いつの間にか暑さは過ぎて、身を切るような寒さが辺りを包んでいる。そんな季節。
終業式を終えてすぐ、僕は電車でお街の方へと向かっていった。
二つ駅を超えた先で電車を降りると、駅の近くで彼女を待つ。
「あ、いたいた。おーい!」
すると一人の女性の声が聞こえた。その声に顔を上げると、予想通り彼女はそこにいた。
「俤さん、こんにちは」
「うん。こんにちは、というより久しぶり、かな」
「ですね。お久しぶりです」
僕はやってきた俤さんにあいさつをした。
今日の俤さんは深緑のセーターに赤茶色のコートを着ている。シックな色合いが彼女の雰囲気とよく合っていた。
僕が俤さんと会うのは二ヶ月振りだった。
別に何か特別なことがあったわけじゃなかったが、何となく会う機会が減っていたのだ。
まぁ一応やってる事は不倫なので、そんなに公でポンポン会ってたら色々マズい気はするんだけど。
しかし先週になって突然俤さんから、今日一緒に出かけないかという誘いがあった。
その誘いに僕は少しばかり舞い上がっていた。高校の冬の終業式の日、つまり今日は………
「ごめんね、クリスマスの日なんかに呼んじゃって。迷惑じゃなかった?」
「全然、大丈夫ですよ。家にいても暇なだけなんで」
そう、今日は十二月二十五日、クリスマスだ。
そんな日に俤さんと出かけられるとか、楽しみになるのも当たり前だろう。
「それじゃあ、行こうか」
「うん」
僕達は手を繋ぐと駅を出て、街へと繰り出した。
久しぶりに顔を合わせたということもあり、お互いに少しばかりぎこちない。それでも雰囲気は変わってなかった。
外に出ると街はクリスマス一色だった。豪華な装飾で彩られた街はいつも以上に輝いている。
「今日はどこか行きたい所でもあるんですか?」
「ううん。いつもみたいにお散歩したい、かな」
こうして目的地を決めずに俤さんと出かけるとも珍しくはない。一緒にいる時間を楽しむというのも、僕達の付き合い方の一つだ。
僕達は街の景色を眺めながら会話を弾ませていた。
「学校は今日までなんだっけ?」
「はい。明日から冬休みです」
「君って一人暮らしでしょ?お正月は実家に帰ったりするの?」
「あぁ、そうなんですよねぇ。家からは帰ってこいって言われてるんですが、特に帰って利益も無いので。様子見るだけなら今のご時世スマホで何とかなりますし」
家事をサボれるという利益はあるものの、交通費とかのことを考えればむしろマイナスなまであるんだよなぁ。
「損得勘定で考えるんだ。ドライねぇ、君は」
「まぁ行かなきゃ行かないで面倒ではあるので、たぶん行くことにはなるんですけどね。そう言う俤さんは?」
何となく聞いてみたものの、ここでうまいこと予定が合うなら三が日も一緒に………
「私は実家に帰るかな。と言っても、旦那の方がメインになるから、私の実家の方は顔を見る程度になっちゃうんだけど」
そっかぁ、そうだよなぁ。
俤さんは結婚してるわけだし、実家へと挨拶も単純計算二倍なわけだ。暇な時間なんて無いよなぁ。残念。
僕のあからさまな表情を見て、俤さんが面白そうに笑った。
「ふふっ、そんな顔しないでよ。私だって、出来ることなら君といたい。この帰省も、結構面倒でね」
そう言って俤さんはため息をつく。その様子から本当に乗り気で無いのがわかる。
「お義母さんからは小言を言われるし、酔ったお義父さんからはセクハラされるし、集まった親戚の自慢話は聞かなくちゃならないし」
「うわぁ、面倒そうですね」
「面倒だよ。かと言って自分勝手に断るわけにもいかないしね」
真面目な人だなぁ。僕なら秒速で断ってる気がする。
「だから今日は君に会いたかったんだ。今年会えるのも最後かもしれなかったし」
そんなことを話しながら、僕達は街の中を歩いていった。気がつけば近くの公園にたどり着いていた。
冬は暗くなるのが早い。五時にもなれば辺りは暗くなり始めて、街のイルミネーションが輝き始める。
「うわぁ、綺麗ねぇ」
俤さんはその輝きを嬉しそうに見ていた。
そんな俤さんが一番綺麗なのは、言うまでもなかった。
帰りに小さめのケーキを二つ買って、僕達は帰路についた。揃って俤さんの家に行く。
「
そう言って俤さんは自嘲気味に笑った。旦那が本当は何をしているのか、分かってるんだろう。
相変わらずなんだな。俤さんはそれでも旦那さんを蔑ろにすることなんて無いのに。
「先にお風呂入ってきなよ。その間にご飯の準備しちゃうから」
「分かりました」
人の家のお風呂を使うことに対する抵抗感が薄くなってることに一抹の不安を覚えるが、僕は先にお風呂をいただいた。本当は俤さんと一緒が良かったけど。
お風呂から出た僕は、キッチンの方からいい匂いがするのを感じた。釣られるようにフラフラと足がそちらに向かう。
食卓に到着すると、そこには美味しそうなクリスマスディナーが並べられている。
シチューにスティックサラダ、それにつけるティップ、主食もいつもは白米だが今日はバゲットだ。
「あ、ナイスタイミング。ちょうどできたから、温かい内に食べちゃおう」
「はい」
僕と俤さんは席に着くと手を合わせた。
「「いただきます」」
それじゃあまずはシチューから。スプーンでお肉を掬ってパクっと
「あ、美味い」
「良かった。こんな風にクリスマスに誰かにご飯作るの、すごい久しぶりだから、ちゃんとできてるか不安で」
こんな心温まるクリスマスディナーってのも、すごい久しぶりな気がする。
そんな美味しかったご馳走だったこともあり、僕達はあっという間に食べ終わってしまった。あぁ、美味しかった。
その後デザートのケーキも食べて、僕は大きく息を吐いた。
「ふぅ、ご馳走様でした。っと、洗い物は僕がやりましょうか?」
「え?いや、仮にもお客さんにそんなことさせられないよ」
「いつもお世話になりっぱなしですし、俤さんはこの後お風呂あるでしょ?二人でゆっくりする時間欲しいですから」
「そ、そう?それなら………ありがとうね」
「いえいえ、ごゆっくり」
お風呂に向かっていく俤さんを見送って、僕は食器を片付け始めた。
「ふぅ、さっぱりしたぁ」
「あ、俤さん。食器片付け終わりましたよ」
「本当にやってくれたんだ。ありがとうね」
濡れた髪を拭きながら、俤さんがリビングへとやって来た。
少し大きめのパジャマに身を包んだ彼女は、思わず抱きつきたくなるような艶かしさがある。
「そういえば、食器片付けてた時にこれ見つけたんですけど。どうすれば良かったですか?」
僕はキッチンに置いてあったワイングラスを見せた。
「あぁ、それは使うつもりで置いておいただけだから大丈夫。後で片付けるよ」
「? 何で食事中に飲まなかったんですか?」
「だってお風呂前だったし、それに君いたし。今日君が来れなかったら飲むつもりだったの」
あぁ、僕飲めないから遠慮してたのね。
「そんなの気にしなくて良かったんですよ?よろしければ、今からでもどうです?」
「え?い、いいよ。気持ちは嬉しいけど、君に悪いし」
「全然構いませんよ。クリスマスの時くらい、そういう遠慮はしなくてもいいですよ」
こうは言ったが、実際のところはちょっとした背伸びだ。
何となく俤さんの大人の部分に寄り添いたい。そう思った故の提案だった。もちろん飲まないけど。
後は普段溜め込んでいるものを色々吐き出す良き機会じゃないかな、と。
「まぁたしかに僕は飲めませんけど、相手くらいさせてくださいよ」
「………そ、それじゃあ、お願い、しようかな」
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
リビングでソファーに座った僕は、テーブルの上に置いたワイングラスにワインを注いで俤さんに渡した。
俤さんが出してくれたもう一つのグラスにはリンゴジュース(俤さんが料理に使うつもりで買ってたもの)を注いだ。その隣にはおつまみとしてチーズが置かれている。
「それじゃあ、メリークリスマス」
「メリークリスマス」
僕達は乾杯するとクイっとグラスを煽る。こんな風に女性と共に飲む日が来るとは。ジュースだけど。
それから僕達は飲みながら他愛無い話を楽しんだ。
こうして二人きりでいると、やってる事が不倫だということも、相手が人妻であることも忘れそうだ。
俤さんの顔は少しだけ赤らんで、お互いの距離が自然と近くなった。
「………それでね、
「お、おぉ………それでよく何事も起こしませんでしたね」
「その後すぐ寝ちゃって、翌日には何も覚えてなかったから。それに、私もたまに旦那と君を間違えそうになるから」
いつもより少しだけ饒舌になる俤さんは、手に持っていたグラスに口をつけた。大人っぽい仕草にドキドキする。
「ふぅ………なんかごめんね。私が愚痴ってるばかりで」
「大丈夫ですよ。むしろよく話してくれました」
何というか、話のほとんどが旦那さんの不倫に関係してる。旦那さん遊びすぎだろ。
「そんなに重い話じゃないわ。今までもよくあった事」
「それでも、辛くないんですか?」
僕は何となく言葉を選びながら聞いてみた。
すると思う俤さんは少しだけ俯いて、グラスの中のワインに自分の顔を映した。
「辛い、なんて言う資格私には無いわ。同じことしてるんだもの」
俤さんはグラスをテーブルに置くと、僕の肩に頭を乗せた。いい匂いが漂い心臓が高鳴る。
「もしも、私が別の男性を家に招いて、夜を共に過ごしてるって知ったら、
「それは………」
白々しく人の女に手を出しやがってと怒るだろうか。それとも、なんとも思わないのか。どちらにしても最悪だ。
「答えなくていいよ。最近そんな事ばっかり考えちゃうんだ。そしたら、何となく君を誘いにくくて………」
ここ最近会おうとしなかったのはそういうことだったのか。
「ごめんね。いつも、いつも君に助けられてばっかりなのに。酔ってるのかも。君にこんな事まで言っちゃって………」
「そんな事、言わないでくださいよ」
「え?」
言葉を遮ると俤さんが顔を上げた。その目は少しだけ濡れている。
「僕だって好きでやってるんです。あなたの事情を知って、いけないって事も知ってて、それでも自分で選んで、今こうしているんです。それだけの魅力が、あると思ってるんです」
自分で言ってて恥ずかしくなってしまった。雰囲気に酔ってしまったのだろうか。
「でも、私は君のこと………」
「利用してたらダメなんですか?俤さんの料理は美味しいし、一緒にいて楽しいし、その、夜も楽しめてるし………今日だってすごい楽しかったですし。それでいいじゃないですか」
そんなの恋愛じゃないと言われればそうかもしれないけど、僕は今はそれでいい。お互いがそれで納得してるんだから。
「だから、そんなに思い詰めないでください。僕は今の俤さんでいいんです。嫌だって思ったら、自分で離れていきます」
「そっか………ありがとう」
そう言って俤さんは身体を起こすとワインを飲んだ。顔がさっきよりも赤い。
「んっ………ねぇ、今からエッチしない?」
「え⁉︎」
いきなりストレートに誘われて、僕は思わず声をあげてしまった。
「ど、どうしたんですか?」
「君とエッチしたいなぁって思って。君は期待してなかった?」
「い、いや、まぁ………それなりには、してましたけど………」
クリスマスに出かけて夕ご飯を貰って、こんな夜遅くまで一緒にいるのだ。それは期待もするだろう。
縮こまった僕を誘惑するように、俤さんとの距離が縮まる。
「ふふっ、素直で嬉しいな」
「ちょ、俤さん。もしかしてかなり酔って、ッ⁉︎」
僕が言い終わる前に俤さんが僕に抱きついてきた。抱き合うと同時に唇を奪われる。
「んっ、くちゅ、んくっ!ちゅるっ、れろっ、ちゅぷっ!ぢゅるるるっ!んんっ、んちゅっ!んん〜〜〜〜〜〜〜〜ッ‼︎」
僕は濃厚なキスを味わった。いつもとは少し違う味がするのは、ワインのせいだろうか。
唇を離すと僕達の間に唾液が糸を引く。
「ぷぁっ!………よかった。こっちはする気になってくれたみたい」
俤さんは微笑むと僕の下腹部に目線を向けた。大きくなった僕のモノがズボンを押し上げている。
興奮を見透かされて恥ずかしいが、これから起こることの興奮がそれを優った。
「君があんな事言うから、色々我慢する気無くなっちゃった。君が欲しいな」
「ぼ、僕も………です」
抱き合ったまま僕達は見つめ合った。赤らんだ俤さんの笑顔は、とても大人っぽくて綺麗だ。
「ねぇ、先に部屋で待っててくれない?すぐ行くから」
言われるがままに、俤さんと旦那さんの寝室に入った僕は、俤さんを待った。
それからすぐに部屋の扉が開いた。
「お待たせ」
「いや、別に、ッ⁉︎」
興奮を隠すように身を乗り出した僕は、目の前の光景に体が固まった。
そこにいた俤さんは、さっきまでのパジャマ姿では無かった。
サンタ服を模したようなシースルーに身を包み、サンタ帽まで被った俤さんが、僕の前に立っていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
評価、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。