「んあっ!はぁ、はぁっ、あぁッ!そこ、いいッ………もっと触って、ひゃあッ!」
シーツに身を埋めた僕達は、四肢を絡めて求め合っていた。
僕は俤さんの右胸を揉みしだきながら左の乳首を吸い、俤さんは僕の興奮を煽るように僕のモノを優しく扱く。
彼女を求める衝動に身を任せて、柔肌の感触を全身で味わう。
「うっ!俤さん………あんまり激しくすると、また出ちゃいますよ」
「だったら、今度はこっちで出して欲しいな」
俤さんは僕の腕を掴むと、自分の下腹部へと導いた。溢れ出た蜜で秘所はびしょ濡れになっており、シーツに大きなシミを作っている。
「心、満たして………」
「喜んで」
唇を奪い俤さんに覆い被さった。このまま繋がってしまいたい衝動を抑えてゴムをつける。
「入れますよ」
「うん………きて」
入り口に自分のモノを当てがい、思いっきり腰を押し進めた。溢れ出た蜜で潤う膣内は、あっさりと僕のモノを飲み込む。
「あぁぁッ‼︎そ、そんな、一気に、んん〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ‼︎」
下半身が完全に密着した瞬間、僕達は互いに体を仰け反らせた。結合部からプシュッと飛沫が上がる。
「ッ!」
火傷しそうなほどの熱と強い締めつけの快楽で、全身の毛が逆立つ。
すぐにでも果てそうだが、そんなの勿体ない。
じっとしていられなくなり動こうとするが、俤さんが僕の胸板を押さえて止めた。
「あッ、んんッ………!ちょ、ちょっと待って、ね………イッちゃって、身体が変なの………」
繋がっただけで軽く達したのか、俤さんは身体を痙攣させつつ蕩けた眼差しで微笑む。
僕のモノを飲み込んだ膣内はギューッと締まって、さらに奥へと到達させようとしている。
彼女を満たしている嬉しさに、全身の血が沸き立った。
「………ごめんなさい。あんまり、優しくしたくないです」
「えっ、ひゃあッ⁉︎」
息を整えている俤さんの腕を掴むと、思いっきり腰を打ちつけた。
突然の追い討ちに、俤さんは悲鳴にも近い声をあげる。身体がビクッと跳ねてすぐにまた達そうだ。
それでも構わずに、僕は腰を振って攻め立てる。
「あぁッ、あっ、はぁんッ!ま、待って、あぁッ!そんな、激しいと、んあぁッ!おかしくなるぅッ‼︎」
息を整う間も与えられず、僕が奥を貫くたびに身体を仰け反らせて喘ぐ。
その反応が自分によるものだと思うと、改めて繋がれた実感が湧いてくる。
いつものように気持ちよくなって欲しいという気持ちもある。
けどそれ以上に、俤さんが欲しい。自分と交わった証を刻みつけたい。
そんな想いが体を動かし、興奮を助長させる。
「あっ、あっ、ひゃあッ‼︎こ、これ、何度も、奥がぁ、あぁッ!ずっとイッて、んおぉッ‼︎はぁ、あぁんッ‼︎」
下半身を打ちつけ合う音が、段々と大きくなっていく。
ベッドが軋むことすら気にならないほどに昂った僕は、本能に従って腰を突き上げる。
さらに行き場のない快楽を激しく揺れる胸にぶつけた。力いっぱい鷲掴みにして揉みしだく。
「んきゅうッ⁉︎じゅるるるッ、くちゅ、んんッ!フーッ!フーッ!れろっ、じゅぷっ、ぢゅうぅッ‼︎」
自分の胸を握られた俤さんは、嫌がるどころか足を僕の腰に巻きつけた。
俤さんが僕を求めてくれている。その嬉しさで頭の中がいっぱいになった。
そして心と体が二回目の限界を迎える。
「くっ!俤さん………!」
熱い衝動に任せて、自分のモノを奥にねじ込んだ。快感に耐えきれず、精が噴き出す。
「ひゃあッ⁉︎熱、いぃ!はぁっ、あぁッ‼︎んん〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ‼︎」
僕が達したことが呼び水になったのか、俤さんも体を弾ませて艶やかな声をあげた。
震える俤さんに合わせるように膣内は痙攣し、絶頂に悶える僕をさらに刺激してくる。
膣内で射精するだけでも頭が真っ白になるほどに気持ちいいが、一緒に果てれば、その快感は何倍にも跳ね上がる。たまらくなって、僕は俤さんの胸元に吸い付いた。
一度果てているにも関わらず、さっきよりもたくさん出てしまう。
「はぁ、はぁ………すごいわ、ゴム越しでもちゃんと分かる。君の精液が、ドクドク出てるぅ………!」
互いに絶頂の波が引くと、身体の力が抜けた。ギュッと抱き合い、若干ボヤけた視界で見つめ合う。
「どう?満足できた」
「………最高でした」
僕の身体を労わるように、俤さんが背中を撫でてくれる。
でもその手つきは慈愛とは少し違う。僕のさらなる興奮を掻き立てるための妖艶な愛撫だ。
「でも………まだ、満足出来ないです」
こんなことされて、満足するわけない。
果てたばかりだというのに、僕のモノは俤さんの膣内で屹立したままだ。
あんなに気持ちよかったのに、全然収まらない。
それは当然、繋がっている俤さんにも伝わっている。
「だよね………私も」
俤さんは僕に唇を押し付けて、繋がったまま体勢を変えた。僕の上に跨ると、ゆっくり腰を上げていく。
「んんッ!」
悶えながら僕のモノを抜くと、精液の溜まったゴムを取り外して微笑んだ。
「汗かいちゃったし、続きはお風呂で、ね?」
「………はい」
僕はゴムを適当な数掴むと、身体を起こした。
ザザーッ
「はぁ、あっ、あぁッ!もう、そんなとこばっか、洗ってぇ、んんッ!」
降り注ぐシャワーの音に混じって、俤さんの声が浴室に響く。
汗を流すつもりでシャワーを浴びていたのに、その間すらも我慢出来なかった。
後ろから俤さんを抱きしめると、ボディソープを垂らした手で彼女の身体を洗う。
すっかり回復したモノを押しつけつつ、思うがままに豊満な胸を揉みしだく。
ふくよかな双丘はヌルヌルになり、僕の手からこぼれ落ちそうになる。それを止めるように、夢中になって捏ね回す。
「もう………洗うなら、他のトコロもちゃんとシて?」
囁いた俤さんの姿が、目の前の大きな鏡に映る。
「ん?これって………」
「はい?あっ………!」
俤さんの視点が、鏡に映った自分の胸元に向く。僕も今気がついた。
そこには真っ赤な痕が刻まれていた。さっきイッた時に僕がつけてしまったんだ。
「えっと………す、すみません………」
昂っていたとはいえ、こんな痕つけてどうするんだ。不倫しましたって言ってるようなものじゃないか。
しかし俤さんは困る様子も見せずに、目を伏せて首を振った。
「ううん、ちょうどいいわ」
「えっ?」
「これでしばらく、旦那には抱かれるわけにはいかなくなったから」
自分につけられた痕を撫でると、俤さんは僕を椅子に座らせて、自分もしゃがみ込む。
「今度は私の番。君がいっぱい揉んでくれたコレで、たっぷり洗ってあげるね」
泡まみれになった胸を持ち上げて僕のモノを包み込んだ。
ヌルヌルになったおかげで、弾力に富んだ膨らみは僕のモノにピッタリと吸いつく。
「くっ………!」
ムチッとした弾力に包まれ、強い刺激に身体が跳ねた。
そんな僕の反応を面白がるように、俤さんは胸を揺らして擦り出す。
「はぁ、うっ………!俤さん、それ、いい………ッ!」
「んっ、んっ、んっ………可愛い反応しちゃって。そんなに気持ちいい?それなら、もっと激しくしてあげる」
俤さんが長い舌を伸ばすと、その先から唾液が垂れてきた。それは胸の谷間へと流れていき、僕のモノに絡まっていく。
「ほら、これなら激しくしても痛くないでしょ?」
さっきよりも激しく胸を揺らして、俤さんは僕の表情を覗き込む。
垂れてきた唾液が潤滑油のようになり、擦られても感じるのは温かな弾力のみ。それが駆け巡る快楽を加速させる。
「はぁっ、んっ………何だか、私もいつもよりも気持ちいい………!」
「ちょっ、俤さん、ッ!いきなりそんな、うっ!」
浴室の熱に当てられたのか、俤さんは湧き上がる衝動をぶつけるように、僕のモノを胸で扱く。
腰の上で双丘が弾む淫らな様が、また僕の興奮を引き上げる。
「もう、無理ッ………出る!」
またもや限界となり、僕は腰を突き上げた。下半身がビクッと震え、数分間溜めた精が噴き出される。
「ひゃあッ⁉︎あはっ、まだこんなに出るなんて、んんっ!」
噴き上がった精は俤さんの顔にかかり、さらに包み込んでいる胸も汚してしまう。それでも自分では止められない。
「はぁ、はぁ………すみません俤さん、汚してしまって、んッ!」
絶頂の余韻に震えていると、俤さんに唇を奪われた。舌が入り込んできて、僕の舌と絡み合う。
そのまま俤さんは僕の膝の上に座ると、僕を強く抱き締める。
「ちゅっ、んんッ!れろっ、れろっ、ぢゅうぅッ!ちゅぱっ、んっ、ぢゅるるるッ!」
息が荒くなっていた時にキスをされて息苦しいはずなのに、激しくされたら心地良さが優った。
「ぷはぁっ!………君が気持ち良さそうだから、私もまた滾ってきちゃったわ」
俤さんは僕の首筋を舐めると、全身に優しく手を滑らせる。
「今度は、私のアソコ洗ってくれる?」
「あぁッ‼︎んっ!んっ!んあぁぁッ‼︎待って、ひゃあッ!ちょっとは、休ませ、んんッ!」
「ダメですよ。まだ洗い切ってないんですから」
「そんな、はぁんッ!そこ、擦られるの無理ぃ、んんッ!」
激しい水音と俤さんの嬌声が浴室にこだまする。
椅子に座って俤さんを抱き寄せ、彼女の秘所に指を潜らせた。キツく締まる膣壁をかき分けて、内側から愛撫を繰り返す。
奥底から溢れ出た蜜が、肌の上を滑りポタポタと滴る。
段々と手を激しく動かすと、俤さんの声が甲高くなっていく。
「んっ、はぁっ!これ………すごいの、きちゃうぅッ!」
「いいですよ。このままいっぱいイッてください」
「んあぁぁッ‼︎ダメッ、イくイくイくぅッ!あぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜ッッッ‼︎」
プシャアァァ───────ッ‼︎
俤さんが体を仰け反らせた瞬間、秘所から噴水のような潮が噴き上がった。透明な飛沫が鏡にまで降りかかる。
僕に抱きつきながら、腰を震わせて絶頂を受け入れた。
「んんッ!はぁっ、ふぅ、んっ………君、上手すぎるよぉ………」
果てたばかりだというのに、俤さんは痙攣する秘所を僕のモノに擦らせた。熱い視線で僕を見つめる。
「このままじゃのぼせちゃうし、続きはベッドの上でシよ?」
「今日は限界まで付き合ってもらいますよ」
「こっちこそ」
パンッ!パンッ!パンッ!
「あぁッ!はぁ、はぁんッ!奥に突き刺さって、また、イッちゃう、んはぁッ!」
お風呂から上がった僕達は、体を拭くことも忘れてベッドに転がり込んだ。
何度も交わり合い、快楽に酔いしれた。ベッドの周りには、その証となる使われたゴムが散らばっている。
僕の上に跨って繋がり、俤さんは激しく腰を揺らす。それに合わせて胸が弾み、僕を視覚から興奮させる。
反射的に手を伸ばし、僕は胸を鷲掴みにした。
「きゃあッ!いいよぉ、もっと強く揉んでいいよぉ………!」
交わりすぎて、普通に触られてるだけじゃ我慢できなくなったみたいだ。
手の跡がつきそうなほど捏ね回して、さらに乳首を吸い上げて甘噛みした。
「〜〜〜ッ‼︎い、痛いの、気持ちいいぃ………!」
締めつけが強くなり、頭の中が沸騰しそうなほど熱くなる。
身体はとっくに限界を迎えてるはずなのに、湧き上がる欲望は止まらない。
俤さんと繋がれている、求め合っている。ただそれを自覚したくて、僕は絡みつく。
そこにあるのはただの肉欲だけじゃない。心の奥底から溢れ出る愛おしさも混ざり、僕を満たしていく。
そして満される想いが、また体を動かす。
「俤さんッ………僕、あなたのこと、んッ!」
想いが言葉になろうとした瞬間、俤さんがキスで遮った。唇を離すと優しく頰を撫でた。
「今は………私の
「………分かりました」
「あぁんッ!はぁ、あッ、あッ、あぁッ‼︎もっと突いてぇ、精液だしてぇッ‼︎」
僕は下から思いっきり腰を突き上げた。気持ちを押し込めて、その分遠慮なく体をぶつけ合う。
剥き出しになった本能が理性を取っ払い、僕達はさらなる快楽へと登り詰めていく。
「俤さん!」
「わ、私も、イくぅ、はぁんッ‼︎ひゃっ、あぁッ!あぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ‼︎」
欲望のままにカラダを求め合った僕達の心が、じんわりと溶け合わさった。
翌朝
目を覚ますと、体が重くてうまく動かない。
明らかに自分の部屋じゃない模様の天井に違和感を覚え、目線を右横にたおす。
そこにいたのは………
「俤さん………」
一晩中獣のように身体を重ねた人妻が、僕の隣で寝ていた。
安心して気の緩んだような、気持ちよさそうな寝顔だ。
起伏の激しい妖艶な身体を薄いブランケットのみで隠しており、肩から胸元まで白い肌が露わになっている。
「綺麗だなぁ」
思わず声が漏れた。
そっと手を伸ばして、彼女の頰を撫でる。
すると布団から左手が出ており、薬指には結婚指輪が輝いていた。
これを外したら、俤さんは僕のものになってくれるだろうか。
あり得ない想像なのは分かってる。
それなのに………気がついたら指輪に手が伸びていた。スルスルと指から抜けそうになる。
これさえ無ければ、俤さんを縛るものさえ無ければ………
『家族として進めるかもしれないのに、何やってるんだろうね…………』
ふと、バレンタインの時に俤さんが言っていた言葉を思い出した。
「………まったく」
僕はそっと指輪を離した。
「俤さん、そろそろ起きてください」
軽く体を揺らして声をかけると、俤さんの長いまつ毛が揺れて、瞼がゆっくり開いていく。
「んん………?」
「おはようございます」
「あぁ………おはよう」
目を覚ました俤さんは、ころんと横に転がって僕も間近に寄り添う。
脱ぎ散らかされた服、シーツに残るシミ、身体に刻まれた痕。昨晩の交わりの証が今でもはっきりと残っている。それは僕達の体にも。
「まだ身体が重いわね。さすがに張り切りすぎちゃったかしら」
「えぇ。でも、すごい満足しました」
「ありがとう。私もよ」
一晩経っても残る倦怠感に浸りながら、僕達はベッドの上で絡み合う。
僕の脚の間に座る俤さんの身体を優しく撫でると、嬉しそうな吐息を溢した。
「はぁっ………こんなに心地の良い朝は久しぶりね。いい気分だわ」
「それは、いっぱいシたからですか?」
「…………さぁ、どうかしらね」
俤さんは表情を隠すように目を伏せて、優しく身体を押しつけた。
「あの、この後どうしますか?俤さんさえ良ければ、今夜も………」
「あぁ………ごめんね。今日は旦那が早く帰ってくるから、お昼には帰らないと………」
「あっ、そうですよね………」
さすがに二日連続で夜を過ごすのは無理か。
「いくら調査が終わったとはいえ、一回疑われちゃったし。あんまり外出しすぎるのはね」
「あぁ、それなんですけど………」
「ん?どうかしたの?」
「えっと、実は………」
これは、話さなければならないだろう。
僕は俤さんの様子を伺いつつ、言葉を選んで今回の調査された目的を話した。
自分の不倫を詮索させないためなんて、聞いてて嫌な気持ちになるに決まってる。
だから少し言いにくかったけど、変に不安にさせてしまうのは俤さんが辛くなってしまう。
それに今回のことで一番の当事者は俤さんだ。結果が何であれ知るべきだろう。
「………ってわけなんですが」
「そっか………」
「あぁ、でも変な人に言われただけですし、本当って決まったわけじゃ………」
「いいのよ、気を遣わなくて。たぶん本当のことだろうし」
何とかフォローしようとはしたが、俤さんは首を横に振る。
それでも浮かない表情は変わらない。家族にこんなくだらない理由で調べられたなんて知ったら当たり前だ。
「でも、こんな辛いこと………」
「不倫はお互い様だし、君のせいじゃないでしょ?これは、私達夫婦の問題」
俤さんは僕の頭を抱えると抱きしめた。顔にむにゅっと双丘が押しつけられて、心音が高鳴る。
「それに、今は君がいるから。何があっても辛くないわ」
「俤さん………また、お出かけしましょうね」
「あら、お出かけだけ?」
「………エッチも」
「ふふっ、楽しみにしてるわ。また、私を満たしてくれる?」
「もちろんです」
心の奥底がじんわりと温かくなり、僕は押しつけられた胸元にキスをした。
全身にじっくりと手を這わせると、間近で目線が重なる。
「んっ………」
そっと唇を重ねて、僕達は手を繋いだ。
この温もりを離さないためなら、どんなことでもできる。そんな気がした。
「そういえば、何で俤さん僕の家の住所知ってたんですか?僕教えましたっけ?」
受付からの電話を受けてホテルから出る準備をしていた僕は、ふと気になったことを尋ねた。
俤さんからの手紙には、当たり前だが僕の住所が書かれていた。
送られた時は舞い上がったけど、よく考えたら教えた覚えないんだけど。
すると俤さんは目を丸くして首を傾げた。
「えっ?君がウチに住所書かれた封筒送ってくれたんじゃないの?だから、手紙を送って欲しいって意味かと………」
「はい?そんなことしてませんよ」
大体、そんなことして旦那さんに見つかったら、それこそ終わりだ。そんな馬鹿なマネはしない。しようとは思ったけど。
「そ、それじゃあ、一体誰が………?」
俤さんに教えたって事は僕達の関係を知ってる。しかもこんな事するようなメリットなんて僕達以外にはない。誰がこんなことを?
「ッ⁉︎………まさか、あの人か?」
一日前の夕方
「ふぅ………思ったよりも早く暇になったなぁ」
『Cafe Red Poppy』にてコーヒーを飲んで一息つくと、彼は窓の外を眺めた。
俤に対する不倫の調査が終わったことを伝えた青年は、この後の予定をぼんやりと思案する。
「さて、ここからどうしたものか」
「進学か就職でもしたら?」
すると呆れたような声音と共に、目の前にホットケーキが置かれた。
出してきたのは彼とあまり歳の変わらないアルバイトの少女。私服の上に紺色のエプロンをして、結われたサイドテールを揺らしている。
「だったらここで雇ってくれますかぁ?
「嫌よ。アンタなんか雇ったら客足が遠のくでしょ」
「これはこれは、手厳しいですねぇ」
青年が手をヒラヒラさせると、分と呼ばれた少女はパシッと払った。
店員が客にする態度ではないが、青年は気にするどころかニヤニヤ笑ってまたコーヒーを飲む。
「というか、さっきすごい勢いで出て行った人、アンタの知り合い?」
「えぇ、私のアソビ相手です。非常に優秀で、面白い人ですよぉ」
「アンタ………また碌でもない事に人巻き込んだの?」
彼との関係性を察した分は苦々しい顔を浮かべて目を細める。
「碌でもないとは失礼な。『探偵妨害RTA』最短記録更新したんですよ?」
「………何それ?」
「ルーレットで決めた探偵事務所から一つ調査依頼を選んで、いかに最短で誤情報を掴ませるか。減点方式で、時間と追加調査がされなければさらに減点、最高でしょう?」
「馬鹿じゃないの?」
笑顔を崩さない青年に、分は引き気味だ。
「普通に業務妨害じゃない、アホらしい」
「探偵なら妨害も仕事の内です。それに妨害されたと気づかれないように妨害する。ここがポイントなんですよぉ」
分の罵倒受け流し、青年は笑ってホットケーキを切り分ける。一口頬張ってから美味しそうに頷いた。
「ていうか、探偵?あの人尾行でもされてたの?」
「彼ではなく、彼の不倫相手ですよ。まぁただの動向調査だったし、あの二人が有能なおかげで、やる事は探偵のことを伝えて、手紙送らせて、電子的な記録を改竄するだけでしたが」
「改竄って、結局犯罪じゃない………」
「仕方ないでしょう。僕の
呆れたように頭を抱える分に、青年は肩をすくめて返した。
電子的な記録の改竄、はやい話がハッキングだ。それが彼の本業。
俤の旦那がかなり無茶な要望をして、出かけた先の監視カメラ映像や俤のスマホの中身を遠隔で調べさせようとまでしてた。
もちろん探偵も法的にやれることとやれないことがあるが、監視カメラ映像は入手しそうになっていた。
だからとりあえずバレそうな記録は彼が隠蔽していたのだ。
「アンタさぁ、そんな頭いいならハッキングなんてしてないでマトモに働けばいいのに」
「ニートに無茶言わないでくださいよぉ。それに、僕は人の感情を刺激して観察したいだけです」
「恋愛ゲームでもしてれば?」
「人から提供された娯楽をこなすだけじゃつまらないし、簡単すぎてやり甲斐がない。思い通りにいかないリアルだからこその快楽があるんです」
ホットケーキを一口食べると、愉悦に浸ったように嗤う。
「人を刺激し、それに葛藤して生き抜く人々を見届ける。そんな最っ高の娯楽をこのリアルで作る!人間にしか出来ない生き様ってヤツですよぉ」
与えられた物をやるだけじゃ、投げられたボールを取りに走る犬と変わらない。
電子の娯楽の溢れた今の時代だからこそ、答えの無いリアルの中で自分の力で生み出すことに意味がある。それが今を生きる人間だ。
「この世界の人間はアンタのおもちゃじゃないっつーの」
「もちろん、だからおもちゃにするために努力する価値があるんです。あなたもね」
「アンタねぇ………」
「おーい分、何してるのー?」
流石に一言言ってやろうかと思ったが、カウンターの奥からマスターである姉に呼ばれてしまった。お喋りはここまでだ。
「今行く〜!とりあえずこの店で変なことしないでよ、
「それは僕の気分次第ですね」
最後までニヤニヤ笑って分を送り出した青年、万年青はコーヒーを飲むと天井を見上げた。
目を閉じて口の端を吊り上げる。
「ヒッヒッヒッ………さぁて、今度は何して遊ぼうかなぁ」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
評価、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。