エンカクのパツパツ黒インナーの中に指を這わせたニェンが乳首を探してサワサワしてるとエンカクに逆襲される炎年です。
ニェンの事を知ろうとするならば、まず間違いなく奇妙な人物という結論に辿り着く。それは見た目にそぐわぬ老成した雰囲気だったり、アーツで説明できない特殊能力だったり、やたら辛いものを好むところだったりする。
それでも何が最もニェンを奇妙な人物たらしめているかと言うと、やはり行動の読めなさであろう。フラリとやって来たと思えば、思いつきで何かをして時には他人をかき回して、またフラリとどこかへ去っていく。時には業務中のオペレーターを遊びに誘い、時には映画撮影の一環と言い張って区画を1つ吹き飛ばしたり、時には手製の火鍋でドクターの口内を爛れさせたり――100℃の熱湯に耐えるドクターの口でダメなら誰が食べられるんだ?――、自由気ままにふるまっている。トラブルメーカーっぷりと神出鬼没さと相まって妖怪のようだと考えているオペレーターも少なくない。
だがそんな妖怪が今日は珍しく誰にも迷惑をかけず、さらに珍しいことに子どもたちの輪の中にいた。
「いいか?闇雲に投げるんじゃなくて軽ーく押し出すんだよ。こんな風にな」
子どもたちが見つめる中でキラキラと銀色に光るおもちゃをニェンが放り投げる。鳥か飛び魚のような形をしたそれは子どもたちの歓声を受けて宙を飛んで行き、10mほど向こうで地面に落ちた。
「そら、お前らもやってみろ」
「はーい!」
ニェンが飛ばしたのと同じおもちゃを持っている子どもたちが元気な返事をして、手に持っていたおもちゃを見よう見真似で放る。羽を羽ばたかせないおもちゃの鳥たちは風もない室内を本物の鳥が翼を広げるように滑空していった。
その中の一羽が軌道をそれて通りすがりの男の胸にポス、と当たった。勢いを失ったそれは、しかし地面に落ちる事なく彼の手によって掴みとられた。手に取ったおもちゃを胡乱げに見つめる男に子どもたちと一緒にいたニェンが声をかける。
「おーい、小僧!こっちに飛ばしてくれよ」
呼ばれたエンカクはあくまで無気力そうに放ったが、手首のスナップを効かせたそれは子どもたちの頭上を超えて飛んで行った。勢いよく飛んでいくこれにも歓声を上げた子どもたちはおもちゃを追いかけていく。
おもちゃを飛ばしては走って追いかけまわす子どもたちを眺めるニェンの隣にエンカクが側まで来ていた。
「上手かったじゃねぇか。やったことあんのか?」
「似たようなやつをな。俺が見た事あるのは紙でできたやつで見た目も少し違ったが。あれはお前が作ったのか?」
「あぁ。私がいたとこじゃあ玩鳥って呼んでたな。元々は供え物に使うものだったんだが、せっかくだから飛べるようにしてみたら中々にウケてな。こいつらにもウケるかと思ったら案の定だよ」
他愛ない会話をしながら、玩鳥で遊ぶ子供たちを眺める二人。子ども達は最初に玩鳥を持っていた人数よりも増えていて、交代して遊んでは飛距離を争ったり、個性的な飛ばし方を試してみたり、思い思いの楽しみ方で遊んでいる。そんな子どもたちを眺めるギャラリーはいつしかその数を増やしていた。ロドスで働くオペレーターやトランスポーター、ロドスで治療を受けている感染者もいれば、年をとった男やまだ若々しい男女も見ている。集まる人々は様々だったが誰もが遠くから子どもたちが遊ぶ様子を見つめていた。
自分がいる和やかな陽だまりから少し手を伸ばせば地獄があることをテラの人々は知っている。ここで子どもたちが病も差別も忘れて笑って遊んでいる裏には夥しい犠牲があることも分かっている。子どもだちが遊んでいる様を見守る彼らはそれを理解しているからこそ、この平和をたまらなく愛おしいと感じているのだろう。
エンカクは平和を愛している訳ではない。だが、この平和を守るために死の恐怖に立ち向かい剣を取る者が多い事は理解している。それは自分とは相入れない思想ではあるがそのような者たちが身につけた技と戦場で浮かべる鬼神の如き表情には、自分とは異なる道を歩む戦士だろうと敬意を抱かざるを得ないのだった。
エンカクはふと、隣の女はどうなのだろうと思った。今だにその心の底が知れないこいつは目の前にある平和の光景を見ていったい何を考えているのだろうかと。横目でニェンを見ても、何か考え事をしているような様子ではあったが、その中身をうかがい知ることはできなかった。
皆が各々の想いを目の前の光景に馳せていると時報のチャイムが響いた。昼食時だ。遊んでいた子どもたちも飛ばしていた玩鳥を広いあげ、食堂へと走っていった。
大人たちもそれに続くように歩いて行き、エンカクも食堂へ向かおうかと思った時にニェンが口を開いた。
「そういやあさっきから思ってたんだけどよ」
「なんだ?」
ひゅ~、とニェンが口で飛来音をならして彼女の人差し指が放物線を描き、エンカクの鍛えられた胸板を突っついた。
むに。
「ほぉ」
「部屋に戻る」
「なぁんだよ、怒ったのか?気にすんなよ、いい胸してるって。私が保証する」
「……付き合ってられないだけだ」
つかつかと自室へと歩みを進めたエンカクに、それでもニェンは後ろをついていく。
「いやぁしかし、ほぉ~……
もに、もにもに。もーにもにもに。もにもに。
大股で歩くエンカクとの歩幅をものともせず、どうやっているのかピッタリとくっついたまま揉み続けるニェン。機嫌がいいのかのったりと動き回る尻尾がエンカクの視界にまで入ってくる。
走って振り解くか?それとも刀を抜いてしまおうか?しかしどちらも通路で実行するには慌しすぎる。結局エンカクは不機嫌を隠さない表情をしたまま歩き続けた。
もう少しで自室に着くという所で、T字路でばったりと女性と出会ってしまった。話したことはないが、ロドスで何度か見たことのある顔。会釈をしようとした彼女はエンカクの胸元に彼の背後から伸びる手が添えられているのを見て――
「アッ」
顔に明らかな動揺の表情を浮かべ踵を返し、食堂に向かうつもりだったろう彼女は来た道を帰って行った。心なしか駆け足気味だ。
悪い事をしたと思ったが、そもそも悪い事をしたのは後ろのニェンではないか?そんなエンカクの考えもお構いなしにさわさわと胸を触り続けるニェン。
「お?おあつらえ向きに入り口があるじゃねぇか」
つい、と。ニェンの手がインナーの中へと入り込んでくる。ひんやりとした手が、もにもにもにもにもにもにもに。
飽きもせずもにもに。歩き続けるエンカクの後ろにくっついたまま、何かを探すように手を動かしてもにもに。
その指先がエンカクの胸の先に届いた。
「お?乳がデカすぎて探すのに苦労したぜ。乳首が無ぇかと――」
ケタケタと笑うニェンが言葉を言い切るよりも早くエンカクの手が素早く動き、ニェンの尻尾を掴んだ。無理矢理引き寄せて自分の前に置く。立ち位置が入れ替わり、先程とは逆でエンカクがニェンの背後に立つ形だ。
ニェンが二の句を継げるよりも先に、ニェンの上から伸びたエンカクの腕が鷲掴みにした。どこをかは言うまでもあるまい。
服の上から数度、揉む。その形と弾力を測るように両の手で、揉む。
「こ、小僧……?」
首だけで振り向きながら見上げたニェンが浮かべる苦笑いが持つ意味は目まぐるしい形勢逆転に対する驚き、それと。
ようやく口を開いた時には、もう硬くなっている胸の先を潰すように摘むと、ニェンは湿った吐息を漏らした。
「っ……は」
「お前のはすぐに見つかったな」
エンカクが自室の扉に手をかけた。ニェンと立ち位置を入れ替えたあの瞬間から、すでに部屋の前についていたのだ。
先程までのニヤケ笑いを浮かべながらエンカクの乳を揉み遊んでいた姿はとうに形なしで、ニェンは引き入れられるがままにエンカクの部屋へと消えて行った。