「まさか戻ってくるとは思いませんでしたな」
俺とアーリア姫がベットの中で睦言を交わしていると、プスィッタがノックも無しに部屋に入ってきた。
「この俺怪盗フォックス様と姫との語らいを二度も邪魔するとは無粋な奴だな」
俺は憤慨しつつベットから起き上がるとアーリア姫に掛け布団を掛けといてやる。
もうちょい時間があればアーリア姫を完全に落とせていたのに残念だ。
「それは失礼。私は忙しいのでね、あまり戯れ言に付き合っている暇は無いのですよ」
背筋を真っ直ぐ伸ばし両手を後ろに組んでいる姿は、軍の上級士官と思うばかりの貫禄と気品に溢れている。信じられるかこれで面の皮一枚剥げば鳥頭が出てくる魔人なんだぜ。
「はっ嘘言えよ。お前にとっては全てがお遊び戯れだろ。
このシチハ様にはお見通しだぜ」
格好付けて腕を後ろに組んだままカツコツと迫ってくるプスィッタを両手を広げて鼻で笑ってやる。
「お前魔王軍に入ってないだろ」
魔王軍という言葉にプスィッタの足が止まる。
俺には分かる幾ら格好付けて貫禄を装うとも、こいつから使命感は感じない。人じゃ無い魔人だからとかではない。現に最近会った魔人の連中からは感じていた。
幾ら強かろうが、軽いんだよ。
「何を根拠に」
ポーカーフェイスを装ってはいるが俺には分かる、当たったようだ。どちらかというと入っていてくれた方が嵌めやすかったんだが、ままならぬが人生、綱渡りの交渉を初めるとするか。
「お前が俺様のことを知らないからさ」
胸を張り親指で自分の胸を指し示しつつ堂々と言い切った。
あの夜にあった仮面の男は魔王軍でもかなりの高位、多分魔将軍以上のはず。その男がまた会おうと言ったんだ、俺に手を出すなと魔王軍全体に何らかの手を打っているはず。 知性の無い魔獣ならともかく、目の前のバロン級ほどの魔族が俺の二つの名を聞いても何の反応も無かった。つまり魔王軍と関係ない魔族である可能性が高い。
「なぜお前如きを知らないと魔王軍に入ってないことに成るのか因果関係が分かりませんが、結局何をしに来たのですか?」
まあ何の確証も無い半丁博打だったんだが、詐欺と交渉の掴みとしてはオッケーだったようで、プスィッタは俺の話を聞く気になったようで、それで十分。
「逃げるのも馬鹿らしくなったんでな」
俺は気持ちで負けないことを示す為一歩プスィッタの方に踏み出す。
「まさか私に勝てるとでも?」
「いやいや、直ぐ戦いに結びつけるのは良くないぜ。俺は交渉に来た」
俺の覚悟の一歩に臨戦態勢を取るプスィッタに俺は無いも持ってない両手を挙げて見せた。
「交渉?」
人を小馬鹿にしたように小首を傾げるプスィッタ、むかつくが怒ったら負けだ。
「そうだ」
「交渉、それは対等な者同士が行うものだと認識していましたが。私がその気になれば蚊の如く潰れるお前と何を交渉するというのだ」
プスィッタは目の前でパンッと両の掌を叩いてみせる。
恐怖で冷や汗が溢れ出し鼓動が速くなる。
膝から力が抜けそうになる。
何で俺はこんな危険を冒しに来たんだと自問自答したくなる。
女達は逃がした。事が済むまで隠れているようにも命令した(これくらいの命令は実行できるだろ)。
クストーデからは逃げ切った。
後は、クラウン殿下の手紙を帝都に届けるだけのはずだった。まあ兵士が大勢いる城壁を突破する危険を冒さないといけないが、目の前にいる化け物の前に立つ危険に比べたら屁みたいなものだ。
なのに俺はプスィッタの前に立っている。
なぜだ?
最初はこれでも知っているこの街を守りたい気持ちも多少あった。
だが、奴らは裏切った。
家畜になろうとも生き伸びたいとのたまった。
主が誰であろうとも生きていられればいいと言う。
奴らは人として生きる権利を諦め義務を放棄した。
その顔を見たとき俺に天啓が走り、決意した。
捨てた権利と義務なら俺が拾ってやろう。
俺は怪盗フォックス、今衛星都市一つ丸ごと盗み取る。