神社は大勢の人が来ていて、いつもよりも何倍も賑やかだった。
僕と
「花火が打ち上がるまでまだ時間あるし、この辺で時間を潰すか」
まぁ場所取りとかはそこまで気にしなくてもいいかな。距離だけ守れれば、後はどうとでもなる。
「とりあえず夕ご飯代わりに何か食べるか。何か食べたいものある?」
「うーん、色々ありすぎて迷っちゃうなぁ」
まぁ、だろうな。それを選ぶのも醍醐味なんだろうけど。
僕達は無難にたこ焼きを選ぶと、それを買って近くの塀に腰掛けて食べた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。………熱っ………あ、美味しい!はい、お兄ちゃんも」
鶏児草は爪楊枝でたこ焼きを刺すと、僕の方を向けた。
「お、ありがとさん」
僕はそれに食いついた。お、美味いな。けどあっつい!
たこ焼きを食べ終えた僕達は、ゴミを片付けて再び歩き出す。すると鶏児草がとある屋台の前で止まってしまった。
「っと、どうした?」
そこは射的屋だった。ちょうど親子がゲームを楽しんでいるところだった。
鶏児草の目はそこの真ん中に飾ってある鳥のぬいぐるみに向いていた。おや?
「欲しいの?」
「え?あ、いや、その………」
僕が聞くと鶏児草は目線を逸らした。こんな時くらい素直に言えばいいのに。
そういえば、鶏児草の部屋にこんな感じのぬいぐるみがあったっけなぁ。こういうの好きなのか。
「ものは試しで取ってみようか?出来なくは無いと思うけど」
「い、いいって!私のためにそんな………」
「構わんよ。おじさん、僕もいいですか?」
僕は射的屋のおじさんにお金を払うと銃を借りた。
さっきの親子が何回か撃ってたの見てたからなぁ。大体弾がどんな風に飛ぶかは予想出来てる。
狙いを定めて引き金を引く。一発目は外れたが、二発目はちゃんとぬいぐるみに当たって倒した。ふぅ。
おじさんから景品のぬいぐるみを貰い、それを鶏児草に差し出す。
「ほら、どうぞ」
「あ、ありがとう………」
鶏児草は申し訳なさそうに受け取ったが、ぬいぐるみを見ると嬉しそうに微笑んで撫でる。
妹の笑顔に思わずドキッと心臓が跳ね上がった。
でも、鶏児草のこういう笑顔を見られるのは結構嬉しい。
それから僕達はのんびりと神社の中を歩いていた。
「ねぇ、お母さんたちに何かお土産買った方がいいかな?」
「ん?そうだねぇ………仕事で頑張ってるし少しでも、あ!冷やしパインあるじゃん!行こう鶏児草!」
「ちょ、お兄ちゃん?お土産は?」
「んなもんほっとけ。僕は自分のために使うわ」
なんて事を話しながら僕達は屋台の間を歩いていく。その手はちゃんと握られていて、鶏児草の温かさが伝わってくる。
さてと、そろそろ場所どうするか決めた方いいな。どうしたもんか。
そんな事を考えていると
「あれ?鶏児草ちゃん?」
後ろから鶏児草の名前が呼ばれて、鶏児草は立ち止まって振り返った。僕も釣られて振り返る。
そこにいたのは中学生くらいの女の子三人組だった。その子達を見た鶏児草が驚いたような顔をする。
「あ、みんな!来てたんだ」
「うん。受験勉強の息抜きにね」
あぁ、なるほど。鶏児草の学校の友達か。
まぁ中学校までは地元の所に通う人が多いし、こういう地域イベントで会うのも変な話じゃない。
咄嗟に危険だと判断した僕は、鶏児草の手を離した。鶏児草が少しだけ残念そうな顔をしたが、ちょっと我慢してくれ。
中学生の同級生なんて受験が必要な一部を除いて、基本的にはこの辺の地域から来てるんだし。ここは少し距離をおいた方がいい。
「まさか鶏児草ちゃんも来てるなんて。それで………そこの人は?」
女子中学生達の目が僕の方に向く。ちょ、やめてキツい。
「あ、えっと、この人は………」
「私この辺で見たことあるよ!鶏児草ちゃんの知り合いの人?」
すると鶏児草は僕を紹介しようとして言い淀んでしまった。おい、どうした?
「あぁ………僕は鶏児草の兄です」
鶏児草が動かなくなったので、僕は適当に自己紹介を済ませた。本当は従兄だけど、面倒なので兄にしとく。
その瞬間、鶏児草が顔を伏せて、表情が見えなくなる。
「へぇ、そうなんだ。兄妹で来るなんて珍しいなぁ」
「そう、なんですか?」
「こういうのって、友達とか恋人同士で来るのがほとんどですよ。仲良いんですね」
そうなんだ。生憎、そういう経験がゼロに等しいからなぁ。
「えっと、お兄さんは高校生ですか?」
「え?まぁ、一応、ッ⁉︎」
言葉が言い終わらないうちに、鶏児草が僕の手を掴んだ。
友達に『それじゃあこれで』とだけ言うと、僕の手を引っ張っていく。
「ちょ、鶏児草!どこまで行くの⁉︎」
鶏児草は僕の手を掴んだまま、境内の裏までズンズンと歩いていく。人気も無くなり、喧騒は聞こえるものの静かだ。
そこでようやく鶏児草は止まった。それでも僕の手は掴んだままだ。
「よ、鶏児草?どうしたんだ?」
「………」
鶏児草は黙ったまま俯いている。そして手をフッと離した。
「もしかして………さっき紹介した時、兄だって言ったの怒ってる?」
せっかく恋人感覚で楽しんでいたのに、そんな風に言われたら嫌な気持ちになるのかも。
「………別に、怒ってるわけじゃ、ないけど」
鶏児草がボソッと呟いた。
「仕方ないもんね。みんな近くに住んでるし、恋人だって言って万が一兄妹だってバレたら大変な事になるもんね」
ちゃんと僕の意図は察してくれていたようだ。
本当は従兄妹だから大丈夫、なんて理屈は家の事情を深く知ってるから言えること。一応周りは兄妹って認識されてるんだし。
ハタから見たら一緒の家に住んでるレベルの家族で恋人、という時点で色々問題あると思うだろう。
「仕方ないの、分かってるんだけど………さ」
鶏児草の言葉に力がない。何かを気にかけているだろうか。
「嫌だったのか?兄妹って言ったの」
「………お、お兄ちゃんの中で………私って、やっぱり妹なのかな、って」
「あぁ………」
「ごめんね、変なこと言っちゃって………ちゃんと、分かってるつもりなんだけど」
まぁそうだよなぁ。いくら理屈では分かっていても、感情で納得出来ないこともあるもんだ。
鶏児草はしっかりしてるし、そういうのもちゃんと納得してくれていると思ってたけど、それとこれとは別か。
ちゃんと言葉で伝えてやるべきだったなぁ。反省反省。
僕は鶏児草の手を優しく握った。
「周りがどう思ってても、鶏児草は僕の妹で恋人だよ。それじゃあ不満か?」
「………ううん。ありがとう」
鶏児草は僕の方を向いた。ゆっくりと前に出て僕に抱きつく。少し驚いたが、僕も優しく抱き返した。
「久しぶりだなぁ………お兄ちゃんにこうやって、ギュッてしてもらえるの」
「そりゃ、夏休みはお互い受験だなんだってあったし、叔母さん達もいたからなぁ。暑苦しくない?」
「全然。すごい温かくて………安心する」
鶏児草が嬉しそうに頬を緩める。僕もつい離したくなくなる。久しぶりに間近で感じる鶏児草の体温と心地いい匂いに、心が温まる。
その時、鶏児草が軽く僕の服を引いた。顔を赤くして、ジッと僕を見つめてくる。
「ねぇ、お兄ちゃん………もうちょっと、二人きりでいても、いい?」
「鶏児草………」
こんなに鶏児草とくっついたのは久しぶりだった。ドキドキとお互いの心音が響き合う。
「最近出来なかった分………いっぱいイチャイチャしたい、な………」
「………うん。僕も」
僕達はさらに奥へと進み、誰の目にもつかないところへと向かった。
「んっ、くちゅ、んんっ………んはぁ、あむっ!ちゅるっ、んんっ、れろっ、んふぁ」
人気のない神社の奥で、僕と鶏児草は抱き合って唇を重ねていた。周りの人達の声もほとんど聞こえなくなり、二人きりの空間となる。
「ぷぁっ………お兄ちゃん、もっとギュッてして………私、もっとお兄ちゃんの側にいたいな」
「うん」
鶏児草は僕の脚の間に入って、僕に身体を預けている。小柄な鶏児草が僕の腕の中で抱きついてくる。
いつもとは違う浴衣姿に心臓が高鳴っている。抱き合っているとフワッといい匂いが漂う。
「こういうところで抱き合ったりキスしたりしてると、なんだかイケナイことしてるみたいだね」
「色んな意味で、かもな」
鶏児草が僕の手を握った。
「鶏児草の浴衣姿、見れてよかったな」
「そ、そう?初めてだし、ちょっと自信無かったんだ。けど、ほら………せっかくお兄ちゃんと行くんだし」
「見た目もそうだけど………それよりも、こうやって隣にいてくれるのが嬉しいんだよ」
最初は戸惑ったりしたけど、今となってはそれが当たり前になりつつある。つくづく僕も変わったな。
「私も………お兄ちゃんが隣にいてくれて、すごい嬉しいな。二人きりでしたかったこと、いっぱいあったから」
そう言うと鶏児草は僕の耳に口を寄せた。そして僕を花火大会に誘った時のように、小さな声で囁く。
「だから、その………二人きりじゃないと出来ない、もっとイケナイこと………シよ」
茹で上がりそうなほどに真っ赤な顔が、暗がりの中でもはっきりと見えた。
「鶏児草………それは………」
「い、嫌ならいいの!その………恋人っぽいコミュニケーションというか、その………うぅ」
鶏児草は恥ずかしそうに蹲った。
僕だってこんなに可愛い彼女と二人きりで一緒にいて、ただ愛情だけが募るわけじゃない。
僕は鶏児草の身体に手を回した。彼女の背中を優しく撫でる。
「浴衣、自分で着直せるよな?」
「ッ!………うん」
鶏児草が頷いたのを確認して、僕は鶏児草の浴衣に手を伸ばした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
評価、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。