※この作品はR-18です。

(作者の)トラウマ克服物語   作:イチャラブ大好き作者

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第二話

「…………」

 

「…………」

 

 雪菜からLINEが来て、雪菜の所に直行した。雪菜から雪菜の母親に俺が来るという事は知られていたようなのですんなりと通してもらえたのだが、「雪菜をお願いね」と言われてしまった。俺はすぐに「勿論です。雪菜は大切な奴ですから」と答えた。

 

 威勢よく答えた俺であるが、何を話すべきなのか分からなかった。3週間ぶりに雪菜の顔を見たのだが、やはり顔色は悪いままだった。それに少しやつれているように見えるし、薄っすらと眼の下には隈もある。あんな事件があった後だから食事が喉を通らないのだろうし、寝つきも最悪なのだろう。

 

 いつもならすぐに軽口を言えるのだが、それが俺には出来なかった。必死に会話のパターンを頭の中で模索する。

 

「あれからどうだった?」というのは無しだろう。あの事件を思い起こさせるのは止めておいた方が得策だろうし。

 

「顔色悪いじゃねぇか。しっかり食べて、しっかり太れよ」とかはどうだろう。雪菜から「女子に太るとか言っちゃダメだよ!」みたいなツッコミが来てくれれば、そこから話が広がるかもしれない。いや、色々と気にしすぎる雪菜の事だし、「顔色悪かった? 心配させた?」みたいな思考にいって、気落ちさせるかもしれない。

 

 ピコーン! と俺の頭で閃いた。てか、何故に忘れていたのか。

 

 雪菜の家に来る前に話のネタになるかもしれないみたいな感じでゲーム機を持って来ていたのだ。ついでにお菓子も。久しぶりに見た雪菜の顔がやつれていたりで完全に頭から抜けていた。

 

 バッグをごそごそと漁って、ゲーム機を取り出した。有名な任地堂が最近発売した新たな携帯ゲーム機を。ソフトは頭空っぽできる土管に潜ったりするキャラなどが登場するレースゲーム。

 

「マ〇カやらね?」

 

 唐突に脈絡不明な事を言い出した雪菜は、暫しの間呆けていたという事だけ言っておこう。

 

 

 ────────────────────

 

 

「はっはっはっは! 俺に勝とうなんざ100年早(は)えんだよ! って、青甲羅は反則だろぉおおお!」

 

「油断してるからそうなるんだよ、バーカ!」

 

 ぎゃあぎゃあと騒ぎまくる俺達。下の階には雪菜の両親もいるが、声を抑える事なんてしない。多分、あの人も雪菜の元気な声とか聞きたいだろうし。後で叱られたら大変ごめんなさいをしよう。

 

 なんて考えてると、俺は最下位になっていた。レースはあと少しだというのにこれは大変まずい。レースに関係ない事を考えて、意識が散漫になっていたのだ。溶岩ダイブをしたり、障害物にぶつかったりと見る事も出来ない低レベルなミスばかりしていた。しかも、このレースはゲームの中では最高速のレース。一瞬で抜かれてしまう。

 

 ここは起死回生のアイテムを狙うしかない。

 

「キラー来いキラー来いキラー来いキラー来い…… はいキタァアアア!」

 

「は!? 銀ちゃん、ずるくない!?」

 

 キラーになり、立ち塞がる敵や障害物を薙ぎ払いながら、先頭に近付いていく。そして、ついに1位を走っている雪菜の後ろ姿が見える所まで来た。

 

 順調に順位を上げていき、俺は2位。雪菜は1位。

 

 このまま行くとギリギリで俺は負けてしまうだろう。雪菜が弱いアイテムを出して、俺が加速系のアイテムを出す事が出来れば勝てるかもしれないが。

 

 そして、ゲットした最後のアイテムは……

 

「はいキノコ!」

 

「アタシ、ゲッソーなんだけど!?」

 

 はい勝ち申した。これはきっとアレだ。日頃の行いの差なのかもしれない。ありがとう神様仏様。俺、無神教だったけど、この際に「マリカ教」の教祖にでもなってしまおうかと考えしまうぐらいには、俺は何かに感謝していた。

 

 アイテムの差で俺は雪菜に勝つ事が出来た。

 

「もう1回!」

 

 俺に負けたという事実が気に入らなかったのか、雪菜が再戦を要求してきた。

 

「俺が雪菜に負ける訳ないだろ? 何回でもやってやるよ」

 

 

 ────────────────────

 

 あれ? あれ? 

 

 何が起こっているのか、俺の頭は理解する事を拒否した。

 

「それで何だっけ銀ちゃん? 「俺が雪菜に負ける訳ないだろ?」だっけ? アタシ、5連勝してるんだけど? あれ? どうしたの銀ちゃん? 顔色悪いけど、何か悪い事でもあったのかな? ん?」

 

 雪菜に負けたという事実を漸く認識し、残酷な現実に打ちひしがれている中、冷徹悪鬼な雪菜は俺の心情など知らんと言わんばかりに命令を下した。

 

「敗者になった銀ちゃんには飲み物とお菓子を下から買ってくる事を命じます」

 

 敗者は勝者に従うのが世のルール。敗者に拒否権などない無情な世の中なのだ。

 

「さーいぇっさー……」

 

 背中にどんよりとした空気を背負いながら、俺は雪菜の部屋を後にした。階段を降りて行き、リビングに向かう。

 

「あのー、雪菜から飲み物取って来いって言われて来たんですけど……」

 

「……あぁ、銀太くん! ごめんなさい、すぐに準備するわ! それにしても家に来てもらった友達に取りに行かせるなんて、後で雪菜には説教しなくちゃね!」

 

 リビングの扉を開けてみると、テーブルには雪菜の両親が向かい合って座っていた。その目は目に見て分かるぐらいに充血していて、頬の辺りには流れた涙の跡が残っていた。

 

 雪菜の母さんが準備してくれている間に座ったまま雪菜の父さんが俺に向かって手招きしてきた。なんだろうなと思いつつ、近付いていく。椅子に座るように促されたので座ってみる。果たして、何を言われるのだろうか。

 

 娘があんな事に遭ったばかりだから「男である君は雪菜に近付くな」とか言われるじゃないのだろうか。

 

 何を言われるのかと戦々恐々していると、雪菜の父さんが口を開いた。

 

「さっき雪菜の笑い声が1階まで響いてきてね。俺達じゃあ、どうしても雪菜の心の傷を完全に癒す事は出来なかったんだ。それにまだ俺から君に感謝の言葉を言えてなかったなと思っていたんだ。だから、本当に、本当にありがとう。これからもどうか、雪菜の事をよろしく頼む」

 

 雪菜の父さんが頭を下げて、俺に感謝を伝えてくれた。頭を下げられた俺の方は……

 

「いや、いやいや、顔を上げてください! 頭を下げられるような事は何もしてませんよ! あいつは、雪菜は大切な幼馴染ですし、助けるのは当たり前ですよ! 何なら俺も雪菜をもっと早く助けてあげれば、雪菜は傷付かなかったかもしれないのに…… だから謝るのは俺の方ですよ」

 

 俺も頭を下げてしまう。

 

「……何やってるの?」

 

 飲み物やお菓子とか諸々用意した雪菜の母さんが俺と雪菜の父さん2人が面と向かって頭を下げているのだ。それを見た雪菜の母さんが困惑するのは当たり前だろう。

 

 

 ────────────────────

 

 

「雪菜~、って、寝てるし」

 

 部屋の扉を開けると、雪菜はローテーブルに突っ伏して寝ていた。起こさないように静かに移動する。このまま寝かせておくのもアレだからベッドに移動させた方が良いのかもしれないが、それは止めておいた方が良いだろう。

 

 まだ男に触れられるのもキツイだろうし。とりあえず飲み物やお菓子が乗せられたトレイはローテーブルに置いておいて、ベッドにあった布団を雪菜にゆっくりと掛けておくだけにする。

 

 俺は雪菜の向かいに腰を下ろす。

 

 寝不足が続いていたであろう雪菜は俺の気配に気付く事もなく、ぐうすか寝ている。

 

 そんな雪菜のアホな寝顔を見ながら、俺はマリカの特訓をした。雪菜に5連敗した事を気にしているとか、そういう訳では断じてない。雪菜が寝て手持ち無沙汰になったからしているのだ。断じて悔しいとかそういう訳ではない。

 

 

 ────────────────────

 

 

「銀ちゃん」

 

 雪菜の声が聞こえた。あれ、俺ってば寝てたのか。

 

 って、なんか妙に背中が暖かいような。布団を掛けられたとかそういう暖かさじゃない。それに首に何か巻かれているような気もする。あと、背中に柔らかい何かが押し付けられているような。

 

 目を開けると、目の前には雪菜がいなかった。前にはいなかったが、横にはいた。そうして、背中の暖かさとか首に何か巻かれているのも、全ての状況を理解した。俺が後ろから雪菜に抱き着かれているという状況を理解した。

 

「せ、せせ、雪菜っ!? お、お、おま、大丈夫か!?」

 

 何が大丈夫なのかというと、男の俺に触れて大丈夫なのかという事だ。あんな事があったから、男に触れるのも辛いだろうと思って、今日は俺から雪菜に触れようとはしなかったし、触れそうになったら回避していたりしたのだ。

 

 俺の「大丈夫か」という言葉の意味はすぐに分かったのだろう。雪菜は俺の疑問を解消してくれるように言葉を吐いた。

 

「まぁ、まだちょっと怖いけど、銀ちゃんなら大丈夫だよ。アタシを守ってくれたのは銀ちゃんだから。ありがと」

 

 その言葉を聞いて、俺は遠慮がちに雪菜の手に触れて、優しく握る。

 

 あぁ、本当に良かった。雪菜の手をこうして握れる日が来てくれた事にこれ程までに感謝した事は無い。もし、俺が気付かず、あのままクズに雪菜が色々とされていたら、俺の手が届かない場所に雪菜が行っていた可能性はゼロじゃない。むしろ、その可能性は大きかっただろう。

 

 そんな想像しただけでクズへの殺意が芽生えてしまうような最悪の未来が訪れなくて、本当に良かった。

 

 そんな風に安心してしまったからだろうか。俺の目から涙が静かに流れ始めた。

 

 あぁ、失敗した。雪菜と会うと決まってからは、雪菜を安心させられるように泣かないようにしていたのに、俺の体は勝手に涙を流し始めてしまった。

 

「大丈夫、アタシはちゃんとここにいるから」

 

 雪菜が優しく俺の頭を撫でてくる。いつもなら「人を子供扱いするな」と言葉を返していたというのに、俺はそれを受ける事しか出来なかった。

 

 その後、俺は暫く泣き続けた。泣き止んだ後に我に返って、羞恥心とかで死にたくなったのは言うまでもないだろう。

 

 

 ────────────────────

 

 

 時間も時間なので、俺は帰る事にした。雪菜の両親からは「またいつでも来てくれ。何なら明日も」という暖かい言葉を貰った。

 

 雪菜は玄関前で俺を見送ってくれるらしい。そんな雪菜の顔は真っ赤に染まっている。多分、俺も真っ赤。何故かというと、雪菜に抱き着かれ、俺が号泣していた所を見られてしまったからだ。帰る時に雪菜の母さんからは「程々にね」と言われ、父さんの方には「君の事は信用しているが、まだ娘はやらん」と言われた。その後に雪菜の母さんが父さんの頭を引っ叩いていたという事だけ言っておく。

 

「今日は色々とありがとね、銀ちゃん。おかげでちょっと元気出た」

 

 多少なりとも、雪菜の心が楽になったらわざわざ足を運んだ甲斐があったというもの。

 

「じゃあ、また明日も来るから。部活があるのは午後だから来れるのは午前中のちょっとした時間とかだろうけど」

 

 明日の部活を想像して、ちょっと憂鬱になる。個人的には部活も休んで、雪菜の所にいたいのだが、それはそれで雪菜が気に病むだろう。「部活を休ませてしまった」みたいな感じで。だから、雪菜からお呼び出しが来る以外は部活に行く事にしている。

 

 一応、部活の顧問は雪菜やクズの事件を把握していたり、俺と雪菜が仲が良いという事も知っているので雪菜のお見舞いという事だったら休みを認めてくれるとは言われているのだが。

 

「別に忙しいなら無理して来なくても大丈夫だよ?」

 

「……別に無理なんかしてねぇよ。俺がお前に会いたいってだけだからな」

 

 多分、クズの事件が起きる前の俺だったら、こんな事を言えなかったと思う。「また学校で会えるんだし」みたいに思っていたに違いない。あの事件で雪菜と会える明日が当たり前に来ないという事を嫌という程に思い知らせてくれたからこそ、会いたいと思ったら会いに行くみたいな思い付いたら即実行が出来るようになったと思う。

 

 そういう所だ(・)け(・)は(・)クズに感謝出来るのかもしれない。それでも感謝が0.1、殴り足りないという気持ちが99.9とかだが。いや、もっと殴り足りないという気持ちは大きいと思われる。

 

「ふむ。なら、そんな頑張ってる銀ちゃんには、さっきみたいな頭なでなでのご褒美を上げよう。無駄に銀ちゃん高いから屈んでよ」

 

「……流石に頭を撫でられるのは遠慮したいというか。いや、俺が出来る範囲なら雪菜の要望には答えてあげたいとは思うけど、流石に俺が恥ずかしいというか」

 

「いいから早く」

 

 有無を言わせない言葉に俺は渋々屈んだ。

 

 これから雪菜に頭を撫でられると思うと、それはそれで恥ずかしい。いや、確かにさっきは感極まって泣いてしまったが、あれは例外というか。さっさと終わってくれ。てか、早く始めてくれ。

 

 どんと来いみたいな感じで心の準備をした時だった。

 

「ちゅっ」と唇に何か柔らかい感覚が。なんなら、俺の視界は雪菜の顔で埋まっていた。

 

 ……へ? いや、いやいや。これは俺が見せている幻に違いない。いや、そうに決まっている。いや、もしもこれが現実で好きな人からのキスというのは嬉しいは嬉しいが、突然過ぎて理解が追い付かない。いや、理解はしている。俺と雪菜、マウストゥーマウスという事は理解している。

 

 雪菜も相当恥ずかしいのか、顔を真っ赤に染めて、目をぎゅっと閉じている。改めて見ると、やっぱり雪菜は可愛いよな。しかも、雪菜が付けている花のヘアピンってば、そういえば昔に俺が「これ似合うじゃん」とか言ったやつじゃん。元々は俺の姉のヘアピンだったのだが、雪菜が俺の家に来た時に似合うと思って、付けさせたんだっけ。あの後、姉にバレそうになったが、「雪菜に似合うと思って」と言うと許してくれたんだっけ。

 

 やっぱり、雪菜は可愛い奴。異論ある奴は俺がぶっ飛ばす。

 

 そんな風に現実逃避していると、雪菜の顔が俺から離れた。顔を見られたくないのか、雪菜は俺に背を向けたまま喋り始めた。

 

「…………あの時は、その、キスはされなかったから。これが私の初めてだから」

 

 成程。つまり、俺がファーストキスという事か。それは良かった。もし、あいつにそれまで奪われたら、あいつが捕まっている刑務所まで飛び込んで、頭を蹴り飛ばす所だった。

 

 雪菜が「じゃあ、また明日」と言って、家の中に入ろうとする。だが、その前に俺は雪菜の名を呼んだ。

 

「どうしたの、銀ちゃ──」

 

 やられてばかりというのは、俺の性に合わない。事件があったから、俺からするのは遠慮していたが、雪菜の方かしてくれた今なら大丈夫だろう。

 

 そういう事で俺は雪菜にキスを返した。

 

「……また明日も来るから。ちゃんと寝とけよ、雪菜」

 

 自分からしておいて何だが、マジ恥ずかしかったので俺は走って帰った。




前回の投稿は1月。今回の投稿は2月末。まぁ、早かったですね……
なんか西暦が変わっているような気がしますけど、はい。ごめんなさい。

これを書いていて思ったのは「なんでこうならなかった?」ということですかね。キーボードを打つ度に「こうなれよ」と思ってました。
次回は濡場ありの話です。あと、「ずっと好きだった」が終わった後のNTRぶっ壊し候補は既に決まってます。

「舞浜有希のイキ顔は部活顧問の俺しか知らない」っていう作品です。20話ぐらい投稿されているんですけど、その度に思うのは「野郎、ぶ〇殺してやる!」ですかね。ガチの殺意の波動に目覚めそうになるぐらいには、胸糞悪かったです。しかも、絵が良いのがまた何とも……
あ、読む際にはご注意を。自分は1週間以上は他の漫画を読んでいても、ヒロインの顔が頭にちらついてガン萎えしてました。
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