モブ喰い勇者 ~美少女ヒロイン? いえ、興味ありません~ 作:布施鉱平
「────というわけなのだが、君はそれで構わないかね? スー」
「…………えっ、あ、はい」
ぼんやりしていたところでグレイズに突然名前を呼ばれ、スーは思わず『はい』と答えてしまった。
「そうかそうか! それはよかった! ではナイト殿、今後は冒険者ギルドに来て頂くのではなく、こちらから直接依頼をお願いしに伺うという形でよろしいですかな?」
「ええ、構いません。では、話もつきましたし、このへんで失礼しますね」
…………『今後は冒険者ギルドに来ていただくのではなく』?
立ち上がって挨拶を交わすナイトとグレイズを見ながら、スーは呆然と、いま耳に入ってきた言葉を
そして、その言葉の意味を理解したとき、スーはとうとうその時が来たのだと理解した。
ようは、自分はお払い箱になったのだ。
世界に数人しかいないというS級昇格間違いなしのナイトが、いつまでも自分のようになんの取り柄もない受付嬢を担当にしてくれるはずがない。
いや、そもそもグレイズが言っていたように、ナイトに足を運んでもらうのではなく、ギルドの方から依頼をお願いしに行くほうが今の双方の力関係からすれば当たり前というものだ。
この場に同席させてくれたのは、ナイトのせめてもの温情ということなのだろう。
優しくて紳士な、ナイトらしい心遣いである。
(あ……ナイト様に、これまでのお礼を言わなきゃ……)
立ち上がってお礼を言おうとして…………
しかし、スーは立ち上がることができなかった。
この時が来るのを覚悟していたはずなのに、膝や腰に力が入らない。
どうして自分は、最後の最後まで情けないのか。
スーは、思わず唇を噛み締めた。
その痛みと、そして悔しさから視界が滲んだ。
座ったまま俯くスーに、ナイトが振り返る。
(ああ…………見られてしまった)
初めて会った時から、ナイトにはずっと情けない姿しか見せてこなかった。
それでも、涙だけは一度も見せたことがない。
優しいナイトであれば、おそらくスーを慰めてくれるだろう。
だが、嫌だった。
恩人であり、憧れであったナイトにかけられる最後の言葉が、情けない自分に対する慰めだなんて。
そんな思い出で終わるくらいなら、ここに呼ばれずにいきなり切り捨てられたほうがまだましだった。
ナイトの動く気配を感じる。
今まさに、スーに声を掛けようとしているのだ。
(どうか何も言わないで……!)
しかしその願いも虚しく、俯いたスーの頭の上から、ナイトの言葉が降ってきた。
「────じゃあ、行きましょうか」
◇
それから約三十分後────
スーの姿は、ナイトと共に屋敷の前にあった。
その屋敷というのはもちろん、勇者ユウの屋敷である。
「…………え?」
何事が起きているのか分からずに疑問の声を上げるスーの手を引き、ナイトは屋敷に入っていった。
メイのアナルを犯した廊下を通り過ぎ、メイがアナルを犯されて気絶している部屋の向かいにある部屋に入る。
そこには家財道具一式と、貴族のお嬢様が使うような
「じゃあ、今日からよろしくお願いするよ、スー」
にっこりと笑顔を浮かべたナイトが、スーに声をかける。
「メイド服はそこのクローゼットの中、下着類はその下の引き出しに入っているよ。
基本的な仕事は僕個人の秘書みたいなものだけど、まあ、魔王討伐の時みたいに多忙なスケジュールを組むつもりはないから、そんなに忙しくはないと思う」
混乱するスーを置き去りにして、ナイトの話は続く。
「ああ、そうそう。言ってなかったけど、僕の本名は『ナイトウ・ユウ』って言うんだ。訳あってナイトっていう偽名を名乗ってたけど、この屋敷にいるあいだはユウって呼んでね」
「ナイト・ユウ、様…………?」
呟くように言葉を返したが、その内容を理解しているわけではない。
現状に思考が追いつかないのだ。
なぜ自分はここにいるのか、なぜ自分のために用意されたと思われる部屋があるのか、メイド服? 下着はどんな種類なんだろう? えっ、ユウって魔王を倒した勇者様の名前じゃないの? っていうか魔王討伐ってさっき口にしてなかった?
一気に多くの情報が入り込みすぎて、スーの頭はパンク寸前だった。
「ふふっ…………それじゃあ、また後でね」
そう言って部屋を後にするユウの微笑みの意味を、この時のスーに理解できるはずもないのだった。