「おい起きろ」
乱暴に強請られ目を開けると、鼻息が触れるほどの傍にヴァドネーレの顔があった。
気の強そうな切れ長の目元からすらりと伸びる鼻梁、顎なんかも細くて、女らしいと言うより中性的な美しさを感じる。そのくせ体は筋肉の上から脂肪が付いて、胸はあるし腰は括れて尻も揉み心地が良さそうと傲慢なほどに女の体をしている。
気が強いのも可愛い愛嬌と思うが、寝込みの男に夜這いを掛けるとは、少々お転婆すぎるかな。
くっく、そんなおいたをする娘には、お仕置きしないとな。
腕をヴァドネーレのくびれた腰に伸ばして、ぐっと抱き寄せた。
「きゃっ」
可愛い声出しやがって、その口を塞いでやろう。
ベチッ。
「いてっ」
チョップされた。
「マスター寝ぼけてますね。目を覚まして下さい」
目の焦点が合った先には怒気を発するシーレの顔があった。
嫉妬も可愛いと思うとして、少々寝惚けていたようだ。
「ああ目が覚めた」
「あっ」
純真な青年じゃあるまいし、ここで慌ててヴァドネーレを離したら威厳に関わる。俺はさも当然のようにまじめな顔を作りつつ、ヴァドネーレを膝の上に乗せて抱き抱えた。
シーレは俺の姿に溜息を吐くと諦めたのか深刻な顔をした。
ふう~吉報ではなさそうだな。
「どうした?」
「囲まれています」
シーレは俺の耳元に口を近づけて息を吹きかけるように囁く。
盗聴を恐れてのことだろうで甘い誘いではない。いつかこんなふうに美女に甘い囁きをされてみたいもんだぜ。その為にもトラブルは片付けないとな。
俺はヴァドネーレを抱えたまま静かに立ち上がる、ヴァドネーレも諦めたのか仲間達の冷たい視線に晒されながらも反抗するどころか、逆にその柔らかい体を撓らせて俺の首に両手を絡ませる。俺は彼女の暖かさを感じならが、そっと窓から外を伺う。
ぱっと見には誰もいないように見える。しかし注意して見ていると倉庫の影とかにちらちらとこちらを伺う影が見える。
これはどういうことなんだ。マギレウが保身の為に俺達を売ったとは思えないが、・・・。
「どうする?」
ヴァドネーレがお姫様抱っこされた状態からこちらを見上げてくる。ヴァドネーレだけじゃない、振り返れば全員の視線が俺に集まっている。
一人なら羽毛のように軽い体が、今は重く感じる。いつから俺はこんなに他人を背負う羽目になったんだろうな。望んだで成ったわけじゃないが背負った以上は放り投げるわけにはいかない。
辛い顔を素直にしたいが、不敵な笑顔を作る。
「任せな」
俺はヴァドネーレの頬に軽くキスしてやるとウィンクで答えてやるのであった。