二人だけを閉じ込めた海の炎年です。
遠くに薄い雲が伸びる夏空の下にある、空を写し取ったように青い海。広く、深い青が砂浜へと押し寄せては砕けて白い波となり、また引いていく。
遠く、遠く。繰り返し、繰り返し。
眼前に広がる景色も、足を濡らす水の感触も、確かな実感をもって脳に響いている。
エンカクは隠し切れぬ驚嘆の中にいた。
これが
もっとも、現実としか思えぬ情景の中で唯一眼前のこれが非現実だと訴えるものがあった。
押しては返す波の下を泳ぐ影が一つ。それは決して水の中になど入れない者の影だ。その影がエンカクの所まで近づき、顔を出した。
白い髪に良く映える、炎を氷に閉じ込めたような真紅の角。濡れた前髪は後ろに流し、水の粒がまつ毛の上で跳ねた。
続いて
自分を見上げるようにして笑うこの女をエンカクはもちろん知っている。他でもなく
ニェンだ。
「小僧、お前は泳がねぇのか?」
「生憎と泳げる恰好でもないしな」
「邪魔なら脱いちまえばいいじゃねぇか、気にする誰かがいる訳でもねぇのに……ま、私も少し休憩する」
そう言って水から出て砂浜に上がったニェンは地面の中に手を突っ込んだかと思えば「よいしょ」と、ビーチパラソルを引き抜いた。そんなものが埋まっているはずはないのだが、気づけばご丁寧にデッキチェアまでパラソルの下に二つ並んでいた。
摩訶不思議が成り立つのはニェンかそれとも
そういう女なのだ、こいつは。
エンカクも靴を脱ぎ、砂浜を歩く。パラソルへ向かう途中の砂は日射に温められて熱いかと思ったが、ほどよく温く心地良い。濡れた靴もそこらに転がしておけば乾くだろうと放り、ニェンの隣のチェアに寝転んだ。
日差しは眩しかったが、空気が乾燥しているおかげかパラソルの影は自然と涼しく心地がよい。ニェンが泳いでいた時に周囲の海水が
完璧なバカンス。それを目的として作られた場所だ。
絵の中、とういう事をエンカクは十全に理解した訳ではなかったが、そんな事はもはや些事に過ぎない。果てなく広がる美しい青と白のコントラスト。さらに砂浜に点在するヤシの木や悠久を思わせる波音までも風流だった。
「お前がこういう趣を分かっているとは意外だな」
「たりめぇだろ?雅を知りて大を為せ、だ。むしろ小僧がそこまで気に入るとは思ってなかったぞ」
「これを嫌う馬鹿はいないだろう」
「そりゃそうだ」
穏やかな風が吹き二人の髪を優しくなでていく。うつ伏せでくつろぐニェンの尻尾がゆらゆらと機嫌がよさそうに振られているのを見ながら、横に流したエンカクの尻尾も静かに揺られていた。
しばらくそうやって尾を揺らしてそれぞれのデッキチェアで横になっていた二人だったが、エンカクはふとニェンの視線が自分に向いている事に気が付いた。
「なんだ?」
ニェンの視線が向いていたのはエンカクの顔ではなく、むしろ胸元だった。
「いやぁ、スケベな恰好してやがると思ってなぁ」
起き上がったニェンはエンカクの隣まで来ると彼がタンクトップの胸元に挟み込んでいたサングラスを抜いた。肌に密着する生地に挟まれていたテンプルが抜かれる時に生地を引き上げ、やがて放されて肌をパチンと叩く。
ニェンは手に取ったサングラスをかけ、顎に手をあてながら口角を上げて一言。
「ほほー」
エンカクの肌にたるみなく張り付くタンクトップはその筋肉の質感をこれでもかと主張していた。鍛え上げられた肉体は隆々としてパラソルの影の下でも陰影を作り出している。
「……いつもとそう変わらないだろう」
「分かってねぇなぁ、違うんだよ」
ニェンの手がエンカクの筋肉に触れ、そして揉み始めた。筋肉の張りのある柔らかさを堪能する事数度……バシャバシャと何かが降り注ぐ音がした。
パラソルのすぐ外だ。何かと思った二人が見れば、降り注いだものは墨だった。
ただぶちまけられたように思えた墨は地面を染めて文字と為り、それは『出る時はお好きにどうぞ』とだけ書いてある。
「なんだシーのやつ、待っててくれてたのかよ」
「おい、どういう事だ」
「この絵からは普通には出られねぇからあいつが出口を用意してくれてたんだよ。でも私が乳繰りはじめたからどっか行っちまいやがった」
「誰も見ていないんじゃ無かったのか?……まて、じゃあ俺たちはどうやって出るんだ」
「心配すんな。私がいるからドカンと派手にやりゃあ……」
ニェンがふと口を止めた。何かとエンカクが訝しめば、サングラスをかけたニェンの表情がたちまちにやけ面に変わる。
「つまりお前ぇは今、私しか開けられない部屋に閉じ込められたも同然ってわけだ」
よっ、とエンカクの腰に馬乗りになったニェンがそのままエンカクの身体に倒れこんだ。胸筋に頬擦りしながら両手はそれぞれ脇腹に回して、また筋肉を撫でる。外腹斜筋の上で繰り広げられるのは指のワルツだ。筋肉によって形成される山と谷を、黒い生地の上から触れるニェンの紅い指が駆けていく。谷をなぞり山を撫で、そして辿り着く広背筋という巨大な一枚岩。しかして鍛え上げられた筋肉は強靭にしてしなやかに、沈むようにしてニェンの指を受け入れるのだった……
「何をしている」
「てて、んだよ角引っ張る事ぁねぇんじゃねぇか」
「出られないんだろう?」
「何言ってんだ、私が出ようとすれば出られるって言ったじゃねぇか。だからもう少しされるがままにしとけよ、なぁに天井のシミでも数えてりゃ終わってるよ」
「天井もシミもないだろう」
だが聞く気もないのかニェンは両手で胸を揉むばかり。半ば呆れたエンカクだったが、今回のニェンはそれで止まらなかった。なにせ滅多にないエンカクが抵抗
これだけで止まるはずもない。
しばらく揉み続けていたかと思えば、ニェンはカプリとエンカクの胸に噛み付いた。
服越しに甘噛みを繰り返すニェンの口から漏れる息が、その熱がエンカクの肌に伝わる。やがて布の向こうにある突起に歯が当たり、今度は舌が焦がすように周りを這う。
エンカクが身じろいだのは、一際強くなった熱だけが原因ではなかった。
「へぇ……感じてんのかぁ?」
エンカクの胸に舌を這わせるニェンの上目遣いがサングラスの隙間から覗けた。目は助平心のためか細められ、エンカクと目を合わせながらも手も舌も止める様子を見せない。
また甘噛みを繰り返しながらも腹をなぞるニェンの手はエンカクのベルトにかかり、バックルが鉄の焼ける音を立てて溶断された。
「お前」
「あとで直してやるって」
反省する色一つ見せず、ニェンは尻尾を絡ませてエンカクの腰を浮かせれば、そのまま尾を器用に使ってズボンを脱がせていく。
ニェンが舌で弄ぶ中で見たエンカクの色に間違いはなかった。ズボンを履いたままでもその形を示していたエンカクの剛直が、ズボンを脱がされると同時にカクンと跳ね上がる。
跳ね上がりがニェンの尻をぺちりと打てば、ニェンの笑みがますます深くなり、尾がよりきつく締め付けた。
腰に巻きつく尾が腿にまで絡みつき、揺れる尾の先に火が灯る。パラソルの薄暗い影の下で妖しく光る火がエンカクの腿にゆらゆらと近づき、触れて、焦がした。
ジュ、と肉を焼く音が僅かにしたのとエンカクの手が動いたのは同時だった。
焼かれた痛みを主張するように、つねる。そこは服越しと言えども本来力任せに摘むべきではないが、焼かれた意趣返しと言わんばかりにエンカクは一切の遠慮を捨てて潰すようにつねった。
「ぃぅ!?」
さしものニェンも、やはり乳首をいきなり責められて平常を保てる鉄面皮ではない。短く声を上げてビクリと身体を震わせるニェンに、エンカクはまだ手を止めずに触り続けた。ぐに、ぐに、と押しては引く波のように強弱をつければその度にニェンの身体がひとしおに跳ねる。
それでもまだサングラス越しの目は強きにこちらを見ているのだから大したものだ。
だが、『身体は正直』とはよく言ったものだ。ハーフパンツを下ろすと期待に熟れた秘部との間で愛液が長く糸を引いた。ニェンの腿に手を添えれば、火傷させるほどの熱を孕んだ蜜が艶かしく照らついている。そのまま腿の輪郭をなぞって秘部に手を添えれば、指を入れるのに欠片も抵抗は無かった。
熱い。入れている二指が融けてしまいそうなほどに。
「“感じてるのか?”」
「こ、こぞっ……お前……」
半ば爪を立てるようにして中を掻けば、とうとうニェンは喋る余裕をも失った。顔を俯け、身を震わせる。強張りながらも脱力していくニェンの身体は俯けた顔をエンカクの胸元へと落とさせたが、先ほどまでの堪能するような余裕はもはや微塵もなく、ただ優位を奪られた女は男の上で悶えていた。
曲げられた関節が内壁を押し広げる度に身体はどうしようもなく強張り、指が膣奥を掘り爪が削る度にまた身体はどうしようもなく震え、僅かに漏れる声と堪えきれない熱い息がエンカクにかかる。
既に幾度も絶頂を重ねていたが、いよいよとびきりの快楽に身も心も流されて果てようとしていた時だ。
エンカクが指を引き抜いてしまった。
「あ……?」
息も絶え絶えに顔を上げたニェンからサングラスを取り上げると、涙に濡れた瞳が輝いていた。肩で息をし、顔は赤く上気して、エンカクを見つめる潤んだ瞳。ニェンの表情を染め上げていたのは、一瞬で去るはずもない快楽の津波が残した、あまりに深い恍惚とした色だった。
「大変そうだな」
「っ……!」
その言葉で、やおらニェンの顔の赤みが増した。
優位をいつの間にか奪われていた事をようやく自覚したのだろう。恥じらいをかき消すように勢いよくエンカクの上から飛び降りた。
しかし脱ぎかけだったハーフパンツを完全に脱ぎ捨てただけで、またエンカクの上へ戻る。
開きなおったのかと思いニェンの秘部に伸ばしたエンカクだったが、それをニェンの手が押さえつけた。
一切の抵抗をもさせないほどの力。
なんのつもりかと思い見上げれば、ニェンの目が怪しく輝いている。
嫌な予感がした。
手ではなく、尾だった。
それが触れたのは腹でも背でも腰でもなかった。
白く太い尾が、無遠慮に——
「……おい」
思っていたよりも随分と低い声が出ていた。尾を払いのける手も、存外力がこもっていた。
痛みを生むほどに乱暴だったわけでも、ニェンの尾の先に灯る炎が熱かったわけでもない。
だが、だとしても。
尾が這いまわった所は。尻は、触れられて面白い所ではなかった。
しかしエンカクの隠しもしない不機嫌さもニェンはどこ吹く風といった風に、まだ火照りの残る顔に意地の悪い笑みを浮かべる。
「別にいいじゃねぇか、減るもんでもねぇんだしよ」
「……そうか」
それで流せばよいのだろう。しかしここで抗議の一つもせずに矛を収めれば、それを良い事に増長するのがこの女だった。もっとも抗議したからといって大人しく引き下がるタマでもないが、やられっぱなしというのも気に食わない。
尾を払った、掴まれていなかった手でニェンの尻を掴み、その溝に指を這わせる。寄せるために掴むことはあったが、今度のはそれとは違う。
探し当てたその穴に、指を挿れた。無遠慮に。
柔らかい尻の肉とは裏腹にきつく締まったそこには指のほんの先、関節一つ程度しか入らなかったが、それでも確かに侵入だった。
「ぃう!?」
ニェンにしては珍しい、驚きに僅かな怯えが混じった声だった。肩がびくりと跳ねたかと思えば、少し恨めしそうに見上げて来た。が、次にはどこか侮るような笑みが顔を染める。
何かと思えば、今の今まできつかったその穴が抵抗を忘れたかのようにぬるりと、指をさらに奥まで咥えこんでいく。ぬるぬると入っていく指。本来ならこうも容易く入るものではないはずだが、と考えた所で肉体の常識なんぞ通じない奴だったと思い出す。
「私はお前ほどケツの穴が小さくねぇからよ。ほぉら、好きにしたらどうだ?」
「趣味が悪いな……」
だが、ニェンに尻を弄られる不快感の一つでも教え込めるのならそれもいいだろう、とエンカクはさらに指を増やす。
既に根本まで入っていた人差し指に加えて中指も穴に挿れ込めば、やはり一瞬の抵抗の後に奥へ奥へと受け入れていく。
招き入れられたそこではあったが、確かに肉の締まる窮屈さがあった。
尻の穴を責める勝手など知らぬエンカクだったが、緩やかにそれでいて大きなストロークで指を出し入れすれば菊門がきゅうと指を締め付け、ニェンの口から吐息が漏れる。
触れると言うには力強く、しかし抉るというには穏やかに、激しい水音もなくただ指を肉穴の深くまで弄るだけの行為だったがいつしかそれは前戯の様相を呈していた。
辱めるでも躾けるでもなく、慣らすような触り方になっていた事にニェンも気づいたのだろう。ニェンの尾がエンカクの腿に甘く絡み、エンカクの首筋に寄ったニェンの口元から舌が伸び汗の一雫を舐めとった。湯気の出そうな熱と湿度が、エンカクの首を舐る。
「小僧、入れてぇんだろ?」
ニェンの紅い指が誘うようにエンカクの陰茎を撫でる。それはズボンを脱がされた時から変わらず硬く屹立していた。輪を指で象り鬼頭を幾度か擦り上げれば、活き良く跳ねては先の雫が目に見えて増え、入れる先を求めんばかりに硬さを増す。
エンカクは苛立たしく舌打ちをし、指を引き抜いた。穴から出たばかりの二指は唾液に似た透明な液体で濡れている。
その指と入れ替わるようにニェンはエンカクの一物を形ばかりの排泄肛へとあてがった。
二指が入るだけの広さはエンカクの剛直を迎え入れるには不十分で、ほんの一時だけ双方に痛みが走った。
だが次の瞬間には穴はぷわりと柔くなり熱をもって迎え入れた。鬼頭が収まりきった所で穴は固さを取り戻し、肉の縮動によって咥え込んでいく。
膝立ちだったニェンが腰を下ろし、小ぶりながら肉のついた尻とエンカクの腿がふれあったところで、エンカクの陰茎はその全てが穴の中へ隠れた。
二人にとってそれは初めてだった。迎え入れるべきでない場所へ迎えるのも、穿つのも。
探るように腰を動かすニェンだったが、エンカクの顔を見て動きを早めた。
またもや顔が意地悪に笑う。見下ろしたエンカクの顔が苦々しく歪んでいたからだ。それが苦痛を元にするものでない事をニェンは分かっていた。
「気持ちいいんだろ」
腰を大きく、咥え込んだ口から外れてしまう寸前まで大きく上げてからまた奥まで喰らいつくように下ろす。外れてしまう寸前を攻めるれば攻めるほどに、エンカクが快楽に責められているのが見てとれた。
そしてニェンの中で一際大きく、震えた。
濁流のような吐精に二人の動きが止まる。だがエンカクが何かを堪えるようにニェンの身体を固く掴んだのに対し、ニェンは変わらずしたり顔で跨ったまま、エンカクを見下ろしていた。
やがて震えを止めた後も、エンカクの一物は硬いままだった。ニェンが腰をぐり、と押しつければ中で力強く跳ねる。
「小僧、まだいけるよな?」
ニェンの中で物理的な熱とは異なる、情欲的な熱が渦巻きつつあった。理性を削ぎ、ただ肉欲のままに体を動かさんとするエネルギー。その昂りを感じつつ、ニェンは舌なめずりをした。
そして湧出するリビドーに任せて腰を動かそうとして——
「随分と、気が乗っているな」
——陰核が
「ぁ!?……っ!?」
背筋を通り、指先まで快楽が伝播する感覚。甘い痺れが、触れられた陰核と触れられていないはずの下腹部から広がっていくのを感じる。そしてその疼きのすぐそばにある男根の存在感が急激に強まった気がした。
高まっていた熱が、自分の中で何か別の物に変換される予感があった。悟られまいと浅い所へ引き抜こうとしたニェンだったが、ニェン自身よりもエンカクの方がより克明に異変を察知していた。
ニェンが嬌声を上げた時から、己の一物を咥える腸内の温度が激しく上昇していた。その熱さは指でかき混ぜられて愛液を垂らす膣と同じか、それ以上とも言えるもの。
腰を浮かせていくニェンがこの状況から脱しようとしている事を察するには余りに簡単だった。思いもよらぬ劇的な変化だったが、これを見逃す道理はない。
尻尾のつけね、腰に手を回しては掴んで引き戻す。
たちまちニェンの喉から絶叫が絞りだされた。
「ああぁぁっ!……ぁ、ぁぁ」
身体をのけぞらせ、弱々しく痙攣するのも、手を緩める理由には断じてなり得なかった。
腰も取られた以上、ニェンはただエンカクの思うままに腸壁をしごかれて奥を突かれるのみ。
絶えず漏れる艶やかな叫び。
一度目の絶頂などとうに迎えたというのに、エンカクは止まる様子を見せない。
一突き毎に溜まっていた熱がまるごと快楽へと変換されているのを急激に鈍くなっていく頭で感じた。
混乱だ。混乱がニェンを支配していた。今や情欲はニェンから湧き上がる物ではなく、ニェンを沈める物と化していた。
いつしか快楽の信号は甘いどころか、もはや痛みに近くなっていた。しかしその信号は快楽に違いないのだ。これ以上受け取ってはならないと思いつつも貪らずにはいられない。
「こ、ぞ、こぞ、ぉ」
求めたいのか、止めて欲しいのか、それすらも分からない。
この快楽がいったいどこから来ているのかも分からない。
けれど触れられる箇所から高まる熱が理性を犯し尽くすのがたまらなく気持ちよかった。
快楽に蕩けきった顔もニェンにはもう自覚はない。
だが下から突き上げるエンカクだけがそれを見ていた。
尻の不快感を教えてやるのが始まりだったはずなのに、ニェンは体を貫く快楽に犯されて、かくいうエンカク自身も享楽に染まりきっている。
止められないのはエンカクも同じだった。
自分に投げ出されたニェンの身体を片手で支え、もう片方では尻を掴んで、ただ延々と突き上げ続ける。触れる肌から感じる熱は火傷しそうなぐらいだが、それがニェンの感じる快楽を示す事を知っている彼からすればボルテージを上げる材料にしかならない。
「こ、ぞぉ……」
もはや滲んで何も見えないだろう潤んだ瞳を見返して、エンカクはさらに加速した。とろけながらも締め付ける腸壁に、ただ我武者羅に抱きつくように固い菊紋が、加速に比例するようにきつくなる。
「っ!」
呻くような声を上げて首を起こしたエンカクと彼の身体に寝るようにしていたニェンの額がこすれ合った。角と角がコツンと合わさり、時を同じくしてエンカクは射精した。
一回目にも劣らないほどの精を吐き出しながら二人の身体が震える。身体に力が入りエンカクがニェンの腰を掴んだが、そのせいで更に奥へ強く押し付ける形になり、再びニェンから声が漏れる。
「ぅっぁ」
ドク、ドク、と規則的に吐き出されるリズムに従い首を反って痙攣していたが、リズムが静かに、大人しくなるにつれて再びニェンは力を失うように項垂れた。
その先でエンカクの額と額が触れ合う。文字通りの人肌程度しかないエンカクに対し、ニェンの額は尋常でない温度だ。帳では太陽の光を覆いきれないように、皮膚越しにニェンの内部でこんこんと生み出され続ける熱が届いているのだ。
そんな額同士が触れ合えば、当然熱のやり取りが行われる。
(……熱い)
(……冷てぇ)
著しい温度差が生み出す感触は二人で違ったが、感覚は共通していた。
心地よさだ。
抱き合う二人がどちらでも無く寝息を立てて、静かに、眠りに落ちた。
「おい、小僧! ……こーぞーう、起きろよぉ」
ペチペチペチペチペチとしつこく頬を叩かれる感覚でエンカクは目を覚ました。
視界に入ってきたのは、見下ろしてくるニェンだった。
だが何か違和感があった。何かと思えば……空だ。太陽が輝く青い空は、月が浮かび星が瞬く蒼い夜空になっていた。
身体を起こし、辺りを見渡せば自分たちがいる場所はビーチに変わりない。だが、やはり、
「やるなぁ、シーのやつ」
海を見ながらもニェンはエンカクの手を取ってその身を起こし、海へとエンカクを引っ張っていく。
「おい、泳ぐのか?」
「こんな綺麗な海、ここの外じゃ見れねぇぞ?それにお互い
ザァと二人の足を波が打った。歩みを止めぬせいで、冷たくも心地よい水はどんどんと深さを増していく。海に囲まれればさぞ暗いのではないかと思っていたが、なんてことはない。そばにいるニェンの尾の炎が輝いていた。
暗い海を灯しながら進む二人だったが、水深がエンカクの腰までこようかという所でニェンはエンカクを引く手を放して振り向いた。
その顔に浮かぶのは今日だけで何度目になるだろうか、意地悪な表情。
ここから出るには私を満足させるしかないというルールに基づいて、ある言葉を言わせてやろうという悪戯心だ。
「なぁ、小僧。そろそろ日付が変わった頃になるんだけどよ、何か私に言うことはないか?」
「無いな」
「……アァ?」
ぶっきらぼうに短い答えだけを寄越したエンカクにニェンが白いで見たが——
「
——その一言で、ニェンは呆気に取られたように口を開けた。
だが、遅れて可笑しさが込み上げてきた。
この男にも可愛い所があるものだ。今日のために——
「……ハハ!じゃあ、急いで出ねぇとな。見てろよ、私のとっておきだ」
海をかき分けるように、ニェンの足元が隆起した。海の上に生えた地面を足場にして、ニェンが続けて「おいしょ」と手品のように取り出したのは、巨大な火筒だった。沖へ向けられたそれは、あとは火をつけるだけで役目を果たすだろう。そしてその時を今か今かと待ちわびている。
「小僧、耳は塞いでもいいが目は塞ぐなよ」
振るわれたニェンの尾の揺らめく灯りが、火筒の導火線に火を点けた。
導火線の長さがゼロになり、爆音が鳴って火球が放たれた。たちまち空の向こうまで火の尾を引いて飛んで行く火球は二つ、四つ、八つと分裂しながらまだ飛んで行く。
そして遥か遠くで火球たちが止まったように見えた時。
夜空に花が炸裂した。
色とりどりの輝きは、例え炎国の元旦であろうとこれほどまでに立派なものは見られまい。
絵を終わらせる為の特大の花火は次々と咲き、光は海を染めて、二人分の影を作り出す。
海に立つ、二人の影を。
「どうだ、凄ぇだろ!」
発射台の上から見下ろすニェンをエンカクは見上げていた。
花火の音が響き、ニェンの背後で眩しく輝く。
さぞ楽しそうに自慢気な笑顔を浮かべるニェンの、後ろで。
「あぁ、綺麗だな」
嘘偽りなく思った。
やがて花火が絵を終わらせる最後の瞬間まで。
彼は、ずっと見上げていた。
ちなみにf先生のツイートをuntil:2022-3-12で検索すれば投書箱を飛び交う炎年あ○るセッ話が見れるぞ!