こうして二日目。
僕はいつも通り腹時計で起きた。
目を覚まして、一瞬どこかと焦ったけど、すぐに状況を思い出した。あぁびっくりした。
って、今何時だ?近くにあったスマホを手に取って見てみると、今は六時半だった。
僕は体を起こして大きく伸びをした。ふぅ、久しぶりに肉体労働した日の翌朝って、何か体が硬く感じる。
パパッと着替えると、部屋を出た。何か人の家で着替えるって違和感あるなぁ。
えっと………
と言っても昨日一日一緒にいただけで、今どこにいるかは大抵予想がつく。
そんな事を考えているうちに、その予想の場所についた。そしてそこには………
「あ、起きたんですね。おはようございます」
予想通り東海林さんがいた。まぁ僕より早く起きてるってのは予想出来てたけどね。
それにしても、こんな朝早くからご飯の準備しててよくやるなぁ。
東海林さんは、僕が来た所、調理場で朝ご飯の支度をしている。格好は昨日と同じだ。朝から晩まで巫女服かよ。
すごい早く起きてたんだろうな。朝からよく頑張る子だ。
「おはようございます。もうちょっと早く起きた方がよかったですか?」
「いえ、私は朝やる事があるというだけですので、どうぞごゆっくり」
朝から仕事か?あんま頑張りすぎるなよ。
そんなこんなで僕は東海林さんと一緒に朝ご飯を食べた。
それから早速遺品整理の始まりだ。物置きの残りを済ませたら、今度は家の中の整理だ。
まぁそこそこ広い家なだけあって整理する部屋の数も尋常じゃない。僕は昨日以上に働いた。
東海林さんは僕と一緒に整理をしながらも、途中抜け出して神社の方の仕事をこなしていた。
そんな風に働いていたら、一日なんてあっという間だ。
肉体労働に一日を費やすという、僕にしてはあり得ないとまで言っていいほどの時間が過ぎた。
朝ご飯と昼ご飯は東海林さんに任せてしまったが、夕ご飯は一緒に作って食べた。
東海林さんは家の中にいる時は、まだ柔らかい表情を見せていたが、外にいる時はキリッとしていて張り詰めた表情をしていた。
そのメリハリのついた態度は、僕個人的にはすごくいいと思う。
人が来れば丁寧に対応して、それ以外では神社の掃除。休む暇もなく働き続けている。
本当に身体壊さないといいけどな。昨日も遅くまで何か仕事してたみたいだし。
きっと両親のやっていた分の仕事のほとんどを請け負っているんだろう。今日はそんなに顔を合わせる事がなかった。
何か手伝ってやれればいいけど、それは難しいからな。
そんな風にして二日目はそれなりに作業が進んで終了。
そして土日休みが明けた。
今日は一日中整理というわけにはいかない。普通に学校だ。
昨日よりも少し早く起きてみたものの、結局何も変わらずだった。早いねぇ。
そして朝ご飯を食べ終えると、僕は部屋に戻って学校の準備だ。
制服に着替えてスクールバッグを手にすると、家を出た。
それじゃあ出発………って、これ東海林さん待った方がいい?
そんな事を考えていると家の戸が開いて東海林さんが出てきた。
これまでの巫女服とは打って変わって黒い制服となっている。
黒いピシッとした制服は、巫女服と雰囲気こそ違えど、上品でとても似合っていた。真面目な性格が浮き出ている。
へぇ、本当に僕と同じ学校なんだ。意外な事もあるもんだ。
「お待たせしました」
「あ、いや……別に」
というか当たり前といえばそうだけど、一緒に登校なんだ。別にいいんだけど、何か緊張するな。
「あ、そうだ。……はい、こちら」
そう言って東海林さんが差し出してきたのは箱らしきものが包まれは包み。
「これって………」
「あなたのお弁当です。朝用意しているところを見かけなかったので」
わざわざ作ってくれたのか?僕は差し出されたお弁当を呆然と見た。
「も、もしかして余計な事をしてしまいましたか?」
「い、いえ、そんな!ありがとうございます」
僕はお弁当を受け取った。まさか高校生になってから、人の作ったお弁当を食べる日が来るとは。しかも同級生の女子。
嬉しいな。ありがたく食べるとしよう。
「それじゃあ行きますか」
「はい」
僕と東海林さんは並んで学校に向かった。
余談だが、驚くべきことに僕達はクラスも同じだった。あるんだねぇ、こんな事。
こうして学校生活も含めた、僕と東海林さんの生活が本格的に始まった。
もっとも学校で近くにいると言っても、一緒にいるわけではない。
僕は基本的に一人だし、東海林さんも誰かといるのをあまり見なかった。あと男女って事で話しにくい。
それでも放課後になれば、僕と東海林さんは一緒に帰って各々作業に取り掛かる。
ちなみにお弁当はどれも美味しく、全てありがたく食べさせてもらいました。いやぁ、本当に美味しかった。
そんな生活が始まって数日が経った。今さらだけど遺品整理ってめちゃくちゃ時間かかるのね。
だって僕と東海林さんだけだもんな。何がすごいってその子供二人で何とかなるところね。あんまり大きなものは無いみたい。
東海林さんは相変わらず真面目で、日々忙しく働いている。夜も遅くまで起きてるみたいで。
少しでも負担は減らしてあげたいけど、遺品整理疎かにするわけにもいかないしさ。
一応休めばとは言ってるんだけど、やっぱり頑張ろうとしちゃってる。
そんなある日。
その日は学校を終え、僕は家の中にしまわれていたいらない物を外に出していた。東海林さんは外の掃除だ。
僕は物を運んでふぅっと息を吐いた。この肉体労働に慣れつつある自分がいるな。
顔を上げると掃除をしている東海林さんが見えた。本当、よく働く子だな。尊敬したい反面、心配になる。
すると奥の方から妙に洒落た一人のおばさんが神社に入ってきた。
「あら、紙縒さん。久しぶりね」
「あ、こんにちは」
どうやらこの神社に来たことのある人みたいだ。近所の人かな?
けど東海林さんの事、さん付けで呼んでた。その手の身分が高い人、か?
「聞いたわよ、お母さんとお父さん亡くなっちゃったんだってね。とても辛いでしょう?」
「いえ………お気遣い、ありがとうございます」
「いきなり神社継ぐ事になっちゃったけど、頑張ってね。あの二人の自慢の娘なんだから。この神社、ちゃんと守ってね。ウチの人達も、みんな期待してるわ」
「………はい。頑張ります」
そんな会話をして二人は別れた。僕はその様子を遠巻きで見ていた。
そうか………東海林さんにとってご両親の死は、単なる家族との別れじゃない。
周りからすればもう東海林さんは、この神社の立派な後継者なんだ。彼女一人だけが。
東海林さんはそれをちゃんと受け止めようとしている。
それは当たり前とも言える事だ。きっと今みたいな会話もこれまで何回もしているのかもしれない。
でも………いや、それは僕がどうこう言う事じゃないか。これは彼女の問題なんだ。
それに僕が彼女に差し伸べられる手なんか無い。
身近にいても彼女は立派なお嬢様、僕は一般市民だ。さっきみたいな大人にも慣れてるみたいだったし。
それで態度を変えるつもりはない。そんな芸当は持ち合わせてないし。
けどさ…………。
東海林さんは今やこの神社を一人で背負っているのだ。それは僕が理解出来るものじゃない。
それならこのままで………いるしかない、か。
そんなモヤモヤしたものを抱えながら、僕と東海林さんの生活は続いていた。
僕もだいぶこの生活に慣れて、遺品整理以外でも東海林さんを手伝える事が増えてきた。
なのでやれる事から少しずつ手伝う事にした。
「東海林さん、南の方の掃除終わりました」
「え?ありがとうございます。しかし、それくらい私が………」
「どうせ暇なのでお構いなく。それよりそろそろ学校が」
「あ、そうですね。はい、お弁当です」
東海林さんはそう言ってお弁当を差し出してきた。
「いつもありがとうございます」
僕はお弁当を受け取った。今日のおかずは何かな?
制服に着替えた僕は東海林さんと一緒に学校に向かう。
僕はふと隣にいる東海林さんを見た。
「東海林さん、震えてますけど大丈夫ですか?」
東海林の様子が少し変だ。
「え?……あぁ、少し寒いからかもしれません」
「一応コートは着てるみたいですけど、カイロ貸しますか?」
「これくらい問題無いですよ」
そう言って東海林さんは歩き始めた。僕もその後をついて行く。
二時間目の体育の授業。男女に分かれていて、僕は今体育館にいる。
みんながバレーをしてる中、得点板係をする事でそれを免れる。
そうして僕は今日の作業の内容を考えていた。遺品整理もだいぶ進んだ。けどまだまだだからな。
そんな事を考えていると、外から一人の先生が慌ただしく駆けてきた。あの人、たしか女子の方の体育の先生だよな。
何かあった事を察した僕は、少しそっちの方に近づいた。その先生は、ウチの体育の先生と話している。
「どうかしましたか?」
「はい。実はさっき五組の生徒が一人、走っている最中に倒れてしまいまして」
倒れた?僕は嫌な予感がして、会話を聞き続けた。
「分かりました。誰が倒れたんですか?」
「東海林 紙縒さんです。今保健室に運んで………」
「ッ⁉︎」
その言葉に僕は目を見開いた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。