なっ!!!て感じでヴァドネーレの目が全開で開かれ俺を見る。
口を塞いだが、まだ腕の力が弱まらない。
なら。
ヴァドネーレの口は呼吸のため開かれていたので、そのまま舌を入れてやった。
「うっ」
先程で全開かと思っていたが更にヴァドネーレの目が開かれた。
後で冷静に考えれば敵の口の中に舌を入れるなんて噛み切られてもおかしくない危険な行為なのだが俺も必死だった。
ヴァドネーレの舌が俺を追い出そうとしたが、俺の舌がそんな抵抗何するものかと逆に舌を舌で絡めてねっとりと舌を舐め回す。勢いに乗って歯の裏なんかも舌でつんつんとしつつ、止めとばかりに再度舌を絡ませ舌をしごく。
「はう」
ヴァドネーレが吐息を漏らした。
呼吸が乱れヴァドネーレの抵抗が一瞬弱まった。弱まった勢いに任せて、俺は一気にヴァドネーレを拘束しままスープレックスで地面に叩きつけた。
カランと剣が地面に落ちる音が響く。
俺は素早く起き上がって振り返ると、ヴァドネーレはまんぐり返しの状態で白目を剥いていたが、やがてゆっくりと地面に倒れていった。
大の字で体を晒すヴァドネーレの胸は微かにだが上下している。生きているのか。
戦いに敗れ生き残った女の末路は哀れだ、勝者に何をされても何も言う権利は無い。その体も人間としての尊厳も蹂躙され貪り尽くされる。アルヴァディーレが破れたとき、そんな光景嫌と言うほど見た。
こいつはヴィザナミの女、しかも貴族だ。あの戦争に関して責任ある側だろう。それにヴァドネーレはこうして見ると引き締まったいい体をしているし、俺も男だ。互いに命を奪い合った結果勝った俺が何をしても非難されるような優しい世界じゃ無い。
あの日死んだ目を見開く女達の顔が思い浮かぶ。
俺は地面に転がっている剣を拾い上げると振りかぶった。
「女では無く戦士として葬ってやろう、それが命を賭けて戦った相手に出来るせめてもの手向けだ」
俺は剣を力を込めて振り下ろした。
パリン。
「ふっ運がいい女だ」
俺が全力で振り下ろした剣は、その根元から折れた。名刀でも何でも正真正銘のナマクラ、先程の俺の剣を二本砕いた時点で既に限界を超えていたのだろう。剣筋が僅かにぶれた風圧で折れた。
「ちっ気が萎えた。帰るか」
気絶した女を二度も殺す気にはなれない。
甘いか、甘いんだろうな。復讐者ならここでヴァドネーレの手足を折って高笑いしながら陵辱し尽くすくらいするべきなのだろう。だが同時にそんなことをしたら俺の胸に渦巻く怒りを穢す気がする。あの時死の闇から這い上がれたのは間違いなく悪に対する怒りだったはず。
「待って下さい」
いつの間にか気がついていたシーレが俺に呼びかけてきた。その態度には嘲りは無く敬意が込められている。
今思えばシーレは約束を守ろうとしたのだろう。それ故にヴァドネーレは多少俺に対する嘲りもあったろうがとんずらできなかった、決着を付けるしか無かった。そう思い至れば、小賢しいことが出来ない可愛い女と許せる気にもなる。
「シーレか。残念だが契約は破棄だな」
結構美人揃いなので少し残念だが、その代わり此奴等の業を背負わされることも無い。
まっ互いにそんなに悪い話じゃあるまい。シーレ達は逃げられた分だけお得だろ。
「いいえ。ヴァドネーレは全力を出してあなたに敗れました。今の彼女ならあなたを主と認めるでしょう」
タイマン張ったらダチ、男の友情物語の読み過ぎじゃ無いか。
「それに私はとっくにあなたをマスターと認めています」
「もういいよ、めんどくさい」
偽悪を気取る気力すら無い。解放解放、彼奴等も自由も俺も自由。俺は家に帰って寝る。
「慈悲をお願いします」
シーレは跪いて頭を垂れる。
「いやだから、自由にしてやるって。性奴隷にされることも無くなったんだ、ラッキーと思って人生楽しめよ」
あそこで囚われたままでは当然として俺の部下になっても碌な未来は訪れない。
「女5人頼る者もなく帝都で生きていくことは出来ません。スラムに落ちて私達に身を売るか追い剥ぎでもしろというのですか」
「いや普通に帰れよ。行方不明だったお前達が帰ってくれば、仲間は喜ぶだろ」
よく分からないが、全部が全部此奴等に敵対しているということはないだろ。
「のこのこ戻ったら、仲間に再会することも無くまた捕まるだけです。いえ、今度は確実に殺されるでしょう」
「じゃあ、そいつの実家が名家なんだろ、頼ればいいだろ」
俺は寝転がっているヴァドネーレを指差して言った。
「時間が経ちすぎました。私達が逃げたことはもう知られているでしょう。ならば逃げ込む先としてヴァドネーレの家はマークされていると思われます」
「そのぐらい突破できるだろ」
俺に敗れはしたがヴァドネーレはなかなかの剣士だ。これがもしヴィラで手に入れたナマクラでなく名剣を手にしていたら、俺はもっと苦戦していただろう。今思い返せば、三回転目、毒と出血もあったろうがヴァドネーレは剣を庇ってもいた。
「なんなら、餞別代わりに剣くらいプレゼントしてやってもいいぞ」
まあ名刀というわけにはいかないがな。今回の出費で俺も懐が厳しいのだ。
「力尽くで突破なんかしたら、それを口実にどんな言い掛かりを付けられ陥れられるか。最悪ヴァドネーレの実家が取り潰されます」
ああ言えばこう言いやがって、可愛くない女だ。
「こういっちゃなんだが、そんなに抜け目ない奴に喧嘩売ったのかよ」
「私達全員大人しくフォルミカの愛人にでも成っていた方が良かったとでも」
シーレは唇を噛みしめながら言葉を吐き出す。
「失言だった。謝る」
誇りを守る為戦ったんだ。結果がどうだったにしろ貶めていいことじゃない。
「なら」
「それとこれとは別だ。牢屋からは出してやったんだ、これ以上は俺に期待するな」
「いや期待する」
えっと思えばヴァドネーレがいつの間にか気絶から目が覚めていた。死んでいても可笑しくないのに、丈夫な女だ。
「俺は全力を出してお前に敗れた。その上お前は俺を殺さなかったんだ、責任を取れ」
「どういう理屈だ。言い掛かりもいいところだろ」
何で命を助けて文句を言われる。
「救った命は最後まで面倒を見るのが筋だろ。でなければ下手な情けなんか掛けるな。下手な希望を持たせるなっ」
あっという間に俺の眼前に迫ったヴァドネーレは俺の胸倉を掴んで訴えてきた。
「俺はお前を認めた。
俺はお前の剣となり夜伽もやってやるよ。だから、俺達を助けてくれ、復讐を遂げさせてくれ」
胸倉を掴んだかと思えば、今度は俺の胸に縋り付いてくる。
女5人、しかもそれぞれが中々に器量が良く血筋もいいのだろう。ハーレムと羨む者もいるだろう。
だが、俺はご免だ。
美しい女は花、それだけで蜜に誘われ好意も悪意も寄ってくる。今回の一件でそれがよく分かった。これからも次々とトラブルがぞくぞくと奴等に寄ってくるのは目に見えている。シーラだけでも手に余るのに、更に女5人の世話なんか焼けるか、胃に穴が空いてしまうわ。
ここで情に負けて優しく抱きしめたら終わり、先程ヴァドネーレが言ったように下手な希望を持たせるのは残酷だ。ここはきっぱりと。
ヴァドネーレを突き放そうと手を動かすより早く、ヴァドネーレは動いた。
「取ったぞ」
あっっと思ったときには俺の仮面はヴァドネーレに剥ぎ取られていた。
「お前の素顔見たぞ。なんだなかなかの面構えじゃないか」
「お前」
「これで逃げられないぞ。俺を抱くか殺すか決断しろ。逃げたらお前の正体をばらす」
ヴァドネーレは仮面を後手に回して立つ。
その姿は無防備、何をされても受け入れると体で言っている。
殺すか抱くか、なんなんだこの二択は。
ぐっぐっぐうぐぐっぐぐぐぐぐうぐぐぐっぐぐぐぐぐぐ。
理性で考えれば、殺すべきだ。
昨日まで顔も知らない縁の無い女、その上やっかいな敵もいる面倒な女。
俺はこんなのに構っている暇も余裕も無い。
情で考えれば、抱くべきだ。
体も顔もいい女だし、足掻いた結果がこれでは可哀想とも思う。
悪に徹するなら、やるだけやって捨てればいい。
それでアルヴァヴィーレ、いや男として、人間として誇りが保てるのならな。
「悩んだ時点で、マスターの負けです」
背後からシーレに抱きしめられた。
「だらしない奴だ。仕方ないから女の俺の方から抱いてやろう」
ヴァドネーレに正面から寄り添われた。
それを俺は振り払えない。
「やってられるか。好きにしろ」
負けた。また女に負けた。
最近の俺ってこんなのばっか。