そんな事がありながらも、表面だけでは何事もないように時間は過ぎていった。
ディープキスをしたのもあの一回だけ。あの後ちゃんと元に戻ったし、
けど正直求められていたら断れる自信なんてない。たぶんまたしちゃうな。
そんな思いは胸の内に押し込んで生活していた。
そしてある日
僕は部屋でグダグダと読書をしていた。外は日が傾いていっている。
すると部屋の扉がノックされる。鶏児草か。
「お兄ちゃん、ご飯だよ」
「ん?あぁ」
僕は呼ばれてベッドから起き上がると、一階に降りた。ご飯の準備を済ませて席に座る。
「「いただきます」」
僕達はご飯を食べ始めた。あぁ、鶏児草のご飯美味しい。
「そういえばお兄ちゃん」
「ん?何?」
「今日、お父さんもお母さんも帰れないって」
「………そうか」
僕はちゃんとした口調を取り繕うのに、少しの間ができてしまった。それだけ意識してしまっている、ということなんだろう。
「それでさ………今日、一緒に寝ても、いい?」
「…………あぁ」
ここまでくるともはや条件反射にも等しかった。ここで断るという選択肢は自然とない。
けどそれが何を意味するのか、それを分かった上でしてしまっている。それは大丈夫なのだろうか?
そんな事をぼんやりとしながら考えて、僕達はご飯を済ませた。
そしてお風呂を済ませた僕は、部屋でのんびりとしていた。何となく何もする気が起きなかった。
それからしばらくして扉がノックされた。
「お兄ちゃん、入るよ」
「あぁ」
僕が応えると、部屋の扉が開いて鶏児草が入ってくる。いつものパジャマ姿だ。
しかし僕は何となくいつもと鶏児草の雰囲気が違うのを感じた。
鶏児草は僕の隣に座った。
「電気、消すよ」
「うん」
明かりを消して、僕は鶏児草の隣に座った。すると鶏児草と向かい合う形になった。
いつもならすぐにベッドに入るのに、今日は違った。
カーテンの隙間から溢れる月明かりが鶏児草を優しく照らしている。
その姿はとても綺麗だった。兄である僕が見惚れるほどに。
その事実に僕はどうしても違和感を拭えなかった。僕が見惚れているのは自分の妹なのに。
鶏児草は僕のことをジッと見ている。うっすらと顔が赤い。
「あ、あのさ………お兄ちゃん。相談があるんだけど」
「? 何だ?」
いきなり話し始めた鶏児草に驚きながらも、僕は聞いてみた。それは兄妹だから、とは違う気がした。
「お兄ちゃんはさ………今、彼女さんとかいるの?それか………好きな人とか」
「いないよ。そんな人」
人間関係がめんどくさい僕にとって、そんなの生活する上での邪魔でしかない。
「そっか………もしもさ、自分が好きになった人が、本当は好きになったらいけない相手だったら。お兄ちゃんならどうする?」
つい今人を好きになった事がないと言ったばかりなのに、こんな質問ぶつけてくるか?
「そうだな…………よく分からないな。それが誰かにもよるし、時と場合によってそれは変わってくる。一概にこれ、とは言えないよ」
「そう、だよね………ごめんね、変なこと聞いちゃって」
「別に………」
うっすらではあるけど、その真意に気づきつつある僕は、それ以上は何も言えなかった。
「その………どんな関係にだっていつかは終わりが来るし、どんな人でもお前の事は完全には分からない。それなら、いっその事自分の気持ちをそのまま伝えてみたら?壊れるならその程度って事だ」
僕は鶏児草の頭を軽く撫でてやる。それはある意味の苦し紛れだった。けど、言ったことは本心だ。
僕は鶏児草がどう思っているのか、正確には分からない。けど、どんなものでも受け止めてあげられたら、とは思っている。
「お兄ちゃん………ありがとう」
そう言って鶏児草は僕に身体を預けてきた。フワッとしたいい匂いに思わずドキッとする。
「お兄ちゃん………キス、しても、いい?」
「…………あぁ」
僕は鶏児草をギュッと抱きしめた。鶏児草の暖かさが伝わってくる。
僕達はジッと見つめ合って、ゆっくりと顔を近づける。
鶏児草………近くで見るとこんなに可愛かったんだな。知らなかった。
「…………んっ」
僕達はそっと唇を重ねた。軽い高揚感が僕の背中を走る。
鶏児草が控えめに舌を出して、僕の唇を舐める。それに応えるように僕も舌を出す。
その舌の先が僅かにぶつかった。僕達は少しだけ舌を引っ込めたけど、またすぐに出す。
僕達の舌がにゅるっと絡み合った。少しザラザラしながらも濡れた柔らかい感触が僕の舌に絡みつく。
その感触、温度から少しでも鶏児草の気持ちを分かろうとするように、僕は鶏児草の舌を舐めた。
「んんっ………ふぅ………んくっ………はぁっ」
お互いの唾液が混ざり合い、僅かに流れ込んでくる。それはどことなく甘く感じる。
それから僕達は夢中になって舌を蠢かせた。くちゅくちゅと水音が部屋の中に響き渡る。
最初は少しだけだった高揚感がだんだんと高まっていく。それは全身に広まり、体を甘く痺れさせる。
それによって頭もボーッとしてきた。兄妹であるという理性すらも溶かされていく。
僕達は無意識のうちに強く抱き合い、激しく舌を絡めていた。舌から感じられる快感がそれをさらに増長させる。
「ちゅぷ、はぁっ!………くちゅ………んくっ、んんっ………んっ、はむっ!………れろっ、んはぁ………くちゅ、んっ」
段々と息が荒くなっていったが、それも構わずにキスは続いていた。
僕達の周りの熱が高まっていく。僕達のそれに影響されて興奮がより高められた。
そして気がつけば、僕は鶏児草をベッドに押し倒していた。そのまま鶏児草に覆い被さり唇を重ねている。
やがて息苦しくなり、僕達はようやく唇を離した。
「ぷはぁっ‼︎………はぁ、はぁ………」
僕は荒く息を吐きながら鶏児草を見た。
顔は真っ赤になっていて、目はとろんとしている。大きく息を吐く口元から垂れた唾液が、さっきまでキスをしていた事を示している。
「鶏児草………わ、悪い………」
しまった。つい激しくしてしまった。どんどん理性が削られている。
「お兄ちゃん…………嬉しい………」
鶏児草は嫌がるどころか、甘えるようにして抱きついてきた。
「ねぇ、もっとして………私の事、もっと求めて………」
予想以上に大胆な行動に、僕はたじろいでしまった。
「よ、鶏児草………これ以上は、さすがに………」
そう言いながらも僕は鶏児草を引き剥がす事が出来なかった。それだけ鶏児草の表情が真剣だったからだ。
「お願い………今やめたら………私、絶対後悔するの………だから」
「でも………僕達は兄妹なんだ。これ以上は本当に、ダメなんだよ」
鶏児草はたぶん本気だ。ここで止めないと、僕自身止まれなくなる。
「私達はいとこでしょ?それなら、別にいいじゃん………」
「それは……そうだけど………」
そうだ。僕と鶏児草は本当の兄妹じゃない。
僕が叔父さん達に引き取られたのは鶏児草が物心つく前だけど、色々あってポケットが話した。
「私ね。お兄ちゃんとずっと仲良くなりたかったの………ウチに来て、ずっと無視されてたから………」
たしかに、この家に来た時は馴染めなかった。いや、馴染みたくなかった。
僕達はこの家の子供じゃない。その事実を無視したくなかったし、それは両親の死への逃げだ。
だから家族としての距離感は捨てるように、叔父さん達とも、鶏児草とも距離を取っていた。
それにお情けだの血縁だので迎えられた家に、自分の居場所はない。それが僕とこの家との距離を離れさせていた。
けど、ある時を境に鶏児草だけとは当たり前に過ごせるようになった。
「だから、お兄ちゃんと当たり前に生活出来るようになって、すごい嬉しかったの。一緒にいてくれて、優しくしてくれて、いつも楽しかったよ」
「別に、僕はそんなの………」
長く一緒にいて、自然といられるようになった。ただそれだけの事だ。
「けど、こんな事なら………優しくしてくれない方がよかったよ………こんな思いをするくらいなら………ずっと無視してくれた方が………」
「鶏児草………」
これまでの事、そして今の言葉を聞いて、鶏児草の気持ちが分からないほど、僕だって馬鹿じゃない。
もう否定は出来ない。出来るのは受け入れるか、拒絶するか。どちらかだ。
「いいのか?………後悔するかもしれないよ?」
一度進めば、もう戻れなくなる。それは僕ではどうしようも出来ない。
「そうかもしれない。けど、そんな事怖くないよ………それよりも、今の気持ちを誤魔化したら、そっちの方が絶対後悔するから」
「それが………誰にも受け止めてもらえないかもしれないものでもか?」
「………うん」
鶏児草はゆっくりと頷いた。受け入れてくれるかの懸念からか、少し表情が硬い。
仮にも兄妹が恋人同士になるなんて、まずあり得ない。きっと叔父さん達も認めてくれない。
けど鶏児草には、それでも押し通す覚悟がある。後は僕次第、か。
僕はゆっくりと鶏児草を抱きしめた。
「そうだな。こんな困ったヤツには、ずっと側にいないとな」
「ッ⁉︎…………うん!」
そして僕達はもう一度唇を重ねた。
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