(上位種:ニェンの兄弟姉妹たち。今回出てくる兄は原作で影も出ていません。
上位種レ概念:超然としているニェンが同じ上位種に組み伏せられて犯される話)
強姦描写があるので苦手な方はブラウザバックを推奨します。
「ハァッ、ハァ」
自らの兄によって地に押し伏せられていたニェンの抵抗が破られるまで1秒も掛からなかった。
裂けぬもの無き剣と徹すもの無き盾を構築する自身の能力。自らの秘所を守る為に構築した熱と斥力による混成障壁の正体はそれだ。折衝禦侮たりうる最後にして最硬の切り札。永い生の中で必要としたことのない万象拒絶の秘技であったが、それさえも兄の能力によって編まれた矛の前に散り、ただ生殖のみを目的として怒張した性器はニェンの中へと入っていった。
体内に侵入する異物をこれほどまでおぞましく感じ取ったのは初めてだった。愛も情欲も無い、あらゆる獣よりも荒々しく、あらゆる人間よりも悪辣な蹂躙。肉を引き裂かんばかりの一突きごとに、吐き気が込み上げてくる。背にのしかかる質量は押しのけないほどに重く、両腕を抑え込む膂力は振り切れぬほどに固い。それでも身を貫く激痛と止むことのない嫌悪感にニェンは身体をよじっていた。
僅かばかりに残された気力を振り絞り、ニェンの左手が宙を掴んだ。空気が揺らめく。それは不融合金でさえ滑らかな断面に切り裂く、束ねられた超高熱の発露だ。ニェンが蹂躙されるただなかで顕現してみせた裂けぬもの無き大剣は風よりも早く動いた。しかし首を切り落とす音の代わりに鳴ったのは骨が砕ける音だった。ニェンの反撃よりも早く、掴まれていた左腕が握りつぶされたのだ。
ニェンの絶叫が響く。痛みは最後の反撃の手を緩めさせ、大剣は炎のように揺らめいて消えていった。その最後の一陣は兄の頬を撫でただけで火傷の一つも作りはしなかった。
「そんな事に余力を使うぐらいなら、少しは協力したらどうだ」
ニェンの左腕を掴む手が離れ、代わりに腕で肩を地面に押し付けるように抑え込まれた。身じろぎさえできなくなって、ここにきてようやくニェンは抵抗らしい抵抗をやめた。
惨たらしい蹂躙は続く。想いの重ね合わせもなく、快楽の追求もなく、ただ孕ませるためだけの交尾はニェンをもってしてもその身に余り、ニェンはとうとう嘔吐した。
左腕は折れ、最後の力も使い果たし壊れた人形のように吐瀉物の中に沈む。されど続く強姦の苦痛は永遠のようで、とうとうニェンの心も壊れようかという時に終わりは来た。ニェンの膣内に彼女の兄はようやく射精したのだ。
しかし、それが懐胎をもたらすものであればどれほどよかっただろう。そうとしか表現できぬ更なる地獄が始まった。吐き出された精液はニェンの兄自身でさえ制御できぬ破壊と蹂躙の意思をもってニェンの体内を侵食し始めたのだ。膣内壁と子宮を食い破っても止まらず、さらに血肉を貪る。内臓を食い潰し、零れる体液にさえ食らいつき、死肉に群がる蛆の如くニェンの体組織を破壊していく。それは穢れだ。不可逆の澱みがニェンの中を食い荒らしてしまった。
「なんだ、脆いな。これでは孕めんか」
つまらなそうに吐き捨て、彼は去っていった。人影一つない荒野の戦場にニェンを捨て置いて。
命が宿ることも、命が奪われることも無かった。ただ蹂躙されたという事象だけがそこには残っていた。
◇◆◇
エンカクがジョウロを傾けるプランターの中でスイセンが黄色い蕾を高く持ち上げていた。小まめな水やりを怠り少しでも土が乾けば、花開く事なく枯れてしまう花だ。既に鮮やかな黄色を見せる蕾だったが、やはりその美しい花弁が散る所を逃すのは惜しい。もっぱら理解を得ない趣味ではあったが、エンカクにとって花を育てるという事はその最期を見届ける瞬間こそが楽しみであった。そんな訳で今日も足繁く温室へ通うエンカクが花の手伝いをそこそこに帰ろうとした時だ。パフューマーが彼に声をかけた。
「ねぇ、エンカクくん。ニェンちゃんの事なんだけど」
ずっと何かを話そうとそわそわとしていた彼女の様子に思慮を巡らさなかった訳ではないが、ニェンの事とは露にも思っていなかったエンカクは不意をつかれた。エンカクがニェンとよくいる事をパフューマーが知っているのは当然ではあったが、とはいえこのような切り出し方をされるとは思っていなかった。その戸惑いにも気付かぬまま、パフューマーは言葉を続けた。周りに明るく振舞う彼女にしては珍しい、沈んだ面持ちだった。
「『この前のアロマテラピーが嫌いじゃなかったら、また来て』って私が言っていたと伝えてくれないかしら。彼女、医療部の人間を避けてるから」
「構わないが、あいつがアロマテラピーを受けたのか?」
なんとも意外なものだと思ったエンカクに愕然とした表情を向けたのはパフューマーだった。
「聞いて、ないの……?」
エンカクはその時、初めて蚊帳の外に立っている事さえ知らされていなかったと知った。そしてたった今踏み込んだのだ。
扉を拳で叩く音が響く。食堂にも鍛冶場にもニェンの姿はなかった。ともすればここしかあるまい。普段のニェンの居場所としてはまず考えない所ではあったが他に候補は無かった。
エンカクは再び、ニェンの部屋の扉を叩いた。
「ニェン」
呼びかけてから一拍置いて、扉は開いた。
「よう、ここに来るなんて珍しいな」
「……入るぞ」
制止はなかった。歓迎もなかったが。
部屋の中は灯りがついておらず、夕刻に任せた特有の暗がりの中だった。
「で、どうしたんだ?」
「パフューマーがまた来いと言っていた。アロマテラピーの話だ」
「あー……あれな。空気が落ち着きすぎてて私の性には合わねぇんだよ」
閉めた扉を背にこちらを見て話すニェンの様子は普段から特段変わっている訳では無い。しかし普段のニェンなら自分で開けた扉を律儀に自分で閉めたりはしない。開け放っているか閉めさせる。そしてこんな風に一歩分の間合いを取ったりもしない。飼い犬を抱きしめるような無遠慮さでむしろ距離を詰めてくるのがニェンだ。
ここ数日に姿を見かけなかった事に違和感を抱かなかったわけではない。だが気に掛けるほどのことではないだろうと考えていた。だがそれは、ニェンなりの悲鳴の上げ方だったのではないか?
「パフューマーから聞いた」
その一言でニェンの顔に影が差した。
身体に目立った外傷は無い。だが傷一つない腹の奥にあるのは元の形と機能を取り戻せないほどグズグズに破壊された内臓たちだ。
「どうなっているか、ということだけだ。何があった」
「……お前が、どうこうする話じゃねぇよ」
もういいか?と。その言葉のなんとらしくないことか。
ニェンが扉に手をかけた。帰れ、と扉を開けるつもりだろう。
その腕をエンカクが掴んだ。咄嗟のことだった。腕を自分の側へ引き寄せたのも無意識のことだった。
腕を取ったエンカクと取られたニェン。見つめ合った二人が沈黙を貫いたのは何故だろうか。二人には分からぬままだったが、エンカクもニェンもただ相手の目に浮かぶ僅かな怯えに気づいていた。それは空間を支配する緊張に対するものだ。この場で放つ一言が何かを決定的に変えてしまう気配があった。それが怖くて、二人は暗がりと沈黙の中でただ見つめ合っていた。そのままどれほど時が過ぎたろうか。部屋の外から聞こえてきた誰の物でもない話し声が部屋の前を通り過ぎ、遠ざかっていっても、二人はまだ視線を逸らせなかった。
やがて視線を逸らしたのはエンカクだった。ニェンを見つめていた橙黄の瞳がふらりと彼女の腕に落ちた。視界の端、彼が掴むニェンの緋色の腕の中に微かな違和感を抱いたからだ。
ほんの数秒にも満たぬ間であったが、エンカクはとうとう見つけた。痣だ。幾多の戦場を越えてなお傷を負わなかったニェンのその右腕に手の形をした痣がいまだ痛々しく残されていた。前腕の外側に残る手形は、彼女を後ろから掴みかからないと残らない。探せばきっと左腕にも同様の痣があるだろう。
「何があった」
ようやく口を開いたエンカクの言葉は意味を伴ってニェンに届いた。何か言葉を返そうかとニェンは考えたが、それよりも早く彼女の肉体は反応を見せた。
涙だ。薄紫のニェンの瞳から涙が流れ、両の目から溢れていく。え?あ?と、しきりに意味をなさない言葉を口から出しながら、ニェンはこの時決壊した。
蹂躙されていた時、己が為してきた全てを虚仮にされたように感じていた時でさえ流さなかった涙が、どうしようもなく溢れて止められなかった。ここまでボロボロにされていながらただの一矢も報えず、見逃され、そしてよもや劣等種と見下す存在に心配されるなど。エンカクに心配されるなど。それがただただ悔しく、情けなくて仕方がなかった。
エンカクが初めて見たニェンの涙は、事実彼女が落とした初めての涙は、同様にエンカクに初めての衝動を与えた。自分の中に生まれた衝動に整理も制止もできず、そのまま身体が動いた。ニェンを抱き寄せ、そして口づけした。
薄紫と橙黄の視線が交わる。瞳に浮かぶ驚きはどちらのものか。だが重なる唇は離れはしなかった。
唇を舐めたのはどちらが先だったろう。いつしか二人は瞼を閉じて互いに舌を相手へ伸ばしていた。二人の境界を越え、唾液が混じりあう。より濃く、より深くを求めて二人は舌を絡め合う。
エンカクの舌が不意にニェンの歯をなぞった。
「んっ……」
はしっ、とニェンがエンカクの服を掴んだ。だがそれは抵抗の意ではない。エンカクの舌がニェンの口蓋をなぞれば、またニェンもその舌先を追う。
慰め、求めあう一対の男と女がいた。
紡ぐ言葉は無かったが、姿無きただ一つの想いが部屋の中にあった。
◇◆◇
「あら、ニェンちゃん」
「よう、小僧に聞いてな」
「じゃあ、アロマテラピーを?」
「いやぁ、どうにも私にはしっくりこなくてな。悪いな、気ぃ遣ってくれてるってのは分かってんだけど」
「いいのよ、こういうのは本人が望んでいることが大事だから。それに、なんだかもう大丈夫そうね」
「私がか?……分かるもんなのか、侮れないねぇ」
「ふふ……あら、その花が気になるの?それってエンカク君が咲かせた花なのよ」
「へぇ、小僧が?」
ニェンが屈み込んで眺めるプランターの中でスイセンが黄色い花を咲かせている。可憐な花だ。この花にあの長身の剣士がジョウロを傾けている様子を想像して、ニェンはへらりと笑った。
「生きるってのは、こういう事なのかもな」