第1話
とある土曜日。金曜日までの疲れを取るということで、僕はいつもより遅めに起きた。
自分で休みの日に起きる時間を決められるのは一人暮らしの特権だ。
朝食は近くにあったバナナ一本だけ。運動しない、成長期を終えた高校生ならこれくらいで充分。
さてと、今日は一日何しようかな?そんなことを考えながら僕は自室に戻った。
とりあえずスマホゲームでもやりながら午前中は潰れるとして………午後は昼寝でもするか。
そう思ってスマホに手を伸ばした時だった。そのスマホが震え出したのだ。
ん?電話か?かけてきたのは…………叔母さん?何だってんだ、こんな休みの日に。
小さい頃に親を亡くした僕の親代わり。と言っても最近はほとんど連絡してないし、かけてくる理由が分からない。
面倒な気がしないでも無いけど、スルーするのはそれはそれで面倒だ。
僕はスマホを手に取り電話に出た。
「もしもし叔母さん?」
『あ、うん。元気にしてる?』
「心配は嬉しいけど、手早く用件を」
こんな朝っぱらから電話なんて珍しいからな。何か用件あってのことだろう。
『そうね。実はちょっと頼みたいことがあって』
頼みたいこと?僕にか?
「聞くだけ聞きます。何ですか?」
『実は遺品整理を頼みたいのよ』
「遺品整理って………もしかして叔父さん亡くなりました?」
そんなぽっくり逝くような歳じゃなかったはずだが。病気も無かったし。
『縁起でもないこと言わないの。ウチじゃなくて私のお友達の家なのよ』
「ほぉ」
叔母さんの電話の内容をまとめると次のようだった。
叔母さんの友達の夫婦がこの前事故により他界。葬式だ何だのはもう片付いたんだけど、遺品整理が残ってる。
一応子供が一人いるらしいけど、一人でどうにかなるとも思えないので助けとして僕を派遣したい。との事。
「なるほど」
『お願いされてくれるかしら?』
たしかに遺品整理ってまぁまぁめんどくさいもんな。子供一人で何とか出来るわけない。
けど………
「僕がそこで『はい、分かりました』って言う性格じゃないのは知ってるでしょう?そこは叔母さんが行くのが筋なのでは?」
僕とは無関係の人達だ。そんな人達に手を伸ばすほど、僕はいい人間ではない。
というか子供いるって事はその子とコミュニケーションが必要って事でしょ?面倒だって。
『それはそうなんだけど………実はその家があなたの住んでるアパートの近くなのよ。それ以外に知り合いが近所にいなくて』
なるほど、僕が近くに住んでるからついでにって事か。たしかに理にはかなってる。
でもなぁ、面倒事には変わりない。
「僕詳しくないですけど、そういうのって業者とかに頼めばいいのでは?わざわざ素人の僕が出向く必要は無いでしょう」
どんな家かは知らないけど、そんなのも呼べないような家なら、それはそれで行きたくないし。
『うーんとね………実はその家ちょっと変わっててね。色々とややこしい事になってるの』
ややこしい事?何か一気に怪しくなってきたんだが。
「それなら尚更僕が行くのはマズいでしょう?多少遠くても事情を把握してる人が行くべきでは?」
『それはそれでちょっとマズいのよ。とりあえず行くだけ行ってみてくれない?それで嫌なら嫌でいいから』
はぁ?何だそれ?めちゃくちゃすぎる。けどここでグダグダ話してても仕方ないか。
「分かりました。それで場所は?あんまり遠いなら嫌なんですが」
『本当に近くよ。そのアパート出て右に真っ直ぐ行って、一番奥の所』
いや本当に近いな!たしかに距離だけ考えたら僕が適任かもしれない。
それなら今からちゃっちゃと行って確かめるだけ確かめてくるかな。
というか…………ちょっと待てよ………右に行って一番奥って言ったら………
『それじゃあよろしくね』
叔母さんはそう言うと電話を切った。はぁ、ちょっと嫌な予感、もとい確信がする。
僕は適当にパーカーとコートを着ると、必要最低限の荷物だけ持って家を出た。
自転車に乗って言われた通りの道を進む。
そして右の通りをひたすら真っ直ぐに進むと、一軒の建物に到着した。
「やっぱり、ここになるんだよな………」
僕は目の前の建物を見て呟いた。僕はここに何度か来たことがある。
『
割と古い神社だ。今年の初詣も結構人来てて、僕も甘酒目当てで行ったんだよね。まぁそれ以外じゃほとんど来ないけど。
でもまさかな。こんな大きな所なわけないよな。けど言われた通りに行くとここ以外無いし。
仕方ない。少なくともこの近辺なのは確かなんだ。神社の人に聞いてみるかな。………はぁ、人とのコミュニケーション得意じゃないんだが。
僕は神社の中に入ると、境内を通ってさらに進んでいく。さすがに何もない時は人ガラガラだな。
さてと、適当に受付にでも行けば人いるだろ。というわけで受付についた僕は、戸を軽く叩いた。
あ、これ事情知らん人が出てきたらどうしよう。
そんな不安が思いつき心配になる中、奥の方から人が一人来た。
「はい、何でしょうか?」
そう言って出てきた人を見て、僕は思わずポカンとしてしまった。
出てきたのが僕と同い年くらいの巫女の少女だったからだ。
あれ、バイトの人………なわけないか。この時期にそれは無いよな。
でも目の前にいる人はどう見ても僕と同い年くらいなんだよな。少なくとも大人には見えない。
背丈は僕より少し小さいくらい。紅白の巫女服を着ていて、長い艶やかな黒髪には髪飾りが飾られていた。
今時には珍しい和服がよく似合う人、ってのが第一印象かな?お淑やかなお嬢様って感じかな。
とても綺麗で日本の女性らしい雰囲気がある。見ていて自然と惹きつけられる。
僕はしばらくの間彼女の纏う雰囲気に見惚れていた。
「あの………どうかしましたか?」
「え⁉︎あ、はい!」
ボーッとしていた僕は、巫女さんに話しかけられてビクッと跳ねた。いかんいかん。
「あ、あの、実はこの辺りで人の家の遺品整理を頼まれているんですよ。ただ明確な場所が分からなくて。何かお心当たりありますか?」
一応身内で不幸のあった家を聞くという割と失礼な事なので、その辺は気を使うよな。
すると巫女さんは驚いた顔をしながら、ぼそっと呟いた。
「あ………それでしたら………」
お、どうやら知ってるみたいだ。それならさっさと向かって………
「たぶん………私の家、かと」
うわぁ、マジかよ………って、私の家?
「どうぞ」
「あ、ありがとう、ございます」
目の前に出されたお茶を躊躇いがちに受け取る。
あの後僕は巫女さんに案内されて受付の奥(そこが家になってた)に通された。神社の裏側ってこうなってるんだな。
内装は和風で、今僕達がいるのも畳の部屋だ。今時部屋一面畳って珍しくないか?
何というか一昔前前の時代にタイムスリップしたみたい。つい正座してしまう。
巫女さんはお茶を置いていたお盆を傍に置くと、その場に正座して僕と向かい合った。
「えっと………あなたが、この家の人…で、いいんですよね?」
「はい。
巫女さん、もとい東海林さんはそう言って丁寧にお辞儀した。
子供がいるのは知っていたが、まさかの女子。しかも同い年って。余計に面倒。
変に長話するのも嫌なので、僕も適当に自己紹介して、早速本題に移る。
「僕の叔母から遺品整理を手伝うよう言われたのですが」
「はい、本当にありがとうございます」
いや、まだやるとは言ってないんだが。いかん、話す順序を間違えたか。
でもここまで来てやらないとは言いにくいよなぁ。くっ、やっぱり来るんじゃなかった。
仕方ない。こうなったら内容で判断するか。それなら自然だし。
「えっと………具体的にはどこの片付けをするんですか?」
「はい。主にやるのは両親の寝室なのですが、その他にも倉庫などが………」
それから僕は東海林さんから整理の説明を受けた。あーこれもう断れないわ。
それにしてもこの子すごいしっかりした子だな。両親いきなり亡くして、心の整理ついてるのかな?
何か若干クールというか。まぁ初対面の人間に馴れ馴れしかったら、それはそれで引くけどね。
「以上になりますが、何か分からないところなどありましたらお聞きください」
「はい。それでは一つ………遺品整理をするのは僕達だけですか?」
「はい。基本的には二人であると伺っております」
いやいやいや。そこはちょっと変だろ。何で子供二人でやらせるの?
「あぁ、それとお部屋にご案内いたしますので、ついて来てください」
ん?部屋?遺品整理する部屋の事か?とりあえずついて行ってみるか。
東海林さんは廊下を歩いて行って、一つの部屋の前で止まった。そして部屋の扉を開ける。
ここが整理する場所?………にしては何も無いな。
「あの………この部屋は?」
「あなたの泊まる部屋、ですが」
は⁉︎泊まる部屋⁉︎どういう事⁉︎
「えっと………僕が泊まるってどういう事ですか?」
「? あなたの叔母様から『手伝いに来る子が泊まるから部屋を開けておいて』と頼まれたのですが」
いや、そんな話聞いてないんだけど。てっきりやるにしても通う形なるかと。
「となると………僕、しばらくここで暮らすって事?」
「そう、なりますね。よろしくお願いします」
そう言って東海林さんは丁寧に頭を下げた。
嘘だろ、おい。
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