月光を背に立つ影にカーテンがたなびく。
「姫お迎えに参りました」
さっと片膝をついて頭を垂れる様は、舞台でも見ているかのよう。
「あんた、無事だったんだな。良かったけど、何やってんの?」
気取ったポーズで気取った口調の気取った台詞に、やけに冷めた突っ込みが返ってくる。
「ええ~のりわりいな~」
俺はアーグレ城のアーリア姫の部屋にテラスから窓を開けて訪問していた。本当に衛兵を全て城壁警備に回したようで、アーグレ城には見張りすらいない有様。侵入は極簡単だった。
姫の部屋に鍵の掛かった窓をちょいとテクニックで開けて入ると、丁度月が背後にあって風がいい具合にカーテンを揺らす恋物語にある囚われのお姫様を助けに来た王子様ってシチュエーションだったので、悪のりで気取ってみたのに結果は散々だった。
「わり、あたいそういう物語背中がむずむずして苦手なんだ」
ベットの上アーリアは頭だけこちらに向けて言う。
「なんだ直球の方が良かったのか」
数瞬思案して台詞を言い直す。
「夜這いに来たぜっ」
「あたいに夜這い!? 正気?」
「正気で夜這いが出来るか」
俺はアーリア姫が眠るベットにダイブした。
「こっこら」
流石いいベット、弾むこと無くダイブした俺を柔らかく受け止めて包み込んでくれた。 ふわふわ~このまま寝てしまいたい欲望のまま、丁度真横で呆れ顔になっているアーリア姫を見ると、掛け布団ははだけ上半身が晒されている。
アーリア姫の膨らみかけた胸が目に入り鼻の下が伸び、手の付け根の部分の肉の膨らみが目に入り、ギリッと歯軋りしてしまった。
おっと、レディーの前でする顔じゃ無いな。アーリア姫も俺の顔を見て怖がっているじゃ無いか。いけないいけない。
誤魔化す為にも、俺はアーリア姫を胸元に抱き寄せた。
「どうです姫、哀れな男に一夜のお情けを頂けませんか?」
息が触れあうほどに愛を囁く。
「あほかっ。折角拾った命なんで戻ってきたのさ」
呆れ果てた顔をして一喝した姫が、次の一瞬でまじめな顔に変わって問い詰めてくる。カレイドスコープの如くコロコロ表情が変わる娘だ。
「姫のことが忘れなくてね。前回は素敵なレディーとの出会いなのに手ぶらだった失礼を詫びたくてね」
俺は背中に隠しておいた真っ赤なバラの花束をアーリアの目の前に翳した。
「こんなあたいに・・・むぎゅ」
俺はアーリアの口を指で押さえてそれ以上は言わさない
「あんたは素敵なレディーだ。手足があろうが無かろうがたいしたことじゃ無い」
「そこまであたいを煽てて、何をさせるつもりだい」
アーリア姫が悪巧みをする女の顔で笑って見つめてくる。にっと笑った口元の八重歯がチャームポイントだな。にしてもこれだけしたのに、アーリア姫のその瞳には恋の色などありはしない、あるのは何かを為そうとする意思の色。
あれ~何でここで恋の物語が始まらないんだろうな。俺ってそんなに仕事人間に見えるのかな。それとも俺って思ったほどいい男じゃ無い?
「いやいや、下心無い純粋な気持ちだよ」
「まあ、嬉しいけどな。時間はそんなにないんだろ。終わってからゆっくり口説いてくれ。
それで用は? あたいはこの通り手も足もないぜ」
「だから言っただろ。そんなもん強い意思を持った者には関係ない」
「へえ~言うじゃん。でもあたいの強い意思を生み出す為の報酬は何? まさか愛とはいわねえよな」
その挑みかかってくる目、口が為す笑顔、本当に手足など無いのに俺の方が肉食獣に捕食された気分になる。
「勿論姫が一番欲しがっているもの。バーホの首だ」
「いいね。のった」
アーリア姫は今まで見た中で一番いい笑顔で答えるのであった。