「ちょっとどういう事ですか?」
『ん?何が?』
「何がじゃないでしょう。何で僕が神社に泊まる事になってるんですか」
遺品整理手伝えまでだったらまだ許容範囲内だったけど、これはさすがに無理がある。
『だってそっちの方が神社の場所とか覚えていいでしょ?』
「しかしこれは………色々と問題があるでしょう」
『紙縒ちゃんの事?すごくいい子だと思うけど?』
そういう問題じゃない。歳の近い男女が二人きりで暮らす事に問題があるって言ってんだよ。
「そもそも何で夫婦の子供が、僕と同い年の女子って黙ってたんですか?わざとですよね?」
よく考えたらそういった情報はコミュニケーションの上では必要なものだ。そこをボカして何が目的だ?
『だってそれ言ったら絶対に断ったでしょ?ただでさえ乗り気じゃなかったし』
当たり前だろ!女子とのコミュニケーションなんて面倒過ぎるわ!
『黙ってたのは悪かったわ。けどね、はっきり言うと、紙縒ちゃんって………ちょっと箱入り的なところがあるのよ。一人暮らしは危険でしょ?一緒に整理する人が一緒に暮らすのが一番良かったのよ』
………ま、まぁたしかに。一々別の人を使うのは面倒だからな。
「けどさぁ………」
『あなたが人とのコミュニケーション苦手なのは知ってるけど、お願い。ワガママ言う子じゃないし礼儀だってしっかりしてたでしょ?』
むしろ硬いくらいだったが、そりゃ変に気難しいよりかはいいと思ったよ。でも………
「はぁ、分かりました。要はさっさと片付け終わらせればいいんでしょう?」
『お願いね。あ、それと紙縒ちゃんだけど、学校同じだから一緒に登校出来るわよ。だからその辺も含めて必要な荷物はそっちに移しなさい』
まぁそうなるんだよな。めんどくさいなぁ。というか学校同じなのか。
「分かりました」
『それじゃあ頼んだわよ。何かあったら連絡してね』
「はい」
「それとあなたのことだから無いと思うけど、紙縒ちゃんに手出したりしないでよ。一応婚約者もいるお嬢様なんだ………」
僕は無言で電話を切るとバッグの中に叩きつけた。
そこの可能性が無きにしも非ずから一緒に暮らすのはどうだ、って話なんだろ!
まったく、とりあえず今の僕のやるべき事は一秒でも早く遺品整理を終わらせる事だ。そうすればここともおさらばだしな。
そうと決まればちゃっちゃとやるか。僕は荷物を待ってくるのを後回しにして、東海林さんのところに向かった。
「お待たせしました」
「いえ、叔母様とは話せたのですか?」
そう言う東海林さんは巫女服のままだ。まさかあれが私服か?まぁ似合うとは思うけど。
「はい。これからしばらくの間お世話になります」
「いえ、こちらこそ」
そう言って僕達は頭を下げた。うん、これはいいな。他人行儀でやりやすい。
僕と東海林さんはまず物置きに向かった。結構残ってるものがあるところだ。
「ここの物を整理しながら、いらないものを出せばいいんですね?」
「はい」
はぁ、これを見ただけでも今日中には終わらないのが分かる。
というわけで早速作業開始だ。
僕は見つけた物を東海林さんの指示を受けながら、まとめていらないものを出した。東海林さんは物の仕分けだ。
一輪車あって良かった。これを全部手で持つのはキツい。
東海林さんは他にもやる事があるのか、度々抜けて神社の中を駆けていた。忙しい人だな。
一応僕と同い年なんだろ?いつもあんななのかな?
そんなこんなで作業していたらあっという間にお昼になった。
ふぅ、疲れたぁ。おかしいな、本当なら今頃休んでるはずなんだけど。
すると物置きの仕分けをしていた東海林さんが、僕に言ってきた。
「一旦休憩をなったらどうですか?お荷物をこちらに運んでくる必要もございますし」
そうだな。この後も作業するとして、春分過ぎたとはいえ今は暗くなるのが早い。夕方に取りに行くのは危ないか。
「そうですね。僕一旦家に戻って、荷物運ぶついでにご飯も食べてきちゃいます」
「はい、分かりました」
というわけで僕は一旦家に戻りお昼ごはん(茹で卵二個)を食べると、必要最低限の荷物を持って神社に向かう。荷物重いぃ。
それにしても、こうやって他人の家に泊まるの久しぶりだな。何か無駄に疲れそう。
僕が戻ると、東海林さんは既に作業を再開していた。
「遅くなりました」
「いえ。お荷物の方は大丈夫ですか?」
「はい。今置いてきます」
僕は荷物を部屋に置くと、すぐさま物置きに向かう。東海林さん、ちゃんと休めてるのかな?
そんな事を気にしながら、僕達は作業を再開した。
少しの間だけど、東海林さんがすごい真面目なのは分かった。
こんな寒い中テキパキと仕事してるんだもん。自分の気持ちの整理すらまだなのかもしれないのに。
親の教育がしっかりしてるってのもあるけど、東海林さん自身の性格もあるんだろうな。大したもんだよ。
こうなりたいとは思わないけど、尊敬出来る人だとは思う。
こうして作業は続いて、結構物置きは片付いてきた。
すると僕はある事に気がついた。
「東海林さん、身体震えてますけど大丈夫ですか?」
「え?………あぁ、少し寒いから、ですかね。でも大丈夫ですよ」
まぁたしかに外寒いよな。日も傾いてきたし。
「けど少し顔も赤いですし、疲れているなら少し休んだ方がいいのでは?」
「しかしあと少しなので、それにお客様にだけ働かせるのも………」
真面目だなぁ。めちゃくちゃ働いてると思うけど?
はぁ、仕方ない。
僕は着ていたコートを脱ぐと東海林さんに肩にかけた。
「え?」
「明日もあるんです。身体は大切にしてください。それはそれで面倒なので」
まぁあと少しだし、あんまいらないと思うけど、一応ね。
「しかしそれではあなたが………」
「構いませんよ。あなたよりは働いてませんから」
そう言って僕は作業を続けた。さてと、あと少し頑張るか。
そんなこんなで日も暮れて作業は終了となった。一応物置きはある程度終わった。
でも他にやる事もいっぱいだ。というわけでお泊まり確定。
「お夕飯の準備をしてきますので、しばらくお待ちください」
そう言って東海林さんはどこかへ行った。よく働くなぁ。
さてと、それじゃあ僕は部屋に戻る………のはやめとこ。ちょっと東海林さんが心配だ。
僕は家の中をウロウロしながら調理場(と言っていいかは知らん)に辿り着いた。
するとそこにはエプロンを着た料理中の東海林さんがいた。というかいつまで巫女服でいるの?
僕に気がついた東海林さんは振り返った。
「あ、どうかされましたか?お夕飯ならまだですが」
「いえ。よろしければ手伝おうかな、と」
というかやっぱり調理場も、何となく古風ね。物は普通何だけど、何か昭和のキッチンみたいな。
「そんな、お客様にやらせるわけにはいきません」
「いいですよ、僕も暇なので。これ切ればいいですか?」
僕は調理場に入ると、まな板の上にあったにんじんを手に取った。見た感じ味噌汁でも作ってんのか?
近くにあった包丁でにんじんを切っていく。
「すみません、やらせてしまって」
「いえいえ、僕の方こそお世話になりますからね。これくらいはしないと」
ぶっちゃけこの状況には不満だらけだが、こんな頑張ってる子見てたら何か自然と体が動いた。
「あんまり働いてると身体壊しますよ?」
「これくらいは、別に………」
「身体は慣れてても精神面はそうではないでしょう?」
精神面の負担は身体にも影響する。それは気をつけないと。
「そんな事………神社を継ぐ者として、これくらいの負担は………」
「継ごうが継ぐまいが身体の構造は変わらんでしょうに。よく頑張りますね」
東海林さんだってまだ高校生だ。他にやりたい事とか無いのかな?僕なら絶対そっち優先にするね。
僕にはとても真似できない、というよりしたくない事だ。
「というか僕のこと頼ってくださっていいんですよ?一応そのために来たので」
遺品整理のためだけだったが、こうなったらヤケだ。多少の雑用もやってしまおう。一応泊めてもらってるし。
「いいえ。家の整理を手伝ってくださっているだけで、充分ありがたいですから」
「………そうですか」
あんまり無理に詰め寄っても逆に疲れさせるだけだからな。今はあまり僕が東海林さんの事に関わらない方がいいのかもしれない。
一人でしか解決出来ない事もある。それが彼女なりのやり方なのかもしれない。
その後ご飯を作り終えた僕達は、一緒に食べた。まぁそれなりに上手く出来たと思う。
それから僕は先にお風呂に入らせてもらった。木が使われた風呂場って初めて入ったよ。
それからは部屋に篭りスマホをイジっていた。
どうせなら家の中の整理やっちゃおうとは思ったんだけど、東海林さんがその辺は慎重にしたいんだと。
それから東海林さんはやらなきゃいけない事があるからと、自室に向かっていった。
正直さ、不慮の事故によって跡取りが一人残されてしまった。
この状況で東海林さんが大きな負担を背負うのは、ある意味必然的なものだと思う。そう教育もされてきたんだろう。
それに一般市民の僕がどうこう言うのは間違ってる。いわゆる家の事情ってヤツだし。
でも彼女は女子高生で、まだまだ学び途中で成長中の子供である事も、また事実だ。
そんな東海林さん一人にこの神社の全てだけを背負うなんて、可哀想とかそれ以前に無理がある。
けど真面目な東海林さんは、それをちゃんと背負おうとしている。大丈夫かな………。
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