※この作品はR-18です。

エロゲ的な何か(仮)   作:MC RAT

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第4話

「お待たせしました」

「うわ、びっくりした」

 それから倭文が僕の元に戻ってきたのは夕方になってからだった。音もなく近寄って声をかけてくる。

「どうだった?」

「二人は西の両替屋に入っていき、それ以降姿を見せませんでした」

「両替屋、ねぇ………結構大きな所だ。一応出入りしてる人も調べないと、だね」

 あそこはこの辺じゃ珍しい本両替を営む、つまりは利用するのは大名や有力な商人なわけで。そんな所に一般の町人が入るなんて不自然だ。

「私もそう思います。まさかとは思いますが、転覆に有力な商人達が関わっているとなると、規模もどれほどになるか」

 まぁまだ転覆を図る者が本当にいるのかどうか、ってところからだけどね。

 けどあそこ、たしか質屋も兼業してるんだよね。資金を集めるにはちょうど良さそうだ。

「それじゃあ、これからは主にその両替屋を調べていく形で。あ、港は特に異常無かったよ」

「分かりました。これからどうされますか?」

「一旦城に戻ろう。短い間にあんまり調べようとすると怪しまれるし」

「かしこまりました」

 僕と倭文は休憩所出て城へ向かって歩き出した。

「そういえば、近くに両替屋の兼業してる質屋があったな。ちょっと覗いてから帰るか」

「そうですね。参りましょう」

 何か手がかりがあるかもしれないしな。えっと、たしかあそこの細い道を通るんだよな。

 頭の中で地図を思い描きながら道を進んでいく。こことは通りが違うから、裏から通るかな。

 細い道を通って質屋に向かおうとすると………

「おい、待ちな」

 後ろから声をかけられた。振り向くとあからさまにガラの悪い男が二人いる。

 平和的な雰囲気じゃないのは倭文も察したようで、目つきが鋭くなっている。

「………何でしょうか?」

 用件は大体察せるが、一応念のために聞いてみる。

「へへっ、命が惜しけりゃ、金とその女置いていきな」

 まぁそんなんだと思ったよ。

 男達は懐から短刀を取り出してこちらに向ける。話し合いでの解決は無理なようだ。

 さらに通りの出口から、彼らの仲間であろう男達が三人出てくる。合計で五人か。

「ねぇ倭文、一応この辺が例の質屋の近くなんだけどさ、この人たちそれと関係あるかな?」

「状況と言動からして、ただの野盗だと思います」

 ですよねぇ。これなら横着せずに回り道すりゃよかったかな。

「おい!聞いてんのか!さっさと金と女置いてけよ!」

「いや、聞こえてますよ。ちょっと落ち着いたらどうです?」

 男達は激昂すると短刀を振り上げて襲い掛かってきた。ちょ、短気だな!

「御屋形様、ここは私にお任せてください!」

 倭文は僕を後ろに庇うと身構えた。振り上げた男の腕を掴んで引っ張ると、足を引っ掛けて転ばせた。男は頭を打って倒れる。

「ふっ!」

「ぐはぁっ!」

「このッ!テメェ!」

 一人やられたことによって、もう一人の男が倭文に襲いかかってきた。それでも倭文は慌てずに、男から短刀を奪うとその柄で喉を突き、怯んだ隙に腕を捻って突き飛ばす。

「はぁっ!」

 おぉ、さすが忍び。大したものだ。

「おい!この女強ぇぞ!みんなで囲んじまえ!」

 倭文が強いのを感じ取って男達が声を上げた。

 残った三人が倭文を囲むと、路地からまた六人の野盗が現れる。全員が武装している上にかなり屈強だ。

 何でたかが盗人がこんなに大人数で群れてるんだ?ちょっと変だ。

「くっ!数が多い!」

 この人数にも倭文は怯まず男達を倒していく。するとそれを補うように助っ人が増えていく。

 何だこれ?

「倭文!」

 これだけの数となると、勝てない事もないだろうが危険なことに変わりはない。

 僕を守ってくれているのだし、さすがにこれをボーッと見ているのも申し訳ない。というか目立つのはマズい。

 僕は倒れた二人の男達が落とした短刀を拾うと、それを一本ずつ加勢しに来た男たちの内二人に肩に向けて投げた。

 狙い通り僕の投げた短刀は男達の肩に突き刺さった。

「「ぐあぁッ!」」

「ほい、さよなら」

 肩を抑えて蹲る男達を蹴り飛ばすと、倭文の腕を引っ張り囲まれてる状態から脱出させてやる。

「ひゃっ⁉︎お、御屋形様!」

「僕が城からの外出は手慣れてるの忘れた?こういうのにも慣れっこなの。こっち来て!」

 僕はそのまま倭文の手を引いて駆け出した。

「おい!追え!女も捕まえちまえ!」

 さすがにそう簡単には逃してくれないか。

「おりゃっ!」

 僕は懐に手を入れると、子供の頃からの護身用の煙玉を取り出して投げた。着弾と同時に煙が路地を満たす。

「くっ!この野郎!」

 野盗たちが目を押さえて悶えている間に、僕と倭文は路地を駆け抜けた。あのままだと外に人の目を集めてしまうため、素早く路地を抜ける。人混みの多い所に飛び込んで身を隠した。

「はぁっ、はぁっ………もう、大丈夫かな?」

「はい、追っては………来てなさそうですね」

「だね。よかったぁ」

 僕は近くの建物の壁にもたれると大きく息を吐いた。意外と何とかなるものだ。

「倭文、大丈夫?」

「え、あぁ、はい………」

 戸惑ってはいるようだが、特に怪我はしていないようだ。無事でよかった。

「あ、あの、御屋形様………」

「あぁ、ちょっと待った。さっきみたいな輩もいるし、話は城でするか」

 そろそろ暗くなってきたし、さっきみたいな輩が蔓延る時間帯だしな。

「そう、ですね………」

「それじゃあ帰るか」

「あ、いえ………私は城までお供することは出来ないので………」

「あぁ、そうだっけね。それじゃあ途中まで、ね?」

「は、はい………えっと………」

 何か言いたげな倭文は、ふと自分の手を見つめた。彼女の手はさっき逃げた時のまま、僕がしっかりと握っていた。

 それだけで僕は彼女の意思を察する。

「あ!ご、ごめんね!」

「い、いえ………」

 僕は慌てて手を離した。しまった、ついずっと握ってしまっていた。

 倭文は少しだけ顔を赤らめて俯いた。さすがに嫌だったかな。

「それじゃあ、僕は城に戻るから、って、質屋の探索出来なかったなぁ」

「店の中を見てみるだけで良ければ、私がこの後調べておきますが」

「あぁ、お願い。でも、さっきみたいな人がいるから気をつけてよ」

「はい、私も影ながら御屋形様をお守りいたします」

 いや、僕じゃなくて自分の身も守ってよ。いなくなられたら困るから。

 

 

 

 

 というわけで僕は一人で城へと戻っていった。いつもの事ではあるけど、今日はずっと倭文といたからかちょっとだけ寂しい。

 城に戻り夕食を食べてお風呂に入ると、自室で寛いでいた。

「御屋形様」

 すると背後から倭文の声が聞こえた。ハッとして振り向くと、そこには倭文が立ち膝で控えている。

 外出した時の着物姿ではなく、忍びとしての姿に戻っている。

「あぁ、倭文か。お帰り」

「はっ。御屋形様を城までお見送りした後、件の質屋の様子を確かめてまいりました」

「ん、どうだった?」

「特に変わった様子はありませんでした。先程追いかけた者達もいませんでした。ただ………」

「ただ?」

「夜間の警備が、他よりも多いような気がしました。まるで何かを隠しているかのように」

 なるほど。たしかに両替屋なんだし、それなりに警備が厚いのは当たり前と言える。

 けど、つい最近までそんなに警備は厚くなかった。何で今さら………

「ありがとう。今のところ手がかりそれしか無いし、引き続き調査お願い」

「はい、かしこまりました」

 頭を下げた倭文だが、暗い顔をして申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「御屋形様、申し訳ありませんでした」

 頭を下げた倭文に僕は首を傾げた。

「え?何急に………」

「御屋形様をお守りする立場でありながら、助けられるとは………情けない………」

 あぁ、そういうことか。さっきの事気にしてるのね。

「ううん、僕が勝手にやっただけだよ。それにいくら慣れてるからって、さすがに倭文がいなかったら危なかったしね」

「しかし………里長から、御屋形様の身を守るようにと言われているのに」

「結果的に何とかなってるんだしいいよ。それにそう思うなら、明日から挽回してよ。明日からやってもらう事、たくさんあるんだから」

「はい………分かりました」

 落ち込んでしまう倭文を見て、僕は思わずため息をついた。

「なんか、調子狂うなぁ」

「え?」

 僕の言葉に倭文は頭を上げた。

「いやさ、僕の中の倭文って九年前のままで止まってるからさ。いきなり忍びになったとか、僕の部下とか言われて畏まられてもさ。何か実感湧かないんだよ」

「それは………し、しかし、あの時も、私と御屋形様の間には差がありましたし………」

「まぁそうだけどさ。あの時倒れて泣いていた女子が、今じゃ物陰から音もなく現れて、僕を守る忍びになってるんだ。しまいには野盗を倒しちゃうし、混乱するのも分かるでしょ?」

 僕からしたら、倭文は記憶を無くしたか弱い女子なのだ。それが今では忍びになってるんだから、何が起きるか分からないものだ。

 何とか慣れたいんだけどなぁ。

「ねぇ倭文、この後時間空いてる?」

「は、はぁ………特に命令が無ければ。こちらの任務のため、里に戻る必要もありませんし」

「よかった。それなら、まだ寝るまで時間あるし、ここでゆっくりしていかない?」

「い、いえ、そんな!御屋形様と共に寛ぐなど、畏れ多い!」

「いやいや。この九年間で何があったのか、気になるってだけだよ。記憶のない女子が、どうやって忍びになったのか」

「………影である私のことなど、聞くに値するかどうか………」

「そうかな?聞いていいかどうかは置いておいて、割と興味はあるんだよね。特に倭文なんて、忍びの中じゃ例外とも言えるわけだし」

「そういう、ものでしょうか………?」

「まぁ忍び云々は置いておくにしても、倭文がどんな風に過ごしてきたかは興味あるの。あまり落ち着いて話す時間も無かったしさ」

 本当は出かけた時に聞こうと思ってたけど、そんな余裕無かったからなぁ。当たり前といえば当たり前だけど。

「そうですね。たしかに私は例外ですが、それは忍びになる経緯の話で、なろうと決めてしまえば他の方達と変わりません」

 それから倭文は忍びの里に迎えられてからのことを話してくれた。

 何年もかけて受けた過酷な忍びの訓練、周りより遅れて忍びの道を歩んだので、彼女は人一倍努力を重ねてきた。

 任務をこなして成果を示し、いつしか大人とも肩を並べられるほどにまでなった。

「………そしてこの度、任務のために御屋形様の元へと参上仕った、というわけです」

「なるほどね………」

 倭文の話を聞いた僕は静かに頷いた。

「ということは、結局記憶は戻らないままなんだな」

「そうですね。里長も調べてはくれているそうですが………何せ、手がかりすらもないので」

 忍びが調べようとして出てこないとなると、よっぽどなんだろうな。

「でも、よくそんな中で忍びになろうだなんて思ったよね。不安とか無かったの?」

「不安なんてありませんでした。忍びとして、いつか御屋形様のお役に立てるようになる。それが私の九年間の全てです」

「そうか………なんか、嬉しいな。たった一日しか過ごしてないのに、そんな風に思ってくれるなんて」

 てっきり忍びの里に行ったら、すぐに僕のことなんか忘れてしまうと思ってた。また会えるかどうかも分からなかったし。

「たった一日、なんですよね………」

「どうしたの?」

 倭文は何かを思い出したように、ぼんやりと顔を上げて天井を見上げる。

「記憶のない私にとって、御屋形様と過ごしたたった一日が初めての記憶で。それ以降、長い間里での思い出もたくさんできたのに。まるで逆のように、御屋形様と過ごした一日がずっと長く、濃密なものに感じられるのです」

「そうだな………僕もだよ」

 たった一日だけ過ごした人と九年ぶりに再会して、こんなに懐かしめるんだ。僕も彼女との時間を大切に思ってたのだろう。

「っと、結構話し過ぎてしまったか」

「そうですね。これ以上起きているとお体に触ります。差し出がましいようですが、そろそろご就寝なさった方がよろしいかと」

「それもそうだね。それじゃあ、さっきも言ったけど明日から色々働いてもらうから、よろしく頼むね」

「はい。夜間の警備は私に任せて、ごゆるりとお休みください」

 倭文は頷くと天井へと飛び上がり消えていった。彼女の消えていった天井を見て笑った。

 昔守った子が、再会したら僕を守ってくれるとは………面白いものだ。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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