※この作品はR-18です。

re世界を覆せ 黒き勇者   作:コトナガレ ガク

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ソネーレ編
第26話 不幸の手紙


「ふんっ」

 ツルハシを勢いを付けて振り下ろす。堅い地面は剔れ手には反動が返ってくる。中々固い地面だ。

「ふんっふんっふんっ」

 地面のコンディションを掴んだところで一気呵成連撃で地面をほじくり返していく。一気に振り上げそのまま遅滞なく振り下ろす。堅い地面に当たった反動を利用してそのまま振り上げる。何をしているかと言えば、俺は今工事現場で働いている。

 昨夜の電撃的奇襲で事情を知っていそうなヴィラの幹部連中はあらかた処理できたと思う。これで残ったのは正義の怪盗フォックスの噂だけ。これからは俺やシーラ、アゼルの名前は徐々に噂の影にフェードアウトしていき、ヴィラvsフォックスの戦いが表面化していく。闇はフォックスである俺が全て引き受ける。

 まっその辺の事情は話せないが、アゼルには元々フォックスにスケープゴートになってもらうという計画で動いて貰っている。だから俺達は日常に戻った方がいいとアゼルに言い、彼奴は今頃屋台で働いているだろ。そして俺も表の顔として工事現場で働いている。

「ふう」

 地面が満足に砕け上を見上げれば、太陽は中天に達していた。

 飯の時間か。

 俺はツルハシを地面に突き刺すと、腰の水筒を取り出し水を飲む。カラカラに乾いたワカメに水が染みこんでいくように細胞が生き返っていく感覚はどんな極上の酒でもドラッグでも味わえないエクスタシーだぜ。

 

「おばちゃん、チャーハン大盛り」

 片手を上げて大声で叫ぶ、そうでなければこの狭い店内でむさ苦しい労働者がひしめくカオスの中で注文なんか取って貰えない。

 20人程度が入れそうな店内には長机がデンッでんっと置かれているだけで椅子など無い。壁なんかもひび割れ如何にも場末の食堂感満点なのだが掃除は行き届いていている。「あいよ」

 恰幅のいいおばちゃんが俺の前に熱々の湯気が香るチャーハンを置く代わりに俺は小銅貨3枚を置く。

「まいど」

 おばちゃんが愛想のいい返事と供に代金を回収して直ぐさま人混みに消えていく。あの体型でこの人混みを料理をこぼさないで運ぶ技術、プロだな。

 今の工事現場になってから見付けた店だが、狭いのは何だが注文して直ぐ品が来るのが気に入った。まあメニューがチャーハンと卵雑炊の二種類しかないから早いんだが、たまに来るだけなら飽きはしない。

 欠けた皿に盛られたチャーハンに俺はレンゲを刺すと適度に水分が飛んだぱらぱらのチャーハンの山が崩れる。これこれ水分が飛んでないとこうは成らない。これで材料が一級品なら高級レストランでも出せると思う。

 こういう店では異色なのだろうが周りが腹を空かした犬のようにガッツいて食べている中で俺は味わって食べていると背中がざわめいた。

 視線をそっと周りに廻らすが怪しそうな奴はいないというか、人が多すぎて見渡せない。ヴィラの暗殺者か? だがそれなら気配を殺さないのは可笑しいし、ざわめくが殺気は感じない。なにかの警告か、兎に角堅気じゃ無い人間が混じったのは間違いない。

 俺が警戒していると後ろに座った男から黒封筒の手紙が脇の下に差し込まれる。俺はさり気なく脇を締める。

「確かに渡しましたよ」

 俺が返事を待つこと無くざわめく気配は消えていく。俺は味わっていたチャーハンを他の労働者のようにどか食いすると店から出た。

 全くトラブルは仲良くやってくる、まさに人生七転八倒だな。だが悲観して浸っている暇は無い、窮地にて止まれば破滅するだけだ。

 

 第五城壁コニッリャ地区。比較的治安も良く、比較的整備され、比較的に人口も多いと住むには手頃な地区である。

 そこに周りを塀と木々に囲まれひっそりと立つ屋敷があった。元は貴族の妾宅だったらしいが、何があって手放したのか安かったのでアジトの一つとして購入しておいた。ここでの俺の身分は旅の行商人、それ故に普段いなくても余り疑われず、たまにご近所にお土産を配ってご機嫌を取っておけば怪しまれて警邏隊に通報されることも無い。まっ人間物に弱いのは上も下も同じということさ。

 そこの応接間にレスト、スコルピオを呼び出し、机を挟んで対面に座っていた俺は頭を下げた。

「すまない、俺は暫く帝都から離れる」

「ヴィラとの全面対決で怖じ気づいたか?」

 顔が険しくなったスコルピオの言葉が鋭く俺に突き刺さる。

 敵前逃亡、確かにそう取られても仕方が無い。

「まあまあスコルピオさん、戦略的撤退が必要な時もありますって」

 太鼓持ちの顔でスコルピオを宥めていたレストがこちらに向いた時には冷徹な軍師の顔になっていた。

「ですが今はそのときじゃないですよね。ヴィラは今大打撃を受けている、ここで押さないと盛り返されますよ」

 全くもってその通りだ、ヴィラは幹部を数人失い守りに入っている。守りつつ失われた力を回復しようとしているのだろう、ここでその守りを削り切り喉元まで迫れるか。ヴィラとの抗争の今後を占う大事な局面であり、ここで手を引くなど愚の骨頂なのも分かっている。

「すまない」

 後でどんなしっぺ返しを喰らおうとも、譲れないものがある。

 目的と手段を取り違えてはいけない。俺は譲れないものの為に戦っているんだ。

「意思は硬いようだね。僕はどうせ雇われ人だけどさ、理由くらいは教えてくれない」

「それも言えない」

 心情的には信用したいが、所詮出会ってまだ一週間も経ってない。心情は思っても理性は信じられないと計算する。特にセミューのことがあったばかりじゃ尚更だ。

 この情報が漏洩したら俺も大事なものも終わる。万が一にも油断は許されない。

「へーへ、信用されたもんだね」

「所詮金の繋がりか」

 レストが拗ねたようにスコルピオが皮肉気に言う。

「そうだ」

 スコルピオの発言に俺は断言した。

「失言だと思っておく。用が済んだのなら俺は帰らせて貰う」

 湧き上がった殺気を押さえ込みスコルピオは立ち上がって言った。

「このまま帰れると思っているのか」

「口封じか」

 スコルピオから殺気が完全に消えた。彼が暗殺者に成り切れば情を殺し相手を殺す寸前まで殺気など感じさせはしない。

 暗殺者、プロになりきった彼を前にして俺は、どんと金貨が入った袋をテーブルの上に置いた。

「なんだ?」

「金の切れ目が縁の切れ目、その通りだ。

 なら金が切れないのなら縁は切れないな」

 金はいい。心と違って見えるし、触れる。あることが実感できるのが素晴らしい。

「スコルピオには俺がいない間スラムに近付くヴィラの手先を葬って欲しい」

 守りに入ったとはいえ、攻勢を弱めれば攻め入ってくる。誰か分からなくなってきていても、スラムの人間が事の発端だと言うことは分かっているんだ、俺のアパートまたは付近の人間を攫い拷問し情報を得ようとするだろう。

「ふっ俺が受けるとでも?」

「プロなんだろ。契約継続中の指令変更は許容範囲、ヴィラに対する攻勢が守勢に代わっただけだ」

「口だけは達者なようだな」

「頼む」

 俺は頭を下げ、スコルピオは渋面になる。

「勝手だがここを頼めるのはお前だけだ」

 ここも失いたくない。これで復讐者と言うんだから自分でも滑稽だと思う。

「いいだろ。だが最初の契約通り一ヶ月だけだ。それ以上契約したくば、帰ってきて契約延長をするんだな」

 スコルピオは袋を受け取ってくれた。受け取った以上彼は仕事を果たしてくれるだろう。

「ありがとう」

「でっ僕は何をしていればいいのさ」

「ああ契約を切るから自由にしろ」

「ちょっとおおおおお~」

「これでもあなたには金銭以上のものを感じているんですよ」

 へ~、此奴はそのなんだな雰囲気で損をするタイプなのか、凄く怪しい裏があると思ってしまう。でも顔と違って雰囲気は自分で造るものだから自己責任だな。

「美人なら嬉しいが、お前じゃな」

「スコルピオさんみたいに追加料金は要求しませんよ。信頼を勝ち取るため頑張りますよ」

「俺の信頼勝ち取ってどうするんだ」

「今だから言いますが一目惚れですよ」

「ホモ?」

「違いますよ。あなたを一目見てこの人とならでかいことが出来ると感じたんですよ。これでも祖国では士官学校在籍中は主席で将来有望視されていたんですよ。それが祖国を滅ぼされいきなり逃亡者。マスカレイドには拾われましたが腐っていた中で、あなたを見いだしたんです」

 こいつもヴィザナミに運命を狂わされた男か。俺を見いだす当たり節穴なのが残念だが、こいつなりに信頼を得ようと自分を晒したか。

「俺の末路は路上のゴミ箱だぞ」

「そんな末路に僕がさせない。

 それより帰ってきたら即行動するんですよね。だったら前準備くらいはしといた方が時間の無駄をしないで済むんじゃないですか」

 俺には路上のゴミ箱以外の未来は思い浮かばないがな。俺に賭けたいという夢を否定する気にはなれない。

「これだ。この中に書いてあることを調べておいてくれ。但し見たら後には引けないと思っておけ。裏切ったら生きて地獄を味合わせる、裏切らなくてもボロ雑巾の様に使うぞ」

「なんだ、やっぱりそうだったんだ。素直じゃ無いね~。

 精々覚悟して封を開けますよ」

 扱き使うと言われて喜ぶとは此奴はマゾなのか?

「っで僕ら男同士はいいとして別の部屋にいる女の子はどうするの?」

 そうここには、あの日済し崩し的に面倒を見ることになったヴァドネーレ達もいる。今は話を聞かれないように別室に行って貰っている。

「まあ、お前が面倒を見てやってくれ」

「やっぱそうなるのね」

 全く一昔の俺ならこんな面倒なことをすること無く自由気ままに飛んで行けた。

 しがらみか。

 

 俺は自分のアパートを見上げていた。

 どうしたものかな。

 レスト達には指示を出した。アゼルに関しては元々付かず離れず、わざわざ言うような間柄じゃ無い。偶然会ったら言えばいい。

 シーラは?

 勝手にいなくなった場合、何をするか予想が付かない。

 お姫様の割に行動力がありすぎるし、お姫様なだけに常識が無い。

 リスクは回避はするべきか。

 俺が決意し部屋に帰るとちょうどシーラは床掃除をしているところだった。

「あら、お早い帰りですね」

「シーラ、俺は暫く帝都を出る」

「そうですか」

 おっ案外聞き分けがいい。

「賭はその間停止にしてやるから、宮殿に帰れ」

 まっ女一人は物騒だし、此奴はこんな容姿だ。またどんな災厄を引きつけるか分かったもんじゃない。それなら宮殿にいて貰った方が、俺もあん、ちっ。

「いいえ帰りません。それよりも私は付いていかなくていいのですか?」

「必要ない」

「個人の力だけではどうしようも無いこともありますよ。そんなとき私は役に立ちます」

「必要ない」

 ヴィザナミ帝国の権力に縋るなんてどんな悪夢だよ。

「なりふり構わず守りたい聖域なのではないのですか?」

「俺にとっての聖域だからこそ、お前達なんかを関わらせたくない」

 俺の聖域は俺の手で守る。その為なら俺は何処まででも墜ちていける。

「その言葉はちょっと傷付きますね。分かりました、ここで大人しく待っています。でもどうしようも無くなったら私のことを思い出して下さいね。

 失ってからでは遅いのですよ」

 シーラの暗く澱んだ目が俺を見る。この忠告だけは茶化せない、そこまで俺は墜ちてない。

「心にとめておく」

「行ってらっしゃい。なるべく早く帰ってきてね」

 目から淀みは消え、聖女に相応しい笑顔で俺は送り出された。

 

 アパートから降りるとちょうど出口にアゼルがいた。確か今の時間屋台をやっていたんじゃ無かったのか。

 相変わらず勘のいい男だ。

「スラムは俺が守っておいてやるよ。スマイリーにも嫁さんにもならず者は近寄らせねえ。だから安心しろ」

 此奴は口だけじゃ無い。ここら一帯のスラムの治安が他のスラムに比べていいのは、此奴が仕切っているチームの力が大きい。此奴はホントいい奴だ。ヴィザナミの貴族で無くて女好きで無ければ、親友にしたいくらいだ。

「すまないな」

「それに何かあったら俺を呼べ、駆けつけてやるぜ」

「ありがとう」

 

 翌日、俺は帝都ソフィアフォスの衛星都市アーグラにいた。

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