今日のポールの表情を、何と言い表したら良いだろう。
呆れている訳じゃない。
驚いている訳でもない。
スポットライトの光が丸眼鏡に反射しているせいで目元が見えないから、余計にでもどんな表情をしているかわからない。
しいて言うなら、無表情だろうか。
「ふぅ……」
今のは何だ?
右斜め上辺りへ顔を向けて吐いたのはただの吐息か? それとも、ため息か?
ただでさえ客が少ないのに、そんな態度で良いのだろうか。
「ようこそ、このような場末の劇場へ。
お客様がたの来場をこのポール、心より歓迎いたします」
嘘ををつくな。
ついさっきため息をつきながら「暇人どもめ」と、言いたそうに横目でチラリと見たじゃないか。
「気のせいでございます。
では、話を始める前に、皆様にご質問します。
確かに、よく聞くワードではある。
個人的には転生が好みだろうか。
剣と魔法の世界に転生し、転生特典のチート能力で無双する妄想は、現代人なら一度か二度はしていそうだ。
「ラノベや漫画、アニメの見すぎでは? は、ともかく、実は本日の話に、異世界転生が大きく関わります。と、言いますか、今回の客は異世界からの転生者。
引きこもりだった少年が気まぐれで外出したら不幸な事故に巻き込まれ、死して神との対話の末に、彼女の住む世界に転生したのでございます。
まあ、そこらに転がっていそうな設定ですね。
さて、本日語ってお聴かせするのは、娼婦と勇者の一幕。
彼女は若者を、頭が可哀想な奴だと哀れみ、恐れました。
若者は彼女の表情を哀れみとは気づかず、「僕に惚れたな」などと、少しばかり自信をつけた元童貞がしがちな勘違いをし、娼館から救いだそうとまでしました」
今日のポールの台詞は、妙な毒を
もしかして、異世界転生とかは嫌いなのか?
と、疑問がわいた途端にポールを照らしていた光が消え、代わりに照らし出されたのは、如何にも勇者ですといった服装をした少年。
黒髪黒眼で端正な顔立ち。背丈は170前半くらい。歳は16~7と言ったところか。
「異世界転生キタコレ!
と、アホ丸出しな台詞を言いながら、僕はあの世界で二度目の生を受けました。
夢にまで見た異世界へ転生したあの瞬間は、僕の人生で最高の瞬間だったと言っても過言じゃありません」
そりゃあ、そうだろう。
昨今の若者で、どのような方法にしろ異世界へ渡りたいと思わない者は少ないんじゃないだろうか。
「そしてあの世界での生活に慣れ、転生特典で手に入れた能力で無双するのに若干飽きてきた頃に、彼女と出会いました。
あ、ちなみに、僕が授かった能力は、あの世界基準でも反則的な身体能力と魔力。そして、僕が『パーフェクトナビゲーション』と呼んでいる、定めた目標へ至るための攻略法チャートが事細かに表示される能力です。
例えば、あの敵を倒したいと思えば、ここで右に回避とか、足を切り払う等々、僕の行動を細かく指示してくれますし、挑むまでの時間がある場合は、必要な特訓や準備しておくべき道具や罠等も教えてくれます」
所謂、予知能力だろうか。
さらに反則的な基本ステータスまで貰っていたのなら、あの世界で思う存分俺強ぇぇぇぇ! ができただろう。
「ええ、実際にしましたし、その力で魔王を討伐した僕は英雄になりました。
転生する前は、醜男で何の取り柄もなく、いじめられた末に引きこもりになった僕がですよ?
本当に、あの時まではこの世の春でした。
そう、彼女の最後に、立ち会うまでは……」
彼が暗い表情で最後の台詞を言い終わると、交代するように再びポールが照らされた。
「彼は、娼婦としてデビューした彼女の初めての相手。そして、人として最期を迎えた彼女が、最後に会話した相手でした。
本日の演目は、そんな二人の一幕。
後に世界を救う英雄と、世界がどうなろうと知ったことじゃないと宣った彼女の、最初の出会い。
タイトルはそう……『私も愛してる』で、ございます」
ポールがそう言うと、いつものように視界が暗転し、何かに引っ張られるような感覚に襲われた。
さあ、今日も彼女の悪態を、存分に堪能するとしよう。
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今日は、私が娼婦としてデビューする日。
女将さんに「自分の値段は自分で決めな」と、言われたから、庶民じゃあそうそう出せない金額を設定し、一晩に一人しか客をとらないって言ってやった。
我ながら、ほんの少しばかり盛り過ぎたかなぁ~とも思ったけど、私レベルの美人は貴族でもそうはいないと言われた覚えがあったからむしろ妥当……いや、安すぎるくらいだわ。
でも、この強気の設定が女将さんの琴線に触れたのか……。
「もし、本当にその金額で客がついたら、明日から上に上げてやるよ」
と、予想外のリアクションが返ってきたわ。
これは「どうせ無理だろ」と、高をくくった反応なのかしら。それとも「コイツならできる」と、期待しての反応かしら。
「じゃあ、外に出る許可をちょうだい」
「外に? 客引きでもしようってのかい? 思ってたより殊勝じゃないか」
「客引き? 冗談じゃない。私みたいな絶世の美女が客引きするなんて、貴族が部屋の掃除をするくらいあり得ないわ」
いや?
貴族でも、自分の部屋の掃除くらいはするかしら……は、どうでもいいか。
でも実際、私がしようとしていることは客引きに近いか。
「そこらを散歩して来るだけよ。私が戻ったら、一番最初に私を指名した男を部屋に通してちょうだい。あ、金が払えるのは絶対条件ね?」
「結局は客引きじゃないか。でもまあ、アンタなら歩くだけで客が寄ってきそうだねぇ。よし、アンタは歩いてるだけで客が釣れるんだから、これから毎日散歩しな」
おっと?
これはやぶ蛇だったかもしれない。
金が払えそうな男を見繕って、軽くウィンクして帰ってくるだけのつもりだったのに、これから始まる肉体労働に、散歩いう重労働が追加されてしまった。
「さて、じゃあ久しぶりの外を、少しでも堪能するとしますか」
女将さんに拾われて早三年……か。
その間は、貴族相手でも物怖じせずに会話ができるように、礼儀作法から「それ、人生で役に立つの?」って、言いたくなるような知識。そして、男の
しかも、賞味期限切れ間近なせいで売れもしないオネエサマの世話をしながら。
だから、基本的に娼館から外へ出なかった。
いや、出る暇がなかったって方が正しいか。
「ふむ、やっぱり私は、女将さんや姉さん方が言ってた通り、相当の美人らしい」
どうしてそう思ったかと言うと、娼館を出てからと言うもの、男からの視線をビンビン感じてるから。
ええ、そりゃあもう痛いくらい感じてるわ。
このまま歩いていたら、私は視線に刺し殺されてしまうかもしれない。
「あ、あの……!」
これ以上歩き回るのは危険かもしれない。
と、思って引き返そうとしたら、戦士みたいな格好をした同い年くらいの男に声をかけられた。
かけられたのは良いんだけど……。
金なんか持ってなさそうだなぁ。
「き、君の名前は……」
私の名前が知りたいなら、まずはお前から名乗れ。と、言いたい気持ちは一先ず我慢して。
この国では珍しい黒髪黒眼で、顔立ちはまあまあ。見た目的に、東の方の出かしら。
装備は小綺麗だけど、けっして高い物じゃない。
中堅以上の冒険者なら、少し無理をすれば買えるくらいね。
うん、やっぱり金は持ってなさそう。
中級に上がりたての冒険者が、有り金はたいて装備を新調したってところでしょう。
ってことで、適当ぶっこいておさらばしよっと。
「あ、あの……」
「申し訳ございません。男性に声をかけられたのが初めてなもので、どう反応したら良いのかわかりませんでした」
「そ、そうだったんですか! 良かった。嫌われたのかと思っちゃいましたよ」
アンタとは初対面だし、大した会話をしたわけでもないのに嫌うも糞もない。
どうもコイツ、金がないばかりか女性経験もないっぽいわね。
って言うか、どうしてしきりにマントをヒラヒラさせて、腰の革袋を見せつけるの?
あ、しかも見せつけるだけじゃなくて、腰を軽く振って中身を鳴らしてる。
この音は……もしかして金?
アンタなりの、金持ってますよアピール?
いやいや、冷静になるのよクラリス。
こんな馬鹿丸出しの金持ってますよアピールがあるわけないわ。
ここは後学のためにも、コイツが何をしているのか素直に聞いて見るとしましょう。
「あの……。何をなさってるんですか?」
「え? こうすれば、君の方から誘ってくれると書いてあったので……」
どこに?
そんな間抜けなアピールをしたら私が誘うって、どこに書いてあるの?
もし、本当に書いてあるならその場所と書いた奴を教えろ。100回は殺すから。
「これじゃあ、足りませんか?」
「え~っと……」
馬鹿なの?
行動から察するに、アンタは私が娼婦と知ってて、革袋の中身を見せて金が足りるか確認しただけなんでしょうけど、私が街を出歩くのは今日が初めて。
つまり、周りで「おい、アイツ、金で釣ろうとしてるぞ」とか「あんな美人でも、やっぱり金には弱いのかねぇ」なんて言ってる通行人たちは、私が娼婦だって知らないわけ。
私自身も、「私は娼婦です!」って、宣伝する気は皆無なの。
「ちょ、ちょぉ~っと、こっちに来てくださいます」
「え? こっちってどっち……。ちょっ! クラリスさん!」
ん? 今コイツ、私の名前を呼んだ?
は、とりあえずいい。
今は、人目がない場所まで逃げないと。
「アンタ、どういうつもり? 嫌がらせ?」
「そ、そんなつもりはありません! ああすれば、君と二人きりになれると書いてあったので……つい」
だから、どこに?
確かに、私とアンタはこの人目を避けた路地で二人きりよ。
つまりこの状況は、アンタがどっかで読んだ妄言に従った結果だって言うの?
頭、大丈夫?
「それで、その……」
「あ~はいはい。つまりアンタはどこかしらで私が娼婦だって知って、買おうと思って声をかけたってことでOK?」
「はい、その通りです……って、娼婦? クラリスさんは、娼婦だったんですか!?」
「……ええ、私は娼婦よ」
知らなかった?
でも、娼館にいる者しか知らない私の名前は何故か知ってる。
コイツ、何者?
ただの冒険者じゃないの?
「ふむふむ、なるほど。今日から娼婦として……」
誰かと話してる?
確か魔法で、離れた場所にいる他者と会話が出来る魔法があるって、女将さんから聞いた覚えがある。
つまりコイツは、魔法が使える希有な冒険者。
女将さんが教えてくれたことが確かなら、その時点で中級どころか上級の冒険者だわ。
「その革袋の中身全部で、私を買うことができますよ」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、ただし、娼館まで来ていただきますけど」
正直に言うと、革袋の中身の半分……いや、百分の一くらいが、私が設定した金額。
銀貨が大半で、金貨も数枚交ざってるその革袋の中身があれば、単純計算で私を100回は買えるわ。
「構いません! 連れて行ってください!」
「では、こちらへ」
人は見かけによらない。
とは、よく言ったものね。
私と変わらないくらいの歳で、王宮の騎士でも一目置くと言われる上級冒険者で、下手な商人よりも金を持ってる。
さらに、今日がデビューである私のことまで知ってる。
危険……と、言うより気持ちが悪いし、怖い。
コイツはここで逃がさず、娼館へ連れて行って女将さんに素性を調べてもらおう。
もちろん、有り金全部むしり取るのも忘れずに。
「本当に、連れて来るとはねぇ……。さすがに、驚いたよ」
「適当に煙に巻いて逃げようとも思ったけど、なんか怖いのよ。だから……」
「ああ、調べといてやる。ただし、部屋代とあわせて、あの坊やが払った代金の半分は貰うよ」
「ぼったくり過ぎじゃない?」
「有益な情報の価値ってなぁ、兵士千人の命に勝る。ってね。むしろ、安いくらいさ」
とは、男を待合室で待たせて女将さんに事のあらましを説明するなり返ってきたリアクションよ。
ああそうかい。
べつにそれでも良いさ。
半分以上取られたって、私の儲けは半分以上……。
「さらに、一週間分の部屋代もさっ引いとくよ」
「はぁ!? 一週間分の部屋代も!? 何でよ!」
「明日、アンタが一週間くらい休ませろって言うからさ」
どうして?
不敵に笑いながら言った様子を見るに、女将さんは確信して言っている。
「けどまあ、いい話もしてやろう。初日にここまでの儲けを出したんだ。すぐに上の部屋を空けさせるから、あの坊やとはそこで寝な」
「上の部屋は、まだ3つとも埋まってるでしょ?」
「空けさせる。って、言ったろ? アンタと三番目を入れ換えるってことさ」
ふむ、それは願ったり叶ったりね。
今のNo.3は嫌な奴だし、下の部屋は簡素なベッドがおいてあるだけの物置みたいな部屋だったからね。
初日から上に上がれるなんてラッキー……とも言い切れないか。確か上の部屋代は、下の五倍近くだったはずだし。
「
「いつ訪れるかもわからない死より今の生。ってね。先の事を考えたって詮無いだけさ。特に、こんな商売してる人間はね」
そりゃあ確かに。
って、女将さんの言葉に共感しちゃってる私って、実はかなり洗脳されてる?
そんな問答を終えて、女将さんは「少し待ってな」と言って上の階へ向かった。
すぐに金切り声が聞こえ始めたから、元No.3がヒステリックにごねてるんでしょうね。
まあ、上の部屋と下の部屋とじゃ雲泥の差と言っていいから、下に降りろと言われて発狂する気持ちはわからなくもない。
わからなくもないけど……ざまぁみろ。
「へぇ……。娼館って、こんなに豪華なんですね」
「この部屋は、うちで最上級ですから」
とは言ったものの、私も上の部屋は初めて。
一応、女将さんから簡単に魔道具の説明は受けたけど、本当に私が持ってる魔力程度で動くの?
あの円形のベッドとか、回ったりグネグネしたりするらしいけど、本当に大丈夫?
「それで……その。僕はどうしたら……」
「あら、こういうお店は、初めてですか?」
「ええ、正直に言うと、セッ…クスするのも初めてです……」
うわぁ、マジか~。
女性経験が無さそうだとは思ってたけど、本当に無かったか~。そこだけは、見た目通りだったのね。
「クラリスさんも、初めて……ですよね?」
「ええ、私は今日が水揚げですから」
「よし!」
何が「よし!」だ。
金玉蹴り潰すぞ腐れ童貞。
こっちは初めての相手が、ろくに女と話したこともなさそうなアンタで
だって、絶対に下手でしょ。
私が痛い思いをするのが確定しちゃってるじゃない。
それなのに「よし!」ってアンタ……。
これはアレね。
男は最初の男になりたがり、女は最後の女になりたがる。ってやつだわ。
アンタは童貞のクセに、私の初めてになれて嬉しさ大爆発なわけだ。
「そんなに不安そうな顔をしないでください! 大丈夫! 僕には、パーフェクトナビゲーションがありますから!」
「ぱー……ふぇ? え? 何ですか?」
「パーフェクトナビゲーション! 僕がこの世界に転生する時に神様から貰った能力です」
コイツ何言ってんの?
この世界に転生? 神様? 能力?
いやいや、もう一度言うけど何言ってんの?
もしかしてコイツ、妄想に取り憑かれてる? 私が思っていた以上に危ない奴だった!?
「この力を使って、僕は必ず魔王を倒してこの世界を救います!」
まずは自分の頭を救ったら?
は、置いといて。
今のでテンションが上がったのか、頭の中の妄想を演説でもするように自分語りを始めたわ。
え~と何々?
転生する前は引きこもりだった? 一念発起して外出したら頭に植木鉢が落ちてきて死んだ?
そのまま死んでろよ。
「で! セバスチャンに改名した方が良いんじゃない? って言いたくなるような神様に、この世界に転生させてもらったんです!」
「あ~はいはい。良かったですね~。じゃあ、お風呂入りましょっか~」
「え? 面白くなるのはこれからで……」
「語るのは良いけど、時間無くなっちゃうわよ?」
本当はアンタが帰ると言うまで居て良いんだけど、そう言ったら慌てて装備を外し始めた。
あ、意外と立派なナニがすでにおっ起ってるもんだから、下着を脱ぐのに苦労してる。
あのまま折れないかな~。
「綺麗だ……」
「お褒めにあずかり、光栄です」
「いや、本当にそう思って……」
「はいはい、わかってるわかってる」
キャラが安定しないなぁ。
本当はもっとお嬢様っぽいキャラでいこうと思ってたのに、中途半端に素が交じっちゃう。
「ほ、本当に、さわったり揉んだりつついたり摘まんだり舐めたりしていいんですか? あとでお金とか取られません?」
風呂から出てベッドに腰かけるなり、馬鹿が馬鹿みたいな心配を始めた。
そんな心配をしなくても……。
「すでに払ってるでしょうが。本当に好きにしていいわ。それとも、私が攻めようか?」
「いえ! こういうのはやはり、男がリードしないと!」
あっそ。
だったらさっさ……とぉ!?
ちょっと待ってちょっと待って!
力加減がおかしい! いや、おかしいなんてレベルじゃない! 痛い! メチャクチャ痛い!
乳首を摘まめば潰れそうなくらい指に力をいれるし、鷲掴みにされたと思ったらスライムのごとく胸が変形した。
「痛い! ちょっ……マジでやめろ! もげる! 私の胸がもげるから!」
「え? そんなに、痛かったですか?」
「痛いに決まってんでしょ! ほら、見てみなさい! アンタの指の形がくっきりついちゃったし、若干血まで滲んでるじゃない!」
これはヤバい。
コイツとこのままヤってたら、純粋な意味で壊される。
ん? 待てよ?
確かこういう場合は、首輪から魔人が出てきてどうにかしてくれるって聞いた覚えがぁぁぁ!? そもそも私、説明されただけで肝心の首輪を貰ってない!
「でも、こうすれば上手くいくって書いて……」
コイツはコイツで、相も変わらず訳わかんないこと言ってるわね。
だから、どこに書いてあるの?
私の小振りながらも形も感度も良い胸を、こんなにも痛々しくしろってどこに書いてあんのよ!
「す、すぐに治癒魔法を……」
え? 治癒魔法まで使えるの?
は、今はどうでも良い。淡い緑色の光が私の傷をみるみる癒す光景は一見の価値があると思うけど今はいい。
こうなったら私が攻めて、コイツには何もさせないまま済ませてしまおう。
うん、その方が絶対に良い。
そうと決まれば……。
「ちょ、クラリスさん!?」
「私が全部やるから、アンタは黙って寝てなさい」
傷が治ったのを確認した私は、馬鹿を押し倒して馬乗りになった。
私のお尻の割れ目に沿ってそそり起ってるコイツのナニの感触がどうにも気持ち悪いけど、ここはグッと堪えるのよ私。
だってお金は貰ってるんだもの。
それなのに、コイツに満足されずに帰られるなんて娼婦の名折れ。
それにこの先、コイツ以上に酷い客に当たることもあるはずだから、今のうちに酷い目に遭うのに慣れとかなくちゃ。
「じゃあ、入れるわよ」
「は、はい……。お願いします」
おい、リアクションがおかしくない?
どうして両手で顔を覆って恥ずかしがってんの? 普通は逆よ? それって、普通は私が取るべきリアクションなの……は、ともかく。
コレ、本当に入るの?
「あの、もう入ってます?」
「まだに決まってんでしょ。今から入れるから、もう少し待ってろ」
ヤバい。マジで怖いし痛い。
ゆっくり腰をおろして、なんとか先の方は入ったけど、すでに泣きたくなるくらい痛い。
動いてるわけじゃないのに息は切れてるし、
このままコレを奥まで入れたら、私はどうなっちゃうの? 死んじゃうんじゃない!?
「すぅ~……はぁ~……」
それでも、やらなきゃ。
だって、私は今日からプロ。
女将さんに拾われてなけりゃあ、とっくの昔にくたばっててもおかしくない路地裏育ちの私が、身を立てていく唯一の
だから、こんな初っぱなで
「いっ…………!」
たい! めっちゃ痛い!
少しづつ入れるより、一気に入れた方が痛みは少ないって誰かに聞いた覚えがあったからそうしてみたけど……身体が裂けたと錯覚しちゃうくらい痛かったんだけど!?
「あ……ごめんなさい」
「は? 何が? 確かに私が痛い思いをしてるのはアンタのせいだけど……って、そういうことか」
コイツ、入れただけでイキやがった。
ナニが私の中でビクビクして何か出してる。
「うぅ……。情けない……」
「あのさ。泣きたいのはこっちの方なんだけど?」
痛みに耐えながらなんとか抜いて、諸々の後始末を終えて一息ついた途端に、元童貞の早漏野郎はさめざめと泣き始めた。
いやはや、よほどショックだったのか、もう一回ヤらせてくれって言い出さなかったから本当に良かった。
装備まできっちり着けちゃった様子を見るに、私にとってもコイツにとっても最悪の初体験は、これで終了ってことで良いわよね?
良いなら、私も服を着ちゃうよ?
「あの、クラリスさん!」
「何よ。帰り支度しといて、やっぱりもう一回とでも言う気?」
「い、いえ、それはまた次の機会に……」
「あっそ。じゃあ、何?」
「僕と一緒に、ここを出ませんか?」
「心配しなくても、見送りくらいはして……」
「違います! この娼館から逃げるんです! 僕と一緒に!」
あ~……う~ん、はい。
馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、ここまでの馬鹿とは思ってなかった。
娼館から逃げる?
逃げてどうすんのよ。
女将さんから、「アンタはすぐに上に上がりそうだから、今の内から勉強しときな」って言われて、暇さえあれば役に立ちそうもない勉強を強要されてたから一般教養くらいはある。
読み書きもできるし、算術だってできるわ。
それでも、ここ以外で生きていく術は知らない。
「あなたはこんな所にいちゃダメな人だ! 娼婦なんて
そもそも、女性を食い物にするこんな商売がまかり通ってるのが間違っています!」
「今、何て言った?」
こんな所? 汚れた仕事?
コイツ、ここに来てヤりたい放題ヤっといて、この場所と私を馬鹿にしやがった。
「この世界は性差別が酷すぎます。男とだろうと女だろうと、平等であるべきです! なのにこんな、女性だけがリスクを負うような仕事が存在するなんて僕には許せない!」
私にはやっぱり、コイツが吐く
性差別が酷い?
当たり前よ。
男と女が平等?
そんな訳あるか。
女だけがリスクを負ってる?
男も、金払ってるだろうが。
「あの女将さんが怖くても心配はいりません。あなたは僕が命懸けで守ります! それでも不安が拭えないなら、王族や貴族に知り合いがいますから、彼らに頼んで合法的にここからあなたを連れだ……」
「それ以上何か言ってみろ。この玉袋を握り潰してやる」
「ひっ……!」
高が娼婦に玉を握られただけで怯えるような奴が、声高に偉そうな言葉を吐くな。
「よく聞けキチガイ。今からアンタに、この私が説教してやる」
「説教……ですか?」
「そう、説教。アンタは間違ってる。こんな、力が絶対的な指標になってる世界で、男女平等なんてあり得ない」
「そ、それは平和じゃないからです! 平和にさえなれば……」
「その平和とやらは、いつ来るのかしら。少なくとも、私が生きてる内は無理なんじゃない? そもそも、平和じゃなきゃ男女が平等になれないのなら、今の状況は必然じゃないかしら」
私が何歳まで生きてられるかはわからないけど、平和な世界なんて桃源郷が訪れるのなんて待っていられない。
だって、今を生きなきゃいけないんだもの。
暴力の権化と言われる魔王とやらに脅かされている世界では、大半の非力な女は何もできない。
男にすがって生きるか、男を騙して生きるかの二通りしか、生きていく道はないの。
男女が平等な世の中なんて、衣食住に困らず、暴力に晒されることもない世の中になって初めて実現するの。
そんな戯れ言を言える余裕が出てきてこそ、実現できることなのよ。
だけど、あいにくとこの世界は平和じゃない。
だから私は、今を生きるために後者を選択したのよ。
それなのに、力に頼るしかできない
「私の邪魔をするな! 私を蔑むな! 哀れむな! 所有しようとすんな! アンタはこの粗末なショートソードを振り回して悦に浸ってろ! 私はその様を、酒飲みながら
おっと、説教のつもりだったのに、ただの宣戦布告になっちゃった。
でもまあ、良いか。
言いたいことを言ったからか、気分的にはスッキリしてるし。
「で、でも僕は、君を愛してしまった。救いたいと思ってしまった。君だって、僕を好きになってくれたから、初めての相手に選んでくれたんじゃないんですか?」
「女に幻想を抱くな元童貞。アンタが思ってるほど、女は綺麗な生き物じゃない」
初めての相手なんて、金さえ払ってくれたら誰でも良かった。醜男でも、オッサンでも年寄りでも良かった。まあ、テクニシャンだったら最高だったかな。
だから、アンタでも良かったってだけ。
アンタは何故か、私が惚れてるって思い込んじゃったみたいだけど、特別な感情なんて欠片もないわ。
でもまあ……。
「金さえ持ってくれば、また相手をしてあげる。その時は、『私も愛してる』くらいは、サービスで言ってあげるわ」
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彼女が台詞を言い終えると、ーーーは劇場に戻されていた。
あれが彼女の初めての相手……か。
「少し長くなってしまいましたが、如何でしたでしょうか。
この後、彼は魔王を討ち果たすまで、彼女の元へ訪れませんでした。
彼女を本当の意味で救うため。
彼女に恋い焦がれる気持ちを封印し、平和な世界を彼女に見せるために
その結果が、彼女の死か。
だが、彼の能力なら、そういう結果になるとわかっていたのでは?
「わからなかったのでございます。
いえ、これは正確ではございませんね。
彼は、彼女が死病に冒されると知り、万病に効く霊薬も用意しました。そうすれば、彼女とのハッピーエンドが実現すると、攻略チャートに記されていたからです」
なのに、彼女は死んだ?
どうしてだ?
今回の話でも、結果だけ見れば彼女と結ばれた。彼女には不満しかなかったが、彼は望みを叶えた。
神が与えたチート能力を上回るほどの何かが、彼女にあったのだろうか。
「……それでは、本日はここまでにいたしましょう。
こんな山も谷もなく、オチもないくだらない話を、それでも聴きたいとおっしゃるならまたお越しください。
その時はこのポール。
誠心誠意、おもてなしいたしましょう」
ーーーの疑問を遮るように、ポールは締めくくった。
そう言えば、彼はどんな神と会ったと言ったんだったか。たしか……。