冬も残すところ僅かとなってきた頃。
進路が決まった僕達は、日々の仕事をこなしつつ新たな生活の準備をしていた。
僕は、本格的に神社の経営を学ぶために、氏子さんの紹介で別の神社のお手伝いをすることなった。もちろん東海林神社の手伝いもする。
紙縒は、奉職するために神職養成所に通うことになった。遠くない未来資格を取るだろう。
そんなわけで二人揃って高校生活の終わりを迎えようとしていた、ある日のこと。
「引っ越し?」
その日も仕事を終えた僕は、部屋に篭って勉強をしていた。
ひと段落して休んでいたところに叔母さんから連絡が入り、この話になったというわけだ。
『元々住んでたアパートの部屋、もうほとんど使ってないんでしょ?進学を期に引き払って、紙縒ちゃんの所に住所移したらどう、って話』
「あぁ、そういうこと………」
僕は今紙縒の家で一緒に住んでいるが、きっかけがきっかけなだけに、ほとんど成り行きみたいなものだ。
それもあって、必要最低限の荷物だけを持ち込んで、元々住んでいたアパートはそのままになっていた。
おかげで今の僕は、同棲と半同棲の間みたいな状況。
一緒に住むなら住むで引き払った方がいいのは分かっていたが、羹の件や受験が重なりまとまった時間が取れなかったのだ。
たしかに今は進学準備が本格化する前で、引っ越すならちょうどいいタイミングかもしれない。
「分かった。片付けとかやっておけばいい?」
『そうね。そこまで遠くないし、運べるものは自分でそっちに運んでおきなさい。あと、掃除もしっかりしておくのよ」
「うん」
電話を切ると、畳の上に寝っ転がり天井を見上げた。
片付けかぁ………たまに帰って整理はしてるとはいえ、時間はそれなりにかかるだろうな。
仕事を疎かにするわけにもいかないし、紙縒には言っておかないとな。
「───と、いうわけなんだが」
「そうですか。節分も終わりましたし、たしかにいいタイミングかもしれませんね」
夕食も食べ終わり、お風呂に入ってから、僕はこたつに潜っていた。
パジャマの上にエプロンを着た紙縒が、お茶と一緒にチョコを差し出してくれる。
「はい。旦那さま、ハッピーバレンタインです」
「おぉ、美味しそう」
チョコの芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。
早速一つ摘んで口に放り込んだ。
「ん!美味しいよ、ありがとうね」
「そうですか。上手に出来てよかったです」
エプロンを脱いだ紙縒もコタツに入り、二人でチョコを食べる。
こうしてチョコを食べてると、告白してくれた時のお出かけを思い出す。
これは、ホワイトデーにしっかりお返ししないとだな。
僕の隣でお茶を啜った紙縒が、一息ついてこちらを向く。
「旦那さま。部屋の片付けでしたら、私もお手伝いしましょうか?二人の方が早く終わりますし」
「えっ?」
紙縒の提案に、僕は首を捻って考えた。
時間を取りやすいタイミングを選んでいるとはいえ、早く終わるに越したことはないだろう。
何より紙縒がいれば掃除が捗る。
「そうだね、お願いしてもいいかな?」
「はい、お任せください!」
そんなわけで翌日氏子さん達にも相談して、しばらくの間のスケジュールを調節してもらった。
ついでに僕が運べないような大きな物は、後で軽トラで運んでくれるとのこと。いやはやありがたい。
そして片付けの日、朝の仕事を済ませた僕達は、昼食を食べてからそのままアパートへと向かった。
「そういえば、旦那さまのアパートにお邪魔するの初めてですね」
「あぁ、そういやそうか」
たまに掃除などで戻ってくる時はあったが、そもそも広い部屋じゃないし一人でやっていた。
それにあの家で一緒にすんでいて、わざわざこっちに招く理由がなかったからな。
片付けのためだけに、初めて恋人を家に招くことになるとは。彼氏として、何だか申し訳ない気持ちになる。
「で、それはそれとして紙縒。一つ聞きたいんだけど………」
「はい、何ですか?」
「何で巫女装束のまま来たの?」
朝の仕事を終えて、僕は私服に着替えてきたのだが、何故か紙縒はそのまま巫女装束で来ていた。
紅白の鮮やかな和服が、日の光を受けてよく映えている。
人通りが少ないためまだ目立ってないが、それでも見かける人のほとんどが二度見している。
「お掃除をするのでしょう。でしたら、やはりこの格好でないと!気も引き締まりますし!」
「あぁ………そっか」
やる気満々とばかりにウキウキで拳を握る紙縒に、僕はつっこむのをやめた。本人がいいなら何も言うまい。
たしかに僕達がしてる仕事の多くは掃除だし、適してるといえば適してる………かな?
そういえば、紙縒の家の大掃除もこの格好だったっけ。向こうだといつものことだからスルーしてたけど。
「はい、どうぞ」
「お邪魔します」
あまりアパートの前にいても人目につくので、とりあえず家の中に招き入れた。
恋人を初めて家に招くのって結構ドキドキするな。
「ここが旦那さまのお部屋………いくつか荷物はまとめられてるんですね」
「そりゃ引っ越すこと確定してたからね」
紙縒と婚約して一緒に暮らすことになってから、どこかで引っ越すことは分かりきっていた。
だからこまめに荷物はまとめておいたのだ。まぁ半分にも満たないが。
「さてと、何からしたものかね」
「まず荷物を全てまとめてしまいましょう」
というわけで、早速作業開始だ。
「紙縒、このタオル家で使える?」
「あぁ、ちょうどいいですね。ではこちらに。ここにある服は?」
「もう使わないヤツだよ」
「では縛っておきますね」
片付けを始めて2時間ほど。荷物をまとめては、空いたスペースの掃除を繰り返す。
紙縒が手伝ってくれたおかげで、想定の何倍も早く作業が進んだ。
「旦那さま、ゴミ袋のストックはどこにありますか?」
「ん?そこの引き出しに………って、あれ?」
シンクの隣にある引き出しを開けるが、そこにゴミ袋はなかった。
しまった………元々少なかったものを使い切ってしまった。まぁスーパーに行けばあるだろう。幸い近くだ。
「悪い、無くなったからちょっと買いに行ってくる。ついでにもう少し段ボール貰ってくるよ」
「お一人で大丈夫ですか?」
「あぁ、他に出来ることやってくれると助かる」
家主が作業を抜け出すのは申し訳ないが、この格好の紙縒をスーパーに向かわせるわけにはいかない。
「分かりました、お気をつけて」
「うん、いってきます」
一旦作業を紙縒に任せると、上着を着て部屋を出た。
「さて、それではまとめられるものをまとめますか」
彼を見送って、紙縒は辺りを見渡す。
一応部屋にある物は触って構わないと許しを得ているので、持っていく荷物を今ある段ボールに詰めることにした。
とはいえ、生活に必要な物のほとんどは、既に自分の家に持ってきてある。
それに大きな家具などは、氏子さん達に任せるため今すぐまとめても仕方ない。
そうなるとまとめられる物は………本だろうか。
廃棄するものはとりあえず部屋の隅に寄せて、空いている段ボールを引っ張り出した。
既に本棚から出して積み上がっているため、サイズの同じ物をまとめて段ボールに詰めていく。
こうして引っ越しの準備をしていると、改めてこれから共に暮らしていくという実感が湧いてくる。
もちろんこれまで一緒に暮らしてきたし、充実した日々を送っている。
けど出会い方が出会い方なだけに、どこか長いお泊まりのような感覚になってもいた。
けどこれからは、二人で同じ時間を歩いていく。その実感が嬉しい。
きっと新生活が始まれば、お互いもっと忙しくなる。問題にぶつかることもあるだろう。
でもなりたい自分に向けて一歩ずつ向かっていて、その隣に旦彼がいてくれる。
それがこんなにも心強く、ワクワクすることだなんて。それだけで不安がかき消されていく。
「ふふっ」
笑みを溢しながら、紙縒は片付けを進めていく。
「それにしても旦那さま、結構本持っているんですね」
特に漫画が多い。紙縒はあまり読まないが、彼の大事なコレクションなのだろう。
こういう本を読んでいるから、羹の時のように思いもよらぬ発想が出るのかもしれない。
そんなことを思いながら段ボールへと、本を並べていく。
同じシリーズでまとめるのはもちろんだが、本屋のように出版社でもまとめたくなってしまう。
「残りの本は………これで全部ですね」
一番奥に積んであった本を持ち上げて、段ボールに詰めた。
「おや、これは?」
最後に積んであった漫画のいくつかが気になり、紙縒は手に取った。
というのもさっきまでの漫画とは違い、見たことのない出版社だ。それに漫画の色や字のフォントがだいぶ違う。
そんな漫画が数冊だけあるというのも、少し不自然だ。
興味に惹かれるまま、特に何も考えず表紙を見る。
「ッ⁉︎」
そこに描かれていたのは、制服をはだけさせた女子高生だ。
恍惚とした表情を浮かべた彼女のセーラー服は前が開いて、ふくよかな胸がまろび出ている。
煽情的な姿に頬を染めながらも、濡れた秘所を見せつけるように自らスカートを捲り、こちらを誘う。
「こ、これは………!」
あまりにも刺激的な絵に、紙縒は思わず目を逸らした。
でも一度見てしまったら最後、脳に焼きついてしまって離れない。
背筋がゾクゾクッと震え、身体が熱くなる。
あまり漫画を読まない紙縒でも、それが淫らな内容を含んでいることは容易に想像出来た。
こういった内容の本があることは知識として知ってはいたが、本物を見るのは初めてだ。
「旦那さま………こういう本、持ってるんですね………」
もちろん彼だって健全な男子高校生。こういった物に興味を持ち、持っていても不思議ではない。
それでも彼がこういった本で興奮したのかと思うと、モヤモヤしてしまう。
だが同時に、彼がどういったものに興奮するのか。恋人として興味が湧いてきた。
「す、少しだけ………」
人の物を勝手に読むことに罪悪感を覚えながらも、紙縒は漫画を開いた。
物語のあらすじは、幼馴染である高校生の男女が惹かれあい、恋人としての甘い日々を過ごすというもの。
これだけなら普通の恋愛漫画だが、やはり最も描かれているのは二人の濃密なラブシーンだ。
初々しい初エッチから始まり、学校の保健室で隠れるようにシたり、コスプレをしていたり、お泊まりで一晩中繋がったり。
相手を求めようとする衝動に任せて、何度も何度も何度もお互いの愛を確かめ合っている。
「うわ、あぁ………すごい………」
いくつか自分が経験したようなプレイもあり、共感性羞恥も相まって目の前がクラクラする。
紙縒は知る由も無いが、世の中にはもっとハードな内容の物もある。もしそれを紙縒が読んでしまったら、卒倒していただろう。
「ん?」
ページを捲っていく中で、紙縒は手を止めた。
そのページでは、主人公に抱かれた後のヒロインが、その快楽と愛情を思い出して自分を慰めていた。
ちょうど表紙のように制服をはだけさせて、自らの身体を弄っている。
湧き上がる欲望を抑え込むように背中を丸め、愛する人の名前を呼び続ける。
最初こそただ身体を撫でるだけだったが、その行為はどんどん激しくなっていく。
やがて左手で胸の先を摘み、しゃぶって湿らせた右手の指を膣内に潜り込ませた。
「はぁ、はぁっ………こんなに、激しくして………!」
あまりにも淫らな姿。しかし、紙縒は彼女のことを否定出来なかった。彼女の気持ちが分かってしまうから。
愛する彼と肌を重ねたあの日から、時折無性に彼と触れ合いたいと思う時がある。
特にここ一、二ヶ月前まではお互い忙しかったこともあり、夜を共に過ごすことも少なくなっていた。
そのせいもあって、少し彼と触れ合うだけでも衝動に駆られる時もある。
でも彼と共にすること以外を知らない紙縒は、仕事をこなす事で時間の解決に任せていた。
きっとこのヒロインも、自分と同じなのだろう。
そんな感情移入もあって、紙縒はすっかり読み入っていた。片付けの続きをしなければいけないと分かっていても、目が離せない。
自分の体温が高まってくるのが嫌でも分かる。お腹の奥が疼いて、背筋が縮こまる。
「気持ちいい、のでしょうか………」
一度気になってしまうと、もう衝動は止められない。漫画の見様見真似で、手を自分の身体に滑らせる。
それでもいきなり秘所を触るのは怖かった。大切な所だし、自分ですると痛いかもしれない。
だからまずは、白い装束の上から自分の胸に手を伸ばす。
「はぁ、あっ………」
高鳴る胸をそっと撫でるだけ。もちろん彼が与えてくれるほどの快感はないが、それでもピリッと巡る刺激に吐息が漏れ出た。
そういえばこの漫画だと、ヒロインは主人公に抱かれた時を思い出して自身を慰めていた。
愛する人と肌を重ねる。その想像が、より深い快楽をもたらしているのかもしれない。
「旦那さま、なら………」
もっと自分の名前を呼んで、激しく求めてくれる。あの時の快楽、そして満足感。
それを思い浮かべながら、膨らみを鷲掴むようにギュッと指を沈める。
「んんッ!」
さっきよりも強い快感に、身体が跳ね上がった。下着の内側に湿り気が広がる。
それでも物足りない。彼が与えてくれる刺激が、声が、温もりが。
「旦那さまぁ………」
自分のものとは思えないほど甘えた声を漏らして、紙縒はまた自分の身体に手を這わした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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