「ふっ!はぁっ!やぁっ!」
穏やかな日差しが差し込むある日の午後。昼ご飯を食べ終えた僕の部屋に気合いの入った声が鳴り響く。
もちろん声の主は僕じゃない。僕の奴隷(ということになってる)元騎士のグリアだ。
お昼になり日が出てきたとはいえ、真冬に上着を脱いで僕の部屋で体術の練習をしている。流石に前みたいに下着姿じゃないけど。
寝室じゃなくて訓練所使えよって思うかもしれないが、グリアは身分上一人で勝手に行動するのが難しい。
そうなると主人である僕が同行する必要がある。何が悲しくて真冬の最中に不必要に外に出る必要があるのか。
そんな事するくらいなら部屋でやってくれ、という事でこんな事になっている。グリアが身体を動かすのを時たま見ながら、僕は布団に包まり本を読んでいる。
鋭い蹴りを放つとグリアの金髪がふわりと靡いた。結構画になる光景ではあるんだよね。
「はっ!たぁっ!………ふぅ、だいぶ身体が温まってきたな」
「そりゃよかったね。まったく、いつもいつも身体動かしてて疲れないの?」
「貴様こそ毎日毎日布団に包まり本を読んでて飽きないのか?適度な運動は習慣にしておいた方がいいぞ」
グリアは近くに置いておいたタオルを取って、浮かんできた汗を拭う。なんだかんだで彼女もここでの生活に慣れたなぁ。
「無駄に広い城の移動だけでも、僕には充分すぎる運動なの」
「そんなだから貴様はいつまでも体が軟弱なのだ。たまには一緒にどうだ?」
「他の誰でもなくグリアとは嫌だ」
この化け物級の戦闘能力を持つグリアと運動なんて、途中で倒れる未来しか見えない。
「つまらんな。というか元々引きこもりがちではあったが、最近は特に顕著だな。今度は何をやらかすつもりだ?」
「やらかすって何?人を問題児みたいに」
「ボヤだ爆発だをしょっちゅう起こす貴様は充分に問題児だ。で、何をするんだ?」
「人工生命体を作るの」
「何⁉︎」
予想外の答えだったのか、グリアはギョッとして驚いた。
「それは、いわゆるホムンクルスと呼ばれるものか?貴様そんなもの作れるのか?」
「まぁ系統としてはその辺だけどね。作る事自体は出来る、というかやった事があるから。今回はそれに少し改造するんだよ」
「お、おい、そんな事軽々しくして大丈夫なのか?」
「そこまで御大層なものじゃないから大丈夫。それに試作ももうしてあるよ、ほら」
僕がベッドの下の床を指差した。するとそこから小さい何かがモゾモゾと出てくる。
それを一言で表すならピンク色の大きめのヒルだ。粘液塗れの体をウネウネと蠢かせながら現れる。
「うっ!何だこれは………はっきり言って、気持ち悪いぞ」
うん、まぁそうなるよな。僕もそうだ。
形と色味のせいで生理的嫌悪を催す。動きも不気味なので尚更だ。
「もう少し見た目を何とかできないのか?」
「無茶言わないでって。まったく新しい生物を作ろうと思ったら、動くだけでも大したものなの。最初はどうしてもこうなるよ」
「そんなものなのか………って、お、おい。何故こちらに向かってくる!」
ベッドから這い出たヒルが、グリアの方へとにじり寄っていく。嫌悪感からかグリアが後ずさる。それを追うようにヒルは這い寄る。
てっきりグリアはこういうの全然平気かと思ってたんだけど苦手なようだ。
「何故私の方に………お、おい!これを止めろ!」
「グリアのこと気に入ったんじゃないの?よかったじゃん、仲良くなれば?」
「良くない!こ、この!こっちに来るな!」
にじり寄ってくるヒルにグリアが壁まで追い詰められた。粘液で床を濡らしながら、尚もヒルはグリアに迫る。
「ひぃっ!た、頼む、もうやめ………」
「なんちゃってね。このブレスレットで僕が操ってるだけだよ。ソイツ自身に意思はないよ。って、うおぉいっ⁉︎」
目の前まで迫ってきたグリアの拳をギリギリで避けることができた。鋭い拳が僅かに壁にめり込む。
部屋の端から端までという距離が無ければ、さっき食べた昼ご飯が床に撒き散らされていたところだ。
「貴様ァ、毎回毎回愚弄しおって!そこに直れ、殴り飛ばしてやる‼︎」
「ごめんごめん!悪かったって!ちょっと揶揄っただけでしょ!っと、そうだ、これの改良版のテストもどこかでやらないとな。中庭でやるか」
「どんな改良をしたか知らんが、そんなもの中庭に放ったら守衛に怒られるぞ。ただでさえ日頃迷惑かけているのだから」
そうかぁ?それなら訓練所でやるか。人が入って来られないように結界張ってればいいだろ。
「よし、それなら早速やるか。戦闘にも使えるから、グリアも手伝って」
「またか?前みたいに近づいた瞬間に動けなくなる、とかならゴメンだぞ」
「違うから大丈夫。それじゃあ準備しよう」
僕とグリアは僕の研究室に入ると、必要なものを手元に集めていく。
「それにしても、相変わらず貴様は整理整頓がなってないな。いくつか薬品のラベルが落ちてるぞ」
グリアがため息をつきながら落ちたラベルを貼り直してくれる。ちゃんと薬品覚えてくれてるんだな。
ここはたまにこうしてグリアが整頓してくれるから、なんとか汚部屋にはなってない。
「そういえば、その改良した生物とはどこにいるんだ?見たところ無さそうだが」
「ん?ここだよ」
僕は近くのケースから中身を取り出した。それは見た感じ角砂糖と思うような、白い立方体だ。
「これが改良版か?さっきのより生物っぽくないが」
「圧縮して乾燥させてるの。名前はテンタクルワーム。これを液体に漬けると元の姿になって、さらにその液体を吐き出し粘液として分泌する」
「なるほど。例えば強い酸に漬ければ、溶解液を纏い吐く生物に早変わり、ということか」
「そういうこと。まぁ今回はそこまで強い酸じゃなくてもいいと思うんだけど………あ、これでいいな」
僕はグリアがラベルを貼り直してくれた薬品の一つを取ると、その瓶を改良版の入っていたケースの別口にセットし、テンタクルワームを入れる。
「さぁ、訓練所に行くか」
「ん?テンタクルワームは持っていかないのか?」
「このケースにはゲートの魔法が付与されてて、指定したここと訓練所を繋ぐんだよ。ゲートの受信機を訓練所につければ、ケースの中に入ってるテンタクルワームは、ゲートを通って現れる。このテンタクルワームって結構大きいから、ケースはここに固定してた方が動きやすいからね」
「お、大きいのか。まぁいい、それなら行くか」
僕達は訓練所に向かうと、誰もいないことを確認して、万が一人が巻き込まれないように結界を張った。
「グリア、剣はそれでいい?」
「あぁ、構わんぞ。というか、今回は真剣を使わせてくれるんだな。服装もちゃんとした戦闘服とは」
今のグリアはウチの騎士団で数人いる女性が使う服を着ている。動きやすいように作られていて、下も短めのスカートだ。
おぉ、やっぱりグリアだとめちゃくちゃ様になるな。カッコいい。
「それに関しては戦ってみれば分かるよ。それじゃあ、ゲート開くよ」
僕は訓練所の壁に受信機をつけると、起動させゲートを開いてすぐにその場を離れる。
するとゲートの奥から何本もの触手が伸びてきた。さっきのヒルのようにピンク色で粘液に塗れている。
しかしその大きさがさっきの比ではない。僕の腕よりも少し太いくらいの長い触手がのたうち回っている。
触手の先は液体の発射口になっているが、閉じれば突起のようになり、本当にタコやイカの触手のようだ。
何本もの触手が蠢くテンタクルワームの姿に、グリアは顔を引き攣らせた。
「お、おい!素早さといい大きさといい形といい、さっきと違いすぎるだろ!こんな触手の化け物だなんて聞いてないぞ!」
「大きいのは言ったでしょ?ケース固定しないとマズいくらいなんだし、あんな小さいヒルなわけないでしょ」
僕はコントローラーを腕につけると、早速動かし始めた。このコントローラーにもゲートの魔法が付与されてる。もしもの時部屋に逃げられるようにだ。
テンタクルワームは、僕の指示に従って触手を蠢かせる。
うん、ちゃんと動くな。僕の意思を素早く実行するから、腕が増えたみたいで面白い。ただめちゃくちゃ気持ち悪い。
一応ケースからは出られないようになってるから、動かせるのはこの触手のみだし、これ以上出てくることもない。
「えぇい、こうなったらヤケだ!やれるところまでやってやる!」
怒りが一周回ってやる気になったのか、グリアが剣を構えた。それじゃあ始めるか。
全ての触手を動かすと、その全てがグリアに向かって突っ込んでいった。
「くっ!やぁっ!」
いくら嫌悪感があるとはいえ、そこはさすが戦士。瞬時の判断で飛び上がると触手を避けた。
その身体能力もさることながら、周りを見る視野の広さや反射神経も大したものだ。
おぉ、相変わらずやるねぇ。
僕はグリアの様子を見ながら触手を動かした。これ感覚としては腕ってより指動かしてる感じでやるといいな。
「まずは触手を斬らねば。ふっ!はぁっ!」
グリアは襲い掛かる触手を縫うように素早く避けると、目にも止まらぬ速さで剣を振った。
鋭い斬撃が触手に走り、そこから触手が二、三本根元からボトッと落ちた。それはドロドロに溶ける。
ほぉ、結構刃が通りにくくしてあるのに、まとめてちゃんと斬れるとは。
ちなみに意思は共有しているが、特に痛みは感じない。感覚の共有に関してはオンオフ出来るからね。
「よし、次は………何ッ⁉︎」
次に狙いを定めたグリアが目を見開いた。
斬り落としたはずの触手が一斉に瞬時に再生したのだ。再び僕の思い通り動く。
これがグリアに真剣を使わせた理由だ。再生能力の実験もしたかったから、そのためには斬ってもらわないと。
さてと、基本的な動きの確認はできたし、ちょっとスピード上げるか。
一瞬できた隙を狙って、一斉に触手がグリアに襲い掛かった。粘液塗れのピンクの触手が彼女の身体を撫でて巻きつく。
「ひっ⁉︎ひゃあッ⁉︎この、離せ‼︎くっ!」
触手に囚われたグリアはもがくが、触手が緩んだり千切れたりする事はない。強度も完璧だな。
複数の触手がグリアの手足を拘束して、彼女の身動きを封じた。
「や、やめろ!うぅ、ヌルヌルして、気持ち悪い………!ぐっ!」
それでも尚強く抵抗するせいで、グリアの戦闘服が触手の粘液で濡れる。彼女の身体も少しずつ濡れて透けていく。
あ、ちょっと目のやり場に困るなぁ………早く終わらせるか。
僕の意思に従って、触手の先から吸い込んだ液体を吐く。
「なっ、くっ!」
グリアは囚われながらも、体勢を立て直して発射された液体を避けた。よかった、安全性は考慮してるけど、極力かからない方がいいしね。
とはいえその液体は床にぶち撒けられた。
酸がかかり床が溶け………ない。
あれ?おかしいな。人体はともかく、木の床くらいすぐに溶けるはずなんだけど。
僕は注意深く床を観察した。何やら煙が出てるが、あれは溶けると言うより液体が気化してるだけだ。
まさかテンタクルワームが吸収したことで中和でもされたか?いや、前に試した時はちゃんとできたのに。
するとテンタクルワームの触手に拘束されているグリアの異変に気がついた。
僕が床に気を取られていて逃げようとすれば出来たはずなのに、彼女はまだ拘束されたままだ。
「はぁ………はぁ………!」
「ぐ、グリア?どうかした?」
「か、身体が………変、なんだ………熱くて、疼く………!」
息を荒くしているグリアは、顔を赤く上気させて身じろきしている。しかし力が入らないようで全く意味を成していなかった。
よく見るとグリアに巻きつく触手からも、床と同じような気体が出ている。やっぱりこれは漬けた液体の気化だな。でもこの酸室温で気化しないはず………
まさか、漬ける液体間違えたか?
でも薬品の瓶にはちゃんとラベルが貼ってあるし、間違えるはずがない。
万が一落としてもいつもちゃんと僕が直して………
「って、そういうことか!」
僕は思わず声をあげた。
さっき準備してる中、グリアがラベルの剥がれた薬品を見つけてくれた。そしてそれを彼女が直してくれた。
けどもしその時、貼り直すラベルを間違えてたら………僕が気が付かずに使ってもおかしくはない。
これ大丈夫かな?たしかあの隣にあった薬品って………媚薬だ。昔グリアと出会った時に使ったヤツよりちょっと効力高いヤツ。
別の薬品の副産物として出たから持ってたんだけど、興味なくてその辺に置いてたっけ。
グリアもようやく薬品の事覚えてくれたと思ってたけど、期待しすぎたか。
「グリア!さっきグリアが直してくれたラベル、貼り直すもの間違えてたらしくて漬ける薬品取り違えちゃったみたい。それ媚薬だ」
「なぁッ⁉︎ふざけるな!んくぅ♡!はぁっ、んっ♡!は、早く何とかしろ!」
テンタクルワームに絡め取られたグリアは必死に叫んだ。
触手の纒う粘液が気化したのが原因なのだろう。グリアが段々と発情しているのが分かった。
さらに触手に刺激されて気持ちよくなってしまったのか、時折蕩けた声を漏らしている。
着ている軍服も粘液に濡れてグリアの身体に張りついている。彼女の身体のラインが浮き彫りになっていた。
触手に絡まれてヌルヌルになっているグリアは、何とも煽情的で艶やかな姿だった。
そんな姿を見てしまった僕は、心の奥からふつふつと興奮が湧き上がってくるのを感じた。
グリアは今何も出来ない。僕が好きにできる。そんな現実が僕の欲望を増長させる。
「お、おい!何をしている!んんっ!はぁっ、くっ!これ以上は、ダメだ………!」
「………ごめん」
「な、何言って、ひゃあんッ♡⁉︎」
グリアが突然声をあげた。
さっきまで拘束することしかしていなかった触手が、突然グリアの身体を弄るように這い始めたからだ。
全ての触手がグリアに群がり、一本ずつ彼女の手足や胴に絡みついた。にゅるにゅると粘着質な音を立てて身体を撫でていく。
「くっ!やめッ、んっ!何をする!離せ!やぁ、んんっ♡!」
「もちろん………気が済むまで実験したらね」
「貴様ァ………!」
怒りと快感の混じった表情をしたグリアの身体を、触手がゆっくりと浸食していった。
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