僕は非現実な光景を目の前にして固まっていた。
下着のみを身につけた俤さんは、僅かに身を縮こまらせながらも僕の方に歩いてくる。
俤さんはとてもスタイルが良くて、肌もシミ一つなく歳上とは思えないほどハリがある。
まず目の前に豊満で綺麗な形の胸が飛び込んできた。服の上からでも分かっていたが、下着のみになるとそれは一層目立つ。
それは俤さんが歩くたびにたゆんたゆんと揺れている。
その胸と反比例するようにウエストはキュッとしまっていて、それはその下の膨らんだお尻を強調している。
さらに黒一色の下着はとても際どい形をしていた。
綺麗なレースがついているそれは、俤さんの身体をより引き立たせながらも、彼女の身体を申し訳程度に隠している。
今自分がいるのが本当に民家なのか、娼館にでも来たのかと思った。
「な、何ですか!その格好は⁉︎」
「元々は夫の気を引くために買ったもの。まぁ無駄に終わったけどね。あの人自分より若い子の方が好きみたい」
自虐的に笑った俤さんは椅子に座っている僕の膝の上に跨ると、僕と向き合った。その表情はどこか妖艶に感じられる。
「なぁっ⁉︎ちょ、ちょっと………!」
「大丈夫よ。私に任せて」
俤さんはそういうと僕の学ランのボタンを外していく。あっという間に脱がされた学ランが床に落ちた。
そして俤さんはワイシャツのボタンも外そうと手を伸ばした。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
耐えきれなくなった僕は俤さんの二の腕を掴んで止めた。その柔らかさにドキッとする。
「あ、あの………とりあえず落ち着いてください。さすがにこんな事………」
「………ダメ?」
「ダメ、というか………僕はあなたのことがよく分かりません。会ったばかりの人とこういうのはちょっと………」
例外はあるにしても、やっぱりこういうのは好きな人とやるべきだ。お互い会ってまだ数時間。当たり前だがお互いのことを何も知らない。
「必要ないわ。身体だけの関係なんだから」
「で、でも………いいんですか?旦那さんにバレたら………」
「そんなの………分かってるわよ」
そう言って俤さんは軽く身を引いた。艶やかな姿にどうしても目を惹かれる。
「でも、もう自分がどうするべきかが分からないの。今の自分が嫌なのに、そのために出来る事が分からなくて………思いついたのがこれくらいだから」
それはそうかもしれないけど、だからってこんな………
「最初はね、まだ優しくて私のことを構ってくれたの。でもそれは他の女の子を見つけるまでの仮面だった。そんな人を一瞬でも優しいなんて思って、自分が嫌になるわ」
俤さんは自嘲気味に呟いた。
「何で、僕なんですか?」
「それは……あそこにいたから。相手は誰でも良かったんだ。不倫さえ出来れば。不倫してるあの人への仕返し………ううん、半分近くヤケね。だから、誰でもよかった」
僕も自分が選ばれた人だとは思ってない。きっと目についた男性なら誰でも良かったんだろう。
「夫にバレても君に迷惑はかけない。だから………私とシてくれない?」
どうするべきか。本来なら断るべきだ。でも………
僕も無言を拒絶と受け取ったのか、俤さんは俯いた。
「ご、ごめんなさい。こんな無理矢理………そもそも、こんなおばさんの下着じゃ興奮しないよね」
「そ、そんな事ないです!す、すごい………綺麗、だと思います」
僕はつい思った事を口走ってしまった。
「本当?もうちょっと若かった方がいいんじゃない?」
「いや、そういうのは………あんまり変わらない、かと」
こんな感想でいいのだろうか。でも本当に艶やかで綺麗だと思う。自分の中にある獣が、彼女を抱けと叫んでいる。
「けど、本当にいいんですか?僕、その………こういうの経験無くて………」
「もちろん。それじゃあ………いい?」
正直いいわけない。何が何だかまだよく分からない。今日会った人とこんな事になるのが正しいとは思えない。
でも………
「はい。僕で良ければ」
この人を抱きたい。その欲求には逆らえなかった。我ながら素直すぎるな。
しかしそうは言ったものの何をすればいいのか分からない。いきなり身体触るのはどうかと思うし、このまま話はキツい。
「そう………それならこっち来て」
俤さんはそう言って僕から離れた。そして廊下へ出て行く。僕もその後に続く。
綺麗な女性が目の前を下着姿にで歩いている。僕はその様子に見惚れていた。
一歩一歩歩くたびにお尻や胸が僅かに揺れているのが見えて、その動きを目で追ってしまう。
すると俤さんが一旦止まってこっちを振り向いてきた。
「あの……私から脱いでおいて言うのもアレだけど、そんなジロジロ見られると恥ずかしい、かな」
「あ!ご、ごめんなさい!」
僕は慌てて目を逸らした。なんて事してんだ!
「ううん、むしろ嬉しいよ。あの人は見向きもしないから」
そう言って俤さんはまた歩き出した。そして階段を上っていく。
旦那さんは何でこんな綺麗な人を放っておくんだろう。
やがて俤さんは一つの部屋の前で止まると、その部屋の扉を開けた。
「こ、ここは………」
「私と旦那の寝室。と言っても最近は一緒に寝るなんてほとんど無いけどね」
その部屋には大きなダブルベッドがあり、周りには化粧台や本棚、タンスやハンガーラックなどがある。
「ここで何回かはあの人に抱かれたわ。まぁ昔片手で数えられるくらいの回数ね」
ここで俤さんが、旦那さんと………
それは夫婦の夜の営みだ。何も変なところはない。
それなのに、何だこの感覚………。その事実に対する嫉妬と、そんな抱かれた妻を奪える高揚感が混ざり合ってくる。
俤さんは部屋の明かりをつけて、そのままベッドに寝そべった。
煽情的な下着姿の女性がベッドに寝そべっている光景に、僕は思わず唾を飲み込んだ。
「ほら、おいで」
俤さんは僕を手招く。僕はそれに戸惑いながらも応じた。ゆっくりとベッドの上に上がる。
それでもいきなり抱きついたりは出来ない。僕は俤さんから距離をとって座る。
「ふふっ、そんなに離れたら出来ないわよ?」
俤さんが四つん這いになって僕に近寄ってくる。ふくよかな胸が揺れて、今にも下着から溢れ出そうだ。
あまりに刺激的な光景に、僕は仰け反りそうになりながらも止まる。
「はい、後は君の自由だよ。私のこと、好きにして」
俤さんは自分の身体を隠すことなく、僕に差し出した。
少しでも動けば触れ合いそうな距離まで近づいている。どうすれば………
「えっと………俤さんはどうしたいんですか?」
僕がそう尋ねると、俤さんは少しだけ不思議そうな顔をしてクスッと笑った。
「な、何ですか?」
「ううん、君せっかく自分の好きにできるのに、私に委ねるの?」
「だ、だって………俤さんのためにするなら、聞いておくべき、と思いまして」
というか初めての僕に委ねられても困る。自分でもこの状況がまだよく分からないのだから。
しかし罪悪感も緊張もあるのに、自分のモノは痛いほどいきり勃っている。
それを見て、俤さんは熱い吐息を吐いた。
「そっか。そうだなぁ………せっかく若い子と浮気するんだし、恋人みたいで激しいのがいいな」
僕が経験ないからの提案なのか。
簡単なのかよく分からないけど、それなら自分にも出来るのかな?
「そ、それじゃあ………失礼、します」
僕は一言断ると俤さんの左手に触れた。指先で僅かに触れると、今度は思い切って握った。恋人繋ぎのように指を絡める。
うぅ、柔らかくて少し冷たい。その感触に鼓動が高鳴る。
「どう、ですか?」
「え?いや………ちょっと予想外。てっきり抱きしめられたりキスされたりするかと思ったから」
急にそれは失礼じゃないのか?それでも自分がそれを望んでいるのは分かってた。俤さんの身体から目が離せない。
僕は握った左手を見た。その薬指には指輪がされている。本来愛を誓うためのもの。
それなのに旦那さんは…………いや、自分が人のことを言えた義理ではないな。
僕だって、今からその愛を誓った女性を奪うんだから。知り合って間もないのに、欲望をぶつけようとしてる。
自然と手に力がこもってしまい、俤さんもそれに気がついた。
「あのね、君がどう思ってるかは知らないけど、結婚の愛はそんなに重いものじゃないのよ。結局は紙切れ一枚の契約、って事かしら」
それは、それなりに分かっている。学生として生きてるだけでもそれはヒシヒシと伝わってくる。
「それでもその形は重いもの。愛なんてなくてもその形に縛られるのよ。だから、君にそれを壊して欲しいの」
僕が、この夫婦を壊す。本当なら怖くなるようなものなはずなのに、僕は高揚感すら感じている。
俤さんは僕の耳に口を寄せると、そっと呟いた。
「君の中のものを私にぶつけて壊して、ね?」
その言葉に僕は理性が限界となった。
握った手を引いて俤さんを抱き寄せる。しっかりと俤さんを受け止めると、強く抱きしめた。
「ひゃっ!………うん、温かい。人に抱きしめてもらうの久しぶりだなぁ」
「そう、ですか」
俤さんはまだ余裕がありそうだけど、僕はそれどころではない。心臓がバクバクしてるのが嫌でも分かる。
ハリがありながらも柔らかい身体は、内側から熱が伝わってきてじんわりと僕に染み込む。それは下着に阻まれていても変わらない。
それでいて僕よりも細っそりとした身体は、少しでも力を入れたら壊れてしまいそうだ。
腕の中で僅かに動く様子から、人を抱いているという実感が湧いてくる。
お互いの鼓動が混ざり合い、それが僕達の理性を揺さぶり落とす。さっきまで拒んでいた気持ちが薄れていく。
僕達はお互いに向き合った。顔が近くにあり鼻先がもうぶつかりそうだ。今から僕、この人と………
「そんなに緊張しないで。これは遊びなんだから」
「遊び?」
それを聞くと少しだけ体の力が抜けた気がする。それと同時に俤さんを求める欲求も高まる。
僕達はお互いの鼻先を避けるようにして、また距離を縮める。
「うん。ダメな大人の、気持ちいい遊び」
その言葉の終わる直後、僕達は唇を重ねていた。
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