※この作品はR-18です。

エロゲ的な何か(仮)   作:MC RAT

30 / 165
第5話

 こうして僕は少しの間、東海林(しょうじ)さんのところで働く事となった。まぁ実質今までと変わらないけど。

 もっともこんなの建前だけどな。だって元からここの手伝いしていたわけだし。

 それでも、東海林さんが少しでも頼りやすい状況であればいいな、と思っているわけだが。

 けど、別に本当にここで働いても………って、何考えてんだか。それは無理だろ。そもそも人を募集してるところじゃないし。

 それにこんな立派な神社に、僕みたいな一般市民が住み着いてるだけでも、色々面倒な事になりそうなのに。

 でもそれじゃあ彼女はまた一人になるのか。僕がいなくなったら、東海林さんはまたひとりだ

 そんな事を考えながら僕は東海林さんにお粥を食べさせていた。掬って軽く冷まして、それを口まで運んでやる。その繰り返しだ。

 東海林さんはさっきよりも顔色が良くなり、元気も出てきたようだ。

「………ありがとうございました」

「いえ。後はゆっくり休んでてください」

「あ、あの……ちょっと、いいですか?」

 僕は食器を片付けると、調理場に戻ろうとした。しかし後ろから東海林さんに呼び止められる。

 少し顔が赤くなっていた。

「ん?どうかしましたか?」

「えっと、少し汗をかいてしまったので………」

「あぁ、タオルならそこにありますから、それ使ってください」

 一応そのために持ってきたわけだし。

「あ、いえ、そうではなくて………」

「他に何か?」

 すると東海林さんは顔を俯かせて恥ずかしそうに言った。

 

 

「あ、その………せ、背中とか、拭けないので…………お、お願い、出来ます、か?」

 

 

「………え?」

 いや、それって………

「ぼ、僕が、ですか?」

 東海林さんは小さく頷いた。その返事に僕は顔が熱くなるのを感じた。

「い、いや……それは!ちょっと………」

 僕はあたふたしながら答えた。それはいくらなんでも無理だって!

 でも、これはあくまで看病であって、そういうやましいものじゃないし………ここで断るのも失礼、か?

「えっと………東海林さんは………いいん、ですか?」

「あ、あなた、なら………」

 そう言われると嬉しいような恥ずかしいような………けど、たしかにここには僕と東海林さんしかいないし。

「分かり、ました」

「あ、ありがとうございます。それでは、その………少し、後ろを向いていただいても………」

「は、はい」

 僕は素早く後ろを向いた。ここで焦らせるような度胸は持ち合わせてない。

 すぐ後ろからしゅるしゅると衣擦れの音がしてくる。僕は思わず唾を飲み込んだ。

「あの………いいです、よ」

 そう言われて、僕は後ろを振り返る。

 

 

 そこには上の服を全て脱いで、僕に背を向け座っている東海林さんがいた。恥ずかしそうに俯いて胸を手で隠している。

 

 

 背中は傷一つなく真っ白で、痩せすぎず太すぎずな肉付きを表している。

 触り心地の良さそうな肌が僅かに汗ばんでいる。それは部屋の光に照らされて、彼女の魅力を引き立てる。

 拭きやすくしてくれようとしてくれたのか、髪は前に垂らされていてうなじが見えている。

 東海林さんは耳の先まで真っ赤にして、僕を上目遣いで見てくる。

「お、お願い、します」

「は、はい………」

 僕はお湯に濡らしたタオルを絞って畳み、それをそっと東海林さんの背中に触れさせる。

「ッ………」

 その刺激に東海林さんは身体をピクッとさせたが、すぐに落ち着いてそのまま動かない。

 僕は力加減を考えながら、慎重に背中を拭いていく。平静を装いながらも、心臓はバクバク鳴っている。

「ど、どうですか?」

「はい、大丈夫、です………」

 僕の目は東海林さんの背中に惹きつけられていた。つい襲ってしまいそうになるのを我慢する。

 肉欲が掻き立てられる一方で、その美しさに壊したくないという思いもある。

 それでもどの道凝視してることに変わりないと気がつき、とりあえず目を逸らす。顔はずっと火照ったままだ。

 

 

 

「あの、一つ聞きたい事があるのですが………」

 すると東海林さんがおもむろに口を開いた。

「な、何ですか?」

 僕は不意に声をかけられて、ドキッとしながら答えた。見てた事バレた?

 

 

「あなたは………この家に来る事に、抵抗は無かったんですか?」

 

 

「………は?」

 な、何だ急に?思わぬ質問に、僕は首を傾げる。

 抵抗、かぁ………

「この家に、ってところを強調したいなら、無かったですね」

 僕は素直に答えた。

 来る事自体には、面倒だからって事で抵抗があった。でも、この家である事には抵抗は無い。

 まぁ、神社である事に驚きはしたが。

「そうですか………」

「? どうかしたんですか?」

 東海林さんは少し暗い表情になった。何かマズいことでも言ってしまっただろうか?

「私、育ちのせいか周りから敬遠されてて、昔から人と仲良く付き合えなくて友達がいなかったんです」

 そりゃあ、箱入りのお嬢様なんて周りから浮くだろうからな。気安く接せる人も少ないだろう。

 見た感じ大人と社交的な会話は得意そうだけど。それと友達との付き合いは違うだろうし。

「知らない大人に囲まれて、みんなが畏まってくるんです。でも、どれだけ優しくされても、何というか………仲良くはなれないんですよ。私個人ではなく、私の家柄で接してくるので」

 僕は東海林さんの話を黙って聞いていた。というか僕が口を挟めるような事じゃない。

「だから人と付き合う時、いつも遠慮しちゃって………自然にいられないんです。それで余計に人が離れちゃって」

「………そうですか」

 僕は手を動かしながら応えた。人の身の上話なんざ聞いても意味ないけど、まぁこの人ならいいや。

「でも、あなたは私がこの家の人間だと分かっても、当たり前のように普通に接してくださって………何というか、とても身近に感じました」

「生憎、そういうものの価値が分からない人間なものでしてね」

 ザ・一般市民の僕には、そんなものに価値を見出せない。価値のないものにかける気遣いも無い。

「けど、私はそれが嬉しかったですよ?私のことを家柄とかではなくて、私個人として優しく、気遣って接してくださったので」

「そうですか?そんな大したことじゃないと思いますが」

「いいえ。少なくとも私にとって、あなたと接している時はただの『東海林 紙縒』として、話すことが出来ました」

 そう言って東海林さんは顔だけを振り向かせた。

 

 

「ありがとうございます。あなたと一緒に過ごせてとても楽しかったです」

 

 

 その時僕は、一番彼女を身近に感じた。それと同時に、胸の奥がよく分からない昂りに襲われる。僕はそれを隠すように俯く。

「べ、別に………東海林さんが普通に接してくださったからですよ。ここに来て会えたのが、あなたで良かったです」

「そ、そうですか………ありがとうございます」

 僕達の間に妙な空気が流れる。ムズムズとした微妙な空気だ。

 

 

「………くしゅん!」

 

 

 その空気を切るように東海林さんがくしゃみをした。しまった!そういえば東海林さんは今上着てないんだった。

「す、すみません!もう背中拭き終わりましたから。後は、自分で」

「は、はい………ありがとうございました」

 僕は手早く用件を伝えると、後ろを向いてさっさと部屋を出ようとした。

「あ!さ、最後に一つ、いいですか?」

 東海林さんは布団で身体を隠しながら、僕を呼び止めた。

「何ですか?」

「あ、えっと………その、私の事『紙縒(こより)』って呼んでくれませんか?話す時も敬語でなくていいですから」

「え?」

 あ、そういえば僕、ずっと苗字でさん付けで呼んでたからな。話す時も敬語だったし。クセなんだよ。

「あの………私…あなたと、もっと仲良くなりたいんです。だから………」

 そう言う東海林さんは、とても必死な表情で緊張していた。

 その様子を見てたら、なんだか僕の方の気が緩んできた。ついフッと笑ってしまう。

「分かったよ、紙縒。さっさと休みなよ」

「………はい!」

 僕は部屋を出た。まったく、こんな僕とね………物好きなもんだ。

 

 

 

「こ、この度は、本当にありがとうございました!」

「あぁ、いいから。治ったんならそれでいいよ」

 僕は目の前で頭を下げてくる紙縒をやや引き気味に見た。本当に真面目な子だなぁ。

 紙縒は翌日には体調がすっかり良くなった。というか一日で取れる疲れが取れないほど働いてたんか。

 いつも通り巫女服姿の紙縒は、前のような張り詰めた雰囲気は無い。うん、こっちの方が僕は好きだ。

「それよりさっさと遺品整理の続きするか。後少しなんだし」

「はい」

 さてと、今日はどこからやるかな。

 そう思って作業を始めようとした時、僕のスマホが震えた。見てみると叔母さんからだった。

 目の前に紙縒がいたけど、構わずに電話に出る。どうせ彼女絡みの事だろうし。

「もしもし」

『あ、おはよう。紙縒ちゃんの調子はどう?』

「すっかり良くなりましたよ」

 僕は紙縒の顔を見ながら答えた。顔色も良くなってる。

『紙縒ちゃんとも話したいから、話せるようにして』

「分かりました」

 僕は紙縒を呼んで電話に参加させる。

『紙縒ちゃん、身体大丈夫?ウチの子迷惑かけてない?』

「あ、はい!それどころか本当にお世話になりっぱなしで………!」

『そう?なら良かった』

 後半余分だろ。人の家で迷惑かけるような馬鹿しないっての。

『それで遺品整理の方はどう?』

「後ちょっとで終わりそうですよ」

 

 

『そう。それならあなたもそろそろ帰られるのね。お疲れ様』

 

 

 叔母さんにそう言われて、僕は次の言葉が出なかった。紙縒も黙ってしまっている。

 そうか………遺品整理が終わったら、僕はここにはいられないんだっけ。

 ここで働くなんてただの口実。僕は本来遺品整理の手伝いのためにここにいるんだし。それが終われば帰らないといけない。

 そうしたら紙縒とも………離れないといけないのか………

『二人とも、どうかした?』

「え?あ、あぁ、そうですね。それじゃあ僕達は遺品整理があるので」

 そう言って僕は電話を切った。

 それでも、何かが心に引っかかって、それが離れる事はなかった。




 最後まで読んでいただきありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。