階段は光源に乏しく足下が覚束ない、多分本来なら案内人がランプか何かを用意して案内するのだろう。幸い夜目は利く方なので注意して階段を降りていくと、流石にトラップは無かったようで何事もなく下の階に付いた。
下の階は階段から続く通路があり、ここではランプが灯されている。通路はきちんと石が引き詰められていて、土が剥き出しになっていることはない。地下洞窟というより、地下ダンジョンといった感じだ。通路はある程度進んだところで曲がっていて何処まで伸びているかここからは分からない。だが、ストレート部の左右にはドアが等間隔で並んでいて、ざっと6部屋くらいある。これがレストの情報にあった変態達が楽しむプレイルームなのか?
はてさて、シーラを攫ったとして男ならまず楽しむな。と言うことはこの部屋のどこかにシーラがいるということか。それともレストの話しにある変態ショー用の大部屋もあるということだから、変態共の見世物になっているか。
クソッ、情報が足りなすぎて、どれも妄想と変わらないレベルの推理だ。こんな行き当たりばったりでスマートじゃない仕事なんて駆け出しの頃以来だぜ。
「どうすんのよ」
立ち止まる俺にセミューがイライラした様子で聞いてくる。少しは考えさせろよ、依頼人に対して失礼な奴だ。
情報が欲しい。取り敢えず、この通路の先がどうなっているか確認しよう。
「奥に行くぞ」
「はいはい」
セミューがやる気なさそうに返事した。此奴はどっちにしろ俺のことが嫌いなんだろ。ビジネスライクな付き合いを求める俺だが、少し考えを改めてこれからは愛想も雇用条件にいれるか。
まあいい、気を取り直して通路を進み出したところで、ガチャッと真横のドアが開いた。
中から出てきた男と目が合う。
互いに一瞬見つめ合うが行動は俺の方が早かった。
ガッと男の喉元を抑えて部屋の中に押し込み返す。セミューが続いて入るとドアをさっと閉める。
ふんっ口は悪いが何も言わなくても流れるようにフォローするところは流石だ。
「なっなんだおまえらは」
部屋の中には腹の出た裸の中年と裸にされX字に磔られた少女がいた。中年の手には鞭、少女の肌はミミズ腫れで真っ赤になっていた。
変態プレイのまっしぐらということはあっちは顧客。とすると俺が抑えているのは従業員か。俺が押さえている男はここの住人の割には外観は何とか一般人レベルに収まる範囲で、モヒカンでもスキンヘッドでもない。まあ、接客用に雇った人材か。ティンピーラもこういう仕事をしていたのかもな。
「セミュー其奴を抑えろ」
「はいよ」
セミューはぱっと中年に飛び掛かると懐から針金を取り出し中年男をあっという間に縛り上げた。
なるほど手際がいい。愛想は悪いが使える。やっぱり愛想より腕か?
「さてお前、ここに青髪のストレートの女が連れ込まれたな、どこにいる?」
俺は従業員を壁に押しつけながら尋ねる。
「しっしらない、うっぎゃああああああああああああああああああああああ」
俺は従業員が期待する答えを言わなかったので指の骨を折った。
「うんうん、いいぞ簡単には裏切らない男の中の男だ。その感動劇いつまで俺に見せてくれるかな。
もう一度聞くどこにいる?」
「おれがこんなことぐらいっぎゃああああああああああああああ」
俺は躊躇わず従業員の指を追加で折った。
「どこにいる?」
「いっいい言います。だからっぎゃあああああああああああああ」
俺は躊躇わず従業員の指を更に追加で折った。
この手の男に情けは無用、徹底的に恐怖を刷り込む。下手に甘くすると絶対そこにつけ込んでくる。
「早く言え」
「ティンピーラが連れてきた女はボスの部屋です」
「そのボスの部屋はどこにある?」
「地下4階です」
「道順は? 罠はあるか? この地下にはどのくらい人数が残っている?」
「答えます、答えますから~指を折らないで」
必死に懇願する従業員が一通り話し終えたところで縛り上げて床に転がした。
「今の話し嘘じゃないだろうな」
「もっもちろんです」
従業員は脂汗を滲ませて答える。折った指が痛いのだろう。それは分かるが俺はこの男の心をちゃんと折れただろうか? 帝都に悪名響くヴィラの構成員がたかが指数本でゲロするのか?
もう一度従業員の顔を睨むと従業員は俺に媚の笑みを浮かべる。
末端の構成員の質などこの程度で済ませていいような気がする。
「よし、信じよう」
磔台に括られた少女に近寄ると拘束から解放してやった。拘束から開放されて蹌踉めく少女を優しく抱きとめてやる。
「ちょっと、偽善を見せるの辞めてくれない」
セミューがごちゃごちゃ言ってくるが無視して、俺は少女にナイフを渡した。
「これは?」
少女は生気の無い目で手渡されたナイフを見る。
「名前は?」
「シーレ」
「そうか可愛い名だ。
いい子だからよく聞けよ」
俺はシーレの髪を撫でながら優しく言う。
「いいか、俺達はこの下に用があるから一旦消えるが無事仕事を果たしたら、ここに戻ってきてお前をここから連れ出してやる」
「ホント?」
シーレの瞳に光が少し戻った。
「ああ、約束する。その代わりと言っては何だが、俺達がもし戻って来なかったら此奴等を殺してくれないか?」
「殺せばいいの?」
「ああ。返事は慎重にな。俺達が戻ってこれたら、晴れてお前は自由だ。だが、戻ってこれなかったとき、仲間を殺したお前は今よりもっどひどいめに合う。
以上を踏まえた上で答えろ、仕事を引き受けるか?」
シーレはナイフを握りしめ、こくんと頷いた。
これによりシーレは捕まった可哀想な少女から仕事仲間に上がった。シーレは銀髪をショートカットにしていて、生気が戻った顔を見るとなかなかに可愛い。体も小柄ながらなかなか出るところは出ていてCカップ以上はありそうだ。
「よし、契約成立。
話は聞いたな」
俺は仕事仲間をしっかりと覚えると従業員に振り返る。
「俺が戻ってこなかったらお前は死ぬというわけだ。これを考慮してもう一度答えろよ。嘘や言い忘れは無いな?」
従業員は涙目に半笑いしながら口を開きだした。
「よし、いくか」
「あの~」
シーレが話しかけてくる。
「なんだ?」
「お願いできる立場じゃ無いことは分かっています。でも出来るなら、捕まっている私の仲間も助けてくれませんか」
「仲間? お前借金のカタにされた奴隷じゃないのか」
「違います。私は帝国軍第115外縁パトロール隊。帝都の外に出てパトロールしているときに襲われて気付いたらここに。そして知ったのです。私達をこんな目に合わせたのは、隊長のライバルだった男です。私はその男に散々・・・」
出世の為邪魔なライバルを嵌めたのか、同じ民族同士でもこれか、やはりヴィザナミは醜い。
「そうか」
「お願いです隊長達を助けてください」
シーレは必死に俺を見つめて訴えてくる、可哀想だが頼む相手を間違ったな。
「悪いが俺はお前達を救い来た正義の味方じゃない。お前には利用価値があったか助けただけだ」
俺は利用できるから利用しただけ。俺に目に付く不幸な人を全て救うとする聖者でも正義の勇者様でも無い。
「そうですか」
きっぱりと断られシーレの希望に輝きだした目が伏し目がちになる。本来従業員が色々と吐いた後では、もうシーレの役目は果たされている。見捨てたところで仕事に影響はない。ないがここで約束を破ればヴィザナミの連中と同じになってしまう。君との約束だけは守ることで納得して貰おうと俺が口を開くより早くシーレが口を開く。
「ならメリットを提示できればいいのですね」
シーレは俺に勝負を挑むように見つめてくる。それは話のすり替え、そもそもメリットを求めて忍び込んできたわけじゃ無いと言うより早くシーレが畳み掛けてくる。
「私はあなたに絶対の忠誠を誓います」
「ほう」
勢いに押され思わず答えてしまった。「ほう」じゃ興味があるみたいじゃ無いか、ここは「それで?」と冷たく返すところだろうに。
「それは悪党の俺の仲間になるって事だぞ」
そもそも俺にヴィザナミ人の仲間なんかいらないがな。
「帝国の正義には裏切られました」
さっきまでの気弱そうな表情はどこにいったのやら、表情が引き締まっている。
こういう顔はよく知っている。仲間のために必死なんだな。
「俺は特殊な性癖があってそこの変態より変態行為をお前に強要するぞ。なら助けられる前と同じ。いや、うすうす気付いていると思うが俺はヴィザナミ人ですら無い、お前は更なる屈辱を味わうことになるぞ」
金持ちの変態に嬲られるのも俺に嬲られるのも物理的には一緒。更に誇り高いヴィザナミの女が征服民のアルヴァディーレの男に抱かれるなんて耐えられないだろ。
冗談で言っている訳じゃ無いことを示すため、俺はシーレの乳房を乱暴に握った。ミミズ腫れに激痛が走るのかシーリの顔が歪むが、視線は俺から外さなかった。
「理不尽な力で強制されるので無く、自分の意思です。自分で意思で私はあなたに抱かれるのです」
本気なのは伝わった。
「悪いが断る。正直自分の体にそこまで価値があると思いこんでいる可愛そうな勘違い女なんかいらないんだよ。
まあ約束は守ってやるから、助かってラッキーだと思っておけ」
思いは本気で重いが、考えは浅く軽い。
体を差し出す程度で何とかなると思っているのが思慮が浅い、そんなのは後押しする程度にしかならない。必要なのはもっと別のメリット。そこに至らないような考えの浅い者は仲間にいらない。まして人生を背負うなんてご免だね、しがらみはもういい。
「隊長は帝国の名家の出身です。恩を売って損はないと思います」
シーレは俺に拒絶されて退かなかった、さっきまで浅はかな女とは思えないような提案をしてきた。
追い詰められた人間の底力というやつか。
「帝国貴族にとって恩なんか犬の餌にもならないものじゃないのか?」
「隊長は恩義に篤い方です。そうでなければ私が必死になるわけがないじゃないですか」
ここまで必死になるとは恋人だったのか?
「それに恩義を感じなければ人質にすればいい」
いいね。先程よりずっといい具体的なメリットだ。
「なにより私達は帝国の不正の証拠。
私のマスターになる方は、その価値が分からない愚鈍な方なのですか?」
おいおい、先程までのしおらしい少女はどこに行った。目の前には一端の女狐がいる。
「そもそも、あなたが一言復讐をさせてやるといえば全員喜んであなたに忠誠を誓いますよ」
なるほどな。俺を復讐の為に利用しようって考えが。そして復讐を果たした暁には俺を裏切る腹づもりなのか。合点がいった。
いいだろう、復讐は俺も好きだ。お前達がどんな末路を辿るのか見届けてやるよ。
「気に入った。契約は成立だ」
「ありがとうございます。私はこの場であなたに忠誠を誓います、マイマスター」
シーレは恭しく俺に跪いた。
「なら初仕事だ。待っている間にそこに転がっている豚の素性を洗っておけ」
命令をするだけして俺は今度こそ振り返ること無く部屋から出て行った。