時系列的には
前々話(上位レ)→今話です。前話(揉み返し)の時系列は適当に解釈してください。
【権限記録】
ニェンの身体組織は急速に回復しているようだ。ようだ、と付くのは本人が検査を拒否しているから推測に留まるのが原因である。だが搬送されてきた状態で手の施しようがない瀕死の重傷だったにも関わらずベッドから起き上がり、制止する医療オペレーターを振り切って自室へと戻っていったニェンだ。確かにおぼつかない足取りではあったものの、あの時点で一人で歩けただけで説明のつかない生命力と言えよう。数日もするうちにロドス艦内でいくつかの目撃証言があり、医療オペレーターのパフューマーからも心配無用との報告を受けている。根拠についてはニェンのプライバシーを理由に黙秘された。
ニェンのこの一件が機密事項であるために調査はここで暫定的に終了する。ニェンもしくは襲撃者に関して新たな情報があれば調査は再開する。
ドクターにもこの一件に関して守秘義務がある。また、知り得た情報は報告する義務がある事をお忘れなきよう。
◇ ◆ ◇
「という訳で私には真相を知る義務があるんだけど、教えてくれないかな、エンカク」
「減らず口だな。あるのは守秘と報告の義務だけだろう」
「目ざといなぁ」
つまらなさそうに壁にもたれかかっていたエンカクだったが、更につまらなそうなため息が彼の口から漏れた。報告書に名前が書かれていない自分に機密事項の内容を尋ねるのはいかがなものかとも考えたが、よく二人でいることはこの男も知ったることか、と気にしないことにした。
「俺も暇じゃあないんだがな」
「戦場から戻ってきたばかりでごめんね。この後はどうするの、ご飯?私が奢ろうか?」
「いらん。どうせさっきの話の続きになるだけだろう」
「そんなことないからさぁ……そういえばエンカクって普段は戦場から戻ってきたら何してるの?」
「その時々だな。だが今日は鍛錬でも悪くない。お前も付き合うか?」
「ウッ、私は執務があるから……」
「ご苦労なことだな。俺は出るぞ、もう秘書業務もないだろう」
久々に秘書に任命された理由が気になっていたが、それだけの事だったか。時計に一瞥くれてからエンカクは腰を上げ、執務室を後にした。
――普段は戦場から戻ってきたら何してるの?
その時々と返した事に嘘は無い。だが普段なら、ほんの数週間ほど前ならばこんな時に会っている女がいた。逢瀬というほど大したものではない。ある時単に性欲を発散させたい相手を探していて、それから
ドロドロに侵されたという内臓。腕に残る痣。ニェンが流した涙。
戦場の昂ぶりは相変わらず残っているものの、どうにもあの瞬間を思い出すと他の女を捕まえようかという気にもならないのだった。もっとも、手を出した後のいざこざを面倒に思う性分だからこそ面倒が起きそうにないニェンを相手に据えていた訳で、つまりエンカクに当ては無かった。
「よぉ」
「ニェンか」
その上でニェンと出くわしても、エンカクはただすれ違うつもりだった。パフューマーから聞いていた搬送時の病状は酷い物で、いくら化け物じみた生命力を持つニェンとは言えど、その全快には長い時間がかかると考えていたからだ。
だのに、何やらニェンの方が用がありげだった。「どうした」と聞いてみれば、ニェンは下腹部の辺りをさすりながら答えた。
「なに、ご無沙汰かと思ってよ」
治ったのか。
エンカクはニェンの腕をむんずと掴んで歩きだす。ここから近いのは、ニェンの部屋よりもエンカクの自室だ。
その道すがらを誰かに見られなかったのは僥倖だろう。もし見られていたならばその尋常ならざる様子に何があったかと声をかける者もいたかもしれない。だが結果として、二人が出会ってからそのままエンカクの部屋に入ってその戸が閉まるまでを見た者は誰もいなかった。
つまり、エンカクを止める者は誰もいなかった。
ベッドに押し倒したニェンがうつ伏せにされたままで微かに声を上げた。それを無視してエンカクは胸に手を伸ばす。触ることなど滅多に無かったが期待していたのか、指先が乳首に触れた時には既に硬くなっていた。親指と人差し指で軽く摘まむと、押し殺すようにニェンの口から息が漏れた。二度、三度、エンカクの指が動く度にニェンの身体は制御しようがなく跳ね、声を漏らす。
これにしきりに困惑を覚えていたのはニェンだ。最後にしてからもう随分と経つ。てっきり他の誰かで適当に発散していたものかと思っていたが、これでは、まるでお預けを食っていた犬が心待ちにしていた餌にかぶりつくような。
「ずいぶん……余裕がねぇじゃ、ねぇか」
エンカクの瞳に燃える情欲の炎。それを見ての言葉だったが、果たしてより余裕がないのはどちらなのか。答えを待たずしてエンカクの顔が己の下へ近づいてきた。ニェンは一瞬、二人が交わした口づけを思い出したがニェンへ添えられたのは唇ではなく鼻先だった。エンカクの鼻が自分のこめかみの辺りのちょうど耳と角の間に寄せられて、何かを確かめるように深く息を吸った。自分の匂いを嗅いでいるのだろうかと思った時には、エンカクの匂いもまたニェンの下へ届いていた。ロドスの共用品のソープ、シーツに残る微かな汗、それと自らに覆いかぶさる雄から立ち上るその匂い。それら全部がないまぜになって、届く。胸を触られ甘い電撃が身体を駆ける中、さらに匂いが夢うつつへと引きずり込む。このまま惚けていくのかと、欠片だけ残った思考がそんなことを考えた矢先。今度は秘部に快楽の電流が走る。陰核の周りをじらすようになぞった後に、ゆっくりと、膣口から入ってきて、肉をかき分けるように進む。
「はぁっ……!」
思わず背が反れる。さっきから続く快楽に加えて、自分の女に押し入られる僅かな痛みとそれを全て塗りつぶすような充足感、多幸感、快楽。自分がどんな表情で、どんな声を、そんな事を何も考えられなくなる暴力的なまでの欲の蜜を喰らって視界に星が舞う。
「あっ、あっ!ああっ……!」
意識を飛ばしそうな嬌声をあげるニェン。ここに肉を求めた男女が求めあい、混じりあうかと思われた。だがエンカクは一つの困惑によってその動きを止めていた。
「こぞ、ぉ?」
「お前、まだ治りきっていないだろう」
本人も把握しきれていなかったか。傷は無いのかもしれないが、その全てが元に戻ったわけではなかったようだ。きっと今も元の形と機能を取り戻している途中なのだろう。再生途中の繊細な臓器、それはまるで
どちらかがはっきりと口にしたりはしなかったが、一つの雰囲気が場を支配した。エンカクは覆い被さっていたニェンから起き上がって、そのまま脱ぎ捨てたズボンを探すべく立ち上がろうとした。その時だ。ニェンがエンカクの太腿を掴んだ。そのまま有無を言わさず、ニェンはエンカクの男根を頬張った。
頬を窄めて根本から先までを扱くように首を動かす。何度も、何度も、唾液が舐る音を響かせながら、ただエンカクに快楽を供給するためと言わんばかりに動く。こんな事をニェンがしたことは一度も無かった。ねっとりとした肉感に火傷しそうなほど熱い体温、だが何よりもねじ伏せられそうな快感。
「っ、おい!」
思わず、角を掴んで首の動きを止めた。些か配慮の無い扱いだったにも関わらず、ニェンは口の動きを止めず舌を動かす。根本から撫でるように、先を焦がすように。事に及んでからものの十数秒で、エンカクは精を吐き出した。脈動する己の男が、絡みつく舌によって搾り取られていく。ハァッと、空気を求めてニェンが口を開けた時、エンカクの剛直はいまだに固く、そそり立っていた。
「なぁ、私だって、もう収まんねぇんだよ」
いつもの挑発的な態度とはまるで違う、懇願するようなその顔に。己の男根に愛おしそうに舌を這わせるその姿に。エンカクもこの時を待ちわびていた身、ここで止まれる訳も無かった。
なぜ
「ああっ!」
一心不乱に腰を動かすニェンの下の口にエンカクのその先が触れたあわやの所だったが、その快楽の刺激によってニェンの動きが止まった。入ることは無かったが、ただほんの一瞬だけ身体に通った熱い波で絶頂したか、身体を震わす。びくり、びくりと、無防備に唾液がその口端から滴るのを隠しもしないで。だから天地が返ったことをニェンは認識できなかった。ベッドがあげた軋みと自分を見下ろすエンカクに気づいて、ようやくエンカクと体勢が入れ替わったことを理解した。つまり、今度はエンカクが動く番だ。
長いストロークがニェンの女をこする度、その一回一回が到底耐えきれるものではなかった。以前していた交わりに比べれば児戯に等しいはずの
◇ ◆ ◇
翌朝、食堂での出来事だ。
「ほぉーれ、久しぶりだろう。遠慮はいらねぇぞ」
ドバドバと真っ赤な得体の知れないペースト状の何かがエンカクの料理に盛られていく。あれよあれよとかき混ぜられて、本日の特別メニューであったイベリアの伝統料理というパエリアは大層な手間暇と貴重な魚介によるブイヨンの風味を全て謎辛味で上書きされた。
遠くで絶叫を上げるイベリアのオペレーターたち、ニコニコと笑うニェン、苦々しい面持ちのエンカク、自分の分じゃなくて本当に良かったと距離を置くドクター。阿鼻叫喚の図にニェンのトラブルメーカーっぷりを久しぶりに見たなと思う者もいれば、ニェンに起きた事情を知る一部の医療オペレーターらは彼女の快復を改めて目にして胸をなでおろしていた。
「大変そうだね、エンカク……」
「お、坊主も食ってくか。うめーぞ」
「わ、私はいいや」
「んだよ」
そう言ってドクターにあげるつもりだったのか瓶に残されていたペーストが、全てエンカクの皿へと乗った。ボトリと音がしそうな量にドクターが短い悲鳴を上げてから足早に去っていった。
ドクターが去って、人の味覚を顧みない味付けにされたパエリアを前に、エンカクは隣で自分のより更に赤く染まった料理に手をつけるニェンを見ていた。
私のお手製だってのに、とブツクサしながら頬ばるニェンの肌はしっとりと汗ばんでいて――
「ん~!今日の料理にはコイツが最高に合うな」
――その首を通って流れ落ちる汗が光る様に、明確な昂ぶりを覚えた。
「……自分の皿だけにしてもらいたいな」
まさかな、とかぶりを振って、誤魔化すようにエンカクはパエリアをかきこんだ。
だがニェン特製パエリアはエンカクに行動の浅はかさを後悔させるに有り余り、この辛みを必ずやドクターにも味合わせてやろうとエンカクは決意したのだった。
ニェンは上位種なので汗かかないんじゃないかって僕も思いますが、汗が艶やかに光るニェンを見たいので上レの後遺症で自律神経ぶっ壊れて汗をかく様になっているとさせてください。