※この作品はR-18です。

呪いの指輪じゃないのと思ったのは、夢の中で目覚めた後でした   作:木桜 春雨

1 / 4
パリ土産、それは怪人の指輪だ、なんてね

これ、お土産よと言って渡されたのは古い指輪だ、古道具屋で買ったらしい、何でもパリの地下で見つかったものらしい、後日、友人に見せたのはいいが、骨、人骨かもしれないぞと言われて驚いた。

 

 「昔、パリの地下って浮浪者や犯罪者が住んでいたというし、あっ、本気にしたか」

 

 あたしの顔を見て友人は、はははと笑ったが、ちょっと真面目な顔になった。

 

 「怪人の指輪かもしれないわね」

 

 何、それと聞くとオペラ座のと言われて、あたしは、むむっとなった。

 

 「店の主人はね、だから、気をつけてね」

 

 古くて清潔じゃないかもしれないから、直接触れるな、指にはめるなってことかな、だから、こんな風にアクリル製の箱に入っているのだろうかと思っていると、友人が真面目な顔で言った。

 

 「呪われるかも、しれないからって」

 

 触るなって、じゃあ、この指輪を最初に拾った人、箱に入れた人はどうなったのなんてことを思いながら、試しになんて思いつつ、その夜、アクリルの箱から出して、自分の左手の薬指にはめてみた。

 

 

 

 「ああ、どうしよう、どこかに落としてしまったのかしら」

 

 部屋の中、屋上、心当たりのある場所を女は必死に探したが、指輪は見つからない。

 

 「貴方が、これを身につけている限り、私は貴方の親しい、特別な友人だ」

 

 男の言葉を思い出す、もし、なくしたと知られたら自分は殺されてしまうかもしれない、だから、女は逃げる事にした。

 

 

 私の大事な人、彼女の楽屋は空っぽだった、迎えに行く時間になっても姿を現さない、一体どうしたというんだ、しびれを切らして私はジリイに逢いに行った、彼女に事情を聞く為だ。

 ところが、彼女も知らないという、まさかあの若い恋人と一緒に逃げたのかと思ったが、子爵は病院ですと聞かされて驚いた、昨夜、賭博場の帰り、襲われたというのだ。

 ジャック・ザ・リッパー、切り裂き男、今、パリの街を騒がせている、殺人鬼に襲われたというのだ、ひどい怪我でと聞かされたが、気の毒にと思う訳がない、反対にいい気味だと思ってしまった。

 

 彼女がオペラ座からいなくなって一週間が過ぎた、そして、切り裂き魔が数人の女性を狙い殺した事をジリイから聞かされた、その中には若い娘もいて、腹を裂かれて、内臓を切り刻まれただけでなく、顔の判別ができない程にめちゃくちゃにされていたと聞かされて驚いた。

 中にはオペラ座のコーラスガールもいたらしい、もしかして彼女も信じたくないが、一ヶ月もすると私は諦めにも心境で、作曲に没頭した。

 

 その日は食料の買い出しに出掛けたのは貯蔵庫の中が空っぽな事に気づいたからだ、生きている限り、食べる事は必須だ、空腹には勝てない、絶望を感じても自ら死を選ぶ気分にはなれなかった、気分が沈んでしまうのは彼女を失ったことだけではない、地下に移り住む人間が増えてきたのだ。

 切り裂き魔の存在も関係しているのだろう、自分よりもひどい悪人はいないと思っていたが、地上も善人ばかりが住んでいる訳ではないということだ。

 

 下水口から入って、しばらく歩いていた私は思わず足を止めたのは気配を感じたのだ、見つからないように探りを入れて、相手次第では始末をつけるつもりだった、ここなら殺しても始末は簡単だ、セーヌ川まで引きずって放り込んでしまえばいいのだ。

 

 「何故よ」

 

 聞こえてきたのは女の声だ、驚いたのも無理はない。

 

 「やってる、頑張ってる、わかってるのよ、努力だけじゃ駄目だって、あたしは、駄目なの」

 

 悲痛な声だった。

 

 「おい、誰かいるのか」

 

 その時、男の声が聞こえた。

 

 

 「こんなところで何してる、おまえ、女、運がいいぜ」

 

 まるで、恰好の獲物を見つけたような男の声とは反対に女は近寄らないでと抵抗する、その激しさに私は驚いた、だが、男にしてみれば逃がす訳がない、いくら女が抵抗したとしても無理だろう、あっけなく組み伏せられてしまうのが目に見えている。

 自分でも知らぬ間に、一歩、踏み出した。

 

 

 殺しても良かったのだが、堂々とそれを女の前でやると人殺しだと公言しているようなものだ、気絶させて気づかれないように足の骨を折ると、私は女に声をかけようとした、ところが女は地面に膝をいて何かをかき集めている、よく見ると紙が地面に散らばっている、それを必死に集めているのだ。

 これが私と彼女の出会いだった。

 

  彼女が集めていたのは小説の原稿、作家志望らしい、女性でありながら物書きを目指している女性、名前を聞くと困った顔をされた。

 

 「外国人だし、色々と」

 

 身元を隠したいということだろうか、詳しく聞くと恩ある人間のところから出てきたのだという。

 

 「小説家になりたいの、でも、それを知ったら、あまりいい顔をしなくて」

 

 女が職を持つ、しかも物書きなど。

 

 「音楽家だから、理解してくれると思ったけど、勝手な思い込みよね」

 

 「もしよければ、私の家に招待してもいいんだが」

 

 その言葉は自分でも驚く程、あっさりと口からでた、だが、彼女は首を振った、しばらく、頭を冷やして先の事を考えるという。

 

 

 

 「ムッシュウ、どうして」

 

 男は自分の顔の半分を隠している仮面を取った、暗い地下の中、わずかなカンテラの明かりだけでも顔色が普通ではないのがわかる髪の毛は

なく、ところどころ、枯れ草のように生えているだけだ、唇はいびつに歪み、頬の肉は盛り上がっている、普通の人間から見れば化け物と言われても不思議はないかもしれない。

 どうして、ここにいるのかと女は不思議そうな顔で男を見た。

 

  

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。