モブ喰い勇者 ~美少女ヒロイン? いえ、興味ありません~ 作:布施鉱平
「ヒヒッ……ヒヒヒッ……」
エーギル13世が逃げ帰った後。
薄暗い部屋の中で、グレースは一人、不気味な笑い声を漏らしていた。
人を呪うことを生業とする魔女の娘として生まれ落ち、はや28年。
友人は無く、もちろん恋人も無く、ただ暗い小屋に引きこもり、人々の恨みつらみを聞かされながら生きてきた。
唯一の楽しみと言えば、オナニーによって得られる快楽に
そんな、寂しい人生だった。
「ヒヒッ……勇者ユウ……世界を救った勇者、ユウ様……」
ユウの名前を呟きながら、グレースは着ていたフード付きのローブを捲り上げ、床に脱ぎ捨てた。
そしてそのまま、部屋の隅にある姿見の前まで歩いて行く。
「…………ヒヒッ」
鏡に映った自分の姿を見て、グレースは引きつったように唇を歪め、笑みを漏らした。
死人のように青白い肌。
ほぼフラットな胸と尻。
あばらの浮いた細い体と、肉付きの無い手足。
そして、頭は小さいくせに目だけがギョロリと大きい、不気味な顔……
愛される要素などどこにもない……いや、むしろ誰からも忌み嫌われる『魔女』を体現した姿が、そこにはあった。
「……ヒヒッ、あなたはきっと、誰からも愛されるのよね、ユウ様……」
その瞳に狂気を宿しながら、グレースはささやかな胸に細い指先を伸ばしていく。
「んっ……♡」
そして、乳首を摘まむと、コリコリと指を動かし、小さく喘ぎを漏らした。
10代の頃から自主的に開発し続けてきた彼女の体は、どこもかしこも敏感だ。
だが、他人がその性感を刺激してくれたことは、これまでにただの一度も無い。
「あぁ……っ♡」
もう片方の手を股間に伸ばすと、そこはすでにヌメリ気を帯びていた。
コリコリ、クチュクチュと自らの体を慰めながら、グレースは脳内にひとりの男を思い描く。
「……ユウ、様……っ♡」
それは誰あろう、エーギル13世から
「はぁっ、はぁっ……♡ ユ、ユウ様……ユウっ、そこ、もっと……っ♡」
次第に指の動きを速めながら、グレースは何度もユウの名を呟いた。
実はこの一年。
望遠の魔術によってユウの姿を見てからずっと、グレースがオナネタに使ってきたのは、常にユウ一択だったのだ。
「んっ♡ ふっ♡ ユウっ、ユウっ……!♡ あっ、あっ……♡ ダメっ、もう……っ!♡」
自らの手により開発され尽くしたグレースの肉体は、ユウに愛撫されるという妄想のブーストも加わり、あっという間に上り詰めていく。
そして、グレースが中指を膣に入れながら、親指でクリトリスをグリッと押しつぶした瞬間────
「あぁっ!♡ あっ、あっ!♡」
腰を前に突き出してガクガクと震わせ、グレースは立ったまま絶頂した。
股間からプシュッと吹き出した潮が、姿見にかかって流れ落ちる。
「はぁ……はぁ……はぁ…………ヒッ、ヒヒヒッ……」
荒い息を吐き、絶頂の余韻で太ももを小刻みに震わせながら、グレースはまた笑みを漏らした。
そして、愛液で濡れた手を前にかざすと、鏡に映った自分の顔をグチャグチャと塗り潰していく。
「ヒヒッ…………ヒッ、ヒッ…………」
そしてまた、笑う。
だがその表情は、笑ってなどいない。
むしろ悲しげだった。
口角は引きつり、眉は垂れ下がり、大きな目には絶望が浮かんでいた。
「ヒッ……ヒッ……ヒッ………」
泣き声のような、引き笑いのような声を漏らしながら、グレースは両手で顔を覆い、その場に座り込んだ。
◇
グレースは魔女である母親に、幼少の頃から呪いの術をたたき込まれてきた。
母親は厳しかった。
それはグレースに才能が無かったからではない。
その逆で、グレースは母親すら凌ぐ才能の持ち主だった。
だがその才能とは裏腹に、彼女は穏やかで心優しい性格だったのだ。
人を呪うことを生業とする魔女に、人を思いやる気持ちなど必要ない。
だから母親は、虐待にも近い方法でグレースを矯正しようとした。
ろくに食事も与えず。
笑顔を向けることも無く。
抱きしめてやることはおろか、頭を撫でてやることすらなかった。
それでもグレースは、優しい心を失わなかった。
人に呪いをかけることを嫌がり、命を奪うことを嫌がった。
それに業を煮やした母親は、とんでもない手段に出る。
グレースに、呪いをかけたのだ。
かけた呪いは二つ。
一つは逃げ出せないよう、この小屋から離れることが出来なくなる呪い。
そしてもう一つは、呪いの依頼を受けた場合、それが達成不可能なもので無いかぎり、断ることが出来なくなる呪い……
どちらも破れば、全身から血が吹き出し、苦しみ抜いた末に死ぬ呪いだ。
グレースにこの呪いをかけ、母親は姿を消した。
当時まだ10歳に過ぎなかった彼女が、すでに独り立ちできるほどの能力を有しており、後は
それ以来、グレースは依頼を全て受けざるを得なかった。
どれだけ優しい心を持っていようとも、まだほんの10歳でしか無い少女が、苦しみ抜いて死ぬ恐怖に抗えるはずが無い。
罪悪感と自己嫌悪で体は痩せ細り。
心は日を追うごとに壊れていった。
ストレスからオナニーに依存するようになり。
孤独と静寂を紛らわすためか、楽しくも無いのに笑い声が漏れるようにもなった。
そして10代が終わる頃には、人に呪いをかけても何も感じなくなっていた。
依頼人に裏切られてからは、依頼人にも呪いをかけるようになった。
人を呪い、笑い、オナニーし、笑い、人を呪う。
何も考えず、ただそれだけを繰り返し、気づけば『呪怨のグレース』と呼ばれるほど有名になっていた。
心は壊れ、笑う数は増え、あれほど依存してたオナニーも、いつの間にか無味乾燥なものになっていた。
────だが一年前、変化が訪れた。
エーギル王国により異世界から召喚されたという勇者。
なんとはなしにその姿を望遠の魔術で覗いた瞬間────気づけばグレースはオナニーし、絶頂していたのだ。
人を想ってオナニーしたのは、初めてだった。
潮を吹くほどイったのも、初めてだった。
それが初恋だと気づいたのは、十数回の連続絶頂による気絶から目覚めた後だ。
以来、グレースはユウのストーカーになった。
毎日ユウの姿を覗き見て、彼に抱かれる事を妄想しながら、ひたすらオナニーに精を出した。
途中からユウの力が強くなりすぎて、望遠の魔術を弾かれてしまうようになったが、それでも妄想の中でユウと交わり続けた。
だが、現実には、ユウはいない。
生身のユウに会ったことも無ければ、彼の声を聞いたことすら無い。
次第にグレースは、ユウを想ってのオナニーだけでは満足できなくなっていった。
ユウに会いたい。
ユウの声が聞きたい。
ユウの笑顔が見たい。
ユウに名前を呼んで貰いたい。
ユウに抱きしめて貰いたい。
ユウとセックスがしたい。
その想いはどんどん強くなっていき、もはや爆発する寸前まで高まっていた。
そこに現れたのが────エーギル13世だ。
彼に呪う相手がユウだと言われたとき、グレースは天啓を受けたような気持ちになった。
どうあがいてもユウに接触する手段は無いと思っていたが、自分の得意分野である『呪い』ならばユウにも届く。
それに気づいたからだ。
ユウであれば、例えグレースが死の呪いを放ったところで本当に死ぬことは無いだろう。
それくらい、ユウの能力とグレースの能力は懸け離れている。
だが、自分に対して呪いを放った存在を、ユウが放っておく訳がない。
きっと、会いに来てくれるはずだ。
エーギル13世に話を合わせながら、グレースはそのことばかりを考えていた。
そして10倍の依頼料をふっかけた上でエーギル13世を脅し、怯えきったその姿をあざ笑いながら送り出し、昂ぶった気持ちのままにオナニーをしようと服を脱ぎ捨て……
そこでようやく、我に返った。
鏡の前に立ち、自らの貧相な体を改めて確認し、乾いた笑い声を漏らす。
こんな女を、ユウが抱いてくれるわけが無い。
妄想の中のユウはどこまでも優しく、グレースに愛を囁いてくれた。
だが、それはあくまで妄想の中だ。
それに世界を救った勇者であるユウなら、すでに何人もの女を侍らせていても不思議は無い。
そこに自分が加われると思うほど、グレースはイカれてはいなかった。
悲しくて、情けなくて、悔しくて、恐ろしくて。
グレースはまた、オナニーに逃げた。
ユウのことを想いながらするオナニーは、これまで通り最高の快楽を与えてくれた。
だが、終わった後。
グレースの心には、自己嫌悪と虚しさだけが残った。
「ヒッ……ヒッ……ヒッ………」
両手で顔を覆いながら床に崩れ落ち、グレースは願った。
どうせ叶わぬ恋ならば。
このまま地獄のような人生が続いていくのならば。
いっそのこと、愛しいユウの手で終わらせてほしい。
心から、そう願ったのだ。
グレースちゃん(28)は貞子系のオゾいヒロイン。
外見は呪田四姉妹の長女かな。(知ってる?)