※この作品はR-18です。

エロゲ的な何か(仮)   作:MC RAT

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第18話

 クリスマスを二人で過ごした後、僕と俤さんはしばらく会うことがなかった。

 というのもお正月は前に言っていた通り旦那さんの実家に行っているようだったので会う機会がなく、それからしばらくは連絡が来なかったからだ。

 一応俤さんとは連絡先を交換していて、それで何となく会う日を決めている。だから連絡を取らなければ、そもそも会うことは無い。

 自分から連絡すればいいのは分かっているのだが、関係が関係なだけに僕から気安く連絡は出来ない。それで万が一にも不倫が発覚したら大惨事だ。

 なので必然的に俤さんからの連絡を待って、いつもはそれから会う日を決めたりしている。

 けど最近俤さんから連絡が来なくなっていた。

 一月中旬辺りからさすがに心配になり思い切って連絡してみたが、返ってきたのは『大丈夫だよ、心配させてごめんね』の言葉だけ。

 とりあえず一番気にかけていた身の危険に関しては杞憂だと安堵できたものの、それならどうしたのかと心配が募っていた。

 しかし身が安全で連絡が無いということは、理由は何であれ俤さんの意思で連絡をして来なかったというわけだ。

 それなのにこちらから無理に言及をしたら迷惑かなと思い、僕からは何もしなかった。

 もちろんたまに連絡を取り合うことはあったが、それでも彼女から『会おう』という言葉が出ることはなかった。

 そんなこんなで1月が過ぎ、2月になった。

 冬の寒さに震える日が増えたある日、俤さんから連絡が来た。

『もしもし?』

「俤さん、お久しぶりです。元気ですか?」

『うん。ごめんなさい、何日も連絡しないで』

 久しぶりに聞く俤さんの声はどこか暗そうだった。でもそれを追及する気にはなれない。

「大丈夫ですよ。何か理由があったんですよね?」

『まぁ、ちょっとね。それでさ、君は今月の14日って何か予定ある?』

「僕は基本的に学校の無い時間=暇なので、夕方からは空いてますよ」

『それなら、さ………久しぶりに会わない?』

「本当ですか⁉︎」

 しばらく連絡が来なくて、もう俤さんは会う気がなくなったのかと思っていた僕は、突然の誘いに喜んだ。

「もちろんです!」

『よかった。それじゃあ14日に』

「はい。14日です、ね………?」

 何かが引っかかり、僕は通話したままスマホのカレンダーを開いた。

「あの、14日ってことは………」

『うん………』

「バレンタイン、ですよね?」

『………うん。その日に、会いたいの』

 バレンタインかぁ………これは、チョコとか期待してしまっていいのだろうか。

 何はともあれ断る理由なんかあるわけない。

「分かりました。場所はどうしますか?」

『いつものホテルの近くがいいわ』

「はい。それでは」

 

 

 

 翌日

 学校から家に帰る時間すらも惜しかった僕は、学校を出るなり近くの公衆トイレで持ってきていた私服に着替え、そのままラブホのある駅まで向かった。

 ホテルに泊まる時はいつもここの駅で待ち合わせている。

 そろそろ待ち合わせの時間だ。

「あっ!おーい!」

 聞き慣れた声がして振り返ると、駅の出口の辺りで手を振る俤さんを見つけた。

 ハイネックのセーターにロングスカートを着ていて、人混みの中でも一際目立って見える。

「俤さん、こんにちは。お久しぶりです」

「こんにちは。元気そうでよかったわ」

「おかげさまで。それで、今日はこれからどうするんですか?」

 会った後近くを散歩する時もあれば、そのまますぐにラブホに向かい身体を重ねることもある。

「そうね。久しぶりに会ったんだもの、少し外でゆっくりしましょう」

 どうやら俤さんも僕と同じ気持ちのようだ。

 久々の二人きりの時間。ただホテルにいるだけでも楽しいけど、出かける方がいい。

「近くで神話の展覧会をやってるみたいなんです。よかったらどうですか?」

「そうね、行きましょう」

 僕達は手を繋ぐと、街へと歩いていった。

 目的の展覧会は駅を出てすぐの所で開催されていて、様々な絵や神話にまつわる骨董品が展示されていた。

 俤さんがそう言った芸術品が好きなのは知っていたので、予め調べておいたのだ。

「いやぁ、楽しかったですね」

「うん。神話の絵って、観察していて楽しいよね」

 展覧会を楽しんだ僕達は、夕日の光が刺す街中をのんびりと歩いていった。

「この後どうしますか?どこかでご飯でも食べます?」

「そう、だね………」

 何とも言えない生返事はこれが初めてじゃない。今日の俤さんはどこか心ここに在らずといった感じだ。

「あの、俤さん。今日様子変ですけど、どうかしましたか?」

「えっ?そう、かな………?」

「電話でもそうでしたけど、何だか上の空でしたし。何か悩みがあるなら聞きますよ」

 正直こんな子供が聞いても何の解決にもならないだろうけど、それが僕にできる最大のことだ。

 俤さんはもの憂げに俯いて、目線を上げた。

「それなら、二人きりになれる所行かない?そこでゆっくりと聞いて欲しいかな」

 

 

 

「ふわぁぁ〜〜〜………外に出た後のお風呂って身体に染みるわねぇ」

「冬場なら尚更ですね」

 ラブホに入った僕達は、大きな湯船に浸かって一息ついていた。

 一ヶ月半ぶりにお互い裸体を曝け出し抱き合う。

 沸き立つ肉欲に駆られて、僕の手は勝手に俤さんの身体を撫でていく。

「んっ、はぁんッ♡!………久しぶりの君の手、んんッ、はぅ、あぁッ♡!気持ちいい………♡」

 柔らかくもむっちりと弾力のある肌、ふくよかな曲線を描く身体のライン、濡れたことで艶の増した髪。

 見ているだけで溜め込んだ欲求が増長され、襲いたくなる。

 でも当の俤さんは、感じてはいても、いつものように僕を求めてこない。僕に触れようとした手を引っ込めてしまう。

「俤さん………?」

「ごめんなさい。せっかく久しぶりに会ったのに、私………」

 何かを言おうとした俤さんだが、言葉に詰まって黙ってしまった。それでも何とか言おうと息を吸い込む。

「あの、俤さん。嫌なら、無理に話さなくてもいいんですよ?」

「………ううん。君にとっても関係のある話だから、ちゃんと話したいの」

 僕に身を預けた俤さんの表情は、寂しそうというよりは申し訳なさそうだった。何か後ろめたさがあるように目を合わせようとしない。

「実はね………年末年始に旦那の実家に行ったでしょ?その時にお義母さん急かされちゃったのよね」

「急かされた………って、何をですか?」

「その………子供を、ね」

「あぁ………」

 気まずそうに話す俤さんに、僕は何と言っていいかどうか分からなかった。

 肉体関係を結んだ女性がいるとはいえ、僕はまだ高校生。普通に考えれば子供を持つにはまだ早い年齢で、想像したことすらなかった。

 でも俤さんは違う。旦那さんがいて、いつ子供を授かってもおかしくない。むしろ期待されている。

「それじゃあ、その………妊活、って言うんでしたっけ?そういうの始めたんですか?」

「始めた、って言っていいのかしらね………でも少なくとも、旦那とスる回数は増えたわ」

「そうですか………」

 自分から聞いておいて失礼だが、本音を言えば聞きたくない話だった。

 俤さんは僕のもの、なんて馬鹿なことを言うつもりはないが、少なくとも独占できている。

 そんな風に思っていたかった。

 でも実際は違う。どんな形であれ俤さんは旦那さんと結ばれていて、僕はただ彼女の空いた穴を肉体関係で埋めているに過ぎない。

 想いだけじゃどうにもならなくて、独占なんか出来るわけなくて、あまりにも脆い関係。

「旦那(あの人)もね、正直乗り気じゃなさそうなのよ。当たり前よね、子供できたら今までみたいな女遊びが出来なくなっちゃうもの」

 その言葉はきっと、自分にも向けたものなのだろう。

 子供ができれば僕とは会いにくくなる。当たり前のことだ。

「それでも『結婚して数年経つ夫婦に子供がいないなんて外聞的に良くない』ってお義母さんに言われてね。仕方なく、って感じかな」

 その声は今にも消えてしまいそうなほどに儚い。しかし彼女なりに現実を受け止めて、立とうとする力を感じられた。

「もしかして、最近連絡してこなかったのも、そのせいですか?」

「………うん。何度も何度も連絡しようとはしたのよ。でも、その度に旦那に抱かれた夜を思い出しちゃって。家族として進めるかもしれないのに、何やってるんだろうね…………」

 声が上擦り、取り乱しているのは明らかだった。

 それでも僕は黙って、最後まで俤さんの言葉を受け止める。

「でも、今日はどうしても君に会いたかったから。自分勝手なのは分かってるけど、どうしても………」

「俤さん………」

 湯船の中で俤さんは僕の手を握った。顔を上げると、真っ直ぐ僕を見つめる。

「ねぇ、お風呂あがろう。渡したいものがあるの」

 僕達はお風呂から出てバスローブを着た。いつもの流れでベッドに並んで腰掛ける。

 俤さんはバッグの中から綺麗にラッピングされた袋を取り出す。

「これ、君へのバレンタインチョコ」

 差し出された袋の中にはハート型のチョコが三つ入っている。その様子から手作りなのはすぐに分かった。

「今日はバレンタインだから。大好きな人に想いを伝える日だけど、大切な人に感謝を伝える日でもあるでしょ?」

 顔を赤らめた俤さんは、チョコを僕に差し出した。

 

 

「自暴自棄になってた、私の手を握ってくれてありがとう。何もしてあげられないのに、隣にいてくれてありがとう。旦那から逃げようとしていた私を、向き直させてくれてありがとう。まともに愛してあげられない私を、いつも………いつも愛してくれてありがとう」

 

 

 一言一言噛み締められるように紡がれる感謝の言葉が、頭の中をぐるぐると駆け巡り反芻される。

 お風呂に入っていた時よりも体が熱くなり、居ても立っても居られなくなった。

 僕は差し出したチョコを受け取る前に、俤さんの腕を掴み抱き寄せた。

「きゃっ………!」

 腕の中に収まった俤さんを強く抱き締めた。

「俤さん、ありがとうございます。あなたの想い、たしかに受け取りました」

「………うん」

 お互いへの想いが僕達の距離をさらに縮めていった。彼女の澄んだ瞳が僕を捉え、顔が近づく。

「その………いいですか?」

「うん。私の心も、身体も………今は全部、君に味わって欲しいな」

 月に照らされた僕達の影が重なり、ベッドへと沈み込んだ。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
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