※この作品はR-18です。

re世界を覆せ 黒き勇者   作:コトナガレ ガク

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第10話 意地

「はあ、はあ」

「どうした、息が切れちゃったかい、子猫ちゃん」

 シーラは言い返そうとするが意志に反して声は出ず、口はひたすら息を吸うのみ。

「おやおや、減らず口も利けないのかい。それじゃ可哀想だから、これで終わりにしてあげるよ」

 ジョゼは周りを伺いシチハが来る気配が無いことを確かめた。

 なんだかんだ言いつつシーラがピンチになれば助けに来るのではないかと適当に手を抜いてシーラをいたぶっていたがその気配無し。

 ジョゼはシチハの本心は確かめられたので、用無しとばかりにシーラの胸目掛けて手刀を繰り出す。

「くう」

 今までみたく、バトルスピナーで受け流そうとしたが回転に切れがなかった。受け流すどころかバトルスピナーを掴まれてしまった。

 こうなったら、互いの筋力が勝負。

「うふ。非力だね~」

 シーラは押され、じりじり背が弓なりになってくる。

「負けられない」

 シーラは全身の筋肉を振り絞り踏ん張ったがぴくりとも押し返せない。対してジョゼの顔はにやにやしていて明らかに手を抜いている。必死に抵抗するシーラを弄んでいる。

 それが分かっていてもシーラにはどうすることも出来ない。

 負けられない。

 自分の理想を築くため、こんなところで死ねない。

 瞳だけは強く輝くがシーラの身体は答えてくれず、とうとう膝が付く。このまま行けば、地面に倒され無様に潰されるだろう。

 私の力はこの程度なの?

「姫様」

 シーラが崩れそうになったとき、銀光に輝く剣閃が走った。

「ちいっ」

 ジョゼは慌てたようにシーラから飛び下がって新手から間合いを取る。

「大丈夫ですか」

 盾のようなフェデルタの背中に甘えて、シーラは完全にへたり込んでしまった。

「はあ、はあ。ありがとう、フェデルタ」

「気にしないで下さい。私はあなたの臣下であり仲間なのですから」

「手厳しいなフェデルタは」

 臣下になら支えて貰いっぱなしでもいいけど、仲間なら私も支え返さないといけない。

 シーラはフェデルタと仲間でいるために、杖を使い自力で立ち上がった。

「ふうっ」

 立ち上がってみれば何のことはない、しっかり立てる。まだまだ自分には力が残っていたのに気付かされた。

「立てましたね、姫」

「おかげさまで」

 結局フェデルタは最後まで手は貸してこなかった。でも力は貰っていた。こうやって、大勢の仲間から力を貰えれば、皇帝になるのも夢じゃないとシーラには思えてくる。

「シチハ聞きなさい。私はあなたにも絶対に仲間になって貰いますからね」

 シーラは、聞いているかも分からないシチハに向かって、腹の底から声を出して宣言した。

「よし。ここから巻き返すわよ」

 シーラは力強くジョゼと向き合った。

「卑怯じゃない、二人がかりなんて」

 ジョゼが、何か言ってくるが気にしない。

 泥水を啜っても生き残る。この程度気にしていては、十二皇子との熾烈な競争に生き残れない。

「フェデルタ、前衛をお願いします」

「はい」

 フェデルタは、シーラの力強い言葉に待ってましたとジュゼに挑み掛かっていく。

 その隙にシーラは再びキューブをセットする。

「スピグネイション」

 朗々と響く声に、キューブの回転が始める。

 今度はさっきのように即席じゃない、ありったけの魔力とイメージを注ぎ込む。シーラは精神を完全に集中させた。

 これもシーラがフェデルタが自分を守ってくれると信じていればこそ出来ること。その信頼にフェデルタが裏切ることはなかった。

 フェデルタは常人には風切り音しか聞けない斬撃をアップテンポで響かせジョゼを押さえ込む。

 この強さマスター級。

「ちい、色気を優先して、盾の一つもしてこなかったのが裏目に出たね」

 そうは言っても、ジョゼが本気になれば魔力を込めた素手で受け止められないことはない。ただ、肌が傷付くのを女らしく嫌ったのだ。

 その戦士としての思い切りの悪さが、致命的な窮地へと自らを追い込む。

「リワールド」

 シーラの世界の理を破壊する言葉響き、多層に重なった光の魔法陣が展開された。

「あれはまずい」

 一目見てジョゼはただならぬ力を感じ取ってしまった。その僅かに戦いから意識が外れた隙を付き、フェデルタの一閃がジョゼの太股を切り裂いた。

「しまった!」

 フェデルタは役目は果たしたと飛び退き、シーラは力を放つ。

「レイフォース」

 天が照らされる程の、眩い光の奔流が放たれた。

 防御呪文は間に合わない、ジョゼは目を見開くばかりで無惨な姿になった自分が思い浮かんでしまう。

「いやーーー。美しくない」

 絶叫を上げるジョゼが光に飲み込まれる寸前、横手から影が飛び出してきた。

「なっ」

 光が過ぎ去り再び暗闇が静寂を包み出す。見開くシーラ達の視線の先には、シチハがジョゼを抱き抱えていた。間一髪横手から飛び出してきたシチハがジョゼを救ったのだ。まるで勇者がヒロインを助けるサーガの一説のようである。

「どういう意味です、シチハ」

 味方してくれるどころか自分に敵対するシチハに、シーラは心に重しを置いて静かに尋ねた。

「魔人の女、今日のところは引きな」

 シーラの問いに答えることなく、シチハはジョゼに言う。

「はい」

 ジョゼは心なしか瞳が潤んでいる。

「答えなさい、シチハっ」

 自分より魔人の女に話しかけるシチハに、シーラの心の重しは軽く吹っ飛びシチハを怒鳴りつけてしまった。

「そっちの奴も引け」

 シーラに全く取り合わないシチハは、誰もいない闇を見詰めて言う。

 一瞬自分から視線を外して言っているかと錯覚したシーラだったが、その先の闇より仮面を被った男が滲み出てきた。

 月光に輝く男だった。

 憤怒を象った銀のフルフェイスのマスクを被り、均整の取れた美しい体はスタイリッシュな黒のモード服を纏っていた。

「えっ」

「気付いていたか」

 姿を晒すや圧倒的な存在感を放つ男、なのにシーラは全く察知出来なかった。いや自分だけじゃない、マスターの称号を持つフェデルタでさえ気付いてなかったようで顔が青ざめている。

 目の前の女なんかとは格が違う。

 シーラは一杯の水が欲しいと思った。それくらい威圧感で喉が渇く。

「分からない方がおかしい」

 ぬけぬけと言い放つシチハの顔をシーラは抓りたくなった。

「気配は消したつもりだったが、敵わないな」

 仮面の男には旧友に話し掛けるような気軽さがあった。

「でっ敵わないと分かって、どうするよ?」

 シチハがジョゼをゆっくりと地面に降ろしてやると、ジョゼは仮面の男の下に駆け寄って行った。

「部下を助けて貰った礼だ、今日の所は素直に引こう」

「へっ。俺の商売を邪魔しやがって、二度と来るな」

「それは断る。今度は俺が見捨てない番さ」

「! 待てっ」

 シチハが呼び止めに答えることなく、仮面の男もジョゼも闇に消えた。

 緊張感で凍り付いていた大気は氷解し和やかな風となって流れ出す。

 ドサッ、シーラは安堵と共に力が抜け膝を付いてしまう。

「はあ、はあ」

「大丈夫ですか姫」

 フェデルタが心配そうに言うが駄目。喉がからからで、服は背中に張り付いて気持ち悪くてしょうがない。早く帰って沐浴でもして、寝てしまいたい。

 なのに目の前の、憎たらしい男は気遣い何かしてくれない。

「何をヘタレてるんだ。一応あの女には二対一と卑怯な手のような気もするが勝ったような気もするんで、約束通り話でも聞いてやろうと思ったが、帰っておねんねするか?」

 にやにや嫌らしくシチハの顔は笑っている。

「貴様、姫になんて事を言う」

 憎たらしい上に、妙に勘のいい男は、こちらの弱気を見透かしている。悪党で、意地っ張りで、唯我独尊、嫌いなところだらけの男だが、そんな男が折角話を聞くと言っているんだ、だったらヘタレている場合じゃない。

「いいえ、聞いて貰います。フェデルタも少し黙っていて下さい」

「しかし」

 シーラは姿勢を正した。その姿に先程までの疲れは見えない、人の上に立つ物の威厳と凜とした美しさに輝いていた。

「それと、シチハとは二人っきりで話したいので暫く離れていて」

「そんな、姫をこの野獣と二人っきりにするなんて」

「お願い、フェデルタ。私の我が儘を聞いて下さい」

 シーラは命令よりも強い、お願いした。

「分かりました。周りを警戒してます」

 諦めたようにフェデルタは、大人しく下がり離れていく。

 フェデルタの心配そうな背中が消え、二人きりになったところでシーラはシチハに向かい合うのであった。

 

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