あー、腹減った←
この時間は魔の時間w
~紅魔館のとある一室~
大きな天窓から射し込む陽の光が、ボクに朝の訪れを報せる。
たっぷり14時間程眠っていたボクは、その光によって夢の国から現の世界へと連れ戻された。
「んん…っ…ふぁ…~…」
独りで眠るには少々大き過ぎるベッドの中で、両手を伸ばして伸びをする。
やはり眠り過ぎたのか、自身の物とは思えない程に、体中を重い倦怠感が支配していた。
(………ん?)
伸びをしていると、1つの疑問がボクの脳内を過る。
明らかに何時もより服がキツいのだ。
そしてもう1つーー
「……?…??…な、無い……?」
ーー朝起きると必ず元気になっている"アレ”が無いのだ。
それに自分の声を聴いて少し驚いた。
ボクの声って、こんなに高かったかな…?
そして服がキツい理由も、判ってしまった。
「え……?」
ぺったんこだったはずの胸が、Yシャツに締め付けられ、見事な谷間になっていたのだ。
うーん…これは見事な…
「……」ムニュッ
取り敢えず揉んでみる。
うん、サイズは…EかFくらいかな?柔らかくて良いおっぱいだ。
いやいや違うでしょ碧生、こんな事をしている場合じゃないよどうしよう。いやマジで。
人間、絶望的な状況に陥ると目の前が暗くなるって良く言うけど、今が正にその状態なんだろうね。
だって目の前が真っ暗なんだもん。
「……どーしよ…」
普段は楽観的なボクが、頭を抱えて悩む時が来るとは自分自身で驚いている。
だけど今回は深刻だ、何てったってオンナノコになってしまったのだから。
「取り敢えず…咲夜さんに相談するかなぁ…」
今にもはち切れそうなYシャツのボタンを外しながら、ボクは咲夜さんが部屋を訪れるのを待つことにした。
~大食堂~
「………」
一際大きな椅子に腰かけた少女、この紅魔館の主であるレミリア・スカーレットは、愕然とした表現である人物を凝視していた。
「……ふむ…」
その傍らに座る少女、レミリアの大親友である魔女、パチュリー・ノーレッジは、その人物を興味深そうに見詰めている。
「お兄様…だよね?ううん…お姉様かな?」
レミリアの妹であるフランドール・スカーレットは、皆の注目を一身に受ける人物に問い掛ける。
「ヤベェ、何この可愛い生き物…ッ」
涎を拭いながら、ギラギラとした目線を向けるのは、この紅魔館の門番である、紅美鈴である。
「美鈴、碧生さんが恐がってるから止めなさい」
そんな美鈴の頭に、鉄製の丸盆を叩き付けたのはこの紅魔館のメイド長である十六夜咲夜だ。
空箱を叩いた様な音が食堂に響き渡る。
「いたッ!もー!痛いですよ咲夜さん!バカになったらどうするんですかーっ!?」
「あら、貴女は元々馬鹿じゃない」
「酷いッ!!」
二人が何時ものコントを繰り広げていると、それを見ていたレミリアが声を発する。
「えー、碧生…で良いのよね?」
神妙な面持ちで、対面に座る少女に問い掛けるレミリア。
少女はその問いに無言で頷く。
「うん、ボクだよレミリア」
落ち着いた、少し甘い声色。
その主は、緩くウェーブが掛かった碧色の長髪をシュシュで束ね、少し大きめのYシャツ(美鈴の私服)を纏った垂れ目の少女。
碧生の面影を色濃く残した美少女がそこには居た。
「………有り、ね」
レミリアが大きく頷く。
「ええ、有りか無しかで言えば有りね」
パチュリーもそれに賛同。
「うんうん、全然ありだよ」
フランはノリノリだ。
「有り有り!可愛いですも…フギャッ!」
美鈴の額に銀のスプーンが突き刺さった。
「慎みを覚えなさい………まぁ、有りね」
咲夜は何故か頬を染める。
「有りか無しかは訊いてないんだけどなぁ…まぁ良いや。それよりパチュリー、君ならボクの身に起きた異変の正体が何なのか判るんじゃないかな?」
「あのね…私にだって判らない事もあるの…そんなに目を輝かせながらこっちを見ないで頂戴」
「……うー…もーどーすりゃ良いのさー…いきなり過ぎてワケわかんないよ…」
一際の希望をパチュリーに向けていた碧生だったが、パチュリーの答えを聞いて項垂れてしまった。
「そうね…私は古書で原因を調べてみるわ」
「それなら私も手伝うわよ、碧生が困っているのに悠々とお茶してる場合じゃないわ」
「レミリア…パチュリー…ありがとうっ」
二人の言葉に思わず涙を浮かべる碧生。
そんな碧生を見て二人は思う。
((純粋過ぎるわよ…碧生…))
「ふわぁ……私は寝る~…美鈴、絵本読んでよ」
「はいはい、分かりましたよ妹様」
~その頃、グレンのトレーラーハウスにて~
……今は何時だ?
予想では恐らく昼過ぎくらいだろうな。
チクショウ、昨日は飲み過ぎたみてぇで頭がイテェ。
「…ヤベェ吐きそう」
グルングルン回る視界に耐えられなくなった俺は、ベッドから飛び起きて部屋の扉を勢い良く開ける。
行き先はモチロン便所だ。
ドタドタとこれまた勢い良く階段を降り、階段脇にある部屋へと駆け込むと、目の前にある便座に顔を近づける。
「……グッ……エェ…おぇ…ッ」
あのワンコ、便器までこんなにピカピカにしてやがんのかー、うわースゲーなー……第二波が来やがった。
「ハァ…ハァ……クッソだりぃ…」
あれから10分間、ずっと吐きっぱなしで正直疲れた。
オカゲサマで喉が焼けてしゃがれ声しか出なくなっちまった。
「……あの、グレンさん大丈夫ですか?」
背後からワンコの声が聞こえた。
どうやら階段を駆け降りた時から俺の様子を探っていたらしい。
俺が便器に全てをぶちまけるまで待っていたようだ。
「…あぁ、大丈夫だ…」
便器の水を洗し、口元の胃液を軽く拭って振り返る。
するとワンコの表情がみるみる内に険しい物に変わっていった。
「………なに怖ぇツラしてんだよ」
俺がそう言ってやると、ワンコの表情が更に険しくなる。
おいおいこんなツラ見たことねぇぞ…
「…だから、どうしたって「あのッ!」
俺の言葉を遮っていきなり大声を張り上げるワンコ。
いきなり過ぎて俺の体は柄にも無く強張っていた。
そして黙る俺にワンコが向けた言葉はーー
「貴女…誰ですか?」
「……………ハァ?」
ーー思いもよらない言葉だった。
はい、少し短いですが次話もう少し長くします。
ではまた。
あー、腹減ったー……