第1話
僕は自分の部屋でゲームをしていた。
僕の両親は僕が小さい頃に亡くなって、僕はそれから叔父さんと叔母さんに引き取られた。
もっとも僕はその二人を親代わりにはしなかった。それは父さんと母さんが亡くなった事から逃げる事だ。
だから僕にとっては二人は親戚、それ以上でも以下でもない。
まぁそんな事は気にする事もなく、僕は毎日自分の趣味に浸って暮らしていた。
だって二人とも仕事でほとんど家にいないんだもん。親とかそれ以前にそんな事感じる機会がない。
それじゃあ僕はいつも家で一人なのかと言われればそんな事はない。
この家には今、僕以外にもう一人いる。
その時僕の部屋の扉がノックされた。
「お兄ちゃんいる?入るよ?」
「おぉ」
扉の向こうからした声に応えると、扉がガチャッと開いた。
そして入って来たのは一人の少女だ。中学校の制服を着ていて、長い髪を揺らしている。
「どうした、
「お父さんとお母さん、今日は仕事で帰って来られないって」
「はいよ、毎度の事ね」
彼女は
鶏児草は叔父さんと叔母さんの子供で、僕とは三歳差だ。この春からめでたく高校生………の前の受験生になる。
仲は割といい方だと思う。たまに僕が鶏児草の勉強を教えてたりもしている。
「けど、それわざわざ僕に言わなくていいだろ?毎度の事だし、それで影響があるのはお前だけだし」
「それはそうだけど………」
叔父さん達が仕事で帰れないのはよくある事、それで変わる事といえば鶏児草が作る夕ご飯の量だ。
よって僕には全く関係ないんだよなぁ。興味ないし。
そんなこんなでインドアで基本的に家から出ない僕は、一日の半分近くを鶏児草と暮らしている。
「とりあえずそういう事で。あ、それで今日の夕ご飯何か食べたいものある?」
「ん〜?温かいもの」
いきなり聞かれてパッと思いつく要望はそのくらいだ。まだ夜は少し冷えるからな。
「ざっくりだなぁ………まぁ分かった。六時ぐらいにご飯にするね」
「あぁ。というか僕も手伝おうか?鶏児草だってやりたい事とかあるだろ?」
「いいのいいの、好きでやってるんだから。たまに手伝ってくれるだけで充分」
そう言って鶏児草は自分の部屋に戻っていった。
まったく………いつもこうなんだよなぁ。
鶏児草は家の事をよくやってくれる。もちろん僕も手伝うけど、ほとんどやってるのは鶏児草だ。
年頃の中学生ならやりたい事もたくさんあるだろうに。そういうのをほとんど言わない。
鶏児草はちょっと引っ込み思案なところがある。だから遠慮してるんじゃないかって思う時もあるわけで。
叔父さん達もそれは気にしてるみたいなんだけど、仕事で無理がある。
だから僕がその辺気遣うようにしてるんだけど、アイツ本当に何も求めないんだよなぁ。
まぁ本人が言うなら大丈夫、と思いたいんだけどね。下手に気にしても仕方ないし。
そんな事を考えながら、僕はゲームに戻った。
「お兄ちゃん、ご飯できたよー」
「う〜い」
一階からする鶏児草の声に返事すると、僕は階段を降りた。
目の前のテーブルには鶏児草が作った夕ご飯が並べられている。台所ではエプロン姿の鶏児草がいた。
「温かいのがいいって言ってたから、シチューにしてみたよ」
「お、ありがとさん」
真面目に受け止めてくれたのね。ご苦労なこって。
僕と鶏児草は椅子に座ると、手を合わせてご飯を食べ始めた。
うん、美味しい。鶏児草の料理ってどんどん美味しくなってる気がする。
「あの、さ。お兄ちゃん」
すると鶏児草が僕の方をチラチラと見てきた。
「今日、お母さん達、帰ってこないわけじゃん?」
「…………あぁ」
「だからさ………その、今日は………いい?」
鶏児草が何を言いたいのか、僕はちゃんと分かっていた。
「そうだな………いいよ」
「うん。ありがとう」
この瞬間だけはどうも変な気分になる。少し周りがぎこちなく動いているような感じだ。
そして夕ご飯を食べ終わった僕は、鶏児草が洗い物をしているうちにお風呂に入る。
お風呂から出ると、僕はパジャマに着替えて自分の部屋に入る。ゲームをして暇を潰した。
今日は特に見たいアニメは無いし、最新動画も見てしまった。
そろそろ寝ようかな。そう思っていると、部屋の扉がノックされる。
「お兄ちゃん、いい?」
「あぁ」
僕が返事すると、モコモコのパジャマを着た鶏児草が入ってくる。お風呂上がりだからか、髪は湿っていて部屋の光を反射している。
「それじゃあお兄ちゃん………寝よっか」
「そうだな」
こうして僕と鶏児草は同じベッドに入った。
僕が鶏児草と一緒に寝るようになったのは、いつ頃だったか。正確には覚えていない。
けど鶏児草は叔父さん達が仕事で帰って来れない時は、よく一緒で寝ようと言ってくる。
鶏児草がしてくる数少ないお願いだった。
それは鶏児草が中学生になっても変わらず、僕はそれを受け入れている。
こんな歳になってまで、と思うのが普通なんだろうし、僕も思わない事はない。それでも自然と受け入れてしまう。
「電気、消すよ」
「うん」
僕は部屋の明かりを消して、布団を被る。
元々僕一人用のベッドだ。二人では少し狭くなってしまうが、それも慣れている。
僕と鶏児草はほとんどくっつくようにして横になった。目の前に鶏児草の顔がある。
その表情は俯いていてよく分からないけど、そんな事はあまり気にしない。
辺りが静かになり、落ち着いた空気が流れる。その時だった。
鶏児草がそっと手を伸ばして、僕の手を握った。
「………いい?」
「あぁ」
僕がそう言うと、鶏児草は僕と指を絡めた。そのまま僕と距離を縮める。
僕は鶏児草の身体を手を回すと、ギュッと抱きしめた。柔らかい鶏児草の熱がじんわりと伝わってくる。
「これで、いいか?」
「………うん」
鶏児草は僕の胸元に顔を埋めて小さく息を吐いた。
僕と鶏児草の心臓の鼓動が重なり合って聴こえてくる。それはお互い少し速いように感じる。
鶏児草はそっと顔を上げると、僕と顔を近づけてくる。そして前髪を分ける。
あぁ………今日もかぁ。
そう思いながらも、僕も顔を近づける。お互い見つめ合ってギリギリまで近づく。
そして僕は鶏児草のおでこに唇を触れさせた。
最初はただ一緒に寝るだけだった。それだけでもマズいのは分かってたけど、僕はそんなに気にしてなかった。
でも半年ほど前だったか。鶏児草が『手を繋ぎたい』と言い出した。
少し違和感を感じたが、それでも僕達は兄妹だ。そういうコミュニケーションかと思って受け入れた。
それから鶏児草はたまに手を繋ごうとしてきた。
寝ている時だけでなく、リビングでテレビを見ていたり一緒に出かけたりする時も、よく手を繋いでいた。
中学生の女子が高校生の兄と手を繋ぎたいとか、不思議ではあった。
だから何かあったのかと聞いた事もあったけど、『こうしていたい』という答えが返ってくるだけだった。
それでも僕は鶏児草なりの甘え方なのかな、というよく分からない理由をつけて納得した。
それから数ヶ月して、今度は『ギュッて抱きしめて欲しい』と言われた。
これには僕もびっくりした。
いくら兄妹とはいえ、思春期の女子がそんな事を求めてくるなんて思わなかった。
けど、鶏児草は取り消さなかったし、何かしらの意図があるのは感じれた。
僕も断る理由が無かったため、それを受け入れた。優しく抱きしめてそのまま眠った。
その日の翌日に叔母さんにでも相談しようとしたけど、それはやめた。理由は何となくだ。
普段遠慮して何も要求しない鶏児草が、ここまでしてくる理由。それは自分だけが知りたかった。
それからいつの間にか鶏児草と抱き合うのも習慣になっていた。
さすがに叔父さん達の前だとマズいという自覚はあるのか、二人がいない時や僕の部屋にやって来て要求してきた。
別にそれが嫌だというわけじゃない。それでも鶏児草が僕に対してどんな思いで要求してくるのか、それは気になった。
まるで恋人のような行為を求められる事に抵抗感はなくとも、違和感はあるわけで。
それでも『何かしらの安らぎが欲しいのかな?』と思って気にしないようにしていた。
けど数週間前、一緒に寝ている時だった。その日もハグを要求されて、ギュッと抱きしめた。
その時、鶏児草は『おでこにキスして欲しい』と言ってきた。
僕はさすがにそれはマズいと思って断った。いくら兄妹でもそれはアウトな気がした。外国とかならありそうではあったけど。
けどその断りも束の間、既にこれまでの行為で僕の中でのハードルは下がってしまっていた。
鶏児草に『ダメ?』と聞かれて、僕は断れなかった。
そして僕は鶏児草のおでこにキスをした。本当にそれだけ、それ以上のことは何もしていない。
こうしていつの間にか、そのおでこにキスをするのすらも、僕達の中では当たり前になりつつあった。
自分達のやってる事に違和感はある。それでも僕は拒まなかった。それどころかこうして自分からしたりもするようになっている。
「寝るか」
鶏児草のおでこにキスをした僕は、鶏児草を抱きしめたままにした。これもいつもの事だ。
「うん、おやすみ」
「おやすみ」
僕達はそっと目を瞑った。
少なからずある罪悪感と、それ以外の何かを押し消すようにして。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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