マスター。精液欲しくなっちゃったからさ、ここでシない?」
「え?ここでか?」
たしかにここは人目につくことのない場所だし、問題は無さそうだ。
でも万が一ということもあるし、何より外でそういうことをするのはさすがに抵抗がある。
「ダメだよ。さすがに外なんだし」
「大丈夫。もし見られても魔法で何とかできるから。それに、マスターのココはシたいって言ってるみたいだけど?」
ミリーは僕の下半身へと手を伸ばした。
彼女と触れ合ったことにより僕のモノは大きくなっている。水着の上から自さ撫でられて、背筋が震えた。
僕の胸板にミリーのたわわな胸が押しつけられて、柔らかく潰れている。
「どうしても嫌って言うなら止めるけど、シないの?」
質問で聞いてるものの、答えはきっと分かってるだろう。
身体を密着させて誘惑してくるミリーを引き剥がすことは、僕には出来ない。
「………きょ、今日だけ特別、ね」
僕達は抱き合うと岩陰へと姿を隠した。
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