※この作品はR-18です。

エロゲ的な何か(仮)   作:MC RAT

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第4話

 そんなことがあってから数日。

 僕と玉響さんは、何となく顔を合わせにくくなってしまった。いや、主に僕かな。

 連絡も少なくなり、遊びに誘われても何だかんだ理由をつけて断る。

 あまりにも露骨なのは分かっているが、一度タイミングを逃してしまいどうしても会いにくくなってしまった。

 何て話したらいいか分からないというか、申し訳ないというか………

 でもこのままは嫌だ。どこかでちゃんと謝らないと、だよねぇ。

 

 

 そう思っていた矢先、玉響さんから連絡が来た。

『クリスマスイブの夜、ウチでお食事しませんか』とのことだ。

 これまで昼に誘われたことはあっても、夜に誘われるなんて初めてだった。いや、変な意味はなくて。

 大学でお昼ご飯を食べてる時に連絡をスマホが知らせてくれて、僕はすぐに見た。

 どうしたものかと悩んでいると、またスマホが通知で震える。

 そこには文章が付け足されていた。

 

『夜も遅くなりますし、よろしければ泊まっていっても構いませんが』

 

「あっ………」

 思わず声が出てしまった。

 僕はいつも飛鳥ちゃんと遊ぶためにあの家に行く。

 だから普通に考えれば、この連絡は夕食の後に遊ぶ事を考える。

 しかしあの歳の子だ、寝るのだって早いだろう。大体8時かそれより前だ。

 それなのに『夜も遅くなりますし』ってことは………何かその後に用事があるってことになる。

 これは………玉響さんが、わざわざ機会を作ってくれたんだ。

 もちろん気まずいことに変わりはないし、何を言われるのかを考えただけで怖い。

 でも、せっかく向こうが作ってくれたチャンスを無駄にしたら、もう関係が治らないように感じた。

 だから僕はすぐに返事を返した。

 

『では、お言葉に甘えさせていただきます』

 

 

 

 そして迎えたクリスマスイブの夕方。

 不審に思われないように特に大した変化はせず、ちょっと大きな荷物以外はいつも通りに努めて、僕は玉響さんの家に向かった。

 マンションにつきインターホンを鳴らすと、すぐに扉が開いた。

「あっ、こんにちは」

「こ、こんにちは」

 若干緊張気味になって頭を下げると、玉響さんもどこかぎこちなさそうにお辞儀をする。

 やはり気まずいのはお互い様なようだ。

 すると部屋の奥からタッタッタッと足音が聞こえてきた。

「おにいちゃ~ん‼」

 叫ぶと同時に、玉響さんの近くをすり抜けてやってきたのは飛鳥ちゃんだ。

 ダッシュで駆け寄ってくると、僕の腰に抱き着いてきた。あわや後ろに倒れそうになるが、僕もしっかりと受け止めてあげる。

「こんにちは!」

「うん、こんにちは」

 満面の笑みを浮かべる飛鳥ちゃんは、元気な声であいさつしてくれた。

 いつになく上機嫌な様子から、今日を楽しみにしてくれていたことが伺える。

「あ、あはは………すみません、あなたと一緒にいれるって聞いたらずっとこのテンションで」

「いえいえ、嬉しい限りですよ」

 それにこの突撃にもいい加減慣れた。といっても不意打ちは極力やめてほしいところだが。

「さて、ここで話すのも何ですし入ってください。ほら飛鳥、お外寒いからお部屋に入ろうね」

「うん!おにいちゃんもはいって!」

 飛鳥ちゃんに手を引かれて、僕は心の準備をする前に部屋の中に入ってしまった。

 部屋の中は折り紙やシールなどで飾り付けられており、まさしくクリスマスパーティーといった感じだ。

「おぉ、随分と綺麗だね」

「あすかとおかあさんでかざりつけしたんだよ!」

「へぇ、頑張ったじゃん」

 部屋の隅にはベッドがあり、そこに寝ている皐月ちゃんが周りの飾りつけを面白そうに見渡している。

「こんにちは」

「あぅあー」

 そっと指を差し出すと、こちらに視線を向けて手を伸ばしてくれる。僕の指を掴んでにこっと笑った。

「それじゃあご飯にしましょうか。飛鳥、手洗っておいで」

「うん!」

 飛鳥ちゃんが洗面所に入ると、玉響さんはテキパキと準備を始めた。

 テーブルの上にはビーフシチューやサラダと白米が並んでいる。

「一応クリスマスっぽい感じのものを作ってみました。まぁ飛鳥も食べられるように作ったので、少し物足りないかもしれませんが」

「そんなことないですよ。すごい嬉しいです」

 誰かにご飯を作ったもらうなんて久しぶりだ。それもこんな豪勢に。

「おにいちゃん!おにいちゃんも手洗おう!」

「分かったよ、分かったから手拭きなって」

 手から水滴を垂らしながら叫ぶ飛鳥ちゃんに呆れつつ、僕も洗面所に入る。

 二人して手を洗うと、玉響さんと共に食卓に着く。

「「「いただきます」」」

 

 

 

「それでね!クリスマスかいしてたらサンタさんがきて!みんなでおうたうたったの!」

「へぇ、楽しそうだね」

 玉響さんの料理を食べながら、飛鳥ちゃんは保育園でのことを話してくれた。

「おにいちゃんはなにしたの?」

「大学生はみんなでそういうことやらないんだよ」

「えっ、なんで?」

「日本のクリスマスを楽しめる大人には、限りがあるんだよ」

「おかあさん、どういうこと?」

「あぁ………大人は忙しいってこと」

 何でも昨日は保育園でクリスマス会があったらしく、飛鳥ちゃんはその事を話してくれた。

 やっぱり子供にとってクリスマスは特別らしい。いつも以上にテンションが高い。

 もし本当サンタさんがいるのなら、こういう子供の楽しい気持ちを道標にしてきているのかもしれない。

 そんな想像をして、僕は思わず笑ってしまった。

 

 

「ふぅ………美味しかったぁ」

「それでは、デザートにしましょうか」

 料理を食べ終わると、玉響さんが立ち上がって冷蔵庫から箱を持ってきた。

 中にはカップケーキが三つ。小さな面積の上に色んな果物がトッピングされていて、とても鮮やかだ。

「おぉ、クリスマスケーキですか」

「人数が人数なので、小さめのカップケーキですけどね。せっかくなので作ってみました」

 そしてまさかまさかの手作りときた。

 前々から思ってはいたが、玉響さんの料理の腕前って大したモンだよなぁ。

「あすかも、もりつけてつだったんだよ!」

「飛鳥ちゃんも?」

「作ってたら、『わたしもやる!』って言って手伝ってくれたんです。おかげでてんこもりにはなりましたが」

 よく見たらデコレーションの中に小さいお菓子も混じってる。これは飛鳥ちゃんの仕業か。

 今にもこぼれ落ちそうだが、せっかくの手作りなんだ。これくらい型破りでちょうどいいだろう。

「それじゃあ、いただきます」

 デコレーションが落ちないように気をつけながら、そっと一口齧ってみる。

「どう?」

「美味しいよ。本当に、美味しい」

 僕はもう一口齧った。

 お菓子やら果物やらで、べったりとした色んなベクトルの甘みと食感が口に広がる。

 めちゃくちゃだと思わなくもないけど………これがこの家の味なんだろう。

 すっかりこの家に馴染めてしまった僕には、とても癒される味だった。

 

 

 

『ほら、飛鳥。頭流すから目瞑ってね』

『はーい』

『これで………よし、っと。って皐月、お風呂のお水飲んじゃダメよ!』

『んん〜?』

『からだあらいおわったし、おにいちゃんとあそぶ!』

『ちょっと待って、頭拭いてから出ないと床濡れちゃうから!』

 

 浴室から聞こえる賑やかな会話が耳に入り、僕は苦笑した。

 ご飯も終わり、玉響さん達はお風呂に入っている。

 飛鳥ちゃんは僕も一緒にと言ったが、それは色々な意味で無理だ。具体的には面積と精神衛生の面で。

 それにしても、相変わらず賑やかだなぁ。

 しかし笑ってばかりというわけにもいかない。今日来た一番の目的はまだ果たせてないのだから。

 ちゃんと話さないと………

「あの、お次お風呂どうぞ」

 後ろから声をかけられ振り返ると、そこには皐月ちゃんを抱えたパジャマ姿の玉響さんがいた。

 お風呂上がりのためか髪はいつよりも艶が増し、薄地のパジャマのおかげで身体の激しい起伏のラインがよく見える。

 艶やかなその姿に、僕は目を奪われた。

「えっと、どうかされました?」

「あっ、いえ!それじゃ、お風呂いただきますね」

 

 

 僕もお風呂をいただき、その後はテレビでクリスマスの特番を見たりして、みんなとの時間を楽しんだ。

 本来の目的が頭の中でチラつくが、子供達のいる前でできる話でも無いため言い出せない。

 そんな事をしていればあっという間に8時を過ぎた。良い子はそろそろ寝る時間だ。

「飛鳥ちゃん、もう寝る時間じゃ………って、あれ?」

「スー………スー………」

 動かない事を不審に思い覗き込むと、僕の膝の上にいる飛鳥ちゃんはもう寝ていた。

 僕に寄りかかって、気持ちよさそうに寝息を立てている。

「飛鳥、そろそろ寝ないと………って、もう寝てる?」

「みたいですね」

 寝かしつけようとした玉響さんは、ぐっすり寝ている飛鳥ちゃんに目を丸くした。

「ベッドまで運べばいいですか?」

「あぁ、すみません」

「構いませんよ、っと」

 起こさないようにそっと抱き上げると、子供部屋のベッドに寝かしてあげた。風邪をひかないように毛布をかける。

 すると玉響さんが部屋に入ってきた。手には飛鳥ちゃんへのプレゼントを持っている。

 そのプレゼントを枕元に置いて優しく頭を撫でる。

「喜んでくれるといいですね」

「えぇ」

 

 

 子供部屋を出ると、いよいよすることがなくなった。

 もう起きてるのは僕と玉響さんだけ。

 どことなく気まずい雰囲気がまた戻ってきてしまった。

「あ、あの………」

 そんな空気の中、玉響さんが声を絞り出した。

「私の部屋、来ませんか?」

「………えぇ」

 僕は頷く。

 また玉響さんの方から声をかけてくれた。

 ちゃんと話をする。そう決めてたのに、いざそうなると緊張してしまって声が出ない。

 流されるように玉響さんの部屋に入った。外から見たことはあったが、入るのは初めてだ。

 部屋の扉を閉めると、玉響さんは大きく深呼吸する。

「ふぅ………えっと、その………」

 何と言っていいか分からないようで言い淀んでいる。

 

 違う、そうじゃない。自分から言わないと………

「その………この前は、覗きみたいな事をしてしまい、すみませんでした」

 僕はしっかりと謝って頭を下げた。

「僕の注意不足で、あまりにも失礼なことを………」

「や、やめください!鍵をかけなかった私も悪かったんですし、故意ではなかったんでしょう?」

「それは、そうですが………あの後、何も言えなくて。避けるようなマネを………」

「いいえ、あなたは謝ろうとしてくれてました。恥ずかしくて、それを遮ったのは私ですから。こちらこそすみませんでした」

 揃って頭を下げてから、チラッと上げた目線が合う。

 言いたい事を伝えられて、張り詰めた空気が少しだけ緩んだ。互いに笑みが溢れる。

 

 

「ま、まぁ、立って話すのもアレですし、そこのベッドに座ってください」

「えっ、あぁ、はい………」

 言われるがままにベッドに座ると、玉響さんも僕の隣に座った。いつもより距離が近く、シャンプーの香りがフワッと漂う。

 嫌でも心音が高鳴り、玉響さんに聞こえないかとヒヤヒヤする。

 何とも言えない空気に押されて黙る中、玉響さんが口を開く。

「あ、あの………この前の私、どう思いました?」

「え、えっと………どう、っていうのは?」

「その………あんな姿見てしまって、変ではなかったかな、と………」

 自信がないのか、段々と言葉が小さくなり俯いていく。

 あんな姿ってのは、母乳が出ていた事だろうか。

 変だなんて、そんな事思ってるわけがない。

 たしかに母乳が出る人が苦手って人はそれなりにいるみたいだが、僕は全然そんなことは思わなかった。

 むしろ………

「僕は………母親らしいな、としか」

「そうですか………母親らしい、ねぇ」

 玉響さんは俯いて何かを言い出そうと口を動かす。

 そしてギュッと拳を握ると口を開いた。

 

「そ、それなら………ちょっと、お願いがあるんですが………」

「お願い、ですか?」

 こんな僕に何が出来るというのか。思わず身構えて聞いてしまう。

 恥ずかしそうに身を縮めた玉響さんは、火照った顔を手で隠しつつ呟いた。

 

 

「わ、私の母乳………搾ってくれませんか?」

 

 

「………えっ?」

 言葉の意味を理解するまでに数秒かかった。

「ぼ、僕が、ですか………?」

「はい。私、自分で上手く母乳が搾れなくて。皐月もそこまで飲むわけではないので、たまに胸が張って痛くて………」

「は、はぁ………」

「ですから………あなたに、母乳を搾って欲しいんです」

 言いたいことは分かるし、真剣なのも伝わってくる。

 けど………

「僕、やったこととかないですよ?」

「それでも………自分でやるよりかはいいかなって」

 あんなことがあったというのに、それでも頼もうとする意図が分からない。

 それでも玉響さんは止めるつもりはないようだ。顔を上げてまた頼み込む。

「こんなこと頼めるの、あなたしかいないんです。ですから、お願いします」

 頭の中はまた整理がつかず、流されてはいけないと冷静な部分が語りかけてくる。

 しかし真っ直ぐ見つめてくる玉響さんと視線を交わすと、僕の口が勝手に動いた。

「………分かりました」

 

 

 こうしてとある年の聖なる夜に、僕達の関係が少しずつ変わり出した。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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