「は?………何言ってるんだよ」
「ダメ?」
「それは………さすがにダメだって。これ以上は………」
キスを求められた僕は、何とか断ろうとした。さすがにこれ以上はやってはいけない。
その時頭に浮かんだのは
簡単に受け入れられるものじゃない。けど、そのままにするのも難しかった。
すると鶏児草がギュッと抱きついてきた。いつもしてきてる事なのに、思わずドキッとしてしまう。
「お願い………私、お兄ちゃんと………」
その声はどこか震えているようにも聞こえた。僕は………どうしたらいいんだ?
これについて鶏児草がただの興味本位じゃないのは、それなりに分かってるつもりだ。コイツはそんな軽率な事はしない。
けど………
「お前な。僕達は兄妹であって恋人じゃないんだ。そりゃ多少のコミュニケーションはいいけど、越えちゃヤバい一線だってある」
これまではずっと一人の妹として接してきた。だからどんな事もマズいだなんて思わなかった。
けど、これ以上は兄妹として越えてはいけない。
「それじゃあ………恋人なら、よかったの?」
「………鶏児草?」
「もし、私とお兄ちゃんが兄妹じゃなくて、普通の恋人だったら………私の事受け入れてくれた?」
鶏児草は真っ直ぐ僕を見つめてくる。僕はそれに目を合わせる事が出来なかった。
「な、何でこんな事お願いしてきたんだよ………そういうのって、好きな人とするもんだぞ」
それはずっと気になっていた事だった。
今の鶏児草の気持ちが一瞬の気の迷いなら、僕はそれを助けてあげたい。
「私………お兄ちゃんと離れたくないの。お兄ちゃんの傍にいたいの」
「そんなの………一緒にいたいならいてやるよ。けど、こんな事わざわざする必要なんてないって」
「でもいつか別れちゃう、でしょ?私は、お兄ちゃんとずっと一緒にいられる人でありたいの」
たしかに、僕が鶏児草といてやれるのもこの家にいる限りだ。いつかここを離れる時が来る。
そうしたら僕は………鶏児草と一緒にいてやれるのだろうか。いや、そんなにいてやれるほど、僕は優しい人間じゃない。
「私、お兄ちゃんとずっと一緒いたいの。けど、それでお兄ちゃんの人生を壊したくない。だから………今だけでも、誰よりも近くにいたいよ」
「鶏児草………」
僕は鶏児草を抱き返した。そして鶏児草と目が合う。
そんな事しちゃう辺り、僕の心ももう引き戻せないところまで来てしまっているんだろう。
目の前にいる少女を、もうただの妹とは見れない。それはきっと昨日今日の話じゃなくて、ずっと前からなんだろう。
「たぶん、これ以上の事しちゃったら、僕からも鶏児草に求める事があるかもしれない。その時、お前は受け入れてくれるか?」
そう言いながら、僕達の距離はどんどん縮まっている。顔が近づいていった。
「うん。正直ちょっと怖いけど………お兄ちゃんなら、もっと求めて欲しい」
そして僕と鶏児草はそっと唇を重ねた。
「ん………」
僕達はしばらくそのままでいた。
鶏児草の唇は柔らかくてぷにぷにしていて、気持ちいい感触だった。それでいていい匂いがする。
そしてたっぷり数秒間キスをすると、僕達はゆっくりと唇を離した。
それでどこか名残惜しいような感覚になってしまう僕は、やっぱり変なのかな。
「………おやすみ」
「うん。おやすみ」
僕達は抱き合ったまま、ゆっくりと目を閉じた。
それから僕達の生活が目立って変わった、なんて事は無かった。
それでも僕と鶏児草の関係は明らかに変わったのはたしかだ。
何となく前よりも長く一緒にいるようになった。
ご飯を作ったり、買い物に出かけたり、これまで鶏児草一人でやってた事を二人でやるようになった。
叔母さんは『仲良くなったの?』と嬉しそうだったが、その裏の事はいる由もない。
そして予想通りではあったが、鶏児草は段々と頻繁にキスを求めてくるようになった。
僕もそれを断る事は無かった。
「お兄ちゃん………いい?」
「………あぁ」
朝起こしに来てくれた時、叔父さん達が出ていってから、昼間のふとした時間、そして寝る前。
僕も断る気が無くなってしまい、それを受け入れた。鶏児草を抱きしめて唇を重ねる。
一度してしまえばそれからストッパーをかけるのは難しい。その頻度は増える一方だ。
もう叔父さん達がいる時だろうと構わなかった。見つからないなら、叔父さん達がいる時でも抱き合いキスをした。
それでもあれ以降叔父さん達が帰ってこないと言う日は無くて、一緒に寝るということは無かった。
けどそれでいいのかもしれない。今の僕達はそれなりの距離感が必要だ。
僕達は近くなりすぎている。それは危険でもある。家族としての見方がブレてしまう。何をするか分からない。
今の関係に少なからずに罪悪感はある。けど、それを振り切るほどに鶏児草とのキスは気持ちよかった。
鶏児草もそれを分かっているからか、何も言ってこない。いや、元々そういうのを言うやつじゃないか。
けど、それが崩れかけたのがこの前の事だった。
その日は休日で親だっている時だった。叔父さんは書斎で仕事、叔母さんは二階の掃除をしていた。
僕は自分の部屋のベッドでゴロゴロしながら読書をしていたが、そこに鶏児草が勉強で分からないところがあると言ってやってきた。
だから僕はそれを教えた。
「………んで、ここを、この式に代入したらいいんじゃない」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん」
そう言って部屋を出て行こうとした鶏児草は、ふと立ち止まって僕を見た。
「あの、さ………お兄ちゃん。今………しても、いい?」
「え?………あぁ………いいよ」
僕が体を起こして答えると、鶏児草は僕の方に歩み寄って僕の隣に座った。
ベッドの上でキスするのか………少し特別な感じがする。恥ずかしくなってドキドキする。
鶏児草も同じ気持ちなのか、赤い顔を伏せつつも僕の方をチラチラと見てくる。
僕達は手を握ると、体を寄せ合った。距離を縮めて顔を近づける。
この時の鶏児草の表情、すごい可愛い。つい頭を撫でてしまう。サラッとした触り心地のいい髪だった。
「お兄ちゃん………嬉しい」
こうやって一緒にいる時の鶏児草は、いつでもすごく嬉しそうだった。
「んちゅ………」
そして唇を重ねると、そのままジッとその感触を味わった。
それから数秒して、そろそろ離そうかなと思っていた時だった。
ヌルッとした柔らかくて生暖かい何かが、僕の唇に触れた。
「⁉︎」
これってまさか………鶏児草の舌?
そう思った僕は、反射的に自分の舌を伸ばした。すると鶏児草の舌とぶつかった。
その瞬間ゾクゾクッとした感覚が背中を走った。鶏児草も同じようで、ピクッと身体を跳ねさせた。
僕達はそれをさらに求めるようにして、舌をにゅるっと絡ませた。
「んんっ………」
鶏児草は僕の身体にそっと腕を回した。抵抗どころか、より求められているように見える。
「んっ………ふぅ、んくぅ………ふぁ………」
僕達は抱き合ったまま舌を絡ませた。くちゅくちゅとした水音が、部屋の中に鳴り響く。
それに酔いしれるように、僕達はキスに夢中になった。段々と頭がボーッとしてくる。
そうなってくると、舌から伝わってくる感覚がより大きく感じられるようになった。僕からも鶏児草を求めたくなる。
少しの間で済ませるつもりだった僕達のキスは、すっかり熱が入ってしまった。
身体が火照ってきて、ますます行為は深まっていく。お互いの荒い吐息が熱となって周りにまとわりついた。
絡めていただけだった舌をお互いの口腔内へと進めていく。それだけでもかなり気持ちいい。
熱がこもっていてぬるっと生暖かい。僕達はお互いの口腔内に舌を這わせた。
それと同時に僕は鶏児草を強く求めたくなった。鶏児草を強く抱きしめようとした。
その時
「ねぇ、ちょっといいかしら」
扉の向こうから叔母さんの声がして、僕達はハッとした。すぐに唇を離して姿勢を正す。
お互いの唇の間に唾液の橋がかかった。どこか恍惚とした表情の鶏児草と見つめ合う。
「ちょっと?」
「な、何?」
「今から買い物に出かけてくるけど、何か欲しいものある?」
「いや、大丈夫」
「そう」
叔母さんはそう言って一階に降りていった。その音を聞いて、僕はゆっくりと息を吐く。
僕、今鶏児草を求めようとしてた………妹なのに………
そう思って僕は隣を見た。恥ずかしそうに顔を赤くしている鶏児草と目が合う。
「お兄ちゃん………私………」
「その、もういいか?叔母さん達もいるんだし」
「…………うん」
鶏児草は頷くと部屋を出て行った。
こうやって冷静になって考えると、今僕と鶏児草がどれほどいけない事をしているのかが分かる。
もし今叔母さんが声をかけなかったら………僕は………
「いや、そんなの分かってた事か………」
本来は従兄妹とはいえ、昔から一緒にいて僕達は兄妹なわけだ。それなのにこんな事になって………
もう初めの頃とは違う。僕も鶏児草も深まった関係を、ただの兄妹じゃない事を自覚している。
それからどうするのかは、ちゃんと自分達で決めないと。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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