地下一階は変態用のプレイルーム。地下二階は変態ショー用の大部屋あり、地下三階が女達を閉じ込めておく地下牢。地下四階がボスの部屋でシーラとお楽しみ中らしい。
地下に大迷宮なんて物を作れるほどの資金は無く。基本的に一本道らしく迷うことはないそうだが、代わりに脇道に逸れてやり過ごしたり隠れたりするとはできない。怪盗としては忍びにくい構造だ。
だが幸いなことに、アゼルの陽動に引っ掛かって地下にいる人員はほとんど地上に出ているらしい。残っているのは各フロアの責任者とシーラとお楽しみ中のボスのみ。
以上が従業員の情報だ。ちなみに従業員は地下一階フロアの責任者らしい。
地下二階に降りて真っ直ぐ続く廊下を少し歩くと情報通り大部屋に続く扉があった。左右には部屋を回り込める通路がある。
やり過ごすこともできるが折角なので扉を少し開けて中を覗くと地下にしては広く30人くらいなら入れそうな空間の中央にはステージが設置されていた。ステージ上には身の毛もよだつ拷問器具が並べられ、それを腹の出た男が掃除していた。お客を楽しませるため熱心に下準備をするプロ意識は見習いたいね、是非その労働意欲に答えてやりたくなる。
俺が扉を開け堂々と近付いていくと男が気付いたようでこちらを向いた。
「あっお客さんですか、今日はステージは無いんで勝手に入られますと困りますな。上のベロッカムは何をしているんだ」
タキシードに仮面はここの正装に近い、迷い込んだ客だと思っても可笑しくはない。
「縛られて死の恐怖と戦っているよ」
「へっ」
易々と間合いには入れた俺は上段回し蹴りを男の顎にヒットさせる。スコンッとヒットすると男の目はくるんと白目に代わって床にひっくり返った。
「セミュー、この男の勤労意欲に報いてやりたいので、この男をそこの拷問器具にセットしてやってくれ」
俺はあらゆる箇所から針が飛び出ている椅子を指差して言った。
「はいはい。止めを刺さないなんて優しいだかサディストなんだか」
「この男が大好きな拷問器具にセットしてやるんだ、優しいだろ」
俺は後をセミューに任せて地下三階に向かった。
地下三階への階段を降りたところで話し声が聞こえてきた。幸いにもストレートに廊下に繋がって無く、階段を降りて踊り場があり、その先を90°曲がると廊下に繋がっている。廊下にそっと顔を出して様子を伺った。
廊下は直線に延びていて、その左右には牢屋がずらっと並んでいた。鉄格子で塞がれた各牢屋には借金や誘拐など連れてこられた人達が閉じ込められているらしい。そんな牢屋の前で今までと違い如何にも暴力を信条とするヴィラらしい筋骨隆々の大男が牢屋の誰かに話しかけていた。
彼奴がこのフロアの責任者か、牢番だけに今までの雑魚とは格が違う様子が窺える。まともに戦えば負けはしないが、声を上げられたら援軍が駆けつけてしまうかも知れない。
「けっけっけ、今頃お前の部下は変態男爵様とどんなプレイをしているんだろうな」
「くっ」
角度的に見えないが牢番が話しかけているのは、会話的にシーレが言っていた隊長か?
「まあそう睨むなよ。男爵との変態プレイが終わって生きていたら俺が今度は自由にしていいことになっているからよ。お前の前で可愛がってやるよ」
「貴様っ貴様っきさまーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
ストレートに激情する様を見るに真っ直ぐそうな奴だ。
「喚け喚け、活きのいいお前がどんな表情を見せてくれるか今から楽しみだぜ」
牢番はいい顔をして囚人を嬲るのに夢中になっているようで、気配を殺して近づく俺に全く気付いてなかった。
「悪いが俺が先約だ」
「へっ」
男が振り向くより早く後頭部に蹴りを叩き込む。
「ぶごっ」
男はそのまま鉄格子の間に頭を突っ込み気絶した。すげえ手品みたいだ。どう見ても鉄格子の間より大きい頭が入ったぞ。これどうやって抜くんだろ? 見てみたいが今は時間が無い。
牢屋の中を見ると、藍色の髪を翼を広げたように逆立てたような髪型をした精悍な面構えをしている囚人がいた。手枷を嵌められ、頭を通す穴の空いた布一枚を被せられている。
多分此奴がシーレが言っていた隊長だよな? 今思えば容姿とか名前を聞いておけば良かったと思うが、まあいい、確認すればいいだけのことだ。
「お前は名前は?」
「お前等みたいな変態貴族に名乗るな名など無い」
まあタキシードにマスクじゃな~場所も場所だし仕方ないと言えば仕方ないが。間違えられたショックは大きい。
ガシャンッ。
「きゃっ」
怒りに任せて鉄格子を思いっきり蹴っ飛ばした勢いに押されて意外と可愛い声を出す。
「巫山戯るな。勘違いでも俺を帝国貴族の豚共なんぞと一緒にするな。俺は豚共と策謀と狡猾さで戦うフォックスだ」
「フォックスだと。帝都を騒がす大悪党じゃないか」
大悪党の響きが心地いい。ヴィザナミ人に善人呼ばわりするよりよっぽどいい。
「その通りの大悪党よ」
「その大悪党が何の用だ?」
俺に襲われれるとでも思ったのか俺を睨みつけてくる。
「帝国軍第115外縁パトロール隊の者か?」
「それを知ってどうする?」
なんか面倒くさくなってきたな~、もう此奴が隊長でいいや。プライドは無駄に高そうだし勝手に仲間を助けて逃げるだろ。
俺は牢番の腰に付いていた鍵を引き千切ると牢屋の中に投げた。
「どういうつもりだ?」
「大悪党に助けられた負い目を背負って生きるがいいさ」
「悪党の施しなど」
あの真摯な顔、此奴なら目の前に助かる術があってもつまらないプライドで拒否してもおかしくない。別に俺にとってヴィザナミ人がどうなろうが知ったことじゃないが、シーレとの約束もある。
「好きにしろ。拒否するのは勝手だが、だがお前の誇りはお前の仲間を殺す。シーレはお前を助けるために誇りを捨てたぞ」
「お前シーレに何をしたっ!」
この反応、やっぱ恋人同士だったのかな?
「自分で確かめな。地下一階の一番出口に近い部屋にいる。じゃあな」
約束は果たした。その後のことまで知ったこっちゃ無い。
さて、無駄な時間を食った。さっさと仕事を終わらせて帰って寝たいぜ。
俺はもう振り返ることなく先に進むのであった。