「くそっくそ、俺の目が。彼奴を殺すだけじゃこの怒りおさまらね」
ガイフは目を失った怒りでシーラの声なんか届いていない。ただただ喚く。
「セミューお前此奴の正体知っているだろ、俺に教えろっ」
「何する気よ」
「男は拷問して殺す。女は嬲り犯して殺してやる。此奴に関わる人間全員地獄に落としてやる」
「いやよ、そんな陰湿なこと。私は関わりたくないわ」
セミューはあっさりと断る。
俺に関わる人間全てを生き地獄に落とすだとっ。
あの光景をまた再現するというのか。
例え俺がいない世界だろうとそれは許すことなど出来ない。
意識が落ちきる前、ガイフの言葉に意識の底からマグマのような熱い真っ赤な嚇灼の怒りが噴き出した。
怒りの噴火で俺の意識は一気に覚醒する。
「今なんて言った」
シチハが立ち上がっていた。
その顔は幽鬼の如くげっそりとし体もふらふらで今にも倒れそうだ。
だが、その目、その目だけは覗き込む者全てを恐怖で縛り付ける魔眼と勘違いするほどに怒りで溢れていた。
セミューは恐怖しながらもその目に魅入られ、シーラですらその目に後ずさっていた。だがガイフだけは怒りに狂っているガイフだけは気付かない。火で炎は消せないのと同じである。
「まだ起き上がれるのか。
だがいいぞ止めは俺が刺してやる。これで少しは俺の怒りも収まる」
「自分の目を失った程度の怒りだと。そんなもので、そんな程度で」
「俺様の目がそんな程度だとっ」
これから輝かしい階段を上り詰めていく自分、栄光に包まれる自分が完璧な肉体を失ってしまった。それはガイフに取ってみれば到底許せないことなのだった。
「あんなこと二度とさせない、その為なら俺は手段を選ばない。
例えお前等に与えられた力だろうが。
悪魔の力だろうが。
俺は使う」
シチハはキューブを取り出した。
「ん? スピナーも無しにどうするつもりだ?」
ガイフは血を失い今にも倒れそうなシチハなど吹き飛ばせそうな鼻息で笑う。
「レボリューション」
シチハがキューブを天に掲げキューブが高速回転を始め一瞬でキューブとなる。
「スピナーも無しにキューブが反応しただと」
ガイフは驚き事態を見守ってしまう。僅か数秒だが攻撃することも逃げることも出来たガイフの人生を決定づける唯一無二の時間を驚くことに使ってしまったのだ。
「ラーブレイズ」
シチハを中心に黄金の魔方陣が描かれ、嚇灼に燃える髪を滾らせ、瞳は黄金に輝く。
今まで倒れそうだった人間シチハはもういない、そこには全てを怒りのままに破壊する勇者が立っていた。
「おっお前は何何だ?」
力量を測るとかそういうレベルではない。
そこに在るだけだけで分かる。
待ち受けるのは死。
「最後に答えろ、お前を改造したのは闇より黒い長髪の男か?」
「なっなぜお前がそれを知っている。まっまさかお前もそうだというのか」
「褒美だ、8秒やる。
人生七転八倒、窮地にて九起に賭ける。さあ8秒使って後悔の無い選択をしろ」
8秒。人生を決める決断をするにはあまりに短い時間。だがここで逃げるか戦うか、逃げるならどうやって、戦うならどのように。決定しなければならない、しなければ突っ立ったまま人生が終わってしまう。
ガイフは視線を左右に走らせ逃げ道を模索する動きをしたが、直ぐに思い直したように頭を振ってシチハを睨む。
「逃げねえ。俺は選ばれた人間だ。お前じゃ無い俺こそが選ばれた人間何だっ。
ぶっ殺してやる。
鉄血鉄化 全開」
恐怖に勇気を奮い立たせ立ち向かう者。
ある意味この場でガイフこそ勇者であった。
ガイフの肌の色が鋼の如く黒光りしだした。この体こそガイフの切り札であり自信。こうなれば剣ですら掠り傷一つ付けられなくなる。
その上でガイフは懐から薬を取り出し飲み込んだ。
「軍が開発禁止にした特殊ドーピング剤、鼓動を通常の3倍にする。こんなの常人なら心臓が破れるだけだが、鉄血鉄化の俺なら耐えられる。
見せてやろう人間を越えた動きを」
ガイフの言葉を裏付けるように体の表面をミミズがのたくったように血管が浮き上がってきた。ぴくぴく躍動している血管は今にも破裂しそうだ。
「その選択に後悔は無いな?」
激怒を通り越した透明で静かな声でシチハが最後通達する。
「黙れッ。行くぞ」
ガイフは風となった。剣のマスタークラスがよく使う瞬歩にすら凌駕する動き、シーラは完全に見失い、セミューですらその影を捕らえるのがやっと。
高速の鉄塊がシチハに襲いかかる。
そして、そのまま首が飛んだ。
「えっ?」
ガイフは一瞬で切り飛ばされた首で自分の体を見ながら床に落ちること無く燃え尽きた。
「あのガイフが一瞬で、どんなバケモンだって言うのよ」
セミューは自失呆然としていた。
「次はお前か。元雇い主のよしみだお前にも8秒やる、後悔の無い選択を選べ」
セミューはシチハの声が断罪の声に重なる。心が恐怖に震え思考を放棄したくなる。それでも選ばなくては成らない窮地から起き上がる選択。でなければ転んだまま人生が終わってしまう。スラムに生まれ這い上がるため何でもしてきた。やっと這い上がるチャンスを掴んでヴィラに入った。人生これからだった、ヴィラで這い上がり幸せを掴めるはずだった。終われない、終わってたまるかと心が叫ぶ。
そしてセミューは窮地にて起死回生の選択を決めたのであった。