※この作品はR-18です。

re世界を覆せ 黒き勇者   作:コトナガレ ガク

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第32話 侮り

 夜半も過ぎれば帝都と違いこの時間に営業しているような店はほどんどなく、街灯など皆無の道、地上は闇に包まれている。その闇に包まれ、小走りに繁華街に向かう集団がいた。

 先頭を走るのは俺、怪盗の嗜みとして夜目が利き星明かりでも十分道は分かる。殿は俺の次ぎに夜目が利くことからティラになっている。

「これからどうするんだ?」

 俺の半歩後ろを併走するヴァドネーレが聞いてくる。

「城門を閉ざしたと言っても城壁全てをカバーするほどの人員はいないだろ。警備の手薄なところから強行突破する。後は闇に紛れて森に逃げ込めば何とかなるだろ」

 想像以上にプスィッタの対応が早い。てっきり魔族らしく己の強さに溺れ、こういった手回しに頭が回らないと思い込んでいたが侮りすぎた。

 もう俺も敵を侮らない。

 プスィッタが限りある人員の配置をどうするかと言えば、馬車や馬を使っての城門の強行突破を防ぐ為に門の所に重点的に回すだろ。

 ここまでは定石。ここからが読み合い。

 次策は警備の手薄なところを狙っての城壁を乗り越えての突破、外に出てしまえば森に潜みつつ徒歩により帝都に向かう。かなりの時間と体力のロスになる。それでも孤児院の裁判までにはまだまだ日がある、焦る必要はない。

 だがこんなことは相手も読んでいるだろう。

 相手は如何に効果的に人員を配置するか、こちらは如何に警備の隙を見抜くか。はたまた裏を搔いて城門の強行突破。

 タイムリミットは夜明けまでだが、まずは情報だ。

「兎に角城壁まで一気に・・・・。あれは何だ」

 思わず俺の足は止まってしまった。

 最初は城壁の上に人魂のようにぼっと炎が灯ったのが見えた。そしてみるみる内にドミノ倒しのように左右にぼっぼっぼっ炎が灯っていき、あっという間に街をぐるりと囲む街壁上に隙間なく炎が燃え上がり、地上の闇を浮かび上がらせた。

 昼間とは言わないが、夕闇ぐらいには明るく感じる。

 俺はまだ敵を侮っていたようだ。

 ぐるっと見渡せば、街を囲む街壁の上に隙間なく篝火が置かれているのが分かる。こんなに人員を投入したら城は空に近くなっていまう。

 護衛はいないですから首を取りに来て下さいと言っているようなものだ。

 相手の王を取ることに執着しすぎて守りを疎かにするへぼ将棋。

 だが、たった一体の魔人の存在が覆す。人間が何人束になろうとも一体で十分、己の強さを実に効果的に使いやがる。

 強い上に切れ者ときたか。

 プスィッタは俺達の追跡よりまず城壁を固めることを優先させ、敗北条件を潰すことを優先させた。そこまでは理解した。

 だが、次はどうする?

 ほとんどを城壁の防御に回してしまっては追跡隊へ人員は割けない。自身もバーホの護衛のため城から出れないはず。俺達も脱出できないが、プスィッタもこちらを捕まえられない。

 千日手がお望みでなければ、どうする?

 何かを餌に誘き出すだが、流石に俺の素性は分からないだろ。もし俺を正義の味方か何かに勘違いしているなら、俺に関係ない街の住人を人質にとって誘き出そうとするかもしれないが、俺に関係ない奴など殺すと脅したところで俺は無視する。

 だが俺は彼奴を切れ者と認めた。なら何か俺の思い付かない手を使ってくるかも知れない。脱出は出来るだけ急いだ方がいい。

「おいおい、どうすんだよ。これじゃ街からの脱出は無理だろ」

 クラウンも周りを取り囲む篝火に率先して驚いている。

「お静かに、クラウン殿下」

「お前がそう言うと鳥肌が立つな」

「殿下は秘密の脱出路とか知りませんかね?」

 街は陥落しようとも貴族連中だけは生き残ろうと、街の住人には内緒で秘密の脱出路を作っているものだ。現に城からの秘密の脱出路はあったんだ、街からの秘密の脱出路もあるだろ。

「悪いが俺は知らない。跡継ぎじゃないからな、そういう秘密は教えて貰えないのさ」

「ちっ」

 役立たずが。

「今舌打ちしたな」

「その後に続く言葉を飲み込んだけ礼儀を心得ているだろ」

 秘密の脱出路は一子相伝か。まあ秘密を知るものが増えては意味がないから適切な処理と言えるな。

「漫才はそのくらいにしろっ。遊んでいる暇はないはずだ」

 ヴァドネーレが叱ってくる。

「分かっている。どっちにしろ、まずは急いで繁華街に入り込もう」

「行くのは了解だが、当てはあるのか?」

「まあ、一つだけな」

 マギレウのところに行くしかないか。あの男ならクラウンが知らない秘密の脱出路だって知っているかもしれない。知っていなくても力はある。希望通り殿下は助け出したんだから脱出の協力はしてくれるだろ。

 

 急ぎ平原を駆け抜け繁華街に入った。幸い篝火のおかげで明るいので、マギレウの店に向かうのに迷子になることはないだろ。

 暫し道なりに進みY字路で曲がったところで、待ち伏せされていたのか5~6人が飛び出てきて前を塞がれた。

「何者だっ」

 シーレがさっと俺の前に出て誰何する。

 飛び出てきた者達は皆それぞれに武装をしていて一般市民ではない。だが、その先頭に立つ奴は知り合いだった。

「案内人が何の用だ? ぞろぞろ出てきて護衛でもしてくれるのか?」

「その通りです」

 俺の嫌みをまぶした問いかけに素直に答えられた。

「ここではなんです。安全な場所まで護衛しますので、付いてきてください」

「のこのこついていったところで騙し討ちか?」

 そうは思わないが、主導権を取られるのは気に入らない。あくまで案内して貰うではなく、案内させる。

 些細な違いだ、結果に大差は無いだろう。

 五月蠅い嫌な奴だと思われるだろう。

 だが男一匹世間を切り開いて行くには大事な事よ。

「そのようなことは」

 予想外の俺の反抗に案内人は困惑している。

「悪いが其処まで信用できるほど俺とお前に関係はなかったはずだぜ」

 こう畳み掛けて、案内人は何を担保に差し出すかな。

「そう虐めるな」

「マギレウ様」

「ほう、幹部自らご登場か」

 護衛に紛れていたマギレルが兜を取って素顔を晒してきた。多分だが予想外に俺陣営の人数が増えたので様子を見ていたな。

 なるほど6人のチームは相手に無視できない戦力と映るのか。よしよし、今後の交渉材料が増えたぞ。

「お前だって、私が騙し討ちするとは思っていまい。それくらいの信頼関係は築いたつもりだが」

「まあそうだな」

 親愛の表情で話しかけてくるが、マフィアに情を抱いたら終わりよ。

 ここで俺を騙し討ちするメリットはない。むしろ使い潰した方がメリットはある。そうならないためにも知恵を廻らせ主導権を渡さない。

「これは殿下お初にお目に掛かります。この街で相談役のようなことをしていますマギレウと言います。以後お見知りおきお願いします」

 俺が納得したと思ってマギレルはクラウンに挨拶をする。

「へえ~そうかい」

「ここは危険です。いつ親衛隊の見回りが来るか分かりません、我らが用意したアジトに来て下さい」

「だってよ。どうする?」

 クラウンは俺に確認してくる。

 ふ~ん。オッサンの中では礼儀正しく名乗ったマギレウより名乗りすらしない俺の方に信頼を置くのか。マフィアと怪盗、どっちも碌なもんじゃないけどな。

「このシチハ、殿下の仰せのままに」

 俺は礼儀正しく腰を折り頭を下げるのだった。

 

 

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