※この作品はR-18です。

エロゲ的な何か(仮)   作:MC RAT

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第15話

「さてと………ミリー、帰るよ」

『オーケー。ねぇ、帰りにコンビニでお菓子買いたい!』

「ん?まぁいいよ」

 夏の暑さを感じる時間帯も無くなって、制服の下にセーターを着るかどうか考え始める頃。

 学校終わりに図書室で本を返し、僕は下駄箱を出た。

 僕の隣には、ミリーが僕だけに見える精神体でフヨフヨ浮いている。

 悪魔の姿なので目のやり場に困るが、これが一番楽なんだと。

 ほとんど半裸の格好だが、この状態なら寒くもないらしい。精神体ってのも、それはそれで楽そうで羨ましいな。

 

 

『マスター、外に出してよ〜!私ものびのび歩きたい!』

「いいわけないでしょ」

 学校を出ると、人混みの中に紛れながらミリーと共に坂道を下る。

 ミリーは構わず叫ぶが、人が多いので小さな声で話す。

「いつも言ってるでしょ。その格好じゃ目立つし、こんなところで出したら面倒なことになる」

『隠れてやればバレないって。海の時みたいに、格好がダメなら擬態するから』

「そういう問題じゃないの」

 どれだけ服装を変えたところで、そもそもの容姿が目立つのだ。綺麗だし。

 最近だとプライベートで出歩く分には表に出すことが多いが、ここじゃ明らかに浮いて騒ぎになる。

「帰ったら出すから、それまで大人しくしてて」

『えぇ〜!』

 まぁ………僕も表に出せるなら、出してやりたいんだけどさ。

 

 

 電車を降りて、団地の公園のすぐ隣を歩き家に向かう。

 眩しい夕日に目を細めていると、ミリーがまた耳元で叫んだ。

『ねぇねぇマスター!』

「何?外には出さない………」

『違うよ、止まって!』

 珍しく強めの口調のミリーに、僕は足を止めた。

「どうしたの?」

『後ろの人達見て』

「後ろ?」

 言われるがままに振り向くと、そこには男子高校生が四人いた。

 何で高校生と分かったかと言えば、僕と同じ制服を着ているからだ。学年も同じっぽい。

 ガタイがいいからたぶん運動部だろう。この時間は部活をしてるはずなんだが。

 それにこの辺の通学路。この時間に通るのは僕くらいだ。あまり見慣れない人達だし、通学路ここじゃないはず。

 そして何より、見た感じ様子が変だ。

 いや、服装には何も違和感はないが、雰囲気がおかしい。

 並んでいるのに談笑どころか話すこともなく、立ち止まってこちらをジッと見ている。

 とてもじゃないが、下校している雰囲気には見えない。

「何だ?」

『マスター。あの人達、悪魔が取り憑いてる』

「悪魔?」

 いきなり何言い出すんだ。

 何の冗談かと思ったが、ミリーの緑色の目がいつになく真剣だ。

「ほぅ、やはり気がついたか」

 男子生徒の内の一人が前に出た。身に纏う空気が、明らかに子供のものじゃない。

 恐怖で身がすくみそうになるが、一旦深呼吸して落ち着いた。

 相手が悪魔なのは間違いないんだろうが、それはミリーも同じだ。

 まだ敵と決まったわけじゃないし、会話はできるらしい。

「ミリー。取り憑いてるって、僕と同じ状況ってこと?」

『ううん、私のは契約。憑依は相手の意識を無理矢理乗っ取るの。あの男の子達は今眠ってる感じかな』

 人間に対して友好的な確率が少し下がった。

 それでもここで下手に暴れるわけにはいかない。数は向こうの方が多いし、何するか分からないからな。

 腰を落としたまま、ゆっくりと口を開く。

「何か用ですか?」

「貴様に用はない。用があるのは貴様の中のサキュバスだ」

 何か偉そうなんですけど。

 まぁそれはいいとして。どうやらミリーのことも見えてるらしいな。

「彼女に何か?」

「黙って差し出せ」

 めんどくさいな。

 それに初対面のヤツに、渡せと言われて身内を差し出す馬鹿はいない。

「理由は?」

「貴様が知る必要はない」

 ダメだ、話をする気がなさそうだ。

 大体名乗りもしないで何者なんだこの悪魔達。

 

 

「ミリー、知り合い?」

『こんなヤツら知らないよ。何かイヤな感じだし』

 ふよふよ浮きながら顔を顰めて唸っているミリーが、僕だけには見える。

 よかった。その辺の価値観は同じなようで安心した。

 ともかく嫌がってるのは確かだし、渡す必要も無さそうだ。

「すみません、本人が嫌がってるので無理です」

「黙れ、人間風情が」

 一応丁寧に返したつもりだったんだが、それでも高圧的な態度は変わらない。

 あまりにも話が通じず天を仰いでいると、男達の体を纏うようにオーラが浮かび上がった。

 たまにミリーが見せる、悪魔の魔力だ。

『アイツら、インキュバスだ!』

 ミリーの声が響く。

 僕にはただ悪魔だとしか分からないが、ミリーにはどんな悪魔かも分かったらしい。

「インキュバスって………サキュバスの男バージョン、だっけ?」

『全っ然違うよ!あんなプライドだけ一丁前に高いナルシスト野郎なんか!』

 性格なんか知ったことか。淫魔なのは同じだろ。

 関係性はよく分からないが、ミリーに出てきてもらって話し合いしてもらうのは無理っぽいな。

「おい、やるぞ」

 ミリーと話してる内に男の一人が声をかけると、残りの男達が素早く僕達を取り囲んだ。

 纏うオーラも相まって、話し合うって雰囲気じゃない。

「な、何ですか………」

「大人しく差し出せ。命だけは見逃してやる」

 男達の目が妖しく光った。

 その光から伝わる殺意で、背中に寒気が走った。口の中の水分が一気に引く。

 かつてミリーに襲われた時とは違う。慈悲を一切感じさせない、狂気ともとれる殺意。

 どうする………?

 

 

『ねぇマスター、私を出してよ!』

 緊張感で硬直している頭に、ミリーの声が響く。

 場違いに明るい声のおかげで、少し硬直が解けた。とはいえ少しは空気を読んで欲しい。

「こんな時に何?話し合いしてくれるの?」

『ブッ飛ばすに決まってるでしょ!私も悪魔なの忘れてない?こんなヤツらパパッとやっつけちゃうって!』

 そうか。僕が無理でも、同じ悪魔のミリーならある程度太刀打ち出来るのか。

 それに本来契約ってのはこういう事だ。

 普段力を与えている分、こんな時こそ悪魔としての力を振るってもらうべきだろう。

 それなら………

『ほら、早く早く!』

 ミリーはジャブを打っていてやる気は充分だ。万が一人に見られても、後で魔法でどうにか出来る。

 これが一番ベストなやり方だ。

 けど………

 

 

「………いや、逃げるよ」

 そう言うと、足元の砂を掴んだ。

 一瞬で風向きを理解すると、その風の先にいたインキュバスの目に向かって砂を投げつけた。

「ぐっ⁉︎」

 こういう時に人の体乗っ取っていてくれて助かった。今のミリーみたいに精神体だったら無理だったし。

 怯んだ隙にその悪魔の隣を駆け抜けて逃げ出した。すぐ隣の曲がり角を曲がる。

「貴様ァ、待て!」

 背後から怒号が聞こえてくる。

 それでも止まることなく、入り組んだ道路をひたすら走り続けた。

『ちょっと、何してるの⁉︎早く出してって!』

「数で不利だ。いいから、大人しくしてて」

 ミリーが叫んでいるが、構ってる余裕はない。

 後ろを振り向くと、当たり前だが男達が追いかけてくる。

 人間の身体能力、というには少し速すぎる。みるみる内に距離が縮まっていく。

 悪魔の力のせいか。

 誰かに助けを求めたいところだが、警察とかに駆け込んだところで対処が出来るとは思えない。

 圧倒的に不利だが、こっちの強みもある。

 向こうの方が身体能力は高いだろうが、土地勘は僕の方があるはずだ。

 どこかで上手く振り切ることが出来るかもしれない。

 

 

 そう思って振り返った時、男達の背中に蝙蝠の羽のようなオーラが浮かび上がった。

 彼らの体が少しだけ浮き上がったと思ったら、凄まじいスピードでこちらへと突っ込んできた。

 その内二人が僕の上を通り過ぎると、目の前に降り立つ。

 咄嗟に足を止めるが、ここで方向転換が出来る反射神経は持っていない。

 その隙に目の前の男の蹴りが飛んできて、狼狽えていた僕は吹き飛ばされた。

「ぐっ!」

『マスター!』

 地面を転がり悶えている隙に、男達に追いつかれてしまった。

 痛みに耐えながら手をついて立ち上がるが、逃げる間も無く胸ぐらを掴まれた。

「さっさとサキュバス出せ!」

 まるで不良のカツアゲだ。

 それでもミリーを出させたいなら、僕は殺せない。

 だったら怯える必要はないはずだし、話し合う余地はある。

「み、ミリーが目的みたいだけど………僕の意思が無ければ、彼女は出てきませんよ」

「だったら、こうしてやる」

 そう言うと、目の前にいた男の手がドス黒く光った。

 その光を投げるように手を振るうと、光は僕の胸元に突き刺さる。

「俺達の傀儡となれ!」

「ぐあぁッ⁉︎」

 まるで沸騰した湯を一気に飲み込んだみたいだ。

 心臓の周りがカァッと熱くなって、体の奥深くに捩じ込まれていく。

 しかし、捩じ込まれた後も熱が消えない。むしろ全身に広がって、血が沸き立つ。

 突然の刺激に耐えられず膝をついてしまう。

「何だ、これ………ッ!」

『マスター、大丈夫⁉︎』

 ミリーが叫んでくれるが、その声が薄らと遠のき、意識が白濁としてきた。

『これ、従属の呪いだよ!』

 従属………そうか、意のままにしてミリーを引き出させるつもりか。

 言われてみれば、初めてミリーと会った時にかけられた拘束の呪いと、感覚的には似ている。

 あの時よりもだいぶ強烈だが。

『ねぇ、何で出してくれないの⁉︎このままじゃ………』

「大丈夫、まだだ………」

 呪いは即効性では無いらしく、体も頭もまだある程度は思った通りに動く。

 一か八かだけど、手はある。

「ミリー、悪魔の力が使えるなら、アイツら身体能力も上がってるんじゃないか?耐久力とか」

『えっ?う、うん、たぶん………』

 それならちょうどいい。取り憑かれてる人達に罪はないからな。

 

 

 ポケットからスマホを取り出すと、音量ボタンを流ししてマックスに引き上げる。

 目の前にいた男の耳元にスマホをかざすと、元々開いてあった音楽アプリで適当な音楽を流した。

「があぁッ⁉︎」

 悪魔ならこれくらい訳ないかと思ったが、案外効いたみたいだ。

 これは、俄然賭ける価値が上がったな。

 耳を抑えてガラ空きになった鳩尾に、爪先で思いっきり蹴りを入れた。

「がはッ⁉︎」

「行こう!」

 男が膝をついた隙に、全身に力を込めて走り出す。

「ミリー、あのインキュバス達だけに分かるように認識阻害を!」

『う、うん、分かった!』

 とりあえず魔法で姿を消してもらった。

 区役所の手前の交差点。そこを曲がると、目の前には踏切がある。

 ちょうど電車が来る直前なのか、バーが下がり始めていた。その手前には車が何台か停まっている。

 ナイスタイミング、時間稼ぎの手間が省けたな。

 僕は停まっている車を追い越して、踏切の中に滑り込んだ。出来るだけ身を低くして一気に進む。

「待てぇッ!」

 踏切の出口を越えると、男達も踏切の手前に来ていた。

「足の速さは速いんですね。頭の回転速度に比べたら、ですけど」

 僕の煽りに、分かりやすく彼らの口角が震えた。

 それを見て、さらに煽るように指先をクイッと動かす。

「来なよ。人間風情も捕まえられないインポ悪魔が」

『おぅ、マスター言うねぇ』

 あぁ、結構適当だったけど、これでよかったんだ。

「ッ‼︎………ふざけるな貴様ァッ‼︎」

 男達は目を吊り上げて、鬼の(悪魔だけど)形相で迫ってきた。

 プライド高いってのは本当みたいだ。

 むさ苦しいというか、見苦しいというか。同じ人を襲うでも、艶やかな雰囲気を纏っていたミリーとはえらい違いだな。

 相変わらずのスピードで踏切のバーを突破すると、こちらへと手を伸ばした。

 そして………

 

 

 ドンッ‼︎

 

 

 目の前に電車が通り過ぎ、男達は声を上げる間も無く突き飛ばされた。

 どこに行ったか確認したかったが、通過する電車の風に煽られて目を細める。

 それと同時に、体を駆け巡っていた熱が引き、意識がはっきりと戻ってきた。

「よし………」

 やっぱり、電車のこと知らなかったみたいだ。

 ミリーも最初は踏切とか知らなかったから、信号も無いからって渡ろうとしてたしな。

 ただの人間なら死ぬが、憑依されて耐久力が上がってるなら死ぬこともないだろう。それでも強い衝撃があれば意識はそっちに向く。

 従属ってことは、術者の操る意識が必須。こっちへの意識を一瞬でも途切れさせれば、術は解除出来ると思ってた。

「きゃあッ⁉︎だ、誰か轢かれたわよ!」

「おいおい、何だ今の⁉︎」

「電車止めないと‼︎」

 当然端から見れば、高校生達が電車に轢かれたのだ。

 電車は緊急停車し出して、車に乗っていた人達も驚いて出てきた。近くを歩いていた人も、こちらへと駆け寄ってくる。

 たちまち周囲には人だかりができていた。

 それでも認識阻害をかけている僕達には、誰も気づいていない。

 

 

「帰るか」

 パニック状態の踏切を背に、僕はすぐさま逃げ出した。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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